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5月12日 巻坂長編その2UP。
~episode 2 奴らからの電話~


ヨーロッパ・大英帝国・イギリス。
曇り空で雨多し、湿気も高くて髪が酷くうねるのが少々の悩みだ。
日本との時差は九時間、今は7月でサマータイムだから8時間か…
移動距離にして9564km、所要時間約13時間、
こうやって計算すると改めて遠い国に俺は住んでいるのだと思わされる。


「荷物はそのヘン適当に置け、風呂とシャワーは入口近くのソコ。
ベッドルームは一番奥、後は好きに使えショ」


漸く開いた一室は以前来た時のまんま、あ、でも定期的に掃除が入ってるのか
比較的キレイかも…と、思いながらソファーに掛けられた布を引き取った。
坂道から預かった荷物を壁際に置き、俺が簡単に間取りを説明すると
それに答えるように指先を追いながら頷いてはハイ、といい返事が返ってきた。


「あと腹壊すから生水は飲むな、それと水道使うときは気をつけろよー。
有り得ないくらいの熱湯が出てくんぞっ…とっ!」


続いてテーブル、椅子へと掛けられた布を次々に引き剥がせば
漸く部屋が本来の姿を現す、一人暮らしにしたら充分過ぎる設備と広さ、
五階の角部屋ってこともあり人の声も気にならない静かでセンスの良いワンルームだ。


「うわぁ~…僕の部屋なんかより全然広い…」


関心しているのか呆気にとられているのか、坂道は半開きになった口のまま
部屋の隅々までに目を通しては、何故か瞳を輝かせている。
二、三歩と歩いては立ち止まり、家具や配置を眺めてを繰り返していたが
やがてくるりと俺の方に向き直り、近寄って笑顔を見せた。


「眺めも良いしキレイだし、素敵な部屋だなぁ~//
巻島さんはいつも此処から学校に通ってるんですね//!!」


「いいや、此処に来るのはコッチ来て3回目だ」


「えっ…?」


「ここは二軒目…俗に言うセカンド・ハウスってヤツ。
俺の住んでる家はもっと大学に近い場所にあるショ、
知人とか親戚が来たらココ使ってって鍵渡すんだ。」


そう言いながら俺はテレビに掛けられた最後の布を引き剥がした。
しっかし使ってないとはいえ本当、セカンドハウスがあって良かったショ…。
仕事であんまり帰ってこないとはいえ、坂道をいきなり兄貴に合わすのはどうかと考えた。
実の兄貴にゃ失礼だが俺とそっくりで口下手であんま喋る人じゃない。
それが口下手のコイツを紹介したところで気まずい雰囲気になるなんざぁー目に見えてる話だ。
取り繕うとか話を外らすとか俺が一番苦手な状況になったら手には負えないからな、絶対。


「安心しろ、手入れはしてあるし電気・ガス・水道も問題なく使える。
気兼ねなく使ってくれて…」


内心と部屋の用途を説明をする俺が坂道へ視線を戻すと
目の前には驚いた顔をする様が目に映り、一瞬言葉に詰まった。
ヤバイ、傷つけたかも…そんな考えが脳裏を過った。
そりゃそうか、俺の家に来るもんだと思っていたなら思わぬ肩透かしを食らったわけだし、
どういう経緯があったかはまだ聞いてないが、国を越えて久々に会ったっつーのに…失礼だよな。


「スゴイです//!!」


「えっ…?」


「海外に家を二つも持ってるなんて
やっぱり巻島さんてスゴイ人なんですね!僕、カッコイイと思います!」


両手を拳に握り、眩しいくらいのキラキラした目の坂道に今度は俺が驚いて拍子抜けした。
撤回、今の話は無しにしよう、どうやら俺の考え過ぎだったようだ。


「ぁ…ありがとう、ショ…//;」


完全予想外の反応に一番無難な言葉を選んで礼をいうと、良い返事で坂道もまた笑顔を見せた。
慣れない長旅で疲れてるかと思っていたが、当人はいつもの調子だし、
部屋も気に入ってくれたみたいだと、変わらない後輩の姿に一先ず安堵した。


「さーて、んじゃ、買い物に出かけるぞ、坂道」


「え、これからですか?」


窓に差す日の傾きからいって時刻はそろそろ夕方頃…
早めに出かけねーと夜になっては治安が心配だ。
ポケットに手を当て、財布の存在を確認した俺は
手にしていた数枚の布を邪魔にならない端に寄せて置き
手の平を打ち払って埃を落とした。


「言ったショ、ここ来るの三回目だって、
揃ってるように見えるが中身は空っぽなんだよ。
数日とはいえ必要最低限の日用品買ってこないと困るショ?
トイレにだって入れねーんだぞ、いいのか?」


「いやっ…それは困ります、けど僕そんなにお金持ってきてなくて…」


だんだん声の小さくなっていく坂道の様子を見て、俺はクスリと鼻で笑ってみせた。
何を遠慮してるんだか…そんなつもり俺にはさらさら無い。


「お前ね、最初に言ったショ『俺とお前の部屋だ』って。
俺も使うんだからお前が気にする事全っ然無いんだヨ、
さっさとしねーと暗くなっちまうぞ、ほら部屋から出る出る!!」


「わっ、ちょっと、巻島さん待ってくださいっ…//;!」


こうして坂道を急き立て、俺達は街へ買い物に出ることにした。
遠慮してみせる坂道の気を紛らわせるのに気兼ねなくとは言ったが、
それは立前でも何でも無く、他ならない俺の本音、
誰にも邪魔されたく無かったんだ、家族といえども、だ。


「早く来いショ、坂道」

「ハイ…っ//」


こんなに俺が話すのは坂道、お前だけだって事を
コイツはまだ気が付いていなさそうだが…


そうだ、なんで坂道がこっちに来る事になったかの経緯も話してもらわねーとなぁ…
なにせ俺はあの日、田所っちから電話が入ってから何が起こるか気が気じゃなかったんだから…。

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