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	<title>climber　star</title>
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	<description>　　 玉虫少年と純粋少年</description>
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		<title>【～1st　stage～】</title>

		<description>今朝、ボクは久しぶりに質量のあるベッド…</description>
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			<![CDATA[ 今朝、ボクは久しぶりに質量のあるベッドで目を覚ました。眠気で感じる身体の重みとは違う、細いながらもしっかりとした腕に抱えられた心地の良い感触は言葉につくせず、また気持ちよさそうに眠る相手の寝顔はそれを何倍にも増幅させて心を満たしていくんだ。いつも通りの朝に巻島さんがいるというだけでボクの世界は輝きを増すものに変わってみせるのだから、これを幸せと呼ばずしてなんと言えばいいのだろうか。巻島さんの職業はデザイナーで日本に帰国後、自身のブランドを立ち上げてデビューを果たした事はボクにとってもとても嬉しいことだった。好きな人の夢が叶う瞬間に立ち会えた喜び、そして約束の通り『日本に帰ってきたら一緒に暮らそう』は現実となって今は充実した社会人生活を満喫中です。巻島さんは仕事柄、国外へ行くことも珍しくはないし１～２週間会えないこともあるけれど、そのことに関してはボクなりに理解しているつもりではあるのだけれど、やっぱりこの部屋から『行ってきます』という背中をみると、気をつけていってらっしゃいと思う反面、未だに慣れず寂ししなと思ってしまう。高校時代に比べれば二人で一緒に暮らしているのだから限りなく距離は近いし一緒にいられる時間も多いハズなのに、あの頃の寂しさがふっと蘇って時々居座り続けていたりもする。けれど、そんなボクを寂しさから解放してくれるのもやっぱり他でもない巻島さんだけで、昨日の夜遅くなんて漸く海外出張から帰国しアパートへと帰ってきた巻島さんは移動や仕事でヘトヘトだったと思うのに玄関で出迎えたボクを力いっぱいに抱きしめてくれた。あったかい、そして巻島さんのイイ匂いだ…。その確かな感覚と存在に、出迎えたのはボクの方だったのにすっかりと寂しさを癒してもらってしまった。おかしいな…本来ならばボクが色々と巻島さんにしてあげなければいけないような気がするんだけど…今度こそ何か考えておかないと、巻島さん本人に聞いてみるのもいいかもしれない、うん、そうしよう!!


「坂道、おい…どうしたショ、坂道？」

「へっ、あっ、ハイなんでしょう…//；？」

「いや、コントローラ握り締めたまんまボーッとしてるからどうしたのかと思って…」

「あわわわっ、スミマセン…ちょっと考え事してました//；」

いけない、あまりの幸せっぷりに頭がぼーっとしていたみたいだ。顔を横に向けると、そこには柔らかく微笑んでいる巻島さんがいつからだったのかな？じっとボクを眺めていたらしい。一緒にゲームをしませんかと誘った時にはOKしてくれるかドキドキしていたけれど、丁度仕事も終わったから身体は自由だと快くOKを貰った時には内心ガッツポーズを構えるくらい嬉しかったなぁ…。

「疲れてるなら別の日にした方が良いんじゃないのか？」

「いえっ本当に大丈夫です…っ//　なんと言いますか…こうして巻島さんと一緒に並んでゲームしたりご飯食べたりしてるボクって幸せ者だなぁ～…って。そう考えたら嬉しくてぼーっとしてました…//」

擽ったくなるような頬の感覚を紛らわせるように指で掻きながら答えると、少しの間が空いて隣からは巻島さん独特の笑い声が聞こえてきた。そ、そんなおかしなことボク言ったのかな…？巻島さんの頬が真っ赤にみえるんだけど…。

「クッハッ、お前は恥ずかしげもなく…いや、それでこそ坂道ショ…//　ほら、ダウンロード終わったみたいショ。」

「あっ、本当だ…っ//　いよいよ始まるんだぁ～ワクワクしますね!!巻島さんっ!!」

「そうだな、随分読み込みに時間かかってたみたいだし容量がデカいゲームなんだな」

「本体が古いってこともあると思いますが、なにより結構な項目入力しましたしね…//」

長年使い続けている愛用のコントローラは時々変な音がなったりもするから気を付けないといけないな。でも一体どんなゲームなんだろう？考えるだけでワクワクが止まらないボクは自然とコントローラーを持つ手にも力がはいってしまう。それでも興奮を抑えようと、なるべく平常心、できるだけ平常心…と舞い上がる心に呪文を繰り返しながら構えて待っていると、目の前のテレビ画面が徐々に明るみ始め、やがて文章が数行にわたって静かに、ゆっくり、これから始まる物語の幕開けを告げはじめたのだった。


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　……………………………


【むかし　むかし　とある王国に　二人の王子様が　おりました。二人の王子は　幼い頃からとても賢く勇敢で　国王である父と　王妃である母の愛情に包まれながら何不自由する事もなく　すくすくと成長してゆきました。将来には父の後を継ぎ　兄と弟の二人で助け合いながら　この国を平和で満たし治めるのだろうと　誰しもが疑うことはありませんでした。王子様が１７歳の誕生日を迎える　あの日までは…。】


Story of the kingdom　
（第一章　～　夢見た地を探し求めて　～）


チチチ…ッ　チチチ…ッ


木漏れ日から注ぐ日差しは清々しく、渡る風は爽やかで肌に心地良い。人丈よりも視線は幾分か上を見渡すことが出来るが、どうやらもう少し森は続いているらしい。手綱を握る手も先程は汗を共にしていたが今はサラリと乾いている。森中を進んで一時は経っただろうか、やはり平地と違って人に見つかることも無いし気も楽、なにより涼しいショ。


「調子はどうショ、相棒。まだ行けるか？」


灰色の交じった鬣を撫でながら腰を預ける相手に問いかけてみると『まだ大丈夫、だから先を急ごう』頭をやや下げて敬意を示す礼ような仕草で返事をかえしてくれた。相棒は言葉を話せはしないし人でも無いが生きてきた中では家族同然、友好の関係ならば間違い無く最長、そしてオレの一番の良き理解者でもある。白毛肌に黒い鬣、真紅の頭絡がよく映える立ち姿の美しさは自分が知っている頃から変わらず、よく周囲の人達に褒められたショ。


「次の町についたら宿を取ろう、昨日から追い掛け回されてお前も疲れたショ」


しかしその美しさは良い意味でも悪い意味でも目立っちまう。本来ならはコイツは相応たる場所に出てその優美たる賞賛を浴びるはずなのだが残念にそれは叶わない、何故ならば原因はオレにあった。不本意ながらオレは今、罪も無いのに追われる身の上…それに関してはこれっぽっちも悪いことをしたつもりは無いし自分自身で決めた道なのだからそっとしておいてもらいたいところなんだがなぁ…。


「クッハ、しっかし奴らもしつこいったら無いショ…半年も前に家を出たってのにいまだ諦めずに探し回ってる。家のことは兄貴に任せとけば安泰だしオレを連れ戻す理由は無いだろうにさ」

親として息子が旅に出たいと言い出せば心配するのも分かる、だからといって家に閉じ込めるってのはどうなんだ？過保護に育てられた覚えも無いがあの時の両親の拒絶態度は異常だったショ、母さんがあんな剣幕で怒ったことは無かったし、諦めるまで父さんは口さえきいてくれなか…いや、ダメだ止めよう。考えればそれだけ憂鬱が影のように付きまとってくる。兎にも角にも今は次の宿場を探す為、さっさとこの森を目立たずに抜けることが先決ショ。地図をみればこの森は街道にそって真っ直ぐに続いている。つまりこのまま真っ直ぐ進めば町には出られるハズ。鳥が高く飛んでいる声が聞こえるから大体いまは昼過ぎ、夕方前には宿を取りたいところだ。


「さて…ん？」


色褪せた風合いの古紙を丸めて気持ちも新たに懐にしまうと、その右手にゴワゴワとした麻袋が触った。取り出してみると、それはやや草臥れたこぶし大の巾着で、あっそうだったと数日前の出来事がまた蘇ってきた。ここのところ立ち寄った町や村ではロクに食料も調達出来ず、木の実や川魚などを取って過ごしていたんだが備蓄していた非常食がもう無かったんだ。これはマズイ、次の宿場はそこそこ大きいから食うに寝るには困らなさそうだけれども念には念を入れて補給しといたほうが良いかも知れない。


「ついでだ、向いがてらやっちまうショ」



………………………………………………



【mission１　非常食を集めよ】


「だ、そうですよ巻島さん！ハイ、コントローラーどうぞ!!」

「ぅえっ、ってイキナリっショ；！？」


冒頭の文章を熟読し、どんな物語が始まるのだろうと期待に胸膨らませていたところに、お決まりというか操作性を確認する簡単なミニゲーム展開に、ここは自分がやるよりゲームに慣れていない巻島さんにプレイしてもらった方が感じが掴めるだろう。一緒に内容は読んでいたし、なにより口調からこの旅人さんらしい登場人物はプレイヤーの一人である【マキシマ・ユウスケ】さんだと思うし、尚更本人にやってもらいたい。突然バトンタッチされたコントローラーにおっかなびっくりといった様子を見せた巻島さんだったけれど、簡単なボタン操作に直ぐに慣れたようで順調に木の実や飲み水、直ぐに食べられる果物などを次々に確保してみせた。


「流石です巻島さんっ…全然ゲームやったこと無いって言ってたのもボクを驚かす冗談だったんですね//」

「いや…まぁ、まだ簡単だしこのくらいは楽勝ショ」


誇らしげな顔に笑顔で返して再び画面へ視線を向けた、とその時だった。遠くの方で電話が鳴っている音が聞こえ、音を辿るとそれはボクの通勤用メッセンジャーバッグからだった。こんな時間に誰だろうとディスプレイを確認すると会社の番号が通知されている…なんだろう、何かあったのかな？


「ハイ、もしもし小野田です……ハイ、…は、…ちょ、ちょっと待って下さいっ；!!」


電話の内容に一瞬にして冷や汗が浮かび、大慌てでバッグをひっくり返すとチャリン…と軽い金属音がこぼれ落ちた。やった…やらかしてしまった…資料室のカギ返してくるのすっかりと忘れてた。しかも明日の朝一で使う書類も保管してあるんだよ…帰ることでいっぱいで事務所に寄って返してくるハズだったのにぃ…；　電話口で何度も謝っていると電話先の先輩さんは苦笑い声で『今から届けに来れる？オレは帰っちゃうけど警備室に届けてくれればいいから』と免罪のお言葉を頂いた。もちろん即答で行きますと返事をして通話を切りポケットに携帯をしまった。リビングに戻ると、先程より随分と慣れた手付きで順調にミッションをこなす巻島さんの背中が見え、ボクは恐る恐るその背中に声を掛けた。

「すいません巻島さん、ボク今から会社に行ってきます//；」

「今から？…もう9時過ぎてるショ、どうした」

「実はですね…；」


完結に内容を説明すると、それはマズイと巻島さんも思ったらしく車で送ってくれると言ってくれた。けれどこれはボクがしでかした事だし自分で片付けなければいけない。今時間なら道も空いてるし自転車なら往復で一時間以内には帰って来れるだろう。


「本当に気をつけて行ってくるショ、お前が帰ってくるまで起きて待ってるからな」

「ハイ、特急で帰ってきますので！可能ならゲーム勧めちゃってても大丈夫です。それじゃ行ってきます！」


手早く用意を済ませ、しっかりとカギを持った事も確認して巻島さんに見送られつつボクは足早に家を出発した。予想通り道は空いていて難なく会社に到着したボクはカギを返しに真っ直ぐ夜間警備室へと向かった。すると、中には警備員さんと帰ると言っていた先輩さんがコーヒー片手に談笑している姿があって、ボクを見つけた目が点になっていたのがわかった。車か？と聞かれて自転車で来ましたと答えると尚更驚いた顔をされたけれど、その後には何故か笑われてしまった。ついでだから少し仕事していけと言われそのまま資料室へ。朝一で使う資料の最終確認を手伝い、だいたい１０分くらいで全ての作業を終わらせる事ができた。帰りがけに今度はしっかりとカギを返し、会社を出ようとしたボクに『明日は有給使って休んでいいぞ。小野田はここのところずっと出勤だっただろ、休め休め』と嬉しい言葉を代わりに貰って帰ることになった。やった！これで帰っても気兼ねなく巻島さんとゲームができるじゃないかっ。テンションの上がったボクは行きの時間の半分で帰りの道を走破し、仕事時間を差し引いても宣言通りに特急で帰宅することが出来た。


「ただいま帰りましたーっ!!　お待たせしちゃってスミマセン、まきしま…さん？」


スタスタとスリッパを慣らしながら荷物を降ろしつつリビングに向かうと、そこには何故かポーズをかけたままの画面と上向いて目を閉じている巻島さんが見える。出かける前とは勢いが明らかに違う…見た感じではゲームは進んだみたいなんだけど、何があったんだろう？


「どうしたんですか巻島さん、どこか具合でも悪いんですか；？」

「いや違うショ、ちっとゲームで手詰まってどうしたらいいか分からないから止めておいたんだ；」


そう話す巻島さんからボクが出かけた後に進めていたゲームで何があったかを事細かに説明してくれた。ミッションは無事に達成し必要なだけの非常食と水を確保できたし目指していた宿場町にも到着した。夕方だったし宿を取るのが先決だとゲーム内でも推奨していた言葉通りにそのまま宿屋へと一泊して明けた翌朝。宿を出て町を探索しようとした矢先によくある荒くれ者やゴロツキの集団に遭遇し、相手は自分に懸賞金がかかっているのを知っているらしくそのまま襲いかかられロクに探索もできないまま馬に乗って町を飛び出してしまった、というものだった。

「マップは後退できない仕組みになってるらしくて進める方角は一本しかなかったショ。案内に従って次のマップへ進んだらそこは広大な砂漠地帯。追っ手は撒いたが行けども行けども変わらない風景ばっかだ。」

「あ、だから宿場前の村や町は食料が無かったって…土地が砂漠地帯に続く伏線だったんですね」

「らしいショ。まだ馬に乗ってた時は体力の減りもなかったんだが砂間に隠れてた蛇に驚いて馬は逃げちまうし、徒歩になった途端物凄い勢いで体力が減ってったんショ。さっき集めてた非常食に水もあっという間に底をついてどうにも回復出来ないから仕方なくそのまま歩いていれば急に動作が遅くなったんだ。そして終いに残りライフがタイムカウントされて３分を切ったトコ、全く八方塞がりだ」

「た、大変だったんですね…//；」


説明を終えた巻島さんの表情は納得いかないといったもので、頬や横髪に手を当てながら何か打開策はないものかと真剣に考えている様子だった。画面を見やればやや薄暗くなった画面に果の見えない砂丘が映っている。本当に周りには植物や動物、その他のものが何も見えない。晴れ渡った渇いた空の青と砂の黄色、そして右上に表示された残り時間をカウントするデジタル数字がイヤに目立っていた。でもこのゲームって確かゲームオーバーが無いって最初に書いてあったよね。まだマップ探索も森と宿場町の二ヶ所だけだし、グッドにしてもバッドにしてもここでいきなりエンディングになるのはいくらなんでも早すぎるんじゃないだろうか…（ボク出てきてないし）よく理不尽な設定のゲームがあるけれど、それだったらこれが幻のゲームと言われるのは話が通らない気がする。ゲームの評判自体で悪く言う話を少なくともボクは耳にしたことがないのだから。


「…あの、このままタイムリミットまで待ってみませんか？」


ボクの言葉に巻島さんは首だけを向けて何故と眉を顰めた。確かにこのまま行けば、もしかしたら終わってしまうかもしれないと考えるのもある。けれど、これが初めから組み込まれた仕様だとしたらここは避けて通れないイベントのようなもじゃないかな？根拠は無い、ただ色々なゲームをプレイしてきたから様々な展開は考えられる。そんな経験から漠然としたなんとなくの自信がボクの心の何処かにはあった。



「宿場町を探索していれば別な砂漠の渡り方もあったかもしれません、でもココは多分絶対に通らなければならないルートです。よく漫画とかで主人公が強い敵に一回負けて更に強くなる展開を見たことありませんか？これもいわば初段階では絶対に勝てないボス的なイベントじゃ…ないかなぁ～…て思うんですケド…」

「ん～～…」

「ダメ…ですか？」

「いやそのプランに賛成だ。オレに名案は浮かばないしゲームには不慣れ、なにより坂道が言うならやってみる価値アリっショ」


そう言って巻島さんは口元に笑みを見せながら優しい目元で頷いてくれた。一安心と話はまとまり、ボクは改めて巻島さんの隣に腰を下ろして画面へと視線を向けると、そっと隣からコントローラーが差し出された。けれど今のプレイヤーにキャラクターは【マキシマ・ユウスケ】さんなのだからそのまま巻島さんがプレイしてください、隣でボクがアドバイスしますのでと言うとなんだか面白い会話だなと今度は大きく笑ってみせてくれた。準備も整い、再び【ＳＴＡＲＴ】ボタンを押すと右上のデジタル数字が動き出して残り時間のカウントを始めると、ふと思い出したように巻島さんが口を開いた。


「思ってたより早かったが会社の方は大丈夫だったのか？」

「ハイ、大丈夫でした。道も空いてましたし、帰ると言っていた先輩もまだ会社にいらっしゃいましたのでカギを返して資料の最終チェックも終わらせてきました。明日は有給で休んでいいとも言われて嬉しくて帰り道つい飛ばしてしまいました…//」

「クッハ、きっとめちゃめちゃ早かったショそれ。坂道はいつから平坦もいけるようになったのかねぇ？」

「い、いえいえいえいえっ。ボクは今でもクライマーですよっ//！」

「クッハハそんなコト、オレが一番よく知ってるショ」


そう言いながら軽く頭を撫でられて心地良くなっていると、いつの間にかデジタル数字は残り１０秒を切っていた。徐々に数字が５…４…３…と削られ、ついに全ての数字が０を刻むと画面の中キャラクターの動きが止まり、広大な砂漠に静かに倒れこむ描写が写したされた。ゲームと知っていても人が倒れるのは見ていて気持ちの良いものじゃない。だんだんと感じる切ない気持ちに両手を握り合わせてじっと画面を注視していると、やはりゲームオーバーの表示はなく、乾いた熱風に巻き上げられ擦れ合わさる砂音が耳に聞こえるばかり。この後、この旅人さんはどうなってしまうんだろう…切ない気持ちが不安と寂しさに変わり始めようとしていた。その時、隣に座る巻島さんが何かに気がついたらしく小さく声を上げた。


「見えるか…なんか画面の奥の方にデカイのがある気がするショ」

「どこに…あっ、本当だ。だんだん大きくなってきますね…こっちに近づいてくるみたいです」


巻島さんの言うとおり砂塵に阻まれはっきりとした姿は見えないけれど、確かに画面中央奥あたりにぼんやりと灰色の山のような形をした影が浮かび上がっているのが見て取れた。それは着々と今し方倒れ込んだ旅人さんの方へと向かい真っ直ぐに動きやって来る。あともう少し、あともう少しと祈りながらも画面の隅々に目を這わせてエンドロールの気配が無いことにボクは心から安堵した。どうやら旅人は救われそうだ。

【～2nd　stageへ　続く～】 ]]>
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		<dc:date>2015-05-12T01:01:23+09:00</dc:date>
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		<dc:publisher>WOX</dc:publisher>
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		<title>【RPG】（巻坂）</title>

		<description>「…………」


カチッ…　カチカチッ…‥

…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 「…………」


カチッ…　カチカチッ…‥


『ハァ…ハァ…ーーぁ…クッソ…暑い…ショ…；』



踏みしめる足元は埋まり崩れ、疲労する身体を煽る天上から降り注ぐ容赦の無い太陽。オレが見ている世界はたった二色、真っ青に晴れた雲一つない広空と行けども行けども繰り返される砂、砂、砂の黄色。目視に見渡しては果てなく地平線の先まで続いているのではないか、そんな絶望感に襲われる。このままじゃ無駄に時間を消費するばっかりだ、なんだか知らねぇけど徐々にライフも減ってきてるし急いで次の町でも村でも見つけねぇとアウトっショ。


「先走っちまったか…坂道が帰って来るまで少しでも先に進めておこうと思ったんだが…；」


薄暗い自室のテレビの前で手に馴染まないコントローラー感覚に苛立ちを覚えながらオレは噛み付くように画面を凝視し続けていた。オレって生まれてこの方ゲームなんてどれだけやった？と自問自答しみたが考えなくても片手も埋まらなかったショ。いまだ見えぬ目的地、漠然と広がる茶色で染められた砂漠マップ。プレイしているだけのはずがすっかりオレもゲームの中のキャラクター【マキシマ・ユウスケ】とリンクしているようだった。


『行けども行けども景色はかわらねぇーし…』

「あれ…なんかキャラの動作が遅くなってる気が…」


カチカチ……　　ピコン！


【残り体力が１０%を切りました。制限時間を開始します】


画面に表示された赤く点滅する残り体力と必然的に急かされるタイムリミットのカウントダウン。デジタル時計は秒を刻み数字を減らしているが、だからといって残り５分でこの変わらない状況で一体オレはどうしたらいいんだ…！？


「『ココは、…ったい、何処、なん、ショォオーーー!!!』」


叫びも虚しく、表示されたデジタル時計は残り３分を切ろうとしていた。



【RPG】　１　～幻のゲームソフト～




それは穏やかな日差しが仕事で荒れ果てたアトリエの窓辺から癒しの如く柔らかく差し込む長閑な昼下がりくらいのこと。２週間ほどの海外出張から帰国し、溜まっていたデザインの仕事をちゃちゃっと片付け終えたオレは温くなったコーヒーで一息ついていた。デッサンは終わらせたから兄貴にデータ送付して…あとは部屋の片付けもだ。ついでに自分のアトリエもやるか…まだ全然大丈夫だが油断すると足の踏み場があっという間になくなっちまうショ。空けてた二週間、家のことは坂道に任せっきりだったし坂道が仕事から帰ってくる前に少しでも負担を減らしておいやりたいところだ。


「……～…っっ……～!!」


縮こまった身体を椅子の背を使って思いっきり伸ばすと、詰まっていた筋肉と呼吸が幾分か開放されたように思えるが少し酸素の足りない頭がぼんやりともする。その中で視線に映ったのは少々散らかったデスクの右奥に置かれた、あの懐かしいIH優勝の写真だった。高校３年で単身渡英、大学に入学、卒業を経て日本に帰国。それも早数年前の話になる。その間にも坂道との関係は遠距離ながらも続いていて、それがあったからこそオレは自身の目標に向かって進めたのもある。帰国と同時に予てから約束していた坂道との二人暮らしも自分達が考えていた程の不安も無く、順調そのもの。今回のように仕事の都合で時々家を空ける事が多いのは申し訳ないと思ってるがそれでもマメに連絡をくれるところなんて高校時代から全く変わらない。あの頃も今も、オレは坂道の屈託のない笑顔とかけがえのない存在に支えられながら忙しい日々さえ心穏やかに過ごすことができている。


「…っと、ボーッとしてたショ…//；」


休憩の余韻にふと蘇る昔の記憶に浸っていたが、そんな場合じゃないショ。今日は早く上がれそうだと今朝坂道は言っていたし、晩飯何にしようか…。なににせよ仕事が片付いただけでも実に清々しい気分、この気分が維持されているうちにさっさと掃除に取り掛かっちまおう。音を立てて椅子から立ち上がりアトリエを出たオレはそのままキッチンへ足を向けた。集中で忘れていた空腹にとりあえず何か入れなければ…軽く飯でも食うショ。


ピピピッ…っ！


「ん…メールか？」


湯を沸かしつつ冷蔵庫を漁っていると、ジーンズのポケットに突っ込んでおいた携帯がメール受信の音を鳴らしてみせた。手にしていたジャム瓶をキッチン台へ置いてそいつを取り出して名前を確認すると【坂道】の二文字が映し出されていた。あれ…、確か坂道は今朝から夕方まで仕事で、今も恐らく仕事中だとは思うんだが…休憩の合間に何か用事でも思い出したんだろうか。


『やりました巻島さんっ(((o(*ﾟ▽ﾟ*)o)))　ボク今日すごいものを手に入れちゃいました!　残業しないよう仕事のケイデンス上げてなるべく早く帰ります(*≧∀≦*)』


「『どうしたんだ、何か嬉しいことでもあったのか？　帰り待ってるぞ』…と。」


明らかに興奮した様子の坂道に返事を打って携帯を閉じるとほぼ同時にケトルがカチリとスイッチを切った音がした。再び携帯をポケットに戻し、途中だった遅い昼食を取るためオレはジャム瓶を捻り開けた。何があったかは知らないが、随分と興奮してたみたいだし良いことがあったに違いないな。それじゃオレも楽しみにしながら本人の帰宅を待つ事にしよう。


………………………………………


「ただいま帰りましたぁっ//!!」


それから２時間後の午後５時過ぎ。玄関先から聞こえる坂道の『ただいま！』はいつも以上に元気で疲れを感じさせない張りのあるものだった。スリッパを鳴らしながら『おかえり』と玄関へ迎えに出ると慌てているのか靴が上手く脱げないらしくモタついている背中が忙しく動いている。残業かも知れないと今朝は言っていたが昼過ぎのメールで宣言した通りに残業無しの定時帰宅を達成することが出来たようだった。坂道が勤めているのはゲーム関係の雑誌出版社で、今の時期は新作ラッシュで残業も当たり前なんだとか…。そんな超繁忙期に特急で仕事を片し、この有り溢れる元気を与えた理由ってヤツは一体何だろうかとオレには想像もつかない。漸く靴を脱ぎ終えて振り返った坂道の髪型は慌てていた事を物語るようにクシャクシャしていて、あさっての方に大きく跳ねていた。


「おかえりショ坂道、クハッ…すごい髪型になっちまって//；」

「えっ…ぁ、うわわわいつの間に…っ//；」


オレの言葉に漸く気が付いたのか、坂道は両手で跳ねた髪を撫で付けてみても余計に癖がついてしまってなかなか元に戻りそうにない。その様子が可愛く可笑しく、口元の笑みを隠す事もなく片手で掻いて簡単にそれを治してやると幾分かはマシになったようだ。


「それで坂道。なりふり構わず大急ぎで帰ってきたには理由があるんだろ、メールにもスゴイもの手に入れたって書いてあったが？」


「そっ、そうなんですよ！コレです、コレなんです巻島さん!!」


ガサゴソと通勤用のメッセンジャーバックへ手を入れて坂道が取り出したのは、プラスチックケースに収められた一枚のCD。ぱっと見た感じは表紙にはなにも書かれていない白紙のジャケットで、説明書らしきものもオレの目には見当たらない。にも関わらず、大事そうにしっかりとケースを握る坂道の表情はこの上もなく嬉しそうで期待に満ち溢れているのがよくわかった。


「このCDがそんなに大したものなのか？一見すると全然、そうは見えないショ」


「そう、そうなんです！だから出会えたのが本当に奇跡と言いますか幸運といいますか…!!まさかボクが生きているうちにお目にかかれるなんて//!!」


「そいつはオーバーっショ、流石に；」


「そんな事ないんですよ巻島さん！これは本物の【幻のゲーム】なんですから！」


よく、好きなものを力説する人間は独特の早口と興奮を色濃く語らせるが坂道も例外じゃない。一生懸命、そのものの価値を伝えようとする真剣かつ情熱に満ち溢れた瞳が爛々と語る中、ともかく部屋に上がってから話すショ、と言うと、ここが玄関だと言うことも忘れていたらしく、脱いだ靴を揃えて漸くオレたちは部屋の奥へと足を進める事になったのだった。そこから二人で夕食を作りながら、坂道の言う【幻のゲーム】を手に入れた経緯や、何故そう呼ばれているかの理由などを坂道は休むことなく語り続けた。全くイイ顔するショ、出会った頃は全くこの手のカルチャー文化は理解出来なかったオレだったが、一緒に暮らすようになって相手の事をより知るようになってからは少なからず一般知識程度までは持ち合わせるまでになった。これも先生が優秀なおかげか…あ、でも未だに美少女アニメだけはよくわかんないショ。


「へぇー…つまり話をまとめると、今日取材に行ったゲーム会社の倉庫整理を手伝うことになったお前が、旧倉庫の廃盤ゲーム欄から偶然コイツを見つけたって事なんだな？」


「ハイ！はじめはジャケットも説明書も無いので何かの特典映像かデモ盤とも思ったんですが、見てください巻島さん。この円盤を光に斜めに傾けると文字が浮き出て見えませんか？」


「文字……あ～成る程、確かに浮き出て見えるショ。」


食事の片付けも済ませ、夕食後のプライベート時間となった時刻は午後８時を過ぎた。どうしても一緒にゲームをしたいという坂道の申し出に、仕事も無事に片付いたし構わないと頷いて答えると、早々に片付けも済ませた坂道は自分の部屋から旧式のゲーム機を掘り起こし、せっせとリビングへ運び込んできた。この分野は坂道の専売特許、素人のオレが手を出して良いものではないと弁えている。と、いうことでオレは飲み物を用意する係に任命され、二人分のココアを淹れてリビングに戻ってくると灰色の小型ゲーム機がすっかりとテレビに接続され、まるで特等席だと言わんばかりに堂々と鎮座していた。見慣れない機器があることに若干の違和感を覚えつつ、熱いぞ、と付け加えながらソファーに座る坂道にマグカップを差し出すと、手に持っていたCDを傍らに置いて両手でマグを受け取ってくれた。ココアの甘く良い香りが鼻先に漂う中で自分もソファーに腰を下ろし、そっと置かれたCDを手に取って光に斜め翳してみれば、先程よりもハッキリと浮き出た文字を読むことができた。【R・P・G】実にシンプルなタイトル、内容もなんと無く察しがつくショ。


「にしてもだ、よく譲ってもらえたな。幻っていうくらいだ、本物ならプレミア価格なり非売品なりになっててもおかしくはないショ？ゲーム会社側だって手放したくはなかったんじゃないのか？」


「ハイ、本来ならばそうなんですが、多分このゲームに関する噂が譲ってもらえた理由だと思います。」


貴重な品ならば大切に保管されるなりマニアに高値で取引されるなりが一般的だ。それが譲ってもらえたそれそうなりの理由がちゃんとあるのだという。程よく冷めたココアを一口飲んだ坂道は小さく考えた唸りを発して、自分なりの見解を話し始めた。


「さっき夕食を作りながら巻島さんにお話しましたが、このゲームが幻と言われる本当の理由…と、でも言うんでしょうか。ゲーマー界の噂では、このゲームのプレイ時間とエンディングがプレイヤーによってみんなバラバラだと言います。一人が複数回プレイすれば理由もわかりますが、不思議な事にこのゲームに二週目は無いと言われています。何故か誰も二回目をプレイした人がいないという嘘のような噂が実在するんですよ。」


「…つまりその話が本当だとするならば初回プレイのみの一回こっきりで、プレイした奴が全員違うエンディングを見ているってことなんだな。なんか、そう聞くとバリバリいわく有りげなゲームっショ；」


「アハハ…そうなんですよね//；　でも、プレイした人で内容を悪くいう話は流れてないんですよ、巻島さん。詳しい内容は書かれてはいませんがネタバレ防止か何かだとは思います！」


マグカップを片手にしつつ胸元に拳を構えて熱く語る坂道は真剣そのもの。ゲームに対する情熱がひしひしと伝わってくるショ、しかも幻と言われるゲームなのだから尚更だろう。


「あと、これは譲ってくれたゲーム会社の担当者さんが言っていたんですが、こういう噂のあるゲームは来るべき人のところに出てくるものなんだそうです。ゲームが人を選ぶって話もおかしな事かもしれませんが、今日ボクが倉庫整理の手伝いを申し出なければ出会うことも無かった品ですし、商品としては出せないものだから持ってて良いと言ってくれました。」


「巡り合わせって奴か…クハッ、そいつも面白い話っショ。なんにせよやってみれば分かるだろうし、早速プレイしてみるショ、坂道」


「ハイッ、それじゃ電源入れますね!!」


期待と興奮を隠せない満面の笑顔を見せながら、坂道は目の前のテーブルへマグカップを置いて席を立ち、手馴れた手つきでテレビとゲーム機の電源を入れるとオレの手からゲームソフトを受け取り本体へセットし、コントローラーを手に再びソファーへと戻ってきた。起動音と共に真っ暗だった画面の中央にはゲーム会社のロゴが浮かび上がり、余韻を残した音楽の後ディスクの回る音だけが小さく耳に聴こえてきた。この感じはアレだ、映画でも始まるような、そんなドキドキ感に似ている気がする。隣にいる坂道はきっとそれ以上で両肩が妙に釣り上がって強張っているのがよくわかるショ。すると、その肩が一度小さな声と共に跳ねたかと思えば目の前の画面が徐々に明るくなり、やがて全体が白に染まり変わった。筆記体で書かれた青に金縁のタイトルはディスクに浮き上がったものと同じ【R・P・G】その下には同じ字体で【Story of the kingdom】とサブタイトルが書かれていた。


「【Story of the kingdom】王国の物語…、雰囲気からしてなんだか中世っぽいニュアンスだな」


「確かにそうですね…ＲＰＧってことは何者かから国を守る為に勇者が仲間を集めて戦うのか、或いは自分の国を発展させていくゲームなんでしょうか…？」


どっちも有り得るなと思いつつ画面を見ていると、中央にはいつの間にか【ＳＴＡＲＴ】の文字が点滅を繰り返し今や遅しとボタンが押されるのを待っているようだった。普通中古のゲームならば【option】なり【continue】なりの項目があるはずが、今のところそれらは見受けられない。ゲーム会社の仕様かもしれないが、もしかして本当にこれは噂通りの幻のゲームなのかもしれない。しかし、この胸騒ぎにも似た高鳴りというかオレの期待感は一体なんなんだろうか…妙にドキドキしてきたショ。じっと画面を見守っていたが意を決したらしい坂道がそっとスタートボタンを押すと、よくあるゲーム開始音と共にタイトル画面がフェードアウトし再び画面は黒一色になってしまったが直ぐに白いゴシック体文字でプレイヤーの名前や年齢、人数など事細かな設定を入力する画面が現れた。


「先ずプレイ人数、ボクと巻島さんの二人なので【２】。次に名前は…名前、どうしましょうか？」


「そのまんまでいいショ、その方が感情移入しやすいと思うぞ」


「じゃあそれで…【マキシマ・ユウスケ】【オノダ・サカミチ】それじゃ年齢も同じの方がいいですね…これで良し。次は思いつく友人の名前を数名ほど入力？ランダムで出現するかもしれないって書かれてますよ」


「えらく細かいな…部活で一緒だったメンバーでいいショ。あと適当に他校の奴の名前入れといても面白いかもな…//」


「それ良いアイディアですね！それじゃ…」


軽快なボタン操作で次々と総北高校時代の懐かしい名前を入力し、更に他校の中からも馴染みのある名前を数人入力し終えた坂道は一息にココアを飲みながら誤字や漏れが無いかどうか熱心に画面を見つめて確認していた。そんな、たかだかゲームでオーバーっショ…とも思いながら、そんな一生懸命な姿もオレには可愛く思える。やがて全ての確認を終え、決定ボタンを押すと項目は消え、代わりにタイプライター音と文章が刻まれ始めたので坂道はそれを確かめるようにゆっくりと読み上げ始めた。


「『※必読※　このゲームはプレイヤーによってエンディングが変化するマルチエンディングタイプです。あなた方の選択一つで未来は様々に変化します。なお、ゲームオーバーならびにリセットはありません。定期セーブからの再スタートのみになります。プレイヤーが選択した結果を最後まで見届けるのがこのゲームをプレイする真の目的とも言えるでしょう。【マキシマ・ユウスケ】【オノダ・サカミチ】あなた方２人は最後までこのゲームをプレイしますか？【YES】【ＮＯ】』…すごい仕様ですね、ボクこんなゲーム設定初めてです。」


「オレもゲーム全くやらないが設定が変わってるってのはよく分かるショ。」


一通りの説明を読み上げてみると今までにないタイプのゲームであることを感じ取ったオレと坂道は、しばしの間互の顔を見合わせていたが相談する事もなく坂道の表情にはハッキリと答えは見て取れた。たかがゲームとはいえ幻と噂される逸品、今までに無い設定条件は後戻りはできない一回きりのぶっつけ本番勝負のようで、まるでレース出走前のスタート地点の気分ショ。そうか、さっきからの高揚感はこのせいかもしれない…取っ付きにくかった印象はもう何処にもないし、覚悟と言ったらオーバーに聞こえるだろうがオレの答えもとうに決まってる。答えを伺うように視線を向ける坂道に軽く微笑んでそっと頭を撫でながら小さく頷いてオレは再び選択を迫る画面へと視線を戻した。


「それじゃ、いいですか？巻島さん」

「いつでもOKショ」


ギシっとコントローラーを握る音に続き、カチリ、とボタンを押す音が聞こえた。そいつに答えるようにテレビからは効果音が鳴り、画面ではの【YES】の文字が点滅しながらゆっくりと消えていった。さて、これからどんな話でどんな展開が待っているかとくとお手なみ拝見、なんにせよ楽しみショ。


【～1st　stageへ　続く～】 ]]>
		</content:encoded>
		<dc:subject>-</dc:subject>
		
		<dc:date>2015-05-04T11:44:27+09:00</dc:date>
		<dc:creator></dc:creator>
		<dc:publisher>WOX</dc:publisher>
	</item>
	<item rdf:about="https://cyberspider.novel.wox.cc/entry77.html">
		<link>https://cyberspider.novel.wox.cc/entry77.html</link>
		
				
		<title>【Magical　kiss】（バレンタイン巻坂　２）</title>

		<description>
坂道からの手紙達は、自分の部屋のいつ…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 
坂道からの手紙達は、自分の部屋のいつも目に入る場所に置いておいた。遠く離れた日本から長い道のりを経てやってくるそれに何度と無く返事を書こうとは思ったか知れないが、白紙の便箋に真向かうと頭ん中が真っ白になっちまってちっとも言葉が纏まりやしない。それでも変わらずにオレからの返事が来ない手紙は届き続けた。一通、また一通とソイツが積み重なるごとに抑えていた想いが募っていくようで、まるで不思議な魔法にかけられた気分だ。やっぱり手紙は苦手ショ。


【Magical　ｋｉｓｓ】
（巻島　裕介　編）


「…っせ、っと…」


予想だにしない事態により、今、オレのベッドではフラッフラに酔ってしまった坂道が眠っている。ひとつ足りないカップに何故を思いながら台所に行ってみりゃ、実はあれは兄貴のもとへ届けられるティーセットだったということが判明し、急いで部屋に戻ったが時既に遅し。床に倒れ込んでいるといっていい横になった坂道の姿を見たときには最初こそ驚きもしたが、幸いすぐ横に原因となるものが転がっていたおかげで早々に対処することが出来た。紅茶はオレ達と同じもの、ダージリンのセカンドフラッシュ。こいつは兄貴もオレもとても気に入っている茶葉で仕事場にはいつも常備してある品、これは特別問題はない。マズったのはチョコレートのほうだ。実家には毎日何らかしらの荷物が届く。オヤジの会社関係から私的な荷物まで様々だが季節柄２月ともなれば一気にチョコレートの数が増えるのが恒例となっていた。とてもじゃないが家族で食べきれる量では無いし、かといって捨てるのは失礼に当たる。必然的に来客があれば品は間違いないものなので茶菓子に出すことも珍しくない。しかし今回は中身がいけなかったんだ。


「ミスっちまった…もっとちゃんと確認しときゃ良かったショ」


坂道をベッドに寝かしつけた後に床に落ちていた包み紙を拾い上げてみると、金文字で書かれた４つの頭文字にやっぱりだと大きく溜息を吐いた。軽率だった…こいつは純度の高いブランデー入りのチョコレートじゃないか。坂道がオレを訪ねてきてくれた事に浮かれていたばかりに招いちまったんだ。赤みの差した頬に一定でない呼吸、そして甘い香りとほのかなアルコール臭…慣れない感覚に本人はさぞ戸惑っていることだろう。


「っ……んぅ～……；」


坂道の眠るベッドの縁に背を寄りかからせていると、背後から小さな唸り声が耳に聞こえてきた。顔だけて振り向くと、不安定な感覚に彷徨っているのであろう小さな身体が微々と身じろいでみせたので、眠る両頬の片方に右手をそっと当ててみればぼんやりと赤くじんわりとした熱を指先に感じる。もう少し水飲ませてやればいいんだろうが起こすのは可哀想だ。


「せっかく会いに来てくれたってのにオレ何やってんだ…。」


寝顔に思う可愛さに自分の不甲斐なさが絡まり合い、何とも言えない心持ちにたまらずオレは顔を伏せ込んだ。正直に言ってしまえば坂道に会う事をオレは少なからず楽しみにしていたんだ。当然ショ、実に半年ぶりの再会なんだぞ。坂道からの最初の手紙が届いたときの事はハッキリと覚えてる。つか、驚きの方がデカかったんだ。オレが日本を離れる際、もしも何かの時に住所を教えたのは顧問のピエールだけだった。それがまさか坂道から手紙が来るなんて想像もしてなかったショ。とにもかくにも開封して中身に目を通してみると、本人を写し表したような柔らかい文字で綴られる内容は坂道らしい挨拶に始まり、オレの近況を心配するものやレースの結果や練習の内容なども詳細に書かれていた。クハッ…やっぱりお前は面白いショ、坂道。インハイを越えて尚、オレの中にあるイメージはどうしたって辿たどしく控えめでどこか自信なさげなものだった。しかし、不器用ながら一歩一歩確実に登る姿は力強く、そこには確かに光るものが見えるんだ。知らないところでも成長する事にガラじゃないが先輩としての安心感に突っ張ていた頭が解れて胸を撫で下ろしたんだ。



「クハッ、情けねぇ…」


いや、それだけじゃ無いショ。こんなにもはっきりとした高揚感に鮮やかに蘇るあの夏の日の出来事。最後に二人でクライムした峰が山も、山頂での会話でも本人目の前にしてまで隠し通してみせたのに、送られてきたたった一通の手紙で自分の思う以上に心が騒いでたまらなくなっちまってるショ。頭に描けばいとも簡単に思い出せるあどけないメガネをかけた笑顔と声は懐かしく、すぐ傍でオレの名前を呼ぶんじゃないだろうかって錯覚さえ生まれる。それはイギリスに来てからよくよく知ったなんて自分勝手にも程度ってモンがあるぜ。


『裕介、お前に手紙来てるよ』


それからも定期的に坂道からの手紙は届き続け、読む度に衝動は強くなり続けていったが、一度決めた留学を放り出すこともできないショ。自分自身もそうだが何より兄貴に迷惑がかかっちまう。手紙と現実をを見比べながらどうにも身動きできないもどかしさに現状での足踏みを繰り返していた…そんな時だったか、兄貴の一言が光を指し示してくれたのは。


『あぁそうだ、今日は一日晴れらしいぞ…久しぶりに走ってきたらどうだ』


実に意外な一言だった。日本を離れる時に自分の愛車は勿論持ってきていた、実際イギリスでも自転車は一人で動くのにはかなり有効な交通手段でもある。なにせ日本と違い列車が時間通りくれば奇跡とさえ言われてしまうようなダイヤ事情なのだ。（いや、これはイギリスに限った事ではないが…。）そんな事情を差し引いても何より一番は傍にあると安心するというか落ち着くショ。部屋の片隅で乗らずとも手入れを欠かすことはなかったし、そういや随分と走ってはいなかったなとも思い直した。普段、兄貴は仕事場で必要以上に話す人ではないのに、その日は妙に含んだ表情と出かけて来いの一言。コレクションの準備で忙しい時期でアトリエにもオレ達以外のスタッフが出入りを繰り返している真っ最中だぞ。それでも行ってこいというのならば、その言葉に甘えて息抜きをさせてもらおう。自分の部屋に飛んで行き、久々のサイクルジャージに袖を通すとバイクを担いでアトリエを後にした。風に身を任せ、ロンドンの雑踏街路を抜け気の向くままにペダルを漕いで進み、やがて辺はだだっ広く開けた郊外の空港公園までやってきていた。小高い丘に自転車を留めて見渡すパノラマの景色は壮観で、吹き抜ける風は汗を掻いた肌に清々しく爽やか、この感じ懐かしいショ…まるで坂道と登った峰が山とよく似ているじゃないか。見晴らしいの良い風景に髪を揺らす風のなすままに暫く遠くを眺めていたが、やはり思い浮かぶのはあの小さな背中と後ろをついて笑顔で登る後輩の姿が想いの大半を占めた。やっぱり自転車は正直で自由だ、オレをどこまでも開放的にしてくれる。こいつに乗って、走って出た答えは紛れもない本心でしかないんだ、勿論良い意味でだ。



まずは手紙…書いてみるかな。これだけ固まっているんだ、便箋に向かってもサッと書けるに違いない。小さくも大きな変化を胸に思い疼かせながら帰路に着き、早々に部屋へ引き込むと随分前に買ったシンプルな便箋を取り出してペンを取ったんだ。


「そういや今は何時だ…」


しかし結局、その手紙が出されるのは数ヵ月後、年を明けてからの話になってしまった。書く気持ちばかりが先走り、書き始めると本当にこれでいいのかという悩みに襲われ年が明けた一月。ちょうど予定が重なり、日本に一度帰国するという３行に纏められた完結的な内容を書き上げるダケにしてはえらく時間がかかってしまった。そんな懐かしくも恥ずかしい思い出を振り返っていると、いつの間にか室内は暗くなり始めていた。そんなに時間が経っていたのかと時計に視線を向けれは時刻は午後６時になろうとしていた。なんか時間の感覚が可笑しいショ、坂道が家に来たのが昼辺だったと思うがバタついちまってロクに話もしてない気がする。坂道の事だ、親御さんには伝えて出かけて来ただろうが連絡はしとくべきだ、少々気は引けるが携帯電話を拝借させてもらうショ。物音を立てないように立ち上がり、机の上に寄せて置いておいた坂道の荷物を手に取り上げると思いのほかに軽く、一部沈んだ布の影に目星をつけて手を入れると容易に携帯電話の輪郭に触る事が出来た。ところがカバンの中で何かに引っかかっているらしく、なかなか取り出せず手間取っていると、漸く掴んだ携帯と一緒に音を立てて何かが床に落ちてみせた。そちらへ視線を落とすと、薄暗い中に浮かぶ黒いラッピングに赤いリボンの掛けられた小さな箱がオレの方を向いていた。拾い上げてみると軽くてカサカサと音もする。…これはどう見てもプレゼントっショ、しかも感じからいって菓子。あぁ、今日はバレンタインデーか。行きがけに誰かから貰ったのか、そうだとしたら落としたのはマズかったな。様子を確かめる為にひっくり返してみると、また何かが床にヒラヒラと落ちていくのが見えた。寸前キャッチに成功してみればそれはどうやら二つ折りにされたメッセージカードで片面表にはオレの名前が書かれていたんだ。と言うことはコレはオレ宛か…中を見れば分かるかも知れないと思い、メッセージカードを開いてみることにした。



………………………………………


「…っ……～…ぇっ…ぁっ、れ？」


漸く室内にオレ以外の人の声が生まれたのは時刻は午後八時を回った頃だった。ゴソゴソとベッドで大振りな音の後に寝ていた坂道が飛び起きたスプリング音。椅子に座り、雑誌を読んでいた視線をベッドに向けると、寝癖の見える髪型に焦った表情の坂道が瞬きをして部屋の中を見渡しているようだった。


「目が覚めたか、坂道」

「…ま、巻島さん！？」


声をかけると小さな顔がこちらを向いたのを見て、オレは席を立ちベッドへと歩み寄った。いまだ頭はハッキリと目覚めてはいないらしく不安そうな顔を両手で覆い、ブツブツと口に出しながら記憶を辿っているようだった。斜めにベッドへ腰を下ろしてそっと坂道の頭に右手を置いてやると、一瞬ビクリと背中を跳ねさせ両手を退けてみせると大きな両の瞳と視線が合わさったんだ。


「なんでびっくりしてるショ…お前、オレん家に来てるの忘れちまってるのか？」


「い、いえっ…その、巻島さんのお宅にお邪魔して、お兄さんに会っては覚えています。でもなんでボク、いつの間に巻島さんのベッドで寝ているんですか…っ；」


どうやら食べたブランデー入りチョコレートのせいで記憶が吹っ飛んでしまっているらしい。冒険にも酒を飲むようなタイプでもないし、一気に入れた強いアルコールを考えればない話でもないか。懸命に思い出そうとする坂道の頭を優しく撫でて手を離し、大丈夫だと言いながら事の一部始終を話して聞かせた。聞き漏らすまいとしていた真剣な顔は話が進むにつれてコロコロと顔色を変えて、最終的にはよほど恥ずかしかったのか表情を固めたまま顔は真っ赤になり布団を巻き込んで膝を抱え顔を伏せてしまった。


「これはお前のせいじゃ無いショ、偶然が重なった事故…つか、悪いのはオレの方だし」


「…で、でも…結果的には巻島さんにご迷惑をっ……っ……//；」


「クハッ、そんな事思っても無ぇし特別何もしてないショ…//」


軽く笑いながらオレが言うと赤くなった耳を布団に擦りつけるように首を左右に振り、顔を上げようとはしなかった。坂道の気持ち分からなくも無いが、そこまで気にする必要も無いんだがな…。さて、こうなってしまったら次どうやって顔を上げさせようかと思っていると、突然ボフンと布団を叩いて坂道が顔を上げてみせた。


「あっ、ああああっ!!!」

「ど、どうしたショ…っ；」

「いま何時ですかっ；!!」


何か不味いことでも思い出したのか、急に鬼気迫る表情に変わった坂道が顔を詰め寄らせ聞いてきたので身を横に避けて時計を見せてやると、今度は目に見えてわかるほど顔色から血の気が引いていったのがわかった。オレも首だけで視線を向けると、壁に掛けられたアナログ時計は午後８時２０分になろうとしている。


「ど、どうしよう…家に連絡しないとっ…絶対母さん心配してる…っ；!!」


「あ、それなら心配すること無いショ」


「えっ…」


焦りにギクシャクした動きをみせる坂道に、携帯電話を借りて夕方頃には自宅に連絡しておいたと伝えるとテンションの高い女性の声でよろしくお願いしますと身の預りを頼まれたと説明を付け加えると、少しは安心したのか顔色が幾分か戻ってみせた。実際、オレが事態に気が付き連絡した時点で今晩は一泊させようと考えていたが親御さんから晴れて許可も下りて正直ホッとしている。坂道は家に来るのにBMCで来ているし酔いが冷めても帰り道で何か無いとも言い切れない、それに不慮の事故とは言え、酔った後輩を自転車で帰すなんてマネは出来ないショ。


「つーワケで安心していいショ」


「…ぁ、ハイ…本当に色々すみません……っ、今朝まではこんなハズじゃなかったんですケド…；」


「予定はあくまで予定って事だ、先のことなんて分かるわけないし気にすることでも無いショ」


オレは身を戻しながらベッドの脇に置いておいた坂道のバックに手を伸ばして掴み、布団に隠れる坂道の膝上へと乗せ渡した。


「あ、ボクのカバン」


「悪いとは思ったんだが携帯借りるのに開けちまったんだ」


「いえ全然！…そうだ、あの！巻島さんに渡したいものがありまして…っ！」


そう言ってカバンを引き寄せ中を漁り始めると、ラッピングされた箱を取り出して確認し始めた。すると、またカバンの中に手を入れ、目的のものが見当たらないのか今度はカバンを何ぞ着込むように探し始めたが見つからないらしく、物と布を擦る音だけが続いた。


「あれおかしいな…確かに挟んできたのに…」


「…あー…それってコレか？」


探し物をする横顔にポケットから二つに折れたカードを差し出すと、どうしてそれが？と言いたげな坂道の顔がこちらを向いてみせた。


「み、…見ちゃいました…？」


「………あぁ、オレ宛って書いてあるし拾った時にな」


「そう、ですか…」


やっぱり出さない方が良かったのではとも考えたんだが多分出さなきゃずっと坂道は探し続ける気がした。せめて見てないとでも言えば良かったんだろうが正直な問いかけに思わず正直に答えちまったショ。しかし意外にも坂道の表情は明るく、掛けていた布団をめくり正座に座り直して手にしていた箱をオレへと差し出してみせた。


「良かった、落としたわけじゃないので安心しました！…コレ、お口に合うかわかりませんが受け取ってください…//!!」

少し震える手から箱を受け取り、包を破かないように開封すると中身はやはりチョコレートだった。一口サイズのものが六個、ミルクからビターまであるアソートタイプで見た目も綺麗でセンスも良かった。ずっと会いたかった想い人、意中の人からのチョコレート。無邪気な照れ笑いで話す坂道に、中身を知っていたにも関わらず胸がじわりと熱くなっていくのがわかる。


「中身が壊れてなくて良かったです…//巻島さんはカッコイイからイギリスでも沢山チョコレート貰ってると思ってたんですけど、ボクからも贈り物がしたくって…でもいくら２月だからって男のボクからチョコレートは流石にヘン、でしたね//；」


「いや、全然そんなコト無いショ。食っていいか？」


「ハイ、勿論です//」


坂道に見守られる中で指先で一つをつまみ上げて口に運ぶと、それはあっという間に口内の熱で溶け始めた。これはガナッシュか…ザラつきもなく滑らかに溶けるチョコレートは見た目通りに美味かった。


「美味いショ、坂道も食うか？」

「いえっ、ボクはちょっと…//；」


オレの誘いに苦笑いで遠慮する坂道に、上げたものを食べるっていう遠慮よりはどうやらさっきの事件をまだ引きずってるって感じに思えた。記憶が無いぶん何かしてしまったんじゃと考えるのは最もな話だ。オレだってブランデー入りのチョコよりもこっちの方が好きだし、せっかく美味いのに苦い思いだけじゃあんまりだろう。もう一つ、今度はベリーの練りこまれたチョコを摘み半分だけ齧ってみせた。


「半分、これならオレも食ったし安心ショ」

「ふぇ、えぇっ…//!?」

「スキあり」


驚きの声を上げた坂道の口はちょうどチョコレートが一つ入るくらいの大きさに開いてくれたので、逃すまいと素早く左手で新しいチョコレートを摘んで坂道の口の中へ落としてやった。自然と動く口に大きくなった両の瞳に満足に小さく笑んで指先で溶けかかった残り半分のチョコを自分の口へと放り込んで、はたと気がついた。なんとなくの無意識でやってしまったが、これは結構恥ずかしい事をしたんじゃないだろか。チョコレートには体温を上げる効果があると聴いたことがあるが、事実に気がついた今まさに心臓から全身に送られる血液が急速に全身へ熱を運んで指先から頬まで突っ張る感じで動かすものままならない状態だ。反らせない視線はまっすぐ坂道を見ているのに行き場を失ったまま、時間にすればほんの僅かな間、しかし感じるのはそれ以上だ。


「美味しい、ですね…チョコ」

「あ、あぁ…言った通りショ？」

「ハイ、当たりを選んできたんですね、ボク…//」

「クハッ…坂道がくれるもんだったらオレにとってはなんだって当たりショ」


「そそんな滅相も無いデス!!」


良いのか悪いのか、坂道は意味を分かっていないようで慌てて否定して見せている。違うショ、坂道。これはオレの本音なんだ。次に会ったらお前に言わなきゃならない事があるってイギリス出てくる時に覚悟は決めたショ。溜息を隠した深呼吸ひとつの後、先程のメッセージカードを改めて差し出して話し始めた。


「これ坂道が書いてくれたんだろ」


「はい、英語苦手なんですけどちょっとカッコイイかなって…//」


送られてくる手紙と同じく、柔らかく優しい雰囲気の字体を見てこれが買った時の付属品でもチョコレートを売り込むキャッチコピーでも無いことは明白だった。


「【　You have been the only one for me！　】　私にとって、あなたはずっと特別な人なんです…って意味になる。お前は単純にオレへの感謝を込めてチョコレートくれたんだとは分かってるショ。…でも、オレの場合受け取り方がどうしても変わっちまうんだ」


「受け取り方、ですか？」


そう言って、布団に突いていた坂道の右手を取って自分の胸へと押し当ててオレは目を閉じた。小さくも自転車のハンドルで硬くなった手の平が服の上から感じられる、再び上がり始めた心拍数は坂道に伝わるだろうか。


「久しぶりショ、こんなに胸がドキドキすんのは…。夏のインハイを終えてオレは兄貴の住むイギリスへと留学したショ。子供の頃から海外旅行も多かったし英語も話せたから言葉の壁も感じやしなかったが、いざ生活するとなるとやはり住み慣れた日本が恋しいっていうのか…イギリスで生活を始めてから変に気持ちが寂しさを覚え始めたんだ。」


思わず力が入ってしまいそうになる手を加減しながらそっと閉じていた目を開けると、緊張と動揺の中でもひたすら真剣に聞き漏らすまいとする坂道にまた一つ胸が高鳴った。


「初めて手紙が送られてきた時、そして日々手紙が届く度にオレがお前にどれだけ会いたかったか分からないショ。イギリスでの日本を感じるお前からの手紙、それはいつだって特別なものだった。随分遅くなっちまったがやっと言える、このメッセージと同じ気持ちだ坂道。…お前はオレにとって、ずっと特別な人ショ」


抱えていたものが漸く言葉になり、本人を目の前にして形になったことで苦しかったものが開放されたように思えた。さぞや坂道は驚いているショ、男に突然好きとか言われて驚かないハズなんてない。脱力に似た感覚に肩の力が抜け始め、坂道を掴んでいた右手の力も弱まり始めた。すると、今度はその腕が逆に引き寄せられたかと思うと坂道の両手でしっかりと握られた腕はそのまま坂道の胸へと押し当てられたんだ。


「分かりますか…ボクも、こんなにドキドキしています…っ。会えるって知った巻島さんからの電話の後、巻島さんと走ってた時もお話をする時とも違う感覚がずっと、ずっと不思議で考えてました…苦しくて、でも嬉しくて泣きそうになる、そしてとってもあったかいものです…//」


グッと強く押し当てられた手の平には細く薄いが確かにある筋肉、そしてその下に隠れる大きな胸の鼓動。早いし緊張してるショ…掴まれた手からも緊張からか熱めの体温が刻む脈の一つ一つをダイレクトに伝えてくれた。


「今、こんなに近くで巻島さんに触れることが出来て、やっと自分の気持ちに自信が持てました。どういうふうに言っていいのか今までは分からなかったし…そして男の人にこの感情は持っていいのかなって不安も…でも答えは、やっぱり巻島さんが教えてくれました…!!」


両手の力がまた一つ強くなってみせた事に視線を胸から顔へと上げると、決意をみせた坂道の瞳が赤い頬を連れてゆっくりと柔らかく口元を動かし言葉を続けた。


「日本とイギリスって距離があってもボクは巻島さんの傍にずっといたいです…大好きです!巻島さん…//!!」


坂道の言葉に胸を染めていった熱は弾けて全身に回り、溢れ流れ出る寸前だった想いに一滴を投じた。オレを見つめる瞳が一瞬潤んだように見えたのは相手ではなく、どうやら自分の瞳の方だったらしい。



「わっ…ま、巻島さん…どうしたんですかっ…」

「つまり、…その、…なんだ…//；」


カッコ悪いショ、告白して泣いてるとか。相手も好きだって心から言ってくれてんのになんで涙が止まらないのか分からない。空いた方の手で涙を雑に拭っていると、握られた感覚がゆっくりと消えたかと思うと目の前で軽く紙の擦れる音が耳に聞こえてきた。薄らぎ霞んだ視界に映ったのはチョコレートを差し出す小さな指先、もちろん相手は坂道だ。


「ど、どうぞ…泣いた分だけ糖分補給しないと‥//」


「クハッ、そりゃ塩分補給じゃないのか…//；」


答えながら差し出された指先に口を付け、唇に触れるチョコレートを溶かし飲み込んだ味はしょっぱく思えた。初恋が甘酸っぱいって話は人ぞれぞれらしいショ。そうだ、さっきの続きと思いついたオレは手招いて坂道を身近に寄せ、なんだろうという表情を見せる顔に覆いかぶさり、そのまま唇を合わせた。


「今度こそ半分こだ、ちっとしょっぱいケドな…」


「いえ…充分、あ、甘い…です…//」


照れた顔と甘い余韻に浸りながら、我ながら思うキザな振る舞いも今ばかりは許されるだろう。
想う君と初めて交わしたのはこの季節に相応しく、引き寄せ酔わせて溶け混じったまるで魔法のような口溶け。
さて、最高のホワイトデーのお返しを考えるべく嬉しくも頭を悩ませることにするショ。


【END】



＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝


すっかりとUPするの忘れておりました申し訳ございませんorz ゴメンナサイ!!　pixivに掲載完了して一安心していたら自分のサイトの存在すっかりと抜け落ちてました(；´Д｀)もう５月だよ（世の中絶賛GW中）はい、という戯言は置いておいてバレンタインデー巻坂完結でございます。今回もチョコレートに負けないほど甘く、あまぁ～～くなっておりますが二人を無事にくっつけてあげれたので私的には満足かな？と思っております。前回予告した通りに文中の中でチョコレートの説明を書かせていただきました。坂道くんが食べたのはブランデー入のチョコレートボンボンで紅茶との相性は抜群ですがお酒に弱い方だと頭が痛くなることがあるそうです。ブランデーだからね、仕方ないね.+:。(´ω｀*)゜.+:。　そして坂道くんが巻島さんに上げたのはバラエティーアソート詰め合わせでした。高級一種で攻めるより色んなタイプのチョコを楽しんで欲しいと坂道くんなら思うのではとこちらにしました。


今まで当たり前にあった日常の風景から坂道くんがいなくなってしまったイギリスの生活の中でも、その姿を感じ匂わせる坂道くんからの手紙が定期的に巻島さんの元に届く。本編で坂道くんがスランプに陥ったときに部室に巻島さんがいるような気がして…というシーンの逆バージョンを目指して書きましたが、どうでしょう。坂道くんに限らず、無くなってしまってから気づく価値や感覚って誰しもにありますよね。イギリスの空港公園で自転車と一緒に巻島さんが手紙を読んでいるシーンを見たときはどんなに嬉しかったか、そして考えれば考えるほど尊い、巻坂尊い…（悟）どういって言葉で伝えれば良いのか分からないほど嬉しくて仕方なかったのはよく覚えています。もう少し坂道くんの気持ちを書いても良かったかなとも思いましたが、両片想いの巻島さんの気持ちが書きたかったのでそれは次回ということで…!!


そして巻坂長編連載第二弾やります。pixivには既にUPしてきましたが今回は現実世界で２人で一本のゲームをプレイしてもらいます。結構キャラクター出したいんだよなぁ～と予告しておきますが、あくまでも視点とプレイヤーは巻島さんと坂道くんの２人です。つまり小説の中で物語をやってみようという二重企画、よろしければまたお付き合い下さい。それでは長々と失礼いたしました。(o・・o)/


2015　0504　L仔 ]]>
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		<dc:date>2015-05-04T11:07:57+09:00</dc:date>
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		<title>【Magical　kiss】（バレンタイン巻坂）</title>

		<description>バレンタインデー、それは女の子が男の子…</description>
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			<![CDATA[ バレンタインデー、それは女の子が男の子にチョコレートを渡して想いを伝える日。しかし最近では、女の子同士でチョコを交換する友チョコとか、男性が女性にチョコを渡す逆チョコというものも少なくない。男性でも女性でも、日頃お世話になっている人に感謝の意を込めて贈り物をする、ようするに自分の気持ちを伝える特別な日なのだ。


【Magical　kiss】
（小野田　坂道　編）


「忘れ物は無い、かな…？」


壁に貼られたラブ☆ひめの主人公である姫野小鳥の特大ポスターを見つめながら、ボクは今朝から何度目かになる確認を行っていた。今日の日を数えて早二週間、昨夜はドキドキしてなかなか寝付けなかったのに今朝はとてもスッキリと起きられたんだ。昨日の夜、寝る前に準備したスポーツバックは傍らで今か今かと連れ出されるのを待っているみたいで、早く出かけようと言葉無く催促しているみたいにじっと床に座り込んでいる。そうだね、そろそろ出かけないと間に合わなかったら元も子もなくなってしまう、ベッド横の時計を見ると時間はもうすぐ１１時になろうとしていた。


「よしっ!!」


息と声を一緒に吐き出してショルダーバックの肩紐をしっかりと掴んで肩にかけ、自室のドアノブをひねり開けた。踊りだしそうな思いの足取りでそのまま直ぐに急な階段を軽快に駆け下り、まっすぐ玄関へと向かうと、小音を聞きつけたらしいスリッパ音が台所から駆けてきた。


「あら坂道、もう出かけるの？随分と早いわね」

「うん、すれ違っちゃったら相手に申し訳ないし、ボクが待っているのは全然平気だから」


玄関で靴ひもを結びながら背後にいる母さんに答えると、多分洗い物中だったのかな？ゴシゴシと布の擦れる音が微かに耳に聴こえる。結び終えた靴ひもと靴の具合を確認して振り返ると、そこにはいつもの柔らかい母さんの笑顔があった。


「お宅にお邪魔するんだから失礼の無いようにね」

「大丈夫だよ母さん、渡したいものがあるだけだから多分遅くはならないよ」


「そう、それじゃ気をつけていってらっしゃい。もし遅くなりそうだったり何かあったら必ず連絡よこす事、忘れないでね」


「うん、わかってる。それじゃ、行ってきます！」


事前に今日のことは母さんに話しておいたから今更詳しく行き先を説明する必要もなく、気をつけてねとの優しい声に笑顔で答えながらボクは玄関を出て庭に向かって歩きだした。歩いていくことも考えたけれど今日はとても気持ちの良い晴天、今朝起きた時にやっぱり自転車で行こうと先に準備しておいたんだ。ヘルメットとグローブを装着してBMCに跨り地面を蹴れば、ゆっくりと視界は一定の高さで動き始める。家の敷地から大通りに出て、教えられた地図を頭に描きながら安全運転を心がけたハンドル操作で見慣れた近所の景色から離れ始めると、期待と一緒にいっそうの緊張が湧き上がってきた、いつもより足が軽く思えるのは気のせいなんかじゃない。そう、今日ボクはサプライズで巻島さんに会いにいくんだ。


「っ…～まだ少し寒いなぁ～…」


巻島さんがお兄さんの住むイギリスへと渡英してからも、ボクは何があってもなくても、なんてことはない日常の出来事を手紙に綴り、いろんな報告をしてきた。と、いっても最初は住所が分からずに出せない手紙の束が重なっていくだけだったところに、手嶋さんが巻島さんの住所を教えてくれたんだ。返事は返ってこなくてもボクの自己満足的なところもあったし送り返されてこないと言うことは、おそらく巻島さんの手元には届いている、それだけで充分だった。それがちょうど一月の終わり頃のこと。次は何を書こうかな…と、ぼんやり内容を思い立てながら家に帰宅すると、母さんがボクに手紙が来ていると一通渡されたんだ。達筆な英字で書かれた手紙を見た時は、頭の上に沢山のクエスチョンマークが浮かびもしたけれど宛名は確かにボク宛だし…と、思い当たる節をつなぎ合わせた結果、もしかして…もしかするのかも!!と、結論に達した瞬間、嬉しさと逸る気持ちに両手が震えて止まらなかった。


【　２月１０日から１週間くらい日本に帰る　部活も覗きに行きたいから日程教えてくれ。巻島裕介】


開封して急いで丁寧に目を通すと、３行に纏められた文章を何度も読み直しながら、巻島さん日本に帰ってくるんだ！部活の様子見に来てくれるみたいだし急いで返事書かないと!!嬉しさと焦りに一人部屋で騒がしくしていると、突然と机に置いた携帯電話が大きく着信音を響かせた。慌てて携帯電話を手にしてディスプレイをみれば、そこには番号を教えてもらってから数回しか表示されていない『巻島さん』の文字を見た時といったらどんなに驚いたことか。あまりの出来事に暫く電話を鳴らしっぱなしにしてしまったけれど、出なきゃ当然切れてしまうしそれは嫌だし失礼だ。一度目視しして通話ボタンを確認して押し、恐る恐るもしもしと声をかけると懐かしい声が応答を返してくれた。


『いま忙しかったか？都合悪いなら後でかけ直すショ』


とんでもない!!全然ボクは大丈夫ですっ!スイマセン!　と、見えもしないのに全身でオーバーアクションをとりながら大声で答えると暫くの間、巻島さんからの反応はなかなか返ってこなかった。きっと煩かったんだ…不安に思う中でじっとよく受話器向こうの音に耳を立ててみると含んだような、何かを我慢しているような小さな小さな笑い声がほんの微かに耳に拾われ聞こえた。もう一度声をかけてみても大丈夫かな…。様子を伺っていたボクがひと唾飲み込んで最初の文字を音にして発しようかとした時、巻島さんが一度の咳払いをして電話口に戻ってきてくれた。


『少し落ち着くショ坂道、突然電話したオレも悪かったケドな』


幾分か耐性が生まれ始めたボクは、今度は心を落ち着けながら、嬉しくてどうやって電話に出たらいいかわからなくなってしまったと答えると今度は巻島さん独特のクハッという笑い声がハッキリと聴こえ、それにつられるようにボクも口元を緩ませて笑い声を零した。お手紙ありがとうございます、今から返事を書こうと思ってたんですと追答するボクに、実はその事で電話をしたと巻島さんは理由を話し始めたんだ。


『今日手紙届いたんだよな、つか、だいたい今日あたりかと目星付けたんだがやっぱり手紙じゃ間に合わないショ』


話では、日本とイギリスの間での郵送期間は約５日間。今日が二月の始めだからボクが返事を書いて明日投函したとしても巻島さんがイギリスを出発する時にはもしかしたら間に合わない可能性があるのだそう。突然部室に行っても特別構わないのだけれどどのくらいボク達が成長したか見てみたいという考えがあるのが一つ。二つ目は全く初対面の一年生と会って不審者扱いされる可能性を避けたいというものだった。勿論ボクだってすれ違いは嫌だし、巻島さんには会いたい。急いでカバンの中から予定表を取り出して平日はいつも通り部活、土日は自主連であることを伝えると受話器の先で二三度擦れる音の後、OKだという了解の返事が返ってきた。


『サンキュー坂道。…クハッ、にしてもこれじゃ手紙の意味がなくなっちまうショ』


確かにそうですね。と、ボクは笑って答えたけれど初めて巻島さんから届いた手紙を手にしながら耳元で聴こえる懐かしく大好きな声に胸がいっぱいでたまらなかった。手紙は確かに届いていたんだ、こんなに離れていても繋がっている『何か』に胸が高鳴って仕方がないし、考えれば苦しくもあり楽しみにもなる。そんな自分の気持ちと重ね合わせながら想いを馳せずにはいられなかった。


電話があってから日にちはあっという間に過ぎてゆき、今日は巻島さんが帰国したであろう１０日から４日過ぎた２月１４日、世間はバレンタインデー。部活の様子を見に来ると言っていたけれど、いまだ平日の放課後にそれらしいカッコイイ姿は見かけられていないし、巻島さんにも都合と時間があるんだ。今日は土日で部活も休みだし、日本に帰ってきているのを知っているんだからフライングになってしまうんだけど会いに行ってみよう。偶然にも重なったバレンタインデーを口実に、一年生の時沢山お世話になった気持ちを込めて、安物だけれどチョコレートも用意した。少しだけでも顔が見られればいいな、連絡しないで押しかけるから確率は半分かそれ以下だけどじっとしてはいられない。交差点に差し掛かったタイミングで握ったハンドルの具合を確かめつつ、鼻から一度大きく息を吸い、胸を膨らませた空気をゆっくりと口から吐き出すと高鳴る鼓動が少しだけ落ち着いたように思えた。先程に比べて肌に感じる風も冷たさから心地よさに変わったし、この交差点を過ぎればもう巻島さんの家は目前だ。信号が青に変わり、再び前を向いてペダルを漕ぎ出し、大通りから比較的大きな路地に入ればそこは閑静な住宅街に変わる。その中でも一際大きく立派な豪邸の２階が視界に確認できたので、ボクは自転車を下りて押しながら家の前で歩くことにした。前に一度、一年のIH前にみんなでお邪魔したことはあったけど、近づけば近づくほどやっぱり今見ても門構えから圧倒される大きさだ…。


「……よしっ」


誰にも聞こえない程小さな声で気合を入れ、心の準備は整った。自転車を路肩にしっかりと留めた事を確認してゆっくりと目の前のインターホンに指を当ててしっかりとベルを一度だけ鳴らしてみせた。ここまで来ちゃって誰かいることしか考えてなかったけれど、もしかしたら全員留守の可能性もあったじゃないか。どうしよう…その時は３回鳴らして応答がなければ帰ることにしよう、ここにずっといて巻島さんに迷惑がかかるのは嫌だ。すると数秒後、ボクの心配を打ち砕くかのようなランプの点滅、次にはマイク越しの篭った声が耳に聞こえてきた。


『ハイ、…どちら様？』

「わっ!!へっ…あっ；」


自分でベルを鳴らしたくせに声が返ってきた事に思わずビックリしてへんな言葉を発してしまった。応答に出てくれたその声は若い男性っぽく、マイクを通して聴く限り巻島さんの声に似ているように思える。でも巻島さんならどちら様とは聞かない…と…思うんだけど…でもここで弱気になってどうするんだ小野田坂道!!せっかく此処まで来て、応答に出てくれたんだからしっかり伝えないと意味がないじゃないか。


「あっ、あの、そのボクっ、総北高校自転車競技部で巻島さんにお世話になってます小野田坂道と申しますっ!!ほ、本日は天気も良く…って、違う…あっ、あの巻島さんはいらっしゃいますでございましょうかっ…!!」


『ソウホク…オノダ？…あぁ、キミは高校の後輩なのか』


「ヒャッ…はっ、そう、ですっ!!」

それはもう必死に、どうにか要件を切り出してみせたけど噛み噛みでバラバラで果たして伝わるかは怪しいものだった。緊張で張り裂けそうな胸は痛いくらい大きく跳ねていて、今にも心臓が飛び出すような鼓動を打ち鳴らしっぱなし。すると突然ガチャリとマイクが切れる音がしたかと思うと、目の前の外門がいつか見たように自動でゆっくりと開かれていき、もう一度マイクのスイッチが一方的に入って『中にどうぞ』の一言を残して切れてしまった。慌てて路肩に留めておいた自転車を手に広々とした門を潜り、これまた大きな庭の真ん中を通す道に従い歩くと行き着く先は正面玄関の扉。ハンドルを握る手の震えを抑えるように強く力を入れて、ようやく目の前までやってくると同タイミングで両扉の片側だけがそっと音を立てて開き、中から背の高い人影が姿を見せた…その時のボクの驚きようと言ったら無かったと思う。


ガチャリッ…ギィー…。


「あっ、あれっ、まきしま、さ…ん；？」


扉の先から現れた顔を見た瞬間、ボクの頭上をクエスチョンマークが四方八方に飛び出し、そのままじっと目の前の人物から目が離せなくなってしまった。色白の顔立ちに細い目元、顔のパーツ一つ一つが一見すると巻島さんその人、けれど髪は随分短いし緑じゃない。そしてただ立っているだけなのに雰囲気が巻島さんより大人っぽく思えるという不思議な違和感に襲われたんだ。


「あっ、えっと…巻島さん、では無いのでしょう…か；？」


「キミ面白いこと言うね、オレも一応巻島なんだケド」


「あわわわス、スミマセンっ!!」


クスリと笑みを見せながら答える姿に大慌ててボクは頭を下げて謝ると、今度は笑い声が頭の上から響いて聞こえ、顔を上げるように言葉が続いた。恐る恐る下から姿を拝見しつつ見上げていくと、長い手足に日本人離れした柄物の服がとてもよく似合うモデルのような体型であることも判った。そして再び視線は目の前の顔に戻り、緩く口元で笑みを浮かべながらボクを見るもう一人の正体も、なんとなく分かり始めてきていた。


「裕介なら直に帰って来るから中で待ってれば？」


「あっ、ありがとうございますっ…!!あの、もしかして巻島さんは、巻島さんの…」


「…坂道!?なにしてるショ、こんなトコで！」


隅々まで姿を確認しながら一つたどり着いた考えを口にしようとした時、今度は背中から唐突にボクの名前を呼ぶ声が耳に響き聞こえたので声のする方向に勢いよく振り返ると、そこにはボクの記憶の中にある玉虫色の長い髪に、カッコ良くニットを着こなす巻島さんが早足でこちらに向かって歩いてくる姿があるではないか。あっという間に玄関までやってきた巻島さんは少しだけ切らせた息を調えながらボクの顔を確認した後、もう一人の巻島さんに視線を移した。


「兄貴も何やってるショ…滅多にベルなんか出ないクセに今日に限って…；」


「たまたま１階に居たダケだけど。そしたらベルが鳴ったんでカメラ覗いたら緊張した男の子が立ってるんだぞ、裕介だって普通に何事かと思うだろ。この子だろ、マメに手紙を送っているオノダ君は」


「なっ、なんで兄貴がそんな事知ってるショ!!；」


「名前は本人が教えてくれた、後は内緒」


慌てた声を上げる巻島さんに対し、思った通りやはりお兄さんだったもう一人の巻島さんは、全然余裕といった表情で言うと、徐に右の手の平を巻島さんに差し出した。


「それより取ってきてくれたのか？」

「あぁ、あったショ。レストランに忘れもので届いてたって」


そう答えた巻島さんは差し出された右手に細身の、パッと見でも充分にインパクトのある紫色のサングラスを渡すと
お兄さんは頷いて扉を先程より大きく開きながら一足早く家の中へと足を進めていった。自然と視線で追いかけていくと随分前に一度お邪魔したときの記憶が朧げながら蘇ってきたけれど、それでもこんなに広かっただろうかと呆気にとられてしまうレベルだった。


「それじゃ忘れ物と本人が帰ってきたからオレは失礼するぞ、後はご自由に…またなオノダ君」

「はっ、ハイ、色々ありがとうございました//」


先に消え行く巻島さんのお兄さんの背中にお礼を言うと、何故か隣で大きなため息が溢れるのが聞こえてきた。見上げると、その表情にすっかり疲れを浮かべた巻島さんが腰に手を当て、ボクと同じようにもう姿を消したお兄さんの後を視線で追っているらしかった。あの人が巻島さんのお兄さんだったのか…さっきチラッと見えた紫色のサングラス凄かった…でも巻島さんと同じように優しそうな感じの人だったなぁ…//服装も体型もモデルさんみたいだったし、数年先の巻島さんを見ているようだといえば伝わりやすいかもしれない。


「珍しい…」

「あ、あの…巻島さん？」

「ん？…あぁ悪い、あんまり意外なことが起きたからなんかドっと疲れがな…；」


ボソリと本音を漏らした巻島さんを見上げると、白い顔色に疲れを浮かべた顔でぼーっと玄関より先を見つめていた。
そういえばボクが来てお兄さんと話している時、巻島さんはどこかに出かけていたようだし、日本に帰ってきたからといって休暇というわけではないのかもしれない。自分の会いたいという思い一方で、相手の都合を考えていなかった事に申し訳なさを思いつつも声をかけると、さっきより少しだけ解れた表情になった巻島さんは耳に久しぶりに聞く独特の笑い声を返してくれた。


「クッハ!!…ところでどうしたんだ、休日にわざわざオレん家を訪ねて来たんだか何か理由があるんだろ？」


「あっ、あのハイそうなんです!!実は今日…」


巻島さんの質問に当初の目的を思い出したボクは、ショルダーバッグから例の、用意してきたチョコレートの箱を取り出そうとガサゴソとやり始めた。今日の準備で一番最初に用意したチョコレートは落とさないようにと一番底に大切に仕舞い込んでいたので取り出しに時間がかかってしまい、漸く黒に赤いリボンをかけたの箱の一辺に手が触れたのを確認して顔を上げると、そこには巻島さんの姿は無かった。あれっ…さっきまで目の前に居たのに…と、視線で辺りを追いかけていくと既に玄関に腰を下ろしてブーツを脱いでいる姿を発見した。


「いつまでソコに居るっショ、さっさと入って来いよ」


「ええっ、あの良いんですか？お宅にお邪魔しちゃっても；？」


「悪いとは言わないが遠慮し過ぎショ、玄関先で追い返すなんざしないさ。それにお前なら部屋に上げても無闇にあちこち触ったり汚したりしないだろ」


片方を脱ぎ終わり、もう片方のブーツを半分脱ぎ終えた巻島さんが、表情を柔らかくさせながら話す言葉に招かれるように一度触れた箱から手を放し、恐る恐る敷居を跨いた。先を歩く背中に続いて自分の家の二倍はありそうな廊下を歩き、余裕で二人は並んで通れそうな階段を登り上がると、吹き抜けの白を基調とした広い２階が姿を現した。


「オレの部屋は分かるな？」


「はい、前にお邪魔した部屋のことですよね？」


「そうだ、先に行っててくれるか、なんか適当に飲み物頼んでくるショ」


「わわわっ、そんなお構いなー…くぅー……」


呼び止める声より先に巻島さんは再び階段へと姿を消し、ポツリと二階の入口に一人取り残されたボクは玄関での呆気は優しいものだったんだと思った。以前はみんなで来たからそうは感じなかったけれど、この広さに内装は日本に一人でいるとその広さに押しつぶされそうな感じで心細く落ち着かない。この場で巻島さんを待っていようかとも考えたけれど先に部屋へと言われているし…と、悩むここと少し、覚えのあるドアに向かって足を進めることにした。廊下を歩き、英筆記体のルームプレートの下がる部屋のドアノブを押し開くと、以前の記憶にある部屋が姿を現したんだ。シンプルで必要最小限で纏められた室内は白と青を基調としたクールなデザインでいかにも巻島さんらしい。ロードを掛けるスタンドやタイヤのあったであろう跡、でも残念ながら自転車は無い。イギリスに持っていったと巻島さんは言っていたけれどそれでもあの白いフレームが見えないと心なしか少しだけ寂しく見えるな…。


「何してるショ」

「ひゃっ!!」


すると突然に現れた背後からの声にビックリしてボクはたまらず奇声を上げてしまった。ゆっくりと首だけを動かして後ろを見ると、こちらもビックリしたような表情を固まらせた巻島さんがすぐ後ろに立っているのが見えたんだ。


「はっ、早かったんですね、巻島さん…//；」


「キッチンにお手伝いさんがいたから任せてきたショ。それよりどうしたんだ、なんか部屋にいたのか？」


「いえっ、その…なんだか先に入るのが申し訳なくって…」


「部屋の主がいいって言ってんだ、遠慮するコトないだろ。ほら、さっさと入れ入れ」


急かされるままに踏み止まっていた足を動かして漸くの一歩を踏み込み、ボクは随分時間がかかって漸く部屋へと入ることになった。言うまでも無くもう充分に緊張はしているボクだけれど、部屋にお邪魔するとそれは今までの比では無いものになっていた。くわえてガチャリとドアの閉まる音が追い打ちをかけて背中が緊張で張りっぱなしだ。ダメだ、めちゃくちゃ緊張してきちゃったよ…頭の中での最初の予定では、巻島さんに手渡しでチョコを渡して帰って来るだけだったのに、どうして部屋にまでお邪魔することになってしまったんだろう。勿論すごく嬉しいよ!!けど心臓がいつまで持ってくれるか分からないでもいるのは事実だ。


「坂道」

「ひゃいっ!!」

「…っ、どうしたよそんなにガッチガチに緊張して…クッハ、別にとって食われるワケじゃないしに。」


またびっくりしてしまった。今度は体ごと振り返ると、椅子を片手に引き寄せながら苦笑いでボクを見る巻島さんが見えた。クッションが無くて悪いという巻島さんに首を大きく横に振って、床に腰を下ろすと、もっと楽にしていいと付け加えられたので足を崩すことにした。中身きっと大丈夫だよね…。持ってきたチョコレートの状態を心配しつつ、しっかりと傍らにバッグを引き置きながら向かいの巻島さんへ視線をあげると緩い姿勢でボクを見ていたけど、その口がゆっくりと動き始めた。


「ぁー…びっくりしたっショ？」


「えっ、ハイ……色々びっくりしましたけど、どれでしょう//；？」


「兄貴に」


「えぇ…あぁー…お兄さん、…はい、とっても！」


実際に巻島さんの家に来てからは矢継ぎ早に起こった出来事にボクは順番をつける事が出来ないでいた。それを察知してくれたらしい巻島さんは椅子を逆に跨いだ格好で表情を崩しながら、どうしてお兄さんがいるかの経緯を話して聞かせてくれた。


「お前から手紙貰った時点で帰る日程は決まってたショ、当初オレだけ帰る予定だったんだが急に兄貴も日本に用事があるって事で同行することになってな。別に悪いことじゃないし、家族だし拒否る理由も無かったし…が、昨日になってからか…ホテルに忘れ物したって言い出してソレを取りにオレは今日出かけてたんだ。」


「あ、さっき渡していたサングラス…ですか？」


「そうソレ、帰ってきてからもコッチ（日本）の仕事関係者と打ち合わせに食事会とかに出ててたのにオレも付き合ってたショ。空いた時間作って高校に顔出しにも行きたかったんだが全くスキが無いくらい予定詰められちまってな、気がついたら日曜だったってワケさ。でもまさか、出かけてる間に坂道が家に来てるとは全然想像してなかったショ」


話し終えた巻島さんは、キィーっと一度椅子を鳴らしながら態勢を更に深くして背を丸めてみせ、浅く溜息をついてみせた。思い出しても疲れるスケジュールだったらしく、緩ませた頬を掻きながら話す顔を見つめながらも、良かった…すれ違っちゃってたワケじゃ無かったんだ、とボクは安堵していた。


「そうだったんですか…でも、こうして無事にお会いできましたし、お兄さんにも会えたのでなんだか少し得した気分です！」


「あぁ、兄貴が仕事以外で進んで人と話すのなんてレア中のレアっショ。なんでか知らないが坂道がオレに手紙送ってる事も知ってたし、ヘンにカンが鋭いとこあるんだよなぁ…」



緊張であんまり覚えていないけれど、そういえば巻島さんのお兄さんは意外にもあっさり玄関を開けてくれたように思う。会話も普通だったし、巻島さんが話すほど人見知りにもボクには見えないんだけどなぁ…。先程の事をぼんやり思い出しながら、巻島さんそっくりのお兄さんの顔を思い浮かべていると、また目の前の椅子が音を立てて動きをみせた。


「それでさっきの続きだが、坂道がわざわざ家までくるなんてどうしたショ？」


「あっ、はい！巻島さんに会いたかったのもあったんですが、今日は渡したいものがありまして…」


チャンス再び到来、巻島さんから話を振ってもらえたんだ、渡すタイミングは正に今しかない。傍らで出番を待ち望んでいたカバンを膝に乗せ、中のチョコレートの箱に右の手の平が触れたのを確認し、スッと取り出そうとした。しかし、またしてもあと一歩のところでソレは阻止されてしまった。


コンコンコンッ…


「はい」


部屋の扉を叩くノック音を聞いた巻島さんは席を立ち上がり、ゆっくりとドアへと向かい扉を開くと、手に何かを持って戻ってきた。再びドアの閉まる音の中で、がっくりとしながらカバンから手を引き、何故か正座に戻ってしまったボクの目の前に置かれたのはとっても綺麗なティーカップとティーポット、それに同じ模様の施された小皿。上には綺麗な色のセロファンに包まれた一口大のお菓子が無造作に乗っているのがみえた。ポットを手にとった巻島さんは手馴れた手つきでゆっくりとカップへ中身を注ぐと、透き通った茶色…どちらかといえばオレンジに近い水色の液体が流れ落ちる、と同時に辺りにふわっととても清々しい草原のような香りが湧き出してくるようだった。


「イイ香りですね～…なんだかほんわかする気持ちです//」


「向こう（イギリス）で気に入って飲んでる紅茶ショ、土産に買ってきたのを淹れてくれたのはイイんだが…カップが一つしか無いな。」


巻島さんの言うとおり、トレンチの上にはどうみてもティーセットは一つしかないことはボクの目にも確認できた。相変わらず良い香りと一緒にうっすらと立ち上る白い湯気が揺らめく中で、巻島さんはポットをトレンチの上に置くと自分も椅子から立ち上がってドアの方へと歩き始めた。


「ちょっとキッチン行ってくるショ、先に飲んでて構わないからな」


「そんなっ、ボクが行きますよ巻島さん！」


「クッハハ…お前は今日、客なんだぞ坂道。だいたいオレん家のキッチンに何があるかなんて分かんないショ。それに紅茶には飲むベストな温度があるんだぞ、いい香りって分かったんだから味も美味いの飲んでけよ。ちょうど良く茶菓子もあるし食ってていいから…なに、すぐ戻るショ…//」


笑みを見せながら部屋の外へと出て行く巻島さんの背中を見送って、ボクはまた部屋に一人となってしまった。ボクと同じように一つだけ用意されたティーカップは装飾もとても綺麗だけど、どこか寂しそうで湯気が誘うように立ち上っている。巻島さんの言葉に間違いはないし、せっかくだし先にいただこう。そっとティーカップを手に取り、いかにも高そうだと眺めながら恐る恐る一口をつけると先程よりいっそう、若草の香りと柔らかい口当たりで飲みやすい。普段紅茶なんて飲まないボクでも、これは純粋に美味しいと分かるものだった。


「紅茶ってこんな味がするんだ…//」


巻島さんて普段からこんな美味しいもの飲んでるんだ…今はイギリスに住んでいて、ファッションの勉強をする大学生で、オシャレでカッコイイ。簡単に挙げるだけでも想像を超えるカッコ良さではないだろうか、その全てにドキドキを感じずにはいられない。私生活とかあんまり想像できなかったけれど、今こうしてお家にお邪魔してお茶を頂いているとなんだか不思議な気分でもあるし、同じことをしているという嬉しさもある。一人気分の良くなったボクはティーポット横に置き飾られた茶菓子の中から、グリーンの包み紙を一つ手に取って中身を開いてみた。英語で商品名の書かれた包み紙はキャンディー型に捻られていて、両サイドを引っ張り丁重に包み紙を開いていくと中からあらわれたのは、まん丸球体のチョコレートだった。


「…そういえば、まだボク、チョコ渡せてないんだよね…」


プレゼントは心が込めてあれば大丈夫とは思っていても、こうして偶然にも立派なチョコレートを見てしまうと自信はどうしたってなくなっていってしまう。カバンの中に押し込められてずっと出番を待っているチョコレートがなんだか可哀想になってきた。巻島さん、受け取ってくれるかな…。複雑な思いの中で、摘んだ指先の熱でチョコが緩み始めてきたらしくベタつく感覚を消すため、一口でそのチョコレートを頬張った。そのチョコもとても美味しくて、じんわりと口内で溶け出す味は甘過ぎず、滑らかにゆっくりと形を崩していく。まるで時間の流れさえもゆっくりに感じそう…でも、この味なんだろう…すごく心地いい気分だ…//さっき飲んで美味しかった紅茶と一緒なら、もっと気持ちよくなれそうな気がする…と、本能の赴くままにボクはティーカップにに残っていた紅茶を全て飲み干したんだ。


…………………………………



ガチャリッ…。


「悪い坂道、その紅茶と菓子はどうやら兄貴の……坂道っ；!?」


頭の奥で巻島さんの声が反響して聴こえてくる、あれ…おかしいな、目が開かないし体も重い気がする。床を駆けてくる足音と振動が身体全体に響いて来たかと思えば、ゆっくりと背中が抱き起こされたのが分かった。


「騒がしいな、どうした裕介」


「あぁ、遅かったショ…チョコレート食っちまった後だったぜ；」


「紅茶は？」


「注いだ分が無いから一杯は飲んじまってるなァ…；」


「ぁー…とにかく水飲ませて横にしといてやれ」


巻島さんとお兄さんの会話が聞こえる。けれど、まだ瞼は重くて開きそうにない。確かにボクはチョコレート食べたけど…それから急に気持ちよくなっちゃって、それで…。ぼんやりする頭で記憶を辿っていっても、どうも覚えがあるはさっきチョコレートを食べたところまででそこからがとても曖昧になっている。すると、今度は力の入らない身体に突然浮遊感が生まれ、と、同時に顳かみが少しだけ痛みを走らせた。


「ベッド連れてくから兄貴は水持ってきてくれないか？」


「オレがか？」


「さっきサングラス取ってきたショッ、いいから早く頼むっ!!」


大きな声に反応して、重かった瞼を少しだけ開く事ができたボクが見たものは、焦っている巻島さんの横顔だった。そっか、今ボクは巻島さんにだき抱き抱えられていて、何かやってしまったのかもしれない。でも、何が原因なのかどうにも思い出せずに分からないままだ。


「ごめん…なさい、まき、しまさん…」


「お前が悪いわけじゃ無いショ…今は大人しくしてるショ、坂道」


本当に一体、ボクはどうしちゃったんだ…なんだか無性に涙が出てきそうになる。どこからか湧き出てくる不安定な心持ちを胸に抱えたまま、今はどうする事も出来ずに巻島さんに身を預ける他に無かった。その中でも唯一、頭上から降る巻島さんの声が優しく聴こえたのが救いで、『大丈夫』と呟いてくれる声がずっと耳の中で繰り返しボクを励まし続けていたのだった。


【…巻島編に続く…】


＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝


遅刻しましたがバレンタイン巻坂です。ハロウィンも書き上がっていないのにイベントすっ飛ばしてしまいました(^_^;)そろそろ長いのが書きたいな～と日々考えていると気が付けば２月１４日。このラブラブイベントを（死語）見逃すわけにゃいかんだろうと別CP含めて三本同時に書いてたんですが、一本を長く満足に書いてみたいと思い直して今回は巻坂オンリーのみに。別CP（金荒・田新）はタイトルは決まっているので気長にお待ちいただければと。

さて本編の内容ですが、今年も巻島さんにはバレンタイン近辺で日本に帰国してもらいました。前回（2014/02/14）のお相手は東堂さんでしたので今年は坂道君へ電話をかけてもらい、サプライズで坂道くんに突撃訪問してもらおう。そして巻島兄のレンさんにもご登場頂いてしまおうという盛りだくさん<del>（詰めすぎの間違い）</del>ぷりです。巻島兄と坂道君の会話書いてて楽しかったですね～すごく。本編でもっとお兄さん出てくればいいのに、そうすればもっと話が盛り込めるのに。…話が脱線しましたが、このお話では巻→坂仕様になっております。坂道君が巻島さん大好きという話も好きですが、巻島さんあまり表に感情を出さない方なので心模様書くのがとても楽しい。静かにも確実に進む坂道君への想いがL仔的なツボです。

食べてしまったチョコレートの正体は皆様なんとなく予想がついていると思いますが次回に巻島さんから説明をしてもらおうと思っています。相性は保証します、実際に試して美味しかった。
次回巻島編はできれば二月中にUPしたいと思いますが最悪ホワイトデーまでもつれ込む可能性もありますが頑張りますので!!(p`･ω･´q)

2015　02　0224　L仔

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		<dc:subject>-</dc:subject>
		
		<dc:date>2015-02-24T23:13:44+09:00</dc:date>
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		<title>【東の空が明けるまで】（金荒）</title>

		<description>ピシッ、ピシッ。室内の何処からとも無く…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ ピシッ、ピシッ。室内の何処からとも無く聞こえた音に、なんだろうかと顔を上げてみると、首元が同じような音を鳴らしてみせた。急に走った鈍い痛みに手を置いて、具合を確かめてみると自分で思っている以上に疲労が蓄積した肩は凝り固まっていて、そろそろ休憩し時かと、オレは掛けていた眼鏡を外し、テーブルの上へ畳み置いた。人間不思議なもので、集中していたときにはさして気づきもしないのに、それが切れてしまうとあちこちに症状を感じ始める。今度は目だ、長いこと発光するPC画面を見すぎた為か、両目を閉じると深くジーンとした感覚が襲ってくるではないか。


集中するとどうにも感覚が鈍るな…。
と言うか、今は一体何時くらいなんだ。


疲れ目を閉じながら両腕を上へと伸ばしてやると、腕の関節が鈍く音を鳴らし、収縮していた筋肉や血管が広がり、熱と流れを運んでいくのが感じられる。幾分かはスッキリしただろう…と、静かに息を吐きながらゆっくり目を開けると、ぼやけ霞む室内が見えた。カーテンは閉まっているが、光が漏れていないし、いまだに外は暗いままなのだろう。レポートを始めたのが午後９時頃だったと記憶しているから…と、記憶を遡りながら真向かいの壁に掛けてある時計を読もうとしたが、長時間のパソコン作業に疲労した目ではよく見えず、ならばと視点を下に外して今し方まで向き合っていたノートパソコン端を見ると、デジタル時計は日付を変えた真夜中の午前３時を少し過ぎていた。


「６時間か……っ…ーー…」


もう一度、今度は上半身を伸ばすイメージで腕を引き上げる。すると、軽い間接音が手首から聞こえたのと同じくして、また室内がピシッピシッと音を鳴らしてみせたで、どうやらそれが古い家特有の家鳴りであることがようやく理解できた。外はきっと寒いだろう、眠くならない程度につけた暖房のおかげでそうは思えないが、少し換気しておくか。ちょうど集中力も途切れたところだし、休憩し時だというサインに従い、指でパソコン画面を引っ掛けて閉じてみると、目の前に飛び込んできたのは、こちらに伸ばされた一本の、だらりと力なく上向いている腕だった。なんだ、と更に視線を持ち上げてみれば、そこには静かに寝息をたてている荒北の横顔が、あさっての方向を向いているのが見えた。随分静かだとは思っていたが、いつの間に寝落ちたんだろうか…オレはてっきり別の部屋にいるんだと思っていたが、ここ数時間はPC画面と睨み合っていた為に、記憶の境目も無い。



「あらき…」


こんな所で寝て風邪でも引いたらしんどいだろう。起こすかと、そっと右腕を伸ばしつつ呼びかけようとした言葉が、後一歩のところで留まってみせた。理由はいたって単純、寝顔がとても清々しく、声を掛けるのを悪いと思ってしまったからだ。その周りに視線を広げると、レポート用紙の海と、参考ノート数冊を積み広げられたテーブルは、もはやどこまでが境目なのか分からない程散らかっている有様で、初段階では苦戦を強いられたことが伺える。しかし、仕上げられたノートと冊子になったレポートが端に重ね置かれていることから、一足早くゴールを迎えて眠ってしまった、これが全貌というところだろうか。


「随分と、戦い散らしたらしいな」


格闘する荒北を思い浮かべると、ふっ、と自分の頬が緩んでいくのが分かる。すっかりと冷めてしまった残り少ないコーヒーを一口飲みつつ、静かに眠る荒北の顔を眺めていると、疲れを感じている体とは反対に心は穏やかで安堵しているのは、きっと目の前で寝ている奴のおかげだろう。それは、つい数日前の話、放課後は洋南大学自転車競技部の部室での雑談が始まりだった。着替えを済ませ、オレと荒北、そして待宮の三人でストレッチしながらの話題は、近々迫る大会の話から急遽提出を言い渡された課題へと移り変わっていった。



『金城も荒北もご愁傷さまじゃなぁ～ご苦労さん、ご苦労さん』


『んだよ、教授もちっとは譲歩しろっ！…ていうのもムリな話だけどさァ～…
こんなにキレイに被っちまうのも珍しいよな、ったくヤッテらんね』


会話の通り、待宮はレポート提出が無いらしく、気が楽だと表情は明るめ。
対して、荒北は大会と予定のバッティングしたレポートに愚痴を零していた。


『そう言うな荒北、金城を見てみ～この堂々とした態度。
オマエと条件は同じじゃっちゅうに涼しい顔しとるじゃろ、さすが持ってる男は違うのぉ～エッエッエッ』


『ウッセ!!』


評価してくれる待宮には申し訳ないが、そんな事は決してない。普段ならば、なるべく計画的にことを進めるように心がけているので余裕も幾分かはあるのだが、今回はオレだって結構ギリギリだし、まだ半分も出来上がってはいないぞ、と答えると、何かを閃いたらしい荒北の顔がニヤリと不敵な笑みを浮かべてみせたのだ。


『んなら丁度いいんじゃん、オレもレポート提出ギリだしさぁー。
ここはバシっと大会勝って、気持ち良く苦痛に取り組もうじゃねぇーの、金城チャン!!』


『お、巻き込み作戦か』


『人聞き悪ィこと言ってんじゃねぇよ、共同戦線だっつーの！』


こうして、ペアを組む荒北の気合の入った宣言通りに、大会は好成績のうちに幕を閉じ、後には、これにも言葉通りに乗り越えなければならない提出課題の攻略に取り組むこととなったのだ。互いの家で課題をすることは特別珍しいことでもなかったが、泊り込みも３日目となると少し不思議な感じがする。場所は金城ん家ね、その方がサボらないから、オレ。との荒北の発言を尊重し、オレの家にて合宿に突入したのが週の半ばの話。日も変わったので今日が合宿最終日の三日目だ。


「～……っ、やはり少しは眠いな…」


微かな寝息と達成感の浮かぶ荒北の穏やかな寝顔に、どうやら眠気がつられ始めたらしい。しかしよく眠っている、寝顔はまるで遊び疲れた子供のようだ…こんな顔も、お前は持っているんだな。洋南に入学してからもうすぐ一年が経とうとしている、まさか入学した洋南大学で荒北と再会した時は驚きもしたが、なにより真っ先に、何か面白いことが起きそうだと根拠もなくオレは直感的に思ったのをよく覚えている。当然のように自転車競技部に入部したオレ達だったが、ペアを組むことになった時、正直、荒北は嫌がると思っていた。箱根学園時代、自分の慕った絶対的エースである福富を引き、幾度となくゴールへと運んだゼッケン二番の運び屋、荒北靖友。彼は間違いなく箱根にとってはなくてはならない存在だったし、メンバー同士の信頼関係も厚い。それが他校の、ゴールを争ったライバル校のエースが誘ったところで突っ跳ねられるだろうと思っていたが、帰ってきた答えは意外にも面白いものだった。


『イイぜぇ、その話乗ってやんよ金城ー。やるからには何処にも負けるつもりないかんね、オレ。
その覚悟があって誘ったんだろ？テメェ、オレの前でクソつまんねー走りしたら承知しねぇぞ、イイなっ!!』


その昔、荒北には拗れていた時代があったと福富から聞いていたが、その時の名残か、はたまた地なのか。傍から聞けば絡まれていると思われても仕方の無い、なんとも威圧と威嚇めいた了承の返事だった。心配するなとオレが頷くと、まるで悪戯好きの子供が成功に見せる無邪気な笑顔に、あぁ、きっと、これだ。入学当初に自分が感じたものは間違いでは無かったんだと理解した。しかし、仮にもし、ここで荒北にペアを断られたとしても、毛頭オレは諦めるつもりが無かったんだとは未だ本人には言って無い。何があっても可能性がある限り諦めない性格だと自負している分、レース以外でも、己が性格は結構ワガママな方に入るんだろうなと、荒北を想うようになってから、それはよりいっそう感じるようになっていた。


「ん…もうこんな時間か…」


暫く回想に浸っていたらしく、ふいと時計に視線を向けると、先程三時だった時間は既に四時に近い。
さて、いい加減に動き出すか…。根の張った椅子から腰を上げ、そっと腕を伸ばして目の前の肩を揺すり起こした。


「荒北起きろ、そんなところで寝ては風邪を引いてしまうぞ。」


強めに揺すってやると、閉じていた瞼がぐっとキツく瞑り直されたので、感覚的には起きたらしい。
しかし眠気の方がまだまだ優っていて、今度は顔を机に突っ伏して肩で大きな呼吸を一つみせた。
起こすのは可哀想だが体調を崩す方が良くは無い、なにより寝るならきちんと横になるべきなのだ。


「…何時…？」


「明け方の四時になる、眠るならベッドを使ってくれ、そのほうが身体も休まる」


「…ダメ、それ悪ィ……お前の寝床とれねぇー……ん…」


オレの言葉は耳に届いているらしく、なんとか起きようと努力をみせる荒北は腕で頭を抱え込みながら身を縮めたり、大きく背中を膨らませる呼吸をして現実に帰ってこようとしている。仕草が随分と可愛いじゃないか、しかし、こちらも手を緩めてやるわけにはいかない。意識が遠退く前に、次の行動に移ってもらわねば、オレも安心してラストスパートをかけられそうにないのだから。


「オレが風呂に入ってくる間だけでも、お前はベッドを使ってくれないか？そこで眠っていられると集中出来そうにないんだ、頼む」


「……わーった…風呂行って…ベッド借りっから…」


力なく挙げられた右手が、フラフラと左右に振られる様に、とりあえず意思は伝えられただろうと見て、オレはテーブル上に置かれた二人分のマグカップを片手に部屋を退出することにした。あまり強引に手をかけるのは、かえって荒北の機嫌を悪くするだろうし、あとは本人に任せることにしよう。小さなシンクになるべく音を立てずマグカップを起き、向かい側の壁についている浴室のスイッチを押した。風呂を溜めることも考えたが、明け方で近所の事を考えると気が引ける。そして必要以上にリラックスしてしまうとうっかり深寝をするだろうし、今はシャワーで我慢しておくとしようと浴室の扉を開いてから暫く…多分１５分前後ぐらいだと思う。よく温まった身体で再び部屋へと戻ってくると、そこにはテーブルからソファーに移動しただけで、相変わら荒北はぐずり眠りこけていた。


「お前な…；」


ため息と一緒に零れた言葉に気がついたのか、首が急にコチラを振り向いたが荒北は起き上がる気配も見せない。確かに一度、その場で眠ってしまうと移動するのが面倒になるのは良くわかる。一応、努力はしたようだが、ソファーまで移動するならもう少し頑張ってベッドまで移動しても良かったんじゃないのか。


「荒北、起きろ、起きなければ強硬手段に出るぞ」

「ここでヘーキ…あと少ししたら起きるし…」


言葉の最後に、ほっとけと付け加えられそうなので、あえてそれには気がつかないフリをしようと思う。
相手も都合よく背中を向けてくれたので、この期を逃す手はない。オレは首から掛けていたタオルを椅子に投げると、
屈んでそっと、ソファーと体の間に腕を滑り込ませ、一気に荒北の体を抱き上げてみせた。


「おまっ…バカ下ろせっ…!!」

「ダメだ、一度言って聞かなかったお前が悪い。」


腕の中で暴れる荒北に、適当に相槌を打ちながらひたすら下ろせの連呼も聞き流し、さっさと足を進めて数秒…。
レーポート合宿を始めてから、まともに使っていなかったベッドが、やっとその役割を果たせると待ち構える上にそっと荒北の体を下ろしてやった。
寝起きとは違う、非常に不機嫌な顔で荒北に睨まれたがオレは悪くないだろう。


「何してくれちゃってんだよ、金城ちゃんヨぉ…」


「何って、愚図るお前を抱き抱えてベッドに運んだだけだが？」


「そー…じゃねぇー…っ…は、もうイイわ」


そう吐き捨てると、荒北は半分だけ起こしていた体をベッドに沈め、ギシリと安っぽいスプリング音を跳ねさせた。まったく、可愛げが無いところも可愛い。とにもかくにもこれで安心して残りの課題を仕上げられる、このペースで行けば二時間程度で終わるだろう。その頃には荒北も起きているだろうし、ベッドも空く。休むにはそれで充分だ。何か掛けて寝ろよ、と、ふて寝している背中に言い残し、気持ちを引き締めつつ部屋を出ていこうとしたその時、何か腕に引っかかる感覚に引き止められたんだ。


「オメェーも少し休めよ金城、顔、疲れてんぜ。」


顔だけで振り返ると、風呂上がりに羽織ったパーカーの袖を引っ張りながらこちらをじっと見ている荒北と目があった。
しかし可笑しな事に、先程までの眠そうな顔では無い…そこで、オレは全てを知り、思わず吹き出してしまった。


「フッ…子供か…//」


「バァーカ、こうでもしなきゃお前は休まないじゃん」


「強硬手段に出たのはお前が先、だったというわけか…気を使わせたな、すまない」


「うっせ、ここは謝るとこじゃねぇーよ…。」


「あぁ…言葉が違うな、ありがとう、荒北」


緩む頬を手で擦りながらベッドへと半分腰を下ろすと、すぐさまに膝へと頭を乗せられ、もう身動きが取れなくなった。
強引さにかけては荒北も引けを取らない、いやそれ以上かもしれないな。どこまでも可愛いことをしてくれるお前から、オレはすっかり目が離せないんだ。


「このレポ終わったら、どっか行こうぜ…息抜きに」


「あぁ、そうだな…来週は晴れるらしいから遠出もいいかもな」


「あとさぁー…なんか美味いモン食いてぇんだけど」


「そうだな、それも良いな」



相槌を繰り返しているうちに、目を閉じていたせいか自分もウトウトしかけると、膝の上で動く荒北の頭の感覚にうっすらと起こされる。顔はそっぽを向いているが、落ち着きのある呼吸に揺れる肩、相手も満足のいく結果に納得しているようだった。そっと触れた髪からは、荒北の匂いがふわりと香り、より一層の安らぎを与えられて安堵しているというのに、これで付き合ってはいないのだから、それも一つの形ではあるのだろうが実に奇妙な光景だ。


「きんじょー…」

「なんだ、荒北」

「…やっぱ、なんでも無ぇ」

「そうか」


眠気に緩んでしまったのだろうか、お前が言いかけた言葉は、きっとオレが思っていることと同じだと思う。でも、今はまだ少し待って欲しい…お前もそう思ったから止めたんだろ、荒北。白か、黒かはいずれ見える、ならば今はこの曖昧な関係を楽しんでもいいんじゃないか、それもお前を知る時間の楽しみの一つなのだから。


「荒北、ヨダレ垂らすなよ」

「んぁ、しねぇ…よ、ボケナス…」


やがて明くる東の空、それまで互いに暫しの休息を。


【END】


＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝

金荒二話目でした。L仔でございますヽ(´▽｀)/
今回は金城さん視点でお送りしましたが、なんだろう…この方本当に金城さんなんだろうか。口調が怪しすぎる。
どうにもまだつかみきれていない感じになってしまいましたし、関係もはっきりしない曖昧な具合ですが
この灰色な関係がけっこう好きだったりします。歯切れの悪さは全て私の文才が至らない…申し訳ない。
なんでしょうね…洋南メンバーは男臭くて、それでいて悪友で親友で。こんな大学生いたら会ってみたいものだわ（追いかける）
洋南はまだまだ書くつもりでおりますので、もう少しお付き合いくださればと思います、ぶっちゃけEROも書いてみたいんですが
いかんせん脳内妄想が結構荒北さん大変なことになってますので、書くならピクシブには上げず、此方メインで行こうかと計画中。
もっと待宮さんとも絡ませたいなぁ～、そんな感じでL仔でした(o・・o)/

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		</content:encoded>
		<dc:subject>-</dc:subject>
		
		<dc:date>2015-02-01T02:08:44+09:00</dc:date>
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		<title>～・～</title>

		<description>薄暗い車内と揺れに誘われるまま、どのく…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 薄暗い車内と揺れに誘われるまま、どのくらい経った頃だろう。
体の感覚は心地よく、意識はどこかをフワフワと漂って定まらない。
あれ…、さっきまで、ボクは福富さんの運転する車に乗って、
鳴子くんや今泉君、新開さんと一緒で…そうだ、東堂庵に招待されて、
そこに向かってる途中だったと思ったんだけど…。

今此処に至るまでの過程に順を追ってみても、
やっぱりどこにいるのかボクには分からない。
自分視点で広がる視界は白くて広い、
場所というよりは空間に飛ばされたような…そう考え始めた時だった。


「坂道、坂道…呆けた顔してるショ、ちゃんとオレが見えてるか？」


なんの前触れもなく、耳に聞こえた声がボクの名前を繰り返し呼んでみせた。
この声には覚えがある、ううん、それどころか絶対に聞き違えるハズなんて無い声。
けれど、なんで此処に巻島さんの声が聞こえるんだろうか。


巻島さん、巻島さんですよね…っ、
どうして何処にいるんですか、今はイギリスにいるハズなんじゃ…っ


声に返してボクも名前を呼ぶと、それが合図になったように周囲が質量を持ち、色をつけ始めた。
染まり広がる世界、いるはずのない巻島さんの呼び声…こんなこと、現実ではありえないよ。
…そうか、ここはボクの夢、きっと移動中の車内で眠ってしまって、まだ到着しないから眠ったままなんだ。
相変わらず自分の姿は見えないけれど、かわりに目の前に現れてみせたのは、
全体的に黒っぽいながらも、綺麗な玉虫色の長い髪が鮮やかに色映えて目立つ。
それをひとつに緩く束ねた髪型に目元と口元のホクロ…、細身の長身はボクよりもずっと高い。


「クハッ、そんなにビックリした…って、聞くのもヘンだよなァ…でもまぁ、計画通りに成功したショ」


間違いない、ううん、間違えるはずなんかない。
ボクの知る限り、それは一番最近に会った巻島さんの姿そのものだった。
違っているといえば、服装が見慣れないスーツのような、
とてもカッチリとした礼服を着ているらしく、巻島さんにしては大人しい色合いに
意外さと違和感がある、服装の色のせいか顔色も冴えないように見えるんだけど…。
どうしたんだろう、つい数日前に電話したときは元気そうだったのに…と、すっかりこれが
自分の見ている夢である事も忘れて、もっと様子を見なければと視線を合わせていると、
目の前に立つ巻島さんの細くて長い両腕がスっと伸びてきたかと思えば、それはそっとボクの両肩に置かれたのだ。


「坂道、今から話す事をちゃんと聞いて欲しいショ、そうすればどういうことか全部わかるハズなんだ」


優しい微笑みの中に、少し見せた困り顔。一体何が語られるんだろう、
自然と身構える心が心臓を刺激して、胸が大きく早く鼓動を繰り返している。
お話って…巻島さん、そうボクが名前を口にしようと、唇
を動かそうとしたタイミングより微々早く、巻島さんが話し始めた。


「ゴメン、坂道…オレは一つ、お前にウソをついたショ…」


ウソ、たった二文字が与えた衝撃は思いの外に大きく、
胸打つ鼓動に加えてズシッと重みが生まれたようだった。
それでも鼓動は変わらずに繰り返されていて、一つを数える程に
どんどん重みと締めつけを強めていくみたいだ…いま、とても息苦しい。


ボクは全然、気がつきませんでしたけど…いったい、どうして…
巻島さ、んは…理由もなしに、そんな事するような人じゃない…です、よ、ね…。


最初はあれだけハッキリと呼べた名前に言葉が掠れる、
自分の言葉なのに途切れ途切れで聞きにくい。
ダメだ、ちゃんと理由を聞かなきゃ…巻島さんが話しているのに…、どうして頭まで重く感じてきている。


「…コレで全部終わり、……オレ…さかみち……の……さい、ご………」


しかし、自分の意思も虚しく、限界点を超えてしまったのか、
ボクの耳には最後まで巻島さんの声を聞き取ることができなかった。
なにかあったんですか、巻島さん…どうしよう、どうしたら…待ってください巻…島さん、
まだ全部、ボクは聞けてない、のに…。苦しくなった胸に呼吸が上手く出来ず、
声を張り上げようにも詰まって出でこない。目の前にいる巻島さんが意識ごと
後ろに引っ張られるように遠退いていく中で、優しく微笑む顔をただ見ていることしかできない
もどかしさに、ボクは一体どうしたらいいんだ…。


なんですか…よく聞き、取れないです…。最後って…ウソって、なんですか、巻、島さん…っ

………………………


「小野田、…小野田そろそろ起きろ、小野田」

「……っ……ん……ぅ…」


もがいて、どのくらいか経った頃に、体を微細に揺らす振動にボクは目を覚ました。
瞼を上げると、そこは薄暗くて狭く、身動きが取りづらいように思う。
近くに人の気配がしたので、その方向へゆっくりと首を傾けると、
十数センチ先に今泉君の顔がぼんやりと映っってみせたのだった。


「あれ…いまい、ずみ…くん…？」

「やっと起きたか、随分よく眠ってたな」


苦笑いの今泉君の言葉に、どろんと重くなった瞼を擦り、続いて鈍く痛む首を傾けてみると、
辺りは暗くて景色はよく見えなかったけれど、車は随分と前に停車していたらしい。
エンジンの切られた車内には眠っていたボクしかいないから暖房も付いておらず、
眠りで火照った頬にはひんやりとしていた。けれど、そんな中でも肌寒さを感じずにいたのは、
胸元に掛けられていた見覚えのある赤のダウンジャケットのおかげだった。


「ご、ゴメン…ボク、だいぶ寝ちゃってたんだね、山道の途中から記憶が無くて…」

「お前乗った時から静かだったからな、オレ達が気がついたら頃には眠っちまってたぞ。
それにしても…あんまり気持ちよさそうだったから、起こすのも悪いかと思ってな。」

「本当にゴメン…うん…」


今泉君との会話に、じゃあ、さっきのはやっぱり夢だったんだ…と、ボクは深く息を吐いた。
あぁ、だから見慣れない格好も、突然と変わる風景も、意味の分からない話の内容も、
それなら全て理屈が付く。実に夢らしく、捉えようのないもの…遠く離れた土地にいる巻島さんに、
たとえ夢の中でも会えたことは嬉しかった。けれど…、どうしてあんな夢見たんだろう。
まさか、巻島さんの身になにかあったっていうんだろうか…。


「ほら、いい加減に中入らないと風邪引くぞ」

「あ、うん…鳴子くんにもジャケット返さないと…っ！」


心に少々の引っ掛かりを持ったまま、でも、いつまでも此処にいるわけにもいかない。
態勢を低くしながら身体を車外へと引いた今泉君に続いてボクもカバンと鳴子くんのジャケットを手に
外へ出ると、刺すような冬の冷気が体に染み込んでいくようで、あっという間に体温を奪い始めた。
こっちだ、と、息を白くさせながら先を行く今泉君の後を追いかけていくと、間もなく目の前には
風情ある門構えが現れ、圧倒されつつも潜り進むと、季節柄寂しくは見えるけれど立派な日本庭園が出迎え、
庵へと続く道には飛石が一定の感覚で敷かれている。一歩一歩確かめるように、それでも早足で渡り歩いていくと、
漸く、庵の面が姿を現した。暖かみのある玄関の明かりが寒さにぼんやりと、まるで疲れた旅人を、
暖かく静かに出迎えている、そんなふうにボクには思えた。ここが東堂さんの家…老舗だとは聞いていたけれど、
見ると聞くとじゃ感じ方がまるで違う。緊張で一歩を躊躇うボクを他所に、一度潜っている今泉君が躊躇いもなく中に入ると、
よく通った高い、この庵の主の声が聞こえてきた。懐かしい声に足を誘われ、
ボクも暖簾を潜ると、着物姿にトレードマークのカチューシャというアンバランスで実に、らしい、東堂さんが笑顔で立っていた。


「漸くお目覚めだなぁメガネ君！起きないのではと心配していたところだ。
車内とはいえ冬の箱根は寒かろう、そうだろう。しかし、ようもよく眠っていたものだ、
まさか具合でも悪いわけではあるまいな？」


「い、いえ全然っ!！せっかくご招待頂いたのに、遅れてしまって申し訳ありませんでしたっ!！」


緊張しつつ、深々と頭を下げて一人遅れてしまった事を謝罪すると、
軽音な足音が近づいてきたかと思えば、トンッと軽く肩を叩かれた。
視界の端に揺れる白の混じった鼠色の羽織を映しながらボクが
ゆっくりと顔を上げると、もう目の前は東堂さんの顔だった。


「なに、気にすることはない、今日は気の置けない仲間しか集まってはおらんし、
オレもそのつもりで出迎えている。ようこそ東堂庵へ、よく来てくれたメガネ君…、いいや小野田坂道くん。」


「はい…、ありがとうございます//」


高校時代に知っている東堂さんの雰囲気に、あの頃にはなかった
一つの主としての気質とてもいうのだろうか。東堂さんは世話好きで少しお節介だと、
以前に真波君が話していたけれど、それは家柄や、育った環境からなるものなんだと思える。
紺青の鮮やかな着物が似合う、立派な庵の主に出迎えられて、ボクは東堂庵へと招き上がった。
準備があると一言を伝えて、今泉君は先に部屋へ向かったらしく、ボクの荷物も
鳴子君のジャケットもいつの間にか手元から無くなっていた。あれ？と、思う暇もなかった早業に、
よほど自分がぼぉーっとしていたのかと思うと、変な夢を見たにしてもずいぶん間抜けじゃないか。
履物を脱ぎ、足裏に心地よい触りを感じながら辺りを見渡すと内装も、どこか懐かしく、
表門と同じく暖かみのある雰囲気。素敵な場所だなぁ…と、物珍しさに視線を動かしながらも
圧倒されて転ばないように気を落ち着けながら、東堂さんの背中について廊下を進んでいくと、
とある妙なことに気がついた。


「あの、東堂さん」

「ん～、どうしたんだね？」

「いえ、なんだかすごく静かに思うんですけど…」


夜だし、外観も朧げにしか見ていないけれど、入口から門構えから察するに、
この東堂庵の敷地は結構広いだろうと予想出来る。…に、しても人の声がしない、
さっきのが言うところの正面玄関だとすれば、他に在泊しているお客さんの姿や
声が聞こえても可笑しくはないはずなんだ。


「あぁ、今日はオレ達だけの貸切だからな。」

「貸切っ、ですか？」

「そうだ、旧友との久しぶりの騒ぎに水を差すような事があっては成らん。
なにより他に、遠慮するような事があっては十分に楽しめんだろう。
心配は無用だ、箱根が忙しくなるのはクリスマスより年の暮れと正月三が日がメイン。
駅伝のコースに被っている旅館など目も当てられんよ、ウチもそうだがな。」


東堂さん、サラリと言ってますが、それ凄いことですよ、旅館を貸切って本当にあるんだ…。
やや呆け気味のボクを他所に、スタスタと廊下を進むと、遠くに微かざわつく人の声が聞こえ始めてきた。
賑やかで、騒がしく、でも楽しそうな声は、どうやら廊下を伝わって響き聞こえている。
しかし実際はまだ全然離れていると、東堂さんはガラス越しに指を指してみせた。
ビードロ硝子に甘く歪んだ外の景色の先には、雰囲気の違うまた別の棟があるのが見えたけれど、
声のわりに人影や姿を見かけることはできなかった。あの離れが会場か、
一体どんな内装になっているんだろう…それに誰がいるのかな？ワクワクとドキドキを混じらせながら
期待大、ところが、東堂さんはくるりと足向く方向をかえ、逆へと角を曲がってしまったんだ。


「あれっ東堂さん、会場ってあそこじゃないんですか？」


「ん～…あぁ、会場はそうだ。
しかし君には先に風呂に入ってもらおうかと思ってな。」


「えっ、お風呂ですか…？でも、ボクばっかり先に入っちゃ皆さんに申し訳ないですよ、ボクも準備を…」


「ああいう力仕事は体力の有り余っている奴らに任せておけば万事問題ない。
現場監督には荒北を指名してあるし、奴なら誰にでも遠慮もなく指示を飛ばせるだろう。
それにオレが風呂に入れといったのは、メガネ君は先程まで車で寝ていたんだろう？
預かる身として君に風邪でも引かれたら事だ、疲れをしっかりとってもらう必要があるのだよ。」


いつの間にか呼び方も戻っていて、背中で話す東堂さんの声色はどこか笑っているようにも聴こえた。
いいのかな…気を使わせちゃって申し訳ないなとは思いつつ、
確かに体は怠くも感じていたし、ボクはその行為に甘えることにした。
すると、すぐ間近から電話の呼び出し音が鳴り響き、自分だと気がついた東堂さんは
着物の袂へ手を入れて自分の携帯電話を取り出すと、少しここで待っているようにと言って
近くの部屋へと入っていってしまった。きっと仕事での大切な電話かな…そういえばボクの電話、
今泉君が持っていたカバンの中に入れっぱなしだ。着いたら巻島さんに電話しようと思っていたのに、
妙な夢を見たせいで、東堂さんにお礼を言うのもすっかりと忘れていた。
クリスマスパーティーが始まる前には必ずしよう、そう思っていた時だった。


「ったく、アイツどこ行きやがったんだよォ、サボりやがって…」


すぐ近くで聞こえた聞き覚えのある声に、今歩いてきた廊下を振り返ると、
不機嫌そうな表情に頭を掻きながら辺りを見渡している、ボクが知っている頃よりも
少し髪の伸びた黒いニットにジーンズ姿の荒北さんが立っているのが見えた。


「荒北さんっ!！」

「ん？あぁー!！小野田チャンじゃねぇーのォ!！」


数年ぶりの懐かしい顔に名前を呼んで駆け寄ると、荒北さんも
ボクが誰だか直ぐに分かったらしくて名前を呼び返してくれた。
目の前までやってくると、全然あの頃と変わらずの容姿…
私服のせいかもしれないけれど、むしろ年齢よりもずっと若く見えるかもしれない。


「お久しぶりです荒北さんっ、お元気でしたか？」


「あぁ大して変わんねぇ、小野田チャンこそ久しぶり過ぎんぜ、
相っ変わらずちっさくて細ぇーなァ。つか、こんなトコでなにやってんの、
まだソッチの準備できてねぇーみたいだけど？」


準備？準備ってなんのことだろう…手伝いますと申し出たけれど、
先にお風呂へと言われた以外、何も知らされていないからボクには
全くなんの話か分からない。よく見れば、荒北さんの着ているニットは
所々に白い汚れがついていて、東堂さんの言う通り、ついさっきまで
パーティー会場の準備をしていた事が伺い知れた。


「ボク、東堂さんに連れられてお風呂に行く途中だったんですけど、
東堂さんに電話が入って今、待っているところなんです。
荒北さんは会場を作っている係、か何かだってお話では聞いてますけど、何か探し物ですか？」


ボクの質問返しに、フッと事柄を思い出したらしく、荒北さんは眉間に皺を寄せながら
廊下の先や背後を見渡して舌打ちを一回、続いて呆れ顔に溜息をくわえて腕を組んでみせた。


「探し物っつーか人探し中なんだよ、準備の途中で真波が消えやがって
今手分けして探してるトコ。小野田チャン、どっかで真波見なかった？」


「いえ、見てませんけど…真波君いなくなっちゃったんですか？」


「そっ、気づいたら居なかった。昔っからの不思議チャンで自由奔放なトコ、
今も全然変わってねぇんだぜ？らしいっちゃらしいけど、少し落ち着けってんだあのボケナスが…」


荒北さんには申し訳ないけれど、そういうところ真波君は誰よりも要領が良いと思う。
一体今頃どこにいるんだろう…庵内ならばいいけれど、もしかして外に？とも思ったけれど、
先程の寒さを思い出せばいくらなんでもそれは無いよね。


「おーいメガネ君、待たせてすまな…ん、荒北ではないか。
こんなところでどうした、何かトラブルか？」


そこへ東堂さんが電話を終えたたらしく、声をかけながらこちらに向かってくる
小刻みな足音が背後から近づいて聞こえてきた。すぐに、ボクの先に荒北さんの姿を
見留めたみたいだけど、振り向き見た顔は、なぜ此処にいると言いたげな表情だった。


「アホの真波がどっかに消えちまったから、泉田と手分けして探し回ってんだよォ」

「なにっ消えた…相変わらず自由なヤツだな真波は…」


さも面倒だと抜けた唸り声を引きつつ、荒北さんは自分の携帯電話を取り出して
誰かと連絡を取っているようだった。片や、ことの次第にも呆れたらしく、
東堂さんも袂の携帯を確かめながら両手を袖にしまって一度、肩を上げ下ろした。
こういう事態には慣れっこなのだろう、動じる様子も無く、仕方の無いとしか言えないような苦笑いだった。


「全く仕方の無い…。この寒空の夜に野外とも考えられんし、いくらアイツでも
時間には会場に戻ってくることだろう。オレも見かけたら直ぐに戻るように言っておくから、
荒北は部屋に戻って自分達の支度を始めてくれ、皆にもそう伝えてな」


「あぁ、そーするわ～。じゃ後でな小野田チャン。オレ泉田捕まえて先に行ってっから」


「はい、それじゃまた後で、荒北さん」


とりあえず状況をまとめた東堂さんと荒北さんは二手に別れ、ボクはまた東堂さんの案内で
庵内を奥へと進むことになった。なんだか、あの頃と全然変わりませんね、と、ボクが言うと、
それが良くもあり悪くもあるのだよ！と、東堂さんはさっきより随分と大きな溜息をついて
ガクリと首を下げた。そこから暫く、自分が振り回された真波君のあれこれを、まるで独り言のように
東堂さんは話し続け、マシンガントークな思い出話を聞いているうちに、場所は目的地である大浴場の入口へと到着した。


「さて着いたぞ、ここが湯殿だ。アメニティは全て中に揃っている、
バスタオルは籠の中に入れたままでいいぞ」


品の良い紺色の暖簾が入口を半隠し、ここが男湯である事を教えている。
大きそうなお風呂…ボクがそう思いながら暖簾を見つめていると、突然その入口戸が
ひとりでにガラガラと音を立て開いたのだから、ボクも東堂さんも驚いて一歩後退りをしてしまった。
ボク達が凝視する中で、白い手が暖簾の間を掻いて現れたかと思えば、
中から出てきたのは、さっき荒北さんが探し回っていた真波君その人だった。


「ん？あっ東堂さん、それに坂道君！」

「まっ、真波君！？」

「久しぶりだね、変わらず元気そうでなによりだよ//」


すっかりとお風呂上がりらしく、首に自前のスポーツタオルを下げた
血色の良い頬に湿った髪の毛、表情は当然、満面の笑み。
まさか真波君はお風呂に入っているなんて、どこを探しても見つからないですよね、荒北さん。


「真波ィ…お前、こんなところで何をしているのだ…；？」

「何って、お風呂ですよ？いやぁ～気持ちよかったです//」

「そうでは無いは馬鹿者っ、何故お前がいま風呂に入っているんだと聞いているんだ…っ！」


晴れ晴れとした表情の真波君とは反対に、額に手を当てて具合の悪そうな東堂さんが問質すと、
会場の準備中、疲れて眠くなってしまったから目を覚ますのにお風呂に入りにきたとのこと。
眠ってしまたら時間になっても起きる自身がなかったと真波君に笑顔で言われては、
東堂さんも何も言えなくなってしまったようだった。


「坂道君も入っておいでよ、移動で疲れただろうしサッパリするし。
あ、坂道君が入るならボクももう一回…」


「マぁーナぁーミぃー、お前は戻って自分の支度をしておけっ!！」

「えぇーでも…」

「えー、ではないわっ、それに荒北がカンカンになって探していたぞ。
今戻らんとフォローせんからな、いいのかそれで？」


東堂さんの言葉に、さすがの真波君もマズイと思ったらしく、
苦笑いで頬を掻きながら分かったと頷いて返事を返した。
それじゃ、また後でね、と簡単な挨拶の後、小走りで廊下を戻っていく真波君の背中を見送って
脱衣所へと入ると、そこは籐と木の空間に温泉の湯香り漂うとても雰囲気の良いものだった。


「ウチの温泉は美肌の湯として有名でな、まぁーオレを見れば一目瞭然だと思うが。
ゆっくりと浸かって、疲れを癒すが良いぞメガネ君。」


「あ、ハイ…ありがとうございます」


笑顔を絶やさず、こんなにも饗してくれる東堂さんには感謝している。
けれど、みんながパーティー会場を設営しているのに、ボクだけが何もしないとうのは実に申し訳がない。
何か一つ、手伝いでもしていれば気持ちも幾分か変わっていただろうけど、今のところなんの役にも立っていない。
遠慮するなと言われても気持ちが納得するものでは無かった。それに今は一人になるのはちょっとマズイ気がする、
できれば誰かと一緒、賑やかなら尚いいんだけれど。こう思うのにも理由はあって、ボクの頭の片隅にはさっき見ていた夢が、
チラチラと引っかかって依然として彷徨っていた。夢の話なんだし気にしなければいいのに、
出てきたのが巻島さんというのがどうにも気になってしまう。いまだ連絡は出来ていないし、まさか、
そんな事はないと思うけど身に何かあったのかという虫の知らせだったらどうしよう。
せめて声が聞ければ、安心するんだけどな…。そんな想いと一人葛藤しつつ、
脱衣所の棚の前で着替えカゴに手を掛けたまま、じっと考えているボクの顔に、何か思いを感じ取ってくれたのか、
東堂さんはフッと小さく声を漏らして笑ったかと思うと、スタスタと隣に並んで、着ていた羽織を脱ぎ始めた。


「…よし、オレも入ろう、そうすればメガネ君も遠慮はないだろう」

「えっ、いいんですか東堂さん」

「構わんさ、それに真波が先に入ったのも少々癪だしな。」


話しながらも東堂さんはあっという間に着物を脱ぎ終わり、タオルを片手に浴場へと入って行ってしまった。
やることが飛んでいて大胆だと思いながらも、その強引さに遠慮していた気持ちも幾分か薄らぎ、
後を追いかけるようにボクも浴場へと足を運んだ。湧き出でる湯の流れる音と、
桶が床に当たる反響音が耳に心地よく、それだけで気分が癒される思いがする。
まさかここで東堂さんとお風呂に入る事になるなんて…と、予想外の展開にドキドキしつつも
体を洗って湯船へと足をつけると、湯気の先には既にお湯に浸かっている東堂さんの姿が裸眼の目にもぼんやりと写って見えた。


「湯加減はどうだ、箱根でも美人の湯として有名な、我が東堂庵の風呂は最高だろう！」

「とっても気持ちイイです…～…考えれば温泉入るの、すごく久しぶりでした…～//」


肌を優しく包むような湯質に、冷えた体を癒す温度は極楽そのもの。
蕩蕩と湧き流れる湯音を耳にしながら、肩まで浸かって自然とつく溜め息は
なんて贅沢なものなんだろう。目を閉じて身を任せていると考え事も霞む、
湯気に混じって一緒に気持ちが解きほぐされていくようだった。


「フン…やっと、いつものメガネ君に戻ったな」

「えっ…」

隣から聞こえた声に顔を向けると、目を瞑って静かに湯を楽しんでいる東堂さんの横顔がすぐ近くに近くに見えた。
湯気で濡れた髪が、いつもより色を増して黒く、カチューシャの無い姿はどこか別人のようで新鮮だった。
すると、体をこちらへ向けたかと思うと、懐かしいあの東堂さんの指差しポーズさながらに
一本の指がボクへ向かって指し示されたのだ。


「このオレが気がつかないとでも思ったのか。此処へ来てからのメガネ君には
どこか不安な色が見え隠れしているようで、どうにも引っかかっていた。
道中何があったかは知らんが、さえない顔色にぎこちない話し方からして余程の事なんだろう。
どうにか誤魔化してもいずれは誰かにバレてしまうぞ、君は正直な人間だからな。」

「いや、あの…はい、…そうなんですけど…//；」


ズバリと、ここまで東堂さんに見抜かれているならば、もう隠している必要は無いよね。
浮かない表所の理由が、たかが夢なんかと思われるだろうけど、気になっていることを
全部話してスッキリさせてしまおう。そうすれば今日のパーティーだって思いっきり楽しめるハズだ。
温泉の力と東堂さんの勢いを借りて、決心の着いたボクは車の中で見た夢の話を、
覚えている限りできるだけ正確に話した。不思議な空間、いるはずのない巻島さん、
よく聞き取れなかった言葉など…一つ一つボクが話している間、表情はよく見られなかったけれど、
東堂さんは腕を組んで二、三度頷きを交えながら黙って聞いてくれてた。そして全てを話し終え、やっと言えたと
溜息をついたボクに続いて、東堂さんも小さく一つ唸った後にお湯を掻き寄せて、自分の肩へとかけ流してみせた。


「成る程…福富から車内の事は電話で聞いていたが、オレも福富も、
あまり話したことのない連中の中で気疲れしたんだろうと思っていた。
夢とは思いもつかなかったが…そうか、そうか…//」


こんな、ちぐはくな内容だったにも関わらず、東堂さんは納得したように言葉を繰り返した。
ボクは自分で話したにも関わらず、その意味するところが分からないままに、
巻島さんに何か悪いことが起きなければ、ただそればかりだった。


「その夢あながち悲観することもないぞ、君は逆夢というのを知っているか？」


聞きなれない言葉に、ボクは首を横に振って答えると、記憶の中の知識を追いかけるように、
天井の一点を見つめながら東堂さんは頷いて内容を話してくれた。夢には色々な種類があって、
その中の一つに逆夢というものがあるのだという。誰かとケンカする、事故に遭う、
亡くなるなど夢の中で悪いものを見たからといって、それが全て悪い意味を暗示しているとは限らない、
逆に、これから現実で起こるかも知れない事柄に良い意味を暗示する場合もあるのだそうだ。


「君の見た夢の中で、巻ちゃんは君にウソをついたと告白したんだよな。
うる覚えで申し訳ないが、それも決して悪い意味ではなかったような…
何か、話したいことがあるからだと記憶している。」


「それじゃ、あの最後に聞き取れなかった話がそうなんでしょか…」


ボクにウソをついていたと告白した、夢の中の巻島さん。
しかし、その話は最後まではボクの耳には届かなかった。
東堂さんの教えてくれた話にボクがそう聞き返すと、
少しだけ考えた素振りを見せながらも、まるで答えを知っているかのように、
口元だけが微笑んでいた。


「さてそれはどうだろうか、夢は占いと一緒で『当たるも八卦、当たらぬも八卦』だ。
あまり気にする程の事でもない…そうショボくれた顔をするなメガネ君。
たとえ、どんな夢を見て、不可解な事を言われようとも君は巻ちゃんの事が好きなのだろう？」


「それはっ、そうです！」


東堂さんの問いにボクは即答で答えた、それは自分でも驚く程の速さで。
すると口元だけの笑みが高らかなものに変わり、東堂さんは遠慮も無く笑いだした。


「全く、巻ちゃんもメガネ君も…いやぁスマンな、以前に巻ちゃんも
笑顔のメガネ君が一番好きだと言っていたことを思い出してな、つい…//」


「まっままま巻島さんがですか…っ…そんなっ…なんか、すごく恥ずかしいです…//；」


「なにを今更…、１０年も経つのに初々し過ぎやしないか…；
皆の知る仲なのだし恥ずかしがることも無いだろう。」


今までのしんみりした空気は何処へやら。東堂さんの発した言葉がなんの前触れもなく、
突然として全てを吹き飛ばしていったみたいだ。巻島さん、一体何を話したんだろう…
或いは東堂さんは何を聞き出したんだろうか、全然想像がつかない。
動転した気持ちが現れたように、バシャバシャと湯を掻きながら壁伝いに身を引くと、
東堂さんは苦笑いで撥ねた湯を手で避けた。


「しかし、それだけはっきりと君が言えるのであれば、
オレからは何も言うことはない。…どれ、先に失礼するぞ、メガネ君」


言い終えると同時に、ザバァっと勢いのある水音を響かせながら
東堂さんは立ち上がると、出口へ向かって湯船の中を歩き始めた。
そろそろボクも、と、立ち上がると、君はもうしばらく入っていて欲しい、
そうでないと二人で湯上り顔だと皆に何を言われるか分からないだろうと言って、
東堂さんは笑いながら脱衣所に消えていった。細い背中を湯気の中でぼんやりと見送りながら、
ぽつんと一人になった大浴場でボクはもう一度話の内容と夢を思い返してみることにした。
もう不安は無い、不可思議な内容も、巻島さんが言っていた話も、今は冷静になって考えられる。


東堂さんも言っていた、夢は夢、現実では無い。それならば確かめればいい、
電話しようと思っていたんだから、その時に聞いてみればいいんだ。
きっと巻島さんなら笑って聞いてくれると思うし、逆を返せばあの時、
声が遠くにかすれ消えたのだって、まだその話は聞くべきじゃないと
言われているようにも思える。ありがとうございます、あっ、しまった…また、ちゃんと
東堂さんにお礼言えなかった。ボク助けられてばっかりだな、もっとしっかりしなきゃならないのに…。


「…よし、もう大丈夫だ。」


決意も新たに固まり、それならば急がなければと思い立ったボクは勢いよく湯船から立ち上がった。
足元が滑らないように気をつけながら脱衣所へと向かい、すっかりと軽くなった心で
戸を横引くと、既にそこには東堂さんの姿は無くて、かわりにボクの脱いだ服の上にメモが置かれていた。
内容は『先に戻っている、着替えを済ませたら地図にある部屋で、用意してある正装へ着替えていてくれ』とのこと。
なんだろう、パーティー用の服かな？と思いながら手早く着替えを済ませて、温まった体には必要ない
外着を片腕に引っ掛けながら廊下に出たボクは、もらった簡易的な館内図に従い、
その部屋に向かうことにした。しんとした館内の中、自分の足音だけが静かに聞こえて暫く、
指定された部屋へと無事にたどり着いて、目の前の障子戸を静かに横引くと、
そこは白と青に色合いの統一された８畳ほどの間取りで、天井からは淡い照明が下がり、
部屋全体が静をあらわした様な雰囲気、その真ん中にポツンと白いカバーの掛かった洋風のラック。
一着だけ、ポツンと洋服がかかっているのが目立っていた。


「これかな…？」


恐る恐る、目の前の白いカバーへ手をかけて引き取ると、
そこには真っ白な、まるで雪のように真っ白なスーツが姿をあらわした。
触るのも躊躇ってしまう、こんな改まった服なんて着る機会のないボクにとって
緊張して仕方がない。けれど、すごく、すごく綺麗な服…そして、とっても暖かい感じを受けた。
吸い寄せられるように上着に手をかけて外し、ワイシャツ、内ベスト、パンツ、
最後にネクタイを身に付けていくと、驚くことにサイズはボクの体型にピッタリで、
キツくもなく、緩くも無い、まるで肌みたいだ。自然に身に纏っている着心地に酔いながら、
室内にあった全身鏡で姿を確かめてみると、見慣れない自分の姿に気恥ずかしさと
違和感を覚えながらも、心は不思議と安心していた。


コンコンッ


『おるな、メガネ君。着替えは済んだか？終わったら廊下に出てきてくれ』


「あっ、ハイ、今行きます！」


一枚襖を隔てた先から、具合を伺う東堂さんの声に返事をしたボクは
着ていた服を簡単に畳みながら、特に荷物らしいものも持ってこなかったし、
忘れ物はなさそうだと確認した後、そっと障子戸を開けて廊下を覗き見てみた。
そこには壁に背を預けてボクを待っている東堂さんが立っていて、先程とは違う、
どこか特別な晴れ着のような着物へと変わっていた。パーティー用ってことなのかな…
そう思いながら恥ずかしさでぎこちない足取りのまま廊下へ出ると、ボクに気がついた東堂さんは
一歩下がって全身を眺めながら何度か頷いてみせると、一つ手を打ち鳴らしてみせた。


「うむ、よく似合っているぞ…//」


「ありがとうございます…でも、ちょっと恥ずかしいです…//；
全身真っ白の服なんて着る機会ありませんし…本当はどこか変じゃありませんか？；」


「なにを言う、白を君が着ることに意味があるのだよ！」


そう断言した東堂さんは、くるりと背を向けて静かに歩き始めた。
もうこうなったら着いて行くしかない無い、お風呂も入ったし着替えもした、
あとは何が待ち構えているんだろう。巻島さん、ちょっと変わったクリスマスプレゼントだって
言ってましたけど、これはまるで注文の多い料理店に迷い込んだお客さんみたいです。
まさか食べられてしまう、なんて怖いオチはあるはずないと自分の気持ちを落ち着かせながら、
東堂さんの背中に続いて長い廊下を歩き、離れへ続く渡り廊下を歩いていると、
お風呂で温まった頬に夜風が冷たく心地よかった。屋根の先に見える夜空は薄曇りで、
遠く高い場所で雲を透かした月が見下ろす中、ふと目の前の足が歩みを止めた。
東堂さんの姿越しに先を覗き見ると、それは旅館内の純和風な雰囲気とは明らかに違う、
２ドア造りの扉で、ここから先は別の世界だと知らせるような趣がある。


「さて、メガネ君、この扉の向こうが会場だが、準備は良いか？」

「はい、なんだかドキドキしてきました…でも大丈夫です！」

「うむ、では行くぞ」


着物の衿を正して具合を確かめた後、東堂さんは微笑んで頷くと、
ゆっくりとその扉に手を押し当て開いた。すると、東堂さんの手が
扉を数センチも開かないうちに、中からゆっくりと扉は引き開けられてゆき、
室内は野外の暗さから一転して眩しく、目を守るようにボクは両目を瞑って扉が開くのを待ったんだ。



パチパチパチパチッ…ッ!!!////



途端、目の前に差し出されるように溢れ聞こえてきた沢山の拍手音、
それは大きかったり小さかったりと一定でない音の中にはザワザワと人の声も混じっている。
何がおこっているんだろう、と、瞑っていた目を開き、その先に広がる光景にボクは言葉を失ったんだ。
アンティーク調に纏められた洋風の室内からは、入口に立つボク達に視線を向ける懐かしい人達の顔ぶれ、
金城さんに田所さん、今泉君に鳴子君、箱根学園の皆さんも揃っている。服装は皆さんとも正装で統一されていて、
アットホームのような、それでいて形式的なものを感じる。そしてなによりボクを驚かせたのは部屋の最奥、
小さなテーブルの前でボクとは反対の黒のタキシード姿の巻島さんが立っていることだった。

なんで、どうして、すっかり混乱した頭では考えても答えが纏まるハズもない。
鳴り止まない拍手の中で、どうしたら良いのか分からずにその場に立ち尽くしていると、
そっとボクの背中に触るものの感覚に気がついた。


「しっかりしろメガネ君、目の前に本人がいるのだぞ。
今こそ知りたい事を、巻ちゃん本人から聞くがいい。」


背中に手を添えて、奥へ進むように優しく促す東堂さんの声に震えそうな足を正し、
部屋の奥へと進み歩くと、辺りには懐かしい大好きな香りがし始めた。
それは普段、巻島さんが愛用している香水の香りで、部屋の最奥に到着する頃には、
僕の周りをすっかりとその香りが包囲していた。目の前までやってきたはいいけれど、
此処にいるのは本当に巻島さんなんだろうか。その姿を隅々まで確認しようと忙しく瞳を動かすボクに、
こちらを向いていた顔がふっと笑ってみせ、ゆっくりとその口が動き始めた。


「坂道、坂道…呆けた顔してるショ、ちゃんとオレが見えてるか？」

「えっ、は…はい、…あの、巻島さん…ですか？」


声に香り、姿に笑顔、確かに目の前には巻島さんなのに未だ信じられない思いもある。
そうだ、この感覚には覚えがある…あの夢の光景、気になっていて仕方が無かった続きが、
今目の前で再現されているんだ。それじゃ、あれはこの状況を知らせていたもの…だったんだ。
ゆっくりと視線を巻島さんから真横に向けると、見守り役のように間に立つ東堂さんの姿があり、
その表情はただ黙って頷きながらも、聞きたいことがあるなら今しかなかろう、そう語っているようだった。


「クハッ、そんなにビックリした…って、聞くのもヘンだよなァ…でもまぁ、計画通りに成功したショ」


当然の質問に笑う巻島さんが東堂さんとアイコンタクトすると、
会場からもざわめきの中に溢れる微かな笑い声。そちらにボクも目を向けてみると、
その場にいる人達はみんな穏やかな表情を見せていた。そんな中にバタンと、
扉が閉まる音が室内に聞こえると、ようやく離れていた現実的な感覚が戻り始めた。
そうだよ、聞いてみようと思っていたじゃないか、聞きたいことは沢山ある。
電話ではなく、本人を目の前にしてになってしまったのは予想外だけれど、あの夢の続きも分かるはずだ。


「あのっ、これって一体、どういうことなんですか…。
今年は会えないって…巻島さんはイギリスにいるはずじゃ…。」


気を正したボクが改めて巻島さんに事の真相を尋ねると、
巻島さんは一つ咳払いをしてまたボクへと向き直り、笑顔をみせたままの視線は
真剣なものへと変わってみせた。玉虫色の長い髪が、黒のタキシードに不思議な色合いを持たせ、
怪しささえ醸し出している。少し怖い、いつのも巻島さんじゃないみたいだ…と、
不安に揺れる思いの中でも状況は進行していく。すると、まるで夢と同じ光景を再現するかのように
目の前に立つ巻島さんの細くて長い両腕がスっと伸びてきて、ボクの両肩にそっと添え置かれたのだ。


「坂道、今から話す事をちゃんと聞いて欲しいショ、そうすればどういうことか全部わかるハズなんだ。」


ゴクリと喉を鳴らして飲み込んだ唾に喉が痛む、まるで同じだ。
立っているのがやっと、というくらい緊張で背中が張っている。
でも、ここは現実、夢の続きであっても覚める事はないのだから、
あの時聞けなかった続きが待っている。覚悟はとうに出来ているし、なにより続きが知りたいし聞きたい。
しっかりと頷いたボクを見て、巻島さんは微笑んで続きを口にし始めた。


「ゴメン、坂道…オレは一つ、お前にウソをついたショ。クリスマスに会えないって言ったアレな、
実はその前からずっとこの日の計画をしてたんだ。今までのホリデーは全部、
お前と過ごすのが当たり前で、それはオレにとっても特別な意味を持ってる。
高校時代から付き合い始めてもう十年、けど、それもいい加減頃合に決着を着けなきゃならないかと思ってたショ。」


巻島さんの言葉を耳にしながら、脳内を思い出がフラッシュバックしていく。
高校の部活時代、一緒に走った峰が山、インターハイ、渡英に再会、全部がボクにとって、
かけがえのない宝物たちだ。どうしよう、いまにも涙が溢れそうです…夢の中の巻島さんのセリフが蘇る、
それはコレで全部終わり、そう言っていた。拳と瞳にぐっと力を入れて言葉を待っていると、
巻島さんは両肩に添えていた手を下ろし、自分の上着のポケットへと手を入れ、
何かを取り出している気配がする、あたりはまたザワザワと騒がしい。
すると、両目を瞑った先に何かが差し出されているのがわかり、ボクは恐る恐る両目を開いた。
そこには小さな青い箱に指輪が二つはめ込まれていて、続いて巻島さんの声がこう言ったんだ。


「結婚しよう、坂道」

「…………ぇ」


一瞬、なにを言われているのかが理解できず、ただ目の前の指輪を見つめていると、
巻島さんがボクの顔の前へ手を翳して振りながら、照れの混じった苦笑いで言葉を続けた。


「オイオイ、一生に一度の大事なプロポーズに、えっ…て//；
式と一緒になっちまったけれども、このくらいのサプライズがなきゃお前の事心底驚かせないショ」


呆然とするボクを目の前に、巻島さんは浅く息をして頬を指で掻いてみせた。
ぎこちなく首だけで辺りを見回してみると、会場にいる人達はさっきとは違う、
まるで茶化すような含んだ笑顔を見せたり、一部真剣な面持ちでこちらを凝視している人もいた。


「あの…あの巻島さんっ…それじゃ、夢の中で言っていた、これで全部終わりって…最後って…」


「夢？…クハッ、こいつは夢なんかじゃない、現実の話ショ」


ボクの言葉の意味が分からないもの当然だけれど、言葉を繋ぐのにやっとだったから、
今はどちらが本当で、どこまでが本当の出来事なのか分からなくなりそうだ。
と、ここでそれを見守っていた東堂さんが間に入って事の次第を説明すると助け舟を出してくれた。


「黙っていて悪かったなメガネ君、仰天するのも無理はない。
君に手紙を出す一ヶ月前から、オレは巻ちゃんから、
このサプライズウエディングの話を聞いていたんだ。
当初二人で式を挙げると言うのを説得するのに、どれだけオレが苦労したことか…」


「当然ショ東堂、こんな公開的にプロポーズして式とか恥ずかしさの極みだぜ//；」


「何を言うっ、やるなら思い出に残る、知った仲間に祝福されるものの方が
断然良いではないか！…ま、それは良い。場所はウチを提供するとして、君に知られずに、
いかにして当日事を運ぶものかと考えて、招待客の皆に協力してもらったのだ。
君と仲の良い今泉と鳴子は元より、福富と新開を迎えにやったのも、然とした理由があったのだよ」


順を追って話す東堂さんは顔を上げて誰かに視線を送ったのが分かり、
ボクもそちらへ顔を向けると、それはすぐ近くにいた金城さんに向けられていた。
そういえば福富さんは本来なら迎えに来るのは金城さんだった、と、車の中で話してくれたんだった。


「小野田。福富から聞いているとは思うが、実際は少し事情が違っているんだ。
お前達が此処へ向かっている間、オレは巻島の付き添いで神社に居た。
今、お前の目の前に差し出されている結婚指輪に願掛けする為にな。」


低く優しい声で話す金城さんの言葉に、またボクは向き直って目の前の指輪へと視線を戻した。
銀色に輝くシンプルなデザイン、よく見れば内側に何か文字が彫ってあるのが見える。
それじゃ巻島さんはボクなんかよりずっと先に、この場所に来ていたのか。
本当に何も知らなかったのはボクだけだったんだ…とても、想像出来るものじゃなかったけれど。


「巻ちゃん一人で行かせるのは少々心配でな、オレが一緒に行くことも考えたんだが、
会場の設営と皆の到着を待たねばならん仕事があったので金城に任せたというワケなのだよ。
そこから順々に田所と泉田、一番心配していた真波を連れた荒北も無事に到着したし、
あとは君を連れてくるメンバーからの連絡を待ちながら内密に計画を進めていたというのが全貌だ。
君から夢の話を聞いた時には、一瞬ヒヤリともしたが…だから言っただろう、夢は占いと一緒だとな」


「夢ってなんの事ショ；」

「フフ…オレとメガネ君の秘密だ」


説明を終えた東堂さんの表情は成し遂げた満足感に満ちていたけれど、
巻島さんはやや納得のいっていない様子。それでも、話を聞くうちに混乱していたボクの頭は
すっかりと解きほぐされていて、未だに胸はドキドキしているけれど状況を受け止めるまでには落ち着いている。
今度はしっかりとした目線で辺りを見渡すと、満面の笑顔でこちらに手を振る鳴子君、
隣で静かに笑っている今泉君の姿に、計画成功の色が浮かんでいたのが見えて、ボクも自然と笑顔になれた。


「クハッ…ったく、どうしようもないお節介野郎達ばっかだな。
でも、坂道が笑顔になってくれれば、オレはそれだけで充分コレを計画した甲斐はあったショ。
服の着心地は悪くないか？」


「はい、とっても着ていて気持ちがいい…もっ、もしかして、この服は巻島さんがっ…！？」


言われるまで、当たり前のように着ていたけれど、そうだよこの感触。
あたたかくて優しい、寸法もピッタリでとても市販品では有り得ないじゃないか。
ボクの反応を目にした巻島さんが、やっと気がついたかというような表情で胸元に飾ったスカーフを整えてくれた。


「この日に合わせて作り始めてたんだが、やっぱり実際に見てみないと作った身としては心配だからな。
お前が扉の向こうに見えた時に半分は無くなったが、今の感想でそれもゼロになった。似合ってるショ、坂道」


「まっ…巻島、さっ…ん…っ…」


全ての事実を知って、ボクは込み上げてくるものが抑えきれ無くなってしまった。
視界に揺蕩う涙でゆっくりと視界が霞むし、頬と耳は急に熱を広げ始めてじわじわと擽るように熱くなっていく。
手の甲で流れ落ちる涙をいくら拭っても流れ続けて止まらない。さっきまで悲しくて、
怖くて仕方が無かった時は寸前まで我慢出来ていたのに、嬉しい時って涙は我慢出来ないんだ。
皆が見ているのに泣き止めない、カッコ悪いかもしれないけれど、だってこんなにもボクは幸せなんだから。


「オイオイ、まだ泣くのは早いショ…//オレは正式な返事、坂道から貰ってないんだけど？」


すっと伸びてきた巻島さんの細い指が、頬に流れ残った涙を拭ってくれたので、
泣き笑いのまま、ボクは赤くなった鼻を啜りながら、声のする頭上を見上げて
巻島さんの顔へ視線を合わせた。


「はい…っ、よろしく…おねがい、します…っ//」



ボクの声はきっと涙で掠れていたと思う。
けれど、それも瞬間に巻島さんに抱きしめられたから皆には聞こえなかっただろう。
再び会場には沢山の拍手と祝福の言葉が飛び交い、誰かの泣いているような笑っているような声もしていた。
東堂さんに好い加減に離れて式を進めるように言われるまでの間、ボクは巻島さんの腕の中で最後の言葉を教えてもらったんだ。



『不安にさせて悪かったショ、コレで全部終わりだ。
これからはずっと一緒だからな…オレが坂道にウソをつくのは今日が最初で最後だ』


聖なる夜に、こんなにも祝福される中で、夢のような夢の続きを知った時、
そこには最高の幸せが待っていた。いつだって、何処にいたって、ボクは巻島さんに会えた事が
最高の幸福と思っていた今まで。そして、これからも、ボクが巻島さんを好きだという想いが
尽きることが無いように、ずっと続いていくのだから。


【END】



＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝


こんばんわ、L仔です(o・・o)/
年が明けてますがクリスマスのお話の巻坂でした。
今まで沢山巻坂を書いてきましたが、ひとつだけやってない大切な事があるじゃないか！
片思いも両思いも書いたんだったら最後はやっぱりプロポーズしてもらおう。
うちの巻島さんはサプライズ好き、そして東堂さんめっちゃいい人です。
思えば今月（2015/01/07）で巻坂を書き始めて早一年になります。
ありがたいですね、一年間通して創作力を維持できるほど夢中になれるものに出会えた幸せヽ(´▽｀)/
そして沢山のペダルクラスタ様に出会えたこともとっても嬉しいことです。
次はハネムーンかな？ありがとうございましたー(*ﾟ▽ﾟ*)
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		</content:encoded>
		<dc:subject>-</dc:subject>
		
		<dc:date>2015-01-06T23:07:57+09:00</dc:date>
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		<title>【会場はこちらです】（クリスマス巻坂）</title>

		<description>
例年より幾分か今年の雪は早めらしく、…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 
例年より幾分か今年の雪は早めらしく、クリスマスイブは朝から薄暗い雲に覆われていた。
それでも、千葉の駅を出発した時にはそんなに寒さも感じなかったけれど、
一駅づつ、目的地に近づくに連れて、雲の色は濃さを増し、いつ降り出してもおかしくはなさそうな空模様だ。

「ちょっと怪しくなってきたかな…、着くまではなんとか降らないでくれればいいんだけど…。」

電車の車窓から空を眺めながら、出来れば叶えて欲しいささやかなお願いをして、
ボクはまた座席に背を持たれた。いつも乗る各駅の電車の硬い椅子とは違い、座り心地の良い
リクライニングシートには馴染めず落ち着かず、逆に逸る気持ちを変に擽って仕方ない。
それでも時折、少しでも落ち着かなければと思い直して、視線を周囲に向けて車両内の風景を眺めもみる。
乗客の数も満席、まではいかなくとも席は埋まっていて、クリスマスを観光地で過ごす人達が
静かに目的地への到着を待っているといった様子、年齢層も若干高め…かな？


なぜボクが電車に乗って、クリスマスイブに神奈川県は箱根へ向かっているかというと、
数日前に一通の電話と手紙が届けられたことからだった。手紙は今日も持ってきていて、今も目の前に置いてある。
到着までまだ少し時間もあるし、もう一回読んでおこうかな。サイドテーブルに置いた手紙に手を伸ばし、
もう五回は読んだと思う文面にボクは視線を這わせてみた。


カサリッ…


『前略　小野田坂道くん　久しく顔を見ていないが元気にしているか？
巻ちゃんから話は聞いているぞ　なにそう落ち込むことは無い　
社会人ともなれば都合付かずなど仕方の無いことだ　その代りに全てこの東堂尽八が
次第を預かることとなった。１２月２４　神奈川県・箱根【東堂庵】にて君を待つ　
楽しいクリスマスイブにしようではないか。旧友も大勢招待してある　
さながら軽い同窓会のような気持ちで来てくれれば良いぞ。乗車切符も同封するので
乗り遅れの無いよう気を付けること　到着時刻に迎えに行く。
それでは当日を楽しみに　【東堂庵　主】東堂尽八　草々』


とても綺麗な字で書かれた、いかにも東堂さんらしい文面に自分の表情が緩むのがわかる。
たしか以前にもこんなことがあった、そう、あれは高校一年生の、今日と同じ冬の日、箱根は雪が降っていた。
東堂さんの計らいで真波君と自転車で坂を登ったのはいいけれど、道路条件が悪くて途中で引き返したんだ。
雪も降ってて手足も冷たくて、タイヤは滑るしと大変だったけどとても楽しかった。
真波君も同じだって笑顔で言ってた懐かしい思い出がふっと蘇ってくる。


「あれから１０年も経つんだ…全然そんなふうに思えないのになぁ」


手紙を片手にぼんやりと蘇った過去を見つめながら、改めて経過した時間のことを思うと、
長いようで短い、高校時代がつい昨日のことのように感じてしまう。高校、大学を卒業し、
地元の出版社に入社してからも、ボクは地元のチームに入って相変わらずに自転車は続けている。
団体のほかにも、時々個人でレースに出場することもあって、良いタイムが出るとやっぱり嬉しいし、逆もある。
それは紛れも無くボクの財産であり、沢山のものに出会わせてくれた大切な宝物。
みんなで走った初めてのインターハイ、嬉しさも厳しさも全てが詰め込まれている箱根は
ボクにとって確かに特別な場所なんだ。巻島さんも来られれば良かったのにな…でも、お仕事だがら仕方ないよね。
そのかわりに、今回のクリスマスプレゼントを用意したって電話で言っていたんだから。


………


『悪いショ坂道、今年のクリスマス、どうしても外せない用事が入っちまってて会えそうに無いんだ。』


手紙が届けられる日の朝、イギリスにいる巻島さんからボクに一本の電話がかかってきた。
高校時代、恋人同士となった巻島さんとは１０年経った今でも、この幸せな関係は続いている。
距離はあの頃と変わらず離れてしまっているけど、ずっと気持ちは変わらないまま。
誕生日にクリスマス、帰国した時はボクのアパートで一緒に過ごしたり、
年に一度はボクのほうもイギリスへ行って、短いながらも巻島さんと一緒に暮らすのが大切な行事となっていた。
しかし今回は残念ながらクリスマスが叶いそうに無い、前々から、もしかすると今年は一緒に過ごせないかも、
と言われていたけれど、どうやらそれが確定してしまったらしい。


「ボクは大丈夫ですよ巻島さん、お仕事の都合じゃ仕方ない時だってありますから。
本当はボクがそちらに行ければ良いんですけど、こちらも２３日まで仕事が詰まっちゃってまして…//；」


ボクのほうも、担当している雑誌の取材や編集、次回号の打ち合わせなどが重なってしまい、
祝日関係なしの仕事日程になってしまっていた。社会人の辛いところだ、学生時代あんなにあった
時間が今欲しいと思わずにはいられない。


『クハッ、相変わらず忙しくしてるんだな。来たいって気持ちは嬉しいが、
今こっちには来ないほうがいいぜ。連日雪で飛行機も遅れてるショ、数年に一度の寒波だってさ』


「あ、テレビで見ました！すごい雪ですよね、大丈夫ですか？」


『なんとか…ショ、思ったより坂道が元気そうで安心した、本当に悪いな。』


「いいえ、気にしないでください。あ、そうだ！
雪なら早めにクリスマスプレゼント贈らないと間に合わないですよね!」


会えないならせめてプレゼントだけでも届いて欲しい、
しかしイギリスまでは距離もあるし、最短で５～６日はかかる。
既にプレゼントは用意してあるから今日にでも出してこよう。
今日の予定を立てつつ、プレゼントの置き場所である寝室に自然と
視線を向けると、電話先の巻島さんが一つ、咳払いをしてみせた。


『それなんだけどさ、オレに会えないかわりって言えばヤツに悪いが、
坂道にちょっと変わったクリスマスプレゼントを用意したショ。気に入ってくれるといいんだが…』


耳元で聞こえる優しい巻島さんの声が、どこか微かに緊張しているようにボクには思えた。
いったい何が起こるんだろうと思っていたその時、ガタンと玄関のポストが音を鳴らしてみせたのだった。

……………


『まもなく小田原、小田原駅到着です。お降りの際はお忘れ物の無いように…』


数日前の出来事に浸っていたところに、次の到着駅を知らせる
アナウンスが流れると、少しだけ車内がザワザワと動き出した。
後一駅で終点、目的地である箱根湯本に到着するし、ボクも降りる準備をしておこうかな。
手紙を封筒に戻し、持ってきていた一泊用のカバンの内ポケットへと大切にしまい込んで
カバンの中身を覗き込んだ。これで大丈夫、ひとまずの安心を得たところで電車は小田原駅へと到着し、
幾人かの乗客を降ろして再び動き出した。また車窓は流れる風景を繰り返すなか、
空模様も変わらずなものだから日が暮れているのか、まだなのかも分からない。
携帯を取り出し、時計を見てみると電車に遅れはないようで、予定時刻には到着するようだった。
すると、点滅しているライトに気が付き、画面を開くと一通のメールが届いていた。


【From 鳴子君】

Sub Re:

小野田くん今どのあたり？
こっちはスカシと合流して待ち合わせ場所着いたけど
めっちゃ寒い!!やばいホンマ寒い!!
ひさしぶり会えるん楽しみにしとるで～!!


差出人は鳴子君からで、今泉君と無事に待ち合わせ場所に着いたけど
思っていた以上に寒い！と書かれていた。ボクももうすぐ着くよ、なんだか雪、降りそうだもんね…っと。
手早くメールを打って返し、送信画面を見つめていると、落ち着いていた逸る気持ちが戻ってき始めた。
２人とはメールや電話はするけれど会うのは久しぶりだから結構ワクワクする。手紙にもあったけど、
そういえば旧友って誰が来るんだろ…鳴子君と今泉君は参加するって電話した時に教えてくれたけれど。
あとは真波君とか、荒北さんあたりかな…東堂さんが声をかけるっていうと、人脈が広すぎて
ボクには想像できない部分がある。とにかく行けば分かるよね、知らない人がくるわけじゃないし、
そう考えるとなんだか増してドキドキしてきた。


『ご乗車ありがとうございます、まもなく終点、箱根湯本、箱根湯本です。』


再び流れた車内アナウンスを耳に、外を見ればすぐ間近に移る賑わう街並みが見え始めた。
ポケットに携帯を入れ、かわりに乗車券を取り出してカバンを手に、電車がホームに流れ込むの横目にしつつ、
ボクは席を立った。すると、次々と席を立つ周りの人達にのまれながら電車を降りると、
それは真っ直ぐに改札口へと流れていく。用意していた切符を通して、漸く人並みから外れることの出来たボクが、
さて、待ち合わせ場所は…と、辺りを見回していると、ポンと軽く、背中から肩を叩かれた。


「ここや、ここ！久しぶりやな小野田く～ん！」

「鳴子くん！」


振り向くと、そこには真っ赤なダウンジャケットに、同じような赤い
携帯を片手に満面の笑顔を見せる鳴子君の姿があった。
少し髪を切ったらしく、以前に会った時とイメージが違っていたけど、
雰囲気はどこも変わっていなかった。


「メールしたのさっきやのに、思いのほか早かったんやな、今の電車か？」

「そうだよ、東堂さんが切符を用意してくれたんだ。千葉を出てきたときより
天気悪くなってきちゃったし遅れたらどうしようかと思ったけれど、大丈夫だったよ」

「そりゃー何よりやな、無事に着かんかったらクリスマスもパーティーもあったもんや無いし。」

「フフ…そうだね、ところで今泉君は？一緒だってメールにはあったけど」


鳴子君と会話する中で、近くに今泉君の姿が無いことを尋ねると、
既にホームを降りて下の階にいるとのこと。この駅は車の通りも多いし、
迎えに来てくれる人が見逃さないようにと気を使ってくれたようだった。


「ワイは大丈夫から待とう言うたんやけど聞かんで行ってしまったんやで、ヒドくないか？
あいついつまでたっても心配性なとこ変わらへんわ、あるいは照れてたりしてな…カッカッカ//」

「なに勝手なこと言ってんだ、全部聞こえてるぞ、鳴子」


豪快に笑う鳴子君の声に続いて聞こえたのは落ち着いた雰囲気の今泉君の声だった。
それを、まるで分かっていたようになる子君が振り向き、ボクもその先を覗き込むと、
黒のコートに灰色かかったマフラー姿の今泉君がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。


「おうスカシ！下で待ってるんやなかったんか？」


「今さっき電話があって、もうじき着くから三人揃って
反対車線に出ててくれって言われたから戻ってきたんだ。
お前、目を離すとすぐにどっか行くだろ」

「んなことないわ!!」

「どうだか…。久しぶりだな小野田、出迎え遅れて悪かった。」


懐かしさの漂う鳴子君と今泉君の会話に、ここだけ高校時代に
戻ったような感覚のするなかで、あの頃よりもずっと大人っぽくなった今泉君が
すまなさそうにボクに声をかけてくれた。


「そんなことないよ今泉君、迷わないように気を使ってくれたんだもん。
ボクの方こそお礼を言わなきゃいけないよ！」


「別にたいしたことはしてないだろ、お前は相変わらず大袈裟だな。
無事に合流できたし移動しちまおうぜ、話はそれからでも充分できるだろ、行こうぜ」

「カッコつけスカシが…（ボソッ）」

「鳴子なんか言ったか」

「べつにぃ～、さ、いこいこ小野田くん！」

こうしてボク達三人は無事に現地で再会し、移動することにした。
内輪賑やかに会話しつつ、整備された二階の歩道を歩いてエレベーターで
一階へと到着すると、辺りは観光案内所や古い喫茶店などが並ぶバス乗り場へと繋がっていた。
この辺りでいいと思うんだが、そういって今泉君が携帯を取り出し、誰かに電話を掛ける中で、
ボクと鳴子君も辺りを見渡しながらそれらしい車や人を探してみたが、どれも似たような感じで
区別が付けられないや。すると、すぐ近くて電話の鳴っている音が聞こえ始めたかと思うと、
それは徐々にボク達へ向かって近づいて来ているようだった。


「おーい、何処探してんだおめさん達、ここだよ、ここ」

声と音のする方へ三人ほぼ同時くらいに振り向いて見ると、そこには意外な人物の姿が。
ふわっとした赤毛と大きな瞳に厚い唇、高校時代に姿を見たときよりも
更に大人のかっこよさを漂わせた元箱根学園エーススプリンター、現在は国内でも有名な
トップスプリンターの一人として名高い新開さんが携帯片手に微笑んでいるではないか。
相手を確認すると今泉君は電話を切り、軽く頭を下げて挨拶の仕草をみせたので、
ボク達も同様に続くと、固いのは無しだと手を左右に振りながら目の前までやってきて、新開さんは足を止めた。


「ヒューさすが時間通り、今泉君はベストなタイミングを分かっているね」

「たまたまですよ、時間に遅れないのはルールというか当然のことですから」

「全く、言うこともカッコいいねぇ～君は。」


なんだか不思議な光景だ、こんなに近くて新開さんを見るのは、もしかしてこれが初めてかもしれない。
ボクにはどちらかというと弟の悠人君の方が同じクライマーだし、二度目のインターハイで会っているせいか印象が強い。
今泉君が新開さんと知り合いだったことにボクも鳴子君も意外だという印象を受けながら、
２人の間に視線を動かしていると、視線に気がついた新開さんが此方へと視線を向けて手を差し出してみせた。


「おめさんが小野田坂道君で、赤いほうが鳴子章吉君だね。
とうの昔に知り合ってるのに、ずいぶん年月が経ってから改めて名乗るのも
不思議な感じがするが、新開隼人だ。おめさん達の活躍は方々で聞いてるよ、ヨロシク」


「ワイもあっちこっちのレースで変わらずの噂は聞いてますわ、ヨロシクおおきに。」

「こちらこそよろしくお願いします、あの、新開さん、本日はお迎えありがとうございます！」


交互に握手と挨拶を済ませると、積もる話も詳しい話も移動中で構わないかい？と、
数メートル先にある大型のビックホーン系の車を親指で指し示した。どうやらあれが迎えの車らしい。
ついうっかり話し込みそうになってしまったけどここは駅前の往来の場所、立ち話は人の邪魔になるよね。
先を歩き始める新開さんに続いてボク達も後に続き、徐々に車へ近づくにつれて運転席に誰か座っているようだった。
ボクはてっきり東堂庵の送迎用の車が来ているのかと思っていたけど、見た目は完全な
個人所有車だし東堂さんが乗っているイメージも無い。じゃあ、あの車は新開さんが運転してきたんだろうか？


「あれ、新開さん、車運転するんすか？」

「ん～一応持ってるがあんまり乗らないな、二輪の方が動きやすくてそればっかりだよ。
それにアレはオレの車じゃない、待たせて悪いな寿一、三人ご一行様到着だ」


鳴子君の疑問に答えながら、新開さんが後部席のドアを開くと、
そうでもないと低くて威厳のある声が返答を返してみせた。
そのお名前に声、間違いない…恐る恐る覗いてみると、運転席に座っていたのは、
あの頃と雰囲気もそのままに、更に貫禄に磨きがかかった福富さんが座っているのが見えた。
これはなかなかの迫力がある。驚いている暇も無く、言葉で背を急がされたボク達は
雰囲気に呑まれ気味のまま、いそいそと全員が乗り込むと、福富さんはハンドルを握って車を走らせ始めた。
さっきは不思議な気分だったけど、今はそれを通り越して妙な具合になりつつある…
とてもこんなこと、ボクは予想もしていなかったんだから。あ、でも東堂さんの手紙に
『旧友も大勢呼んである』って書いてあったから…そうだよ、東堂さんは箱根学園の人なんだから人選は当然といえば当然のことなんだ。


「交換してもらっちゃって悪いね今泉君、オレどうにも助手席って苦手でさ」

「いえ、オレは良いんですけど後ろの二人を萎縮させないで下さいね、
新開さん。あ、福富さん信号赤です」

「うむ、やはり人通りの多い場所の車は不便だな…」


観光地ということもあって、車は信号や横断者に捕まり、細々と停車を繰り返す中、
助手席でも物怖じする様子も無い今泉くんと、自転車以外の見慣れない運転姿を披露する福富さん。
いつの間にかボクの手にはメロンパンが二つ、鳴子君は既に食べ始めていて、
食いっぷりがイイと笑顔で言う新開さんは既に一袋食べ終えたらしく、二つ目に手を付け始めたらしかった。


「今泉君とは遠征した地方のレースで偶然会ってね、
前にも増して良い走りをする選手になっていると寿一に話したんだ。
寿一はモチベーションの高い選手が好きだし、今泉君には素質も才能も
充分だってことは高校時代のレースでよく見ていたから、そこから一緒にメシ食ったり、
地元もわりと近いし、予定が合えばレース以外でも走りに誘ったりするようになったのさ。」

「へぇ～、スカシそんなこと一言も話さへんから、今日の様子で随分親しそうなの見てワイ何事かと思ったわ」

「彼、必要以上の事を話さないフシがあるからね。ところで寿一もパン食う？」

「いや、オレはいい。新開もほどほどにしておけ、他の奴も匂いでこの先の山道で酔わんようにな」


無表情で福富さんが断ると、差し出した手を引っ込めて、新開さんはそのまま自分の口にパンを頬張った。
田所さんも食べる人だったけど、この人も変わりないみたいだ。そんな会話をする中でも車は順調に走行を続け、
景色も建物から木々がメインとなり、傾斜もキツくなってきている。箱根の山道へと入り始めたんだ、と、
ボクは椅子に背を預けて酔いを回避することにした。携帯で時間を見てみると、時刻は夕方１７時前だっていうのに、
街中よりも随分と暗いものに感じ、時折カーブの先に見えるライトが徐々に眩しさを感じ始めるくらい…
それが、どことなく寂しく移り、周りに人がいるのに心細さえ覚えた。


「どうした、小野田」

「ひゃっ、は、はいっ…！」


急に声を掛けられたせいで、思わず変な声で返事を始めてしまった。
視線を上げると、ルームミラーに写る福富さんと一瞬だけ目が合ったけど、
すぐにそれは前を向きなおして、変わりに声が聞こえてきた。


「本来ならばお前達を迎えに来るのは、実は金城だったんだ。
しかし別件で、代わりにオレと新開が迎えを引き受けたのだ。
今頃は用事も済ませて東堂庵に向かっている頃だろう、もう一つ、この車は金城からの借り物だ。
午前中に打ち合わせた時、オレの車では５人は定員オーバーだと伝えたところ車を交換する話になった。
既に田所と泉田は現地で準備をしている、荒北は真波を拾って来るように言ってあるから
オレ達よりは先に着いているだろう。どうだ、これで少しは落ち着くか、小野田」


福富さんは、いつから気がついていたんだろう。車に乗ってからは
聞き手に回っていたのは確かだけど、つまらないわけじゃない。ただ、久しぶりに感じる
学生時代の賑やかな雰囲気に、どうしたら良いのか流されるままに戸惑っていたのはある。
そんな緊張していたボクに気遣いをくれるあたり、福富さんの器量を垣間見た気がした。
一瞬でそれをボクが感じたのだから、新開さんをはじめ、箱根学園のメンバーさんの信頼は遥か想像の上を行くものだろう。


「ありがとうございます、福富さん。久しぶりに知っている人にいっぺんに会って、
自分でも知らないうちに緊張していたみたいです、でも、おかげで落ち着きました。」


「そうか、それならば良い」


そう言うと、また福富さんは黙々と運転に集中し、目的地に到着するまで一言も話さなかった。
と、いってもボクの記憶は途中までしか無くて、今泉君と鳴子君の会話を微かに耳にしながら、
薄暗さと心地よい車の揺れ、なにより安心感に瞼が自然と下りてきた。

『坂道にちょっと変わったプレゼントを用意したショ、気に入ってくれるといいんだが…』

気に入らないはずが無いですよ、巻島さんがボクにしてくることはいつだってボクを喜ばせてくれるじゃないですか。
そうだ、東堂庵についたら報告の電話をしてみよう、そして巻島さんにも、協力してくれた東堂さんにも沢山、お礼言わなくちゃ…。


…………


「あらら…眠ってしもたで、小野田くん」

「疲れてたんだろ、着くまでそのまま寝かせておこうぜ」

「そうだな、その方が都合も良いんじゃないか。
今日は彼が主役だし、やってもらうこともある、暫しの休息だな…。
寿一、あとどのくらいだ？」

「１５分、といったところだ…、東堂に電話しておいてくれ、もうじき着くと。」


そんな会話を露とも知らずに…。
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		</content:encoded>
		<dc:subject>-</dc:subject>
		
		<dc:date>2015-01-06T22:32:40+09:00</dc:date>
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		<link>https://cyberspider.novel.wox.cc/entry72.html</link>
		
				
		<title>【夜の口笛】（金荒）</title>

		<description>
冬は人を恋しくさせる。

木枯らし風…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 
冬は人を恋しくさせる。

木枯らし風に寒さが乗り込み、

知らず知らずに忍び寄る。

背中を駆け抜け、頬を過ぎる頃には、

ふっ、と誰かに会いたくなってる。


【夜の口笛】


その日はやけに寒くて、バイト終わりの夜中には既に気温はひとケタを下回ってるんじゃないかってくらい寒かった。
ひと足早く、バイトを上がったオレが、店裏へ出るための通路を歩いていると、既に隙間風に足元は寒さを覚えていた。
出口辺りまで来ると、予想通りに外気の寒さを教えるようなドアノブの冷たい色は、
触れるとバチッ！と軽い音を鳴らした一発の静電気が手袋を忘れた右手に噛み付いてきやがった。
声の変わりに小さく舌を打ちした後、ドアノブを一気に押し開けると、今度は予想していた以上の外気にたまらず首を竦めた。
背後からは通路を通って響く、閉店作業の打音が遠くに聞こえ、いつまでも此処に居たくは無ぇしな、と、
両手をポケットに突っ込み、マフラーに顔を埋めるようにしてオレは家への帰路を目指す為に裏路地を早足で歩き始めた。


「っさっみぃー…寒ぃんだけど…ぁ～……クッソ寒いっ…っ!!」


バイト先から自分の住んでいるアパートまでは徒歩で１５分くらいの場所にある。
冬の夜中に歩きで帰るのは少しだけしんどい距離だが、自転車に乗るほどの事でもない。
それに家に置いておくほうが安心と言えば違いないワケで、結果こうして寒空の下を
労働で疲れた身体を引きずりながら、オレは歩いて帰っている。
それでも、オレの働いている店は他の店舗に比べて閉店時間が早いのか、
幾分帰宅時間は早めだ。耳をすまさなくても未だ近隣では生活音が騒がしく、
建物の隙間から聴こえるガヤガヤとした耳障りの中には飲食店街特有の、
通気口から排出された油臭い空気が漂い包まれている。

このニオイは空っ腹にはキツくて気分も悪くなるんだよねぇ～…
と思うと同時に、オレにとっては今日一日の終わりを告げるものでもあった。
ものの数分も歩けば、人気もだいぶ少なくなり、もう既に眠りの床についている住宅地が姿をあらわすが、
この辺になってくると一転、一人ではどことなく寂しく思えるほど静かで灯りもポツリポツリだ。


「帰ってからどーすっかな…風呂、の前に洗濯、いやまた家出んのはメンドクセぇな…。」


寒さと静けさ、そして空腹の三重苦、疲れをくわえてもいいけど余計そう思えるから止めておこう。
そんなどうしようもないモノを紛らわせるように呟く予定を兼ねた独り言は、
口元のマフラーへ一時的に暖かい息を生んでみせる。だけどちっとも暖まらねぇ…
ヘでもないぜって感じに寒空に吹く夜風がかき消していくんだ。
時偶に襲いかかる風に下を向けば、随分とくたびれたスニーカーが暗闇の中にぼぉっと姿を浮かばせている。
バイト始めるときに買ったからまだ数ヶ月しか経ってねぇのに、所々布が擦れてんじゃんか、
なんか最近厨房通るたびに冷たいかもって思ったのはコレか。

大学に入学して、一人暮らし始めて、バイトしてって思いの外にハードワークを共にしてりゃ消耗するか…。
溜息混じりにくたびれた足元から視線を上げれば、そこはもう見慣れたアパートの近所の風景に変わってて、
あ、もうすぐ家じゃん、と、擦り気味だった足に力を入れて歩幅を正すように歩きを変えながらオレは大きく息を吐いた。
身体は疲れてっけど今晩はいくらか気分は晴れやかなのだ、明日は完全な休み、一体何日ぶりの完全オフだろうか。
明日は大学も休みでバイトも無い、ここ一週間出突っ張りだった御褒美だと帰りがけに店長が急遽休みにしてくれたんだ。


「掃除も簡単にやって、メシは、まかない貰ってきたヤツ温めりゃ食えるから後回しだな…」


まずやらねばと思い浮かぶのは、２～３日サボった散々たる部屋の片付けだ。
しかし今時間も遅いし、明日が休みなら全部明日に回して、今夜は体力の回復に努めるのが最優先なんだろうとも思う。
気候も不安定で気を抜けば風邪を引きかねないし、現に今も背筋が若干寒い気がしなくもない。
でも多分、暖かいバイト先から出てきたんだし汗が冷えたせいだろうとも思っている。
つかさぁ、当初オレの中の予定では、本当なら次の休みには一日寝てやるくらいのつもりでいたんだぜ？。
ってのに、その予定を変更しようと思ったのは昨日の放課後あたり、だったっけナァ…。


「あ゛っ……買い物っ……」


こんな調子にさ、なぁんか最近…、本調子じゃ無いっつーか、どうにも気分がしっくりこないんだよネェ…。
原因は分かってんだけど、そうさせたのは八割方あっちの間が悪ィのが原因だ。
上着ポケット内へ遊ばせた携帯を取り出して画面を開けば時刻は既に日付を変更して数分経っている。
着信ナシのメールが数通との通知に、ざっと確認してみても特別有用なものは無かったので、またポケットへ押し戻した。


講義でも部活でもここ一ヶ月あまり、オレは金城とまともに顔を合わせてねぇんだよ。


大学の敷地内でチラッと姿を見かける事はあったが会話は無いし、オレもオレで実習やらバイトやらで忙しくしてはいた。
けどさ、それでも時間ある時はなるべく部活に顔を出して走っていたんだぜ。
アイツならどんなに時間が無くても自主練は欠かさないだろうって。
組んで走ってる以上、もし金城が来てて、オレが休みだったらメーワクかけんのも悪ィじゃん。


なんの廻り合せか同じ大学になり、コンビ組むようになってから
オレは金城真護って男をほとほとよく理解した、これは悪い意味じゃ無い。
当初、オレはまだ高校時代同様、金城を外側から眺めてるフシがあって、生来真面目な気質、
無口で勤勉、言葉に違わない走りも正確で無駄がない、福ちゃんにライバルだと認められただけの男ではあるわ、って、そのくらい。
それが内側に入って、一緒に走ってみてのイメージは自転車の上でも大学生活でも大分違って、
同い年にしては出来過ぎな気もする人間性、そして漢気っつーのか、人に好印象を持たせる話し方に聞き上手、
時々冗談も言えるユーモア性。学部内でも部活でもオレの耳にかする程度の会話にも悪ィ噂を耳にしたことが今のところない。


総合的に言えるのは何をとっても完璧な金城真護に妥協や甘えは無ェだろ。
仮にもし、そんな考えが塵にひとつにもあったなら、オレは金城のアシストを務めてはいない、それどころか近寄りもしねぇハズだ。
とにかく、部活にさえ出ていればいくらなんでもどっかでかち合うだろうって思ってた一ヶ月前、現実はそう上手くはいかなかった。


『金城なら昨日来てたぜ、お前確か実習で出られ無かったよな？荒北』


『えっ、お前すれ違わなかったのか、金城なら今さっき電話が鳴って学部に走って戻ってたぞ』


『今日は休みだってさっき来て言ってったばっかだぞ、ほらさっさと用意しろ、練習出るぞ荒北』


「…ぁ～……っ……ックシュッ…!!」


ナニコレ、こんなすれ違いってバカがつくほど有り得ない確率ジャナアイ？
金城も金城だ、今日は出られるとか、少し時間が取れるとかメール一本くれりゃ無駄骨に気の回しもしなくて済むんだ。
ゴチャゴチャ考えんのは好きじゃねぇし得意じゃ無ェんだよ、みてみろ具合まで悪くなってきたじゃねぇか。
鼻先に擦れでもして発射されたクシャミが、寒気のあった背中に本格的な悪寒を走らせた。
指先で巻いていたマフラーを引き下ろし、啜った後に大きく空気を吸い込んでみると、
寒いながらも身が締まるような、少しだけ呼吸が良くなるように思える。

はぁ…。吐いた息が白い、ますます気温は下がって来てるらしいな、こりゃあ。
それを証拠に夜空は澄んで、さして田舎でもないのに星がわりかし綺麗に見えて瞬いている、雲もない。
上空では強い風が吹いてんだ、耳には聞こえないがきっと口笛みたいな高い音を鳴り響かせながら、この寒空を駆け抜けてるんだろう。


「…ぐずっ……～…ぁ～…」


そういえば、昔ばあちゃんが『夜に口笛を吹くと蛇が出る』って話してたっけな
、話を真っ向に信じてガキの頃は本気にしてマジでビビったぜ。
でも後々になって蛇じゃなくて邪が寄ってくるって知った時は怖がって損したと思ったのを覚えている。
行儀躾の一環にしても昔の人間は上手いことを言ったもんだ。
今オレがヘビと言って連想されるのは、金城の二つ名である【石道の蛇】。
何があっても決して諦めない蛇のような男だとか、なんだとか…
高校時代その名は広く知れ渡っていて、興味無いオレだって知ってるつーの。
それならば一つ試してみようじゃないか、その面白そうな大昔の迷信を。
待ってるだのってのはオレの性分じゃ無い、大人しく構えてるのも違うだろ。
だったら、だ、攻めてみるのもアリじゃねぇかな、蛇でも邪でも出てみろってんだ。
見上げていた星空から視線を真っ直ぐに見据えながら、寂しく灯る弱い街灯の光を映しながら
オレは唇を窄めてひとふき、小さく音を鳴らしてみせた。


その音は、随分久しぶりに吹いたせいと、寒くて唇が固くなってたのかとてつもなくマヌケな音になってしまった。
うわ下手クソ、夜に吹く以前の話だぜ、こんなに下手クソだったっけ。
もう一度挑戦、今度は素早く息を吸い込み、窄めた唇の間から吹いてみるとさっきよりは幾分かマシな音となった。
オレの耳にさえ微妙に聴こえるか否かの鳴りが、本人はおろか誰かに届くわけも無いのに、
迷信に頼ってまでオレは金城の顔が見たいのかって言われりゃ…それも否定し難い。
ま、どっちでもいい、あと数時間後に日が昇ったなら、金城の家に乗り込んで一発怒鳴ってやろうと決めてんだから。
何やってんだと自分の行動を鼻で笑い飛ばし、気持ちだけは「やってやった」の満足感を持ちながら
再びマフラーで口元まで覆い、残り少なくなった帰路の足を早めた。
大分時間を食った上にこのままチンタラしてたんじゃマジで風邪引いちまう。とりあえず風呂入ろう、そっからメシ食って体力つけなきゃネ。


そんな一人遊びをするうちに、直ぐ隣の壁の先はアパートというところまで来ていた。
早足から駆け足に変えて門を括り、コンクリート打ちっぱなしの階段を軽音な足音で駆け上がっていくと、先に誰か人の気配があるのが分かった。
このアパートにはオレの他にも学生が住んでるのはチラホラと見かけてたし、呑みか遊びかで午前様…ってか。


「おかえり、荒北」


あと数段で登りきる、視界には半分だけ二階の踊り場が見え始めたと思った時だった。
つめたく冷えた耳に聞こえた声に上へと視線を向けると、その声の主はオレの姿を見留めたらしく、
片手にしていた携帯を上着のポケットへしまいながら白い息と共におかえりを言ってみせた。

ビックリしたわ、まさか向こうから来てるとは思って無かったぜ。


「オイ、こんな時間にオレん家の前で何やってんだよ、金城。一歩間違えば不審者だかんね、ソレ」


「そうか…言われればそうかもしれなかったな、しかし幸いにも誰も通らなかったぞ。」


残りの階段を駆け上がり、家のドアの前で二人並んでみると暗がりと同じような色のコートを着た金城は微笑んだ。
メガネ越しの優しさをみせる力強い瞳と、少しだけ赤い鼻の頭がミスマッチで何か笑える。
様子を見るかぎり待っていたのは１０分２０分の話じゃ無さそうだ。


「今やっているレポートに、漸く片付く目処が立ったので出てきたんだがお前が留守でな、もう夜中だが、メシでもどうかと思って待っていたんだ」


「だったら先にメールよこせよォ、つかさ、近くにコンビニもあンのにこんな寒い場所で待ってなくても良かったダロ。」


ポケットやカバンに手を突っ込み、探り当てた家の鍵は勿論冷たかった。
冷えていた手の熱はおろか、指先まで感覚を麻痺させてきやがる。
教訓、次は手袋を忘れない、多分テーブルの上に出しっぱなしになってると思うんだよねぇ…。


「最初に」

「ぁ、何っ…？」

「最初におかえりを言いたかったんだ」


ガシャリ。鍵穴の目標を得ず、空回りするばかりの金属音の中で、金城の言葉がオレの的を得た。
さっき『おかえり』と言われたときには驚いたのは自分でも分かる、でも、今の理由は
心臓に直接衝撃を与えられたように結構な衝撃が打ち与えられたのが分かった。
間の抜けた顔で金城を見ていると、今度は金城が小さく声を出して笑顔をみせた。


「レポートの疲れが飛ぶくらい面白い顔だな、荒北」

「ぇっ…あっ」

「鍵、借りるぞ」


言うが早いか金城はオレの手から鍵を取り上げ、変わりに何かを投げよこしてきた。
冷たい鍵のかわりに投げられたそれは白く、手の平にじんわりと温かい熱を生んでいる。
『それで少し手を温めておくといい、さて、開いたぞ』ものの数秒の作業に、オレがあれだけ苦戦していたドアは開かれ、
真っ暗な室内が視界に映ると、背中をポンと叩かれる感覚にオレは我にかえった。


「どうした、オレも寒いんだ。家主のお前が入らなければオレも入れないんだが…」


隣で微笑む金城の言葉と同じ時、吹き抜けの通路に冷たい夜風が吹き抜けた。
その音は低くもあり、高くもある、強弱のままならない調子っ外れの口笛のように聞こえ、
視線で追う頃には、姿無きそれは遠くに打ち解けて消えてしまっていた。


「言っとくケド散らかってっから、あと思ってるより部屋寒ィよ…」

「構わない、オレの部屋も大差無いし、ココより幾分もマシだ」

「あっそ…暫くコート着たまんまでいてね、オレもマフラー取らないから。」


短い受け答えもそこそこに、オレは敷居を跨ぎ、自分の家へと帰宅した。
部屋の中は言葉通りに寒いハズなのに、頬だけが異様に熱く感じる。
さっきまであんなに寒かったのに、これじゃたとえ部屋が暖かかったとしてもすぐにはマフラーを外せそうに無いじゃん。


そこからは二人で部屋片付けたり、メシの用意をしたりと忙しくしていたが、間に金城は一ヶ月連絡をしなかった理由を話してくれた。
研究レポが忙しかったのも一つ、時間を見つけて部活に顔を出しても、今度はオレが実習で居なかったらしく、
忙しいところに無理に連絡を取るのも悪いと思ったんだと。


「お前と練習に出られない日は走っていても本調子ではなかったな。
タイミングも狙ったように外してしまったようだし、合わないならば自分の課題をさっさと片付けてしまう方が良いと考えたんだ。」


「真面目チャンがぁ…遠慮し過ぎなんだよ、無理してっといつか爆発しちまうぜ？」


「次回からは気をつけよう、しかし今日は待ってでも会えて良かったと思っている。」


「なんで？」


「お前は目を放すと知らずに無茶をするからな、顔は疲れているが痩せた様子も無く安心した」


相手の事を考える金城らしい理由だったが、凸凹コンビにも程がある。
人のこと言えないだろ、コイツには誰か心配してやるヤツが必要…その心配は無いか。
オレも結構、気を揉んでたし、次、連絡来なかったらメールどころか家に押しかけてやろう、今日の御返しに。
休み明けにはレポートが出せる、そうすれば練習に専念できると嬉しそうに話す金城に
出来なかった分を取り戻すぞ、と、冷蔵庫に２本だけあった缶ビールを開けて、ひと足早いお疲れ様をオレは言った。


夜に口笛を吹くと蛇が出る。
しかし、やってきたのは蛇でも邪でも無かった。
馬鹿に出来ない、昔の人の言うことは聞いておくもんなんだ。


【END】


＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝

金城さんBDに書きました金荒です。
最近このお二人が可愛くてたまりません、すっかり沼と化しています。
巻坂とはまた違う、少し大人になった大学生同士の恋愛ってとっても魅力的！
いずれ待宮君を交えてお酒でも飲んでるお話が書ければいいなと思っています。
大学生の色気って恐ろしい、L仔でした！

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		</content:encoded>
		<dc:subject>-</dc:subject>
		
		<dc:date>2014-12-11T23:36:31+09:00</dc:date>
		<dc:creator></dc:creator>
		<dc:publisher>WOX</dc:publisher>
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	<item rdf:about="https://cyberspider.novel.wox.cc/entry71.html">
		<link>https://cyberspider.novel.wox.cc/entry71.html</link>
		
				
		<title>【君の気持ちを知りたくて】（巻坂）</title>

		<description>
恋をしたらしい、そう感じたのはいつか…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 
恋をしたらしい、そう感じたのはいつからだったかも曖昧なくらい
小野田坂道が気になり出したのは自然な成り行きだった。
高校三年生になって初めて出来た後輩クライマーは初見、全くそんな期待もしていなかったんだが
ウェルカムレースで見せた健闘と意外性にどれだけ驚きと興奮したか、その記憶は今だ真新しく蘇る。
インターハイに向けて行われた合宿の時もまだまだ何も分からないままだってのにハンディを与えられての1000キロ走破課題。
正直ちっと酷なんじゃねぇーかなって思いと、それでも頑張って欲しいって思いが混じる中で、
坂道の真っ直ぐにただ一向ペダルを回す姿にその背中を押してやりたいと思ったんだ。

誰かの事をこんなにも知りたいと思ったことは今までには多分無いショ。
だがまだまだ知らない事の方が多い、オレが知っている事といえばアニメが好きで坂を登るのが好き、せいぜいそのくらい。
逆に言えば坂道のオレへのイメージは先輩でクライマーでグラビア好きぐらいなんじゃないだろうか。
口下手で人から何かを聞き出すって事がどうにも苦手なオレが相手の事を知るにはどうしたらいいんだ…？
そんな悩みを抱えた、とある夏はじめの放課後にオレへチャンスがやってきた。



「おい、ちょっと待つショ坂道」

「はい？」


インターハイの日程も近付いてきている夏はじめの放課後練習前。
さて今日も登るショ、と自分のロッカーを開けて、オレはあることに気が付いた。
ストックしておいた粉ポカリが一杯分にも足らない、そういやそろそろ無くなりそうだからって
家の買い置き持ってこようと思ってたのをすっかりと忘れていたのだ。
あっ、と一言声を漏らして暫くロッカーの中を見つめていたが、そうやってても残り量が湧いて増えるわけでも無い。
仕方無い、今日は部室の予備を分けてもらうかとマネージャーを探すと、用事で休みだと
通り掛けの手嶋が備品の入ったダンボールを両手に教えてくれた。
マジかよ、校内の自販機にポカリあったか…でも出来れば冷たいのは飲みたくないショ。


もし無ければ飲み物なしの練習は有り得ないから最悪そうするしかないかと思っていると
隣にすっと現れた人影、この部活の主将ですっかり支度を終えた金城だった。
事情を話すと、ちょうど部室にある予備も少なくなっているからすまないが買出しに行ってきてくれると助かる、との事。
普段はマネージャーの仕事だし、部室内のストックが切れていても自分のを持っているのが普通なんだが今回はどっちも叶わない。
たまにはいいか、と、オレはその買出しを引き受ける事にした。


着替えてちゃ時間も係るかと制服のまま部室を出ていこうと、扉に手を掛けて開くと薄暗い室内から野外の日差しは思いの外眩しかった。
熱いしさっさと出掛けるか、と片手で日差しを遮って一歩を出ようとすると、今度は目の前に逆光で浮き出た小さな人影が現れた。
慣れた目で視線を全身に這わせると短めの黒髪、開けようとして伸ばした手のカタチそのままの制服姿の坂道がそこにちょこんと立っている。
何処に行くんですか？と言いたげな視線を察し、ちょっと買出しに行ってくるからと言うと
良ければ一緒に行きたいという申し出に、一人よか二人の方が良いかもな、と、ポンと肩を叩いて行こうかと二人で部室を後にした。


「なんで今日に限ってママチャリ乗ってるっショ？」

「あっ、エヘヘ…実は、ですね…//；」


ドラックストアーまでは裏門坂を下って自転車なら１０分くらいの距離だ。
余裕をみて往復３０分内には帰ってこれるだろうと予想を立てながら愛車に手を掛けていると
横視界に映ったのはクロモリ車では無くいつぞやの懐かしいママチャリを手にした坂道の姿があるではないか。
メンテ中か、いやでもさっき部室内に坂道の自転車は無かったと思うが…。
いざ跨ろうとしていた右足を下ろし、ママチャリを凝視していると坂道は少し恥ずかしそうに理由を話し始めた。


「実はボク、今朝寝坊してしまって学校にくるのギリギリな時間だったんです。
昨日の夜目覚まし時計セットし忘れちゃったみたいで…
それで大慌てで準備して玄関を飛び出したんですけど何故かいつもの場所に自転車が無くて…」


「なに、盗まれたのか；？」

「い、いえいえいえいえっ!!一時限目終わった休み時間に母さんに電話して確認したら、
今朝洗濯物干すのに場所を移動したって言ってました、いつもボクが家を出た後に
洗濯物干してるみたいなんですけど寝坊でいつもと順番が逆になっちゃったんです…//；」


照れ隠しの苦笑いで話す坂道を見ていると今朝いかにコイツが焦っていたかが想像出来る。
焦っている時ほど捜し物は見つからないって事はよくあることだ、
何にせよ盗まれたり壊れてなくて良かったなと思いつつオレは笑い声を一つ漏らした。


「クハッ、それでママチャリに飛び乗って来たってワケか」

「ハイ、学校には間に合ったんで良かったんですけど寝坊しないように気をつけようって思いました//；」


一部始終を話し終えると、坂道は自転車に跨りいつでも行けますとハンドルを握ってみせた。
しかしママチャリとロードで一緒に走った場合、坂道の足なら何の問題も無くついてくる事は分かっているが
パッと見どうよ…なんだかオレがいじめてるみたいでカッコ悪い気がする。


「あー…、歩くわ、オレ」

「えぇっ…!!どうしたんですか巻島さんっ!!」


オレの言葉に驚いたらしく坂道は大きな瞳を更に大きくしてみせた。
そんな驚かなくったっていいショと思いつつ、スタンドに自転車をかけている間も、
じっと見られているのが背中で分かった。


「大丈夫だ、調子悪いとか怪我とかじゃ無いショ」

「ほ、本当ですか…もし体調悪いんでしたらボクが行ってきますから巻島さんは無理しないで下さい」


「別にどこも悪くは無いショ、それにオレが頼まれた買い物だぜ？お前だけ行かせるワケにいかないショ、ホラ、行くぞ」


坂道の心配そうな顔を他所に、声をかけて足早に歩き出すと背後から自転車を押して続く音が聞こえ始めた。
学校舎を横目に部活動で賑わうグランド脇を抜けて裏門までやってくると、傾斜のキツい心臓破りの坂が姿を現す。
オレ達のようなクライマーでも無い限り流石に使われない道なんだろう、下校する生徒の姿も車通りも無く、同じ学校内だってのにとても静かだった。
しっかし練習で慣れてるとはいえ改めて見ると傾斜のキツい下り坂ショ、
自転車に乗っている時にはこんなモン当たり前に思えるのに歩きだと感覚がまるで違う。
一歩を踏み出すと斜めに伝わる足裏の感覚、前のめりに引っ張られる重力に身体を支えても脚は自然と小走りになっていた。


「オレに構わずお前はソイツに乗ってって構わないぜ」


ハンドルをしっかりと握り車体を支えながら一歩を慎重に下る坂道に視線を向けと
大きく首を降り、一歩を半歩に変えながら坂道は微笑みながら口を開いた。


「そうはいきません、ボクが一緒に行きたいってのに巻島さんより先に降りてしまうのは失礼です。
自転車はちょっと重いけど、風も気持ちいいし大丈夫です!!」


屈託の無い笑顔に見つめられると何故か自然に頬へ熱が集まっていく気がする、擽ったいようなそれでいて引きつってしまう頬。
隠すようにオレは下を向いて、そうか、と一言だけ呟いて答えた。
その中で坂道の引くママチャリがカラカラと音を立てるのが何故かとても心地良く聞こえ、
熱を交えつつも涼しい風が吹く中で、周囲の森林を鳴らしつつ吹く音と並んで耳を揺らしているようだった。


「なぁ坂道、お前ロード乗るまでそのママチャリで毎朝ここ登校してたんだよな」

「はい、そうです」

「感覚…比べるのもヘンだが全然違うショ、なんつーかスゴイな」

「えっ、いや、そんなスゴクなんて全然無いですよっ!!」


サドルに手を掛けながら坂道に視線を向けると、急に言われてびっくりしたのか
自転車を掴んでいることも忘れて両手を放したのでサドルからハンドルへ手を伸ばし慌てて車体を支えにかかった。
思ったより全然重いショ…っ、ずしっと伸し掛るような感じたことのない自転車の重みに
今度はオレが一瞬焦ったが直ぐに体勢を立て直し、無事に自転車も自分も倒れずに済んだ。


「あっ、あわわわスイマセン！ゴメンナサイ!!大丈夫でしたでしょうか巻島さんっ；!!」

「と、とりあえず平気ショ…//；」


随分と長く乗っているらしく坂道の両手にしっかりと握られたハンドルも
形状は似ているが重そうなサドルも、よく使い込まれていて大切に乗っているって事が
見た目にも伝わり、証拠に陽の光を受けて鈍く照らされていた。
今でこそ当たり前のようにロードを乗りこなしてはいるが、コイツは今も変わらずに坂道の相棒なんだと分かる。


「へぇ～…ママチャリってこんなに重いモンなんだな、予想以上ショ」


「そう、ですね…ボクは逆にロードに乗ったとき自転車ってこんなに軽いものなんだって驚きましたけど//；」


「でも、普通は直ぐに乗りこなせるもんじゃねぇーんだよ、金城も田所っちも言ってたろ？
しかもこの重い車体で軽々と坂を登るってんだから、オレにはちょっと想像がつかないショ。
…あと少しで下り終わるな、このまま引いてっても良いか、坂道」


「ええっ、そんな巻島さんのご迷惑には…っ」


「良いんだ、オレがそうしたいんだから」


今まで数回、触ったことが歩かないかのママチャリの感触は馴れなくも新鮮にオレには思えた。
ロードに出会うまで、このママチャリは坂道と一緒に様々な場所に行き、沢山のものを見てきたに違いない。
その全てを想像するのは不可能だし、記憶のヒト欠片にでも触れられたら少しは坂道を知ることが出来るのにな…
ぼんやりとそんな事を思っていると、隣を歩く坂道が少しだけ口ためらったように二三言呟いだのが聞こえ、
どうしたと声をかけようとした時、その顔がオレの方を向いた。


「そういえば、巻島さんにはお話したこと無かったですよね、ボク、総北高校に入学したら本当はアニ研に入りたかったんです。」


「アニ研…、そんな部活あったショ？」


一年二年前の記憶を辿るも、自転車以外に選択肢の思いつかなかったオレにとっては他の部活動の事など考える事も無かった。
アニ研なんて部活あったのかと思いつつも、反面、これは言ったらまずかったかと思い直してもみたが
知らなかった事実がある以上、どっちにしても相槌を取り消すことは不可能だ。


「ハイ、ボクが入学する前に活動停止になっちゃったみたいなんですけど…。
中学校ではフィギュアとかアニメとか、好きなものを広げて話す友達も、話題の合う同級生もいなくてずっと一人でした。
唯一、週末にこの自転車でアキバまで通うのが楽しみで、早く休みにならないかなって一週間を数えてました。
高校に入学したら、アニ研でいっぱい友達つくって放課後みんなでアキバに行って…なんて楽しい妄想してたんです。」


しかしオレの心配を他所に、思い出を嬉しそうに話す坂道、しかし時折混じる切ない声色は見てとれた。
以前に部室で広げられたクロマニュというフィギュアを思い出せば、いかに坂道がアニメやフィギュアに情熱を注いでいるかは伺い知れる。
好きなものを抑制されて過ごした中学時代、唯一の楽しみである週末のアキバ遠征渡航、
往復９０キロの道のりも苦にはならなかったんだろうさ、それを支えてくれていたのが、今、オレの手で道を下る
このママチャリかと思うと、少しだけ手の震える思いがする、コイツは尊敬に値するショ。


「あっ、でも、今はすごく充実しています!自転車競技部に入った事、全然後悔してません!
部活の皆さんは優しいし、鳴子君と一緒にアキバにも行けてます、今泉君とも時々アニメの話もします。
主将さんや田所さん、手嶋さんに青八木さんも良くしてくれますし、皆さん優しくてボクはとっても楽しいです！
それと、こういっては少しヘンかも知れませんが…なにより、巻島さんに出会うことが出来てボクはますます走るのが好きになりました。
みんなで一緒に走っているときもそうですけど、坂を登る巻島さんの背中を見ると、とってもカッコイイしワクワクして仕方ないんです。」


それは心底に楽しいと言える表情だった。
様々な偶然が重なって坂道はウチ（自転車競技部）に入部することになったわけだが、
走るのが好き、自転車が好きなんてこんな真っ直ぐな目をして言うヤツはそうそう出会った事がない。
その気持ち分かるショ、坂道。クライマーの後輩が出来たと歓喜した放課後が思い出され、オレも頬が少しだけ緩んだ。


「そいつは、何よりショ、胸高鳴るモンがあるってのはイイことだ、少しベタ褒めし過ぎな気もするがな」


「そんな事ありません、目標にする、なんて大それた事が言えるほどボクには経験も実力もありません。
けれど、これから沢山練習してもっと走れるようになりたいです、何よりボク、巻島さんも自転車も好きなので//！」


「っえっ…」


最後、今、なんて言った…？突如として耳を貫いていった単語に後ろ頭がざわざわする。
落ち着け、違う、坂道はそういう意味で言ったんじゃ無い…現に今だって言った事もよく分かって無い顔してるショ!!
けど心を騒がすには充分過ぎる言葉になんて返事をしていいか誰か切実に教えて欲しショ。
重症だ、打ち解けて話してくれたってのにオレの方がからっきしダメじゃ意味ないだろ。


「そ、そろそろ坂終わるショ、歩くと下りは長いなぁ…～！」


どうにか動揺した心を落ち着けようとするも、変な返事しか思いつかず、
あさっての方向を向きながら言うのが精一杯だった。
くわえて時より風に煽られでもしたのか、足元にひやりとしつつも、
オレ達は無事に坂を徒歩で下り終える事ができ、学校下の開けた長い直線道路が視界いっぱいに姿を映した。
今だ落ち着かぬ心情で、ぐっとブレーキを握って車体を止め、
持ち主である坂道へママチャリを引き渡すとオレは気付き知れないように一度深呼吸をした。
まだ心拍数が早い、握っていた手の平にはじんわりとした汗の感覚もある、
それを隠すようにポケットに突っこんで早いとこ目的のドラックストアに向かおうと歩きだした時だった。


「あの、巻島さん、ちょっとまってください！」


背後から呼び止められ、別に悪いこともしていないハズの背中がギクリと跳ねた。
恐る恐る後ろを振り返ると、持ち主の手におさまり、存在をいっそう露わにしたママチャリと坂道という絵になるシルエットがあった。
カラカラと自転車を進めながら、坂道をオレの隣までやってくると軽やかに自転車に跨り、柔らかくも澄んだ瞳で後方の席を手で指し示した。


「本当はやっちゃいけないんですけど、ここなら人も車もいませんし、少しだけどうぞ！」


「どうぞ、って…何をショ？」


添えられた手の指し示す先には、荷台とでも言うのか金属製の平たい場所があった。
ロードには当然、こんな場所は無いしと戸惑っていると、何かに気がついたらしい坂道が
慌てて自転車を折り、ポケットからハンカチを取り出して荷台を吹き始めた。


「スミマセン!!気がつかなくてっ、汚れた場所に巻島さんを座らせるわけにはいかないですよねっ；
…さ、これである程度は綺麗になったと思います、少しお尻痛いかも知れませんが、遠慮せずに乗ってください」


再びママチャリに跨り、先程よりも輝かせた瞳で意思を固めた表情をみせる坂道。
コレは俗にいう二人乗り、二ケツってやつだろうと雰囲気で察したオレは同時に両手を前に添えて身を引いた。


「いや、だって、オレとお前じゃ身体のバランス違うし、仮に転びでもしたら大怪我するぞ；？」


「大丈夫です、ボクにはおまじないがありますし、いつも荷物背負ってアキバまで漕いでます。
それに巻島さんがスゴイって褒めてくれたこのママチャリもきっと喜んでます、良ければ乗ってあげてください//」


おまじないって何ショ；、でも確かに坂道のバランス感覚はオレもよく知っているし信頼しているのはある。
どちらにしてもとても断れる雰囲気ではないと察し、小さな身体の支える車体の荷台に手をかけてゆっくり跨り、
両足を地面にしっかりと着けた状態で前を見れば、自分より小さな背中が視界を占拠していた。
初めて見る光景に不安と未知への好奇心が相まって再び心拍数が上がっていくのが分かる。
ブツブツと何かを唱える坂道も準備ができたらしく、よし、とキレの良い一言を発したのがオレの耳に届いた。


「いいか、無理だったら直ぐに言うショ」

「ハイっ、では、行きますっ!!」


片足をペダルに掛け、勢い良く最初のひと漕ぎを踏み込み、
間髪いれずに地面へ付けていた足もペダルに乗せ坂道はゆっくりと自転車を漕ぎ始めた。
若干あった恐怖心からズルズルと地面を擦るオレの靴底の音に気が付いた坂道が、
サイドに足を乗せてくれと指示を出し、手探りならぬ足探りで膝を曲げ、地面から足を完全に放してみれば独特に浮遊感が生まれた。
最初に心配していたバランスの問題も、初めての二人乗りも、坂道の強い漕ぎにかき消され
、両サイドをゆっくりと流れる風景をみるまでの心の余裕も生まれていた。
たって並ぶと小さく見える背中が今はどうしてこんなに大きく見えるんだろうか、
いつもと風景が逆転してるショ。それが可笑しくて、でも、たまらなくオレには楽しく思えて仕方がない。


「ヒーメヒメヒメ♪ヒメ♪好き好き大好きヒメ♪ヒメ♪きらきらりん☆彡」


どこかで聞き覚えのある、馴染みのない歌が背中を通して耳に聞こえてくる。
そっと目を閉じれば視界は遮断されるが、そこには確かに小さな背中がある。
知りたいと願った坂道の彼是、そして分け隔てなく自転車を大切にしている気持ちと情熱。
クライムしている時とは違う、不意に生まれはプライベートな自転車の時間は心に愛しさと、とてつもない満足感を運んできた。
今だ明るい夏はじめの青空の下、傍から見ればきっと奇妙な二人乗りの自転車は漕ぎ手のお気に入りの歌と共に目的地を目指す。


望み叶ったり、このお礼は近々しなきゃならないショ…。
そしてそう遠くない先に、お前の口から『カッコイイ』以外の言葉を、さっき聞いた言葉をもう一度言わせてやるからな。
でも今は暫く、この時間をまどろんでいるのもアリだと、坂道の口ずさむ歌と揺れに身を任せた。


【END】



＝＝＝＝＝＝＝＝

おひさしぶりの巻坂でした。この二人書いてるといつも頬が緩むんですよ、なんともなりません幸せですハイ(*´∀｀*)。
以前にTwitterでフォロワーさんのイラストを拝見して『コレだっ!!』と一目惚れしたのがキッカケでした。
当初巻島さんにママチャリ漕いでもらってからの坂道君二ケツにしようかと思ったんですが、
やはりここは専門家にお任せしようと最初から坂道君に漕いでもらうことににしました。
尊い、そして無条件で可愛い巻坂に埋もれたい…あ、いけないヨダレが(´・ω・｀)
次回は時期的にアップしそこねたハロウィン巻坂です、年内には…年内にはっ!!
ありがとうございました。
 ]]>
		</content:encoded>
		<dc:subject>-</dc:subject>
		
		<dc:date>2014-11-19T12:30:54+09:00</dc:date>
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		<dc:publisher>WOX</dc:publisher>
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		<title>～・～</title>

		<description>

「ゴメンナサイっ!!」

「…ぇっ…」…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 

「ゴメンナサイっ!!」

「…ぇっ…」


一瞬、何を言われたのか分からなかったが今、確かにゴメンナサイとコイツは言ったと思う。
驚きに振り返り、視界に映ったのは頭を深々と下げるサカミチの後頭部、少し肩も震えているらしかった。


「昨日のことは驚きました…そして、とっても…怖かったです。
今までで一番、ヤストモさんを怖いと思いました…。
出会った時も、そりゃ怖かったですけど全く別物といいますか…
これが本当の姿なのかなって思うと今にも身体が震えてきそうです…。」


そいつはご感想どーも…当然の反応がここまで来ると新鮮に思えるゼ。
で、なんでお前が謝ってんの？やらかしたのはオレの方なんだぜ？
自分の頭じゃ理解できない事態と言葉に無意味な苛立ちが募っていくばかりだ。


「暫くの間、押し付けられた手が残っているみたいに胸も苦しかったですし、
意識もハッキリするのに時間が係かりました…けど、その中でボク、考えたんです」


「へぇ…考えたネェ…」


両ポケットへ手を突っ込みながら相槌を打つと、下を向いていたサカミチの顔がゆっくりと持ち上がってみせた。
大きな瞳と震える唇、さっきまでアラキタ　ヤストモと楽しげに会話していた面影は今は無い、
反対にカラ笑いに自然と自分の口元が緩んでいくのが良くわかる。
そんなコワい思いしてまでオレに話しかけたんだ、話してみろよ。
一方的で為す術のなかったお前はどんな結論に達したのか聞かせてもらおうじゃねぇの。


「この一ヶ月半の間でヤストモさんと一緒に過ごしている間に、
親しさに慣れて知らず知らずにヤストモさんに失礼な事をしていたんじゃないかなって…。
それを思い出されば一番なんですが、ゴメンナサイ…いくら考えてもわかりませんでした。
中身の無いゴメンナサイが失礼なのは分かってます、けど、ボクは契約が終了する日までヤストモさんには傍にいて欲しいんです。
ボクの魂も荒北さんの魂も差し上げる事は出来ません、けど、たとえヤストモさんが人間じゃ無くたって、せっかく出会えたんだから…っ」


「ハァッ、随分と都合イイ話してんじゃねぇーの、オマエ」

「えっ…」


サカミチの震える声を遮るオレの言葉に目が一瞬だけ大きく開いたのが分かった。
目元にはジワリと滲む涙、コワい思いをしながら言った話がソレかよ。


「お前がオレと一緒に居てぇってのはアラキタ　ヤストモの代役だからだろ？
音信不通の間も会えない間も好きだってヤツにソックリなヤツが傍に居たんだ、さぞや便利だっただろうナァ？
それが今になっていざご本人に会えて、アリガトウなんて抜かしやがってテメェーはどんだけ都合がイイってんだ、いい加減にしやがれっ!!」

「それは違いますっ!!」


今度はサカミチの声がオレの声を遮った。
たった一言だが場面を制止させるにゃ充分な力を持った言葉だった。
後に続いたのは掠れ気味に啜る音、そろそろ涙が溢れてくるに違いない。
しかし、涙の前に出てきたのは尚も違うというサカミチの弁解の言葉だった。


「違います…ヤストモさん…っ…ボクはヤストモさんを荒北さんだと思って、話してた事なんてありません…本当です、っ…」

「嘘クセぇ…最初散々疑ってたの何処の何奴だよ」

「それは…最初は本当に本人じゃないのかって何度も思いました…けど、姿とか声とかは一緒でも
ヤストモさんはヤストモさんだって、昨日荒北さんに会ってから尚の事感じました、人間、悪魔だって事を抜いても全くの別人なんだって。
…それに昨日のありがとうは、違うんです、…」


目元を手の甲で拭いながら苦しそうな声でも話を止めようとはしないサカミチ。
そんな必死になってまで何をオレに伝えたいんだろうか…。
先程までの上目線は消え、ただ単純にその続きを聞いてみたと言葉を待っていると
大きく鼻を啜ってサカミチは大きく息を吐いて話し始めた。


「荒北さんに会えない間、誰かが、傍に居てくれて安心したんです…っ…今泉君や鳴子君とは違う、
あまり人に話せない話を遠慮しないで話せて聞いてくれる…そんな相手がいたことが嬉しかったんです…っ
あと少ししかヤストモさんと一緒にはいられない…最後にちゃんとお礼が言えるかも、ボクにはわかりません…
だから、昨日、荒北さんにちゃんと気持ちが聴けると決心が着いたから、ちゃんとお礼言おうと思って…言ったんです…」


言い終えると今まで我慢していた分の涙が一気に溢れたらしくサカミチは下を向いてそれ以上は泣き声しか聴こえなくなっちまった。
よくクソ天使が人間の感情は複雑だが素晴らしいとか吐かしているが人間の気持ちなんてオレには理解出来ネェ。
カッコ悪ィ…トンだ勘違いしてたのはオレの方かよ…クソカッコ悪ィ…。
だけど此処で言わなきゃならない言葉は知っている、それがヤラカした事態へのケジメの一歩だ。
泣き声に気付きもしないだろうが、足音も静かにサカミチの前へとやってくると
その場に屈んで俯く顎を右手で持ち上げて上を向かせた。


「悪かった、ゴメン」

「……ヤストモ、さん…？」

オレの言葉に面食らった顔で瞳をぱちくりさせながら視線を重ねる。
擦って赤くなった目尻と涙の流れた痕がなんだか痛々しく見えて、自分のヤラカした事を思い知らされずにはいられなかった。


「コワい思いさせたのも、ジョーダンにも魂喰おうとしたのも全部オレが悪かった。
この話はこれで終いだ、二度とお前の魂喰うなんざぁしねぇよ…だから泣くな、サカミチ。」

「…ハイっ…、良かったぁ………//」


そう言ってサカミチは涙の残った瞳のまま今度は柔らかく微笑んでみせた。
今度は笑うのかよ、こんなに感情がコロコロと変わるって生き物も他に無ぇな…。
人間て生き物は面白い、天使の言うこともあながち間違いじゃ無かったってワケだ。
サカミチの顎から手を離し、ゆっくりと屈みから立ち上がるとオレは一度荒っぽく髪を掻きつけた。
やっぱこの笑顔は苦手だわ、焼き付いて離れねぇーつか、イライラとは別にムズムズして仕方無い。
そろそろもう一人も帰ってきそうな雰囲気だしもう一つ言う事言っとかなきゃね…。


「それと一ヶ月、オレの仕事延長になったから、また暫く厄介になっからヨロシク」

「本当ですか…っ、まだまだヤストモさんと話したい事もあったので嬉しいです…っ//」


目の前の笑顔にオレにしか見えないサカミチの魂が鮮やかな暖色が灯ったのがわかった。
強く、そして綺麗に輝くオノダ　サカミチという人間をもっと知ってみたい、と思うと同時に
お前の好きなヤツの生気吸ってオレが此処に居るって知っても、そうやってお前は笑ってくれねぇだろうなとも理解する。
イラナイ感情を知ってしまった、コイツはメンドくせぇー事になりそうなニオイが鼻先を掠めやがる。


「つかさ、どこ行ったか知らねぇけどアラキタ　ヤストモが帰ってくる前に
その顔なんとかしとかねぇーと疑われるぜ、サカミチ」


「えぇっ…そんなヒドイ顔してますか//；」

「笑える程にはネ」

慌てて両手で顔を擦ってみせるが、泣いた痕なんてそう簡単には消えないモンだぜ。
そうこうするうちに玄関先ではドアノブを捻る音が聞こえ、続いてコンビニの袋を片手にしたこの部屋の主が姿を現した。
音に気が付き玄関へ向かうサカミチの背中を見送る視線には自然とアラキタ　ヤストモが映り込んでぼちぼち会話も聞こえ始めてきた。
互いに不幸だなアラキタ　ヤストモ、望んでも居ないのにオレ達は運命共同体になっちまったワケだ。
だが、もしサカミチの期待を裏切るような真似をしたらオレは多分、電話で伝えられた後者の方法を選択するからそのつもりで…と、
甘ったるくなりそうな雰囲気に親指を下げてオレはその場を退散したのだった。

【…続…】
 ]]>
		</content:encoded>
		<dc:subject>-</dc:subject>
		
		<dc:date>2014-11-19T12:28:00+09:00</dc:date>
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		<dc:publisher>WOX</dc:publisher>
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		<title>～８～</title>

		<description>
「……ハァ!?ンだヨそれジョーダンだろ!!?…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 
「……ハァ!?ンだヨそれジョーダンだろ!!??」

お節介な同僚から見透かされた説教を食らっている真下、オレに掛かってきた一本の電話。
あぁ来た来た…と、それ事態には驚きもしなかったが着信応答に出てみりゃそれはオレ直属の上司では無く
隣で今さっきまでオレに説教していた天使の上司からのものだった。
何でだ？なんか妙な感じがスンなとも思ったが別に告知は誰でも同じか、問題は内容だ…。
違和感を覚えつつも耳を張っていると上司は軽い調子で内容を口にし始めた。


「…ッバッカじゃねェのォ!!オレはキャバクラのホステスじゃ無ェっつんだよぉ!!」


それがあまりにもブッ飛んでやがって、ハイソウデスカなんてお利口チャンな返事が出来るわけも無く、
一体どういうことだと携帯がブッ壊れるくらいの大声で相手の耳を劈かんばかりに噛み付いてやった。
しかし説明される内容を聞けば聴くほど頭ン中は混乱していくばっかり、どう聞いても冷静になんてなれやしなかった。


「ナァナァナァ天使サンよォ…今日一日の様子見てたって続ける必要あるかっ!?
それによォ契約終了まで相手の身体が持たねぇーぞ、何考えてやがんだァ!?」


今までの仕事経験上、ミスった事も無いがコレはどう考えてもオカシイ。
しかし一度決定してしまった内容が一悪魔の一言で覆るハズも無く、
オレの反論も虚しく兎に角続行だと伝えられ一方的に電話は切られちまった。
連中が何を考えてんだか全く理解出来ねぇーわ…クッソ…頭ン中がゴチャゴチャしやがる。


「怖いもの知らずだとは思っていたが、未だかつてこんなに処罰に噛み付く輩をオレは見たことが無いぞ…；」


すっかり忘れかけてた存在の声に視線を落とすと自分の携帯を片手にオレを見ている同僚の天使の姿があった。
怒鳴り声にビックリしたのか、掻い摘んで聴いてた話の内容に驚いてるのか知れネェけど、さっさと内容を話せって表情で訴えかけている。
お前、確かオレに偉そうに言ってくれちゃったよナァ？じゃあコレは一体どういう事なんだよ。
さっきの説教と上司の電話内容が相まった不満タラタラな心持ちの中、でもコイツにも関係無い話じゃ無ェよな…と、
通話の切れた携帯をポケットに突っこんで今し方伝えたれた内容を説明して聞かせた。


「…なんだとぉ!?継続維持で一ヶ月延長っ!?」


オレの話を耳にするや否や、普段おちゃらけている同僚の顔付きがすっ飛んだ驚き顔に変わり、
軽く腰掛けていた体勢から立ち上がると眉を寄せながら距離を一歩詰め寄ってきた。
今度は近い、近ぇーよ顔がっ…つかなんでオレよりお前の方が動揺しちゃってんだよ。


「一体どういうことなのだ…；？オレはさっき例外は無いとお前に啖呵を切ったが、
上の決定がコレでは赤っ恥になってしまうでは無いか；」

「いや、お前が言ってた事に間違いは無かったから恥じゃねぇダロ。
つか、問題は処罰内容だぜ…やらかしたオレが言うのもヘンだが聞いたことネェよ、こんな話」


うっとおしいく寄ってきた顔を片手で押し退けると、同僚は歪んで赤く擦れた頬を摩りながら眉を寄せて溜息を一つ吐いた。
減給だとか降格だとかならオレ自身がやっちまった事の処罰にはなるのは分かる。
しかし今回告げられた内容は何を思って決まったのか考え追えないものだった。
さっきコイツが口を酸っぱくして期限期限と騒いだのか、それにもちゃんとした理由があンだ。
オレ達悪魔が現世に留まる為には一定条件を満たした人間の生気を頂戴しなきゃならネェ、
それも誰でも良いってワケじゃ無く、対象者の身近な人物で波長が合ってそこそこに体力のあるヤツ…。
しかし人間には限りがある、物を食えば無くなっちまうように生気もいつまでも続くモンじゃ無い。
ただ黙って生気を吸っても無害でいられる限界が最大限延ばしても三ヶ月、
それを超えたら媒体になってるヤツの身の保証が無ェってワケ…今回、その媒体者がアラキタ　ヤストモだったんだ。


「奴等め何を考えているのだ…、いや、何か考えがあってのことだろうが…」


理解は出来ないが事態は把握したらしい同僚はブツブツと独り言を繰り返し考え込んでいる。
様子を見る限りコイツも早々に気がついてたんだ…アラキタ　ヤストモの魂が三ヶ月しか無いって事に。
そうでなければ元来プライド高い天使が仕事に関係無い人間に構うハズが無ェもんなァ…一緒に居りゃ情も移る、仕方無ェか。


「しかし解せない、オレの上司ならさておき、お前の上司など規律や規則には何より煩さそうなタイプであろう？」

「だな、どっちも無口で片方は鉄仮面とキテやがる…自分から進んで破るようなタイプじゃナイネ」


ふっと浮かんだ上司二人の顔に『何考えてンの？』と問うてみたところで答えは返ってくるハズもない。
無闇に人の魂は奪わない、必要以上の手出しはしない、それが天界のオレ達の仕事ルールで常識だった…それが今回破られようとしている。
そういやあコレは試験期間だとか最初に言ってたな、まさか試されてたのはオレ達の方だったってのか？
オイオイ冗談じゃねぇヨ、だとしたらトンだビンボークジ引かされちまったってワケ？
アイツらこうなること知っててオレをオノダ　サカミチに付けたってのかァ？んなバカな話有り得ねぇダロ。


「まぁ…ざっとしたオレの見解に過ぎないが、アラキタ　ヤストモの魂は後一ヶ月は何の問題も無い。
しかしその先はオレ達にとって未知の領域だ、人間側は明白であるが…」


「ンなバカな事あってたまるか…オレァ仕事に関しちゃマジメちゃんなんだヨォ？
人間一人見過ごせってイミなのか…っかんネェーなァ～バカじゃナァイ!?」


オレが自問自答を繰り返している傍らでは同僚が携帯片手に何かを調べているらしく、
じっと画面を眺めては小さく口元が独り言を呟いていた。
上の連中がそんな簡単にシッポ捕ますような事するわねェじゃん…と、今度はオレが腰を屈め、暗い街並みに視線を向けた。
夜空に浮かぶ街の光はいまだ眠らず、耳をすませば雑踏や街路、はたまた夜間飛行中の飛行機まで
様々な生ける音が聴こえてくる、なんだろうか、妙に騒がしい気がスんな…。


（何より最後のアレが一番意味わかんねぇーわ…）



心無しか身体も重い…色々有りすぎて気分悪ィぜ…。
さっき掛かってきた電話がまだ耳の中で続いてるみたいで、
片手で耳を塞いでも奥にこびりついた上司の最後の一言が煩いんだ。
そりゃまるで天使が言った悪魔のような言葉、これはコイツには言わない方がいいんだろうな…


『期間終了後、アラキタ　ヤストモのかわりにお前が荒北靖友になることも可能ショ』


あぁ…冗談のキツイ、タチの悪い罰だわ、コレ…。

　　　　　　　　　　　　　　　……………………


それからの時間の流れは思いの外に早く、特別何も無いままに世は朝を迎えていた。
しかし状況にはしっかりと変化が見られ、この決して新しくは無い男一人暮らしのアパートからは
さも幸せですと言いたげな穏やかな雰囲気が溢れ出していた。


『荒北さん料理上手いんですね！今朝のご飯もとって美味しかったです//』

『そぉ？バイト先でまかない作ってっからかなー、でも結構テキトーだぜ』

『それはセンスがあるって事ですよ、ボク大好きですよ、荒北さんの作るゴハン//』

『あっ、ウン、アリガト…っつとっ…；』

『あわわお皿がぁっ；!!』


…ムリ、耐えらンネェ…ったく此処に居なきゃならねぇーオレの身にもなってみろと口がムズムズして仕方ネェわ。
まだマシなのはうっとおしい同僚の姿が今朝から無いことくらいか…、確か本来の契約者のもとへ仕事に戻ると
言い残していたような昨日の記憶、それも薄くって良く覚えていやしなかった。
しっかし仕事を投げ出すわけにもいかネェからなぁ…ちっとばっかし確認しとくことがあンだよねぇ…。
溢れる会話に耳を塞ぎながら屋根上から室内へと入り、一階の賑やかな奴らは無視しオレは真っ直ぐロフトへと向かった。
寝室変わりに使っているスペースにざっと視線を広げると目的の物は容易に見つけることができた。


「ハッ…更新してんじゃネェーよ、マジかよ…」


契約時にサカミチへ預けていた液晶パッドを拝借し、起動してみると、
いつの間にか勝手にバージョンアップしたらしく期限と電池など幾つかが更新されているのがわかった。
上の連中は本気なのか…あと一ヶ月で何がどう変わるってんだ、今のところ全く想像つかねぇーわ。
ブツブツ言いながら画面をスライドさせていると、一つ、明らかに最初には無かったページがあることに気が付いた。

しかも、コレはサカミチ宛じゃ無ぇ…オレ宛じゃん。

人間には見えない読めない天界の文字で綴られたボタンを押し、
ロックを外すと画面に映し出されたのはオレの所属機関の管理番号と起動前のデジタル表示の時計、
あと意味の分んねぇメーター表示ダケのグラフ、なんも映っちゃいねぇし…なんだコレ。
八つ当たり混じりの操作で何度確認しても他にオレに宛てられたメッセージを読み解く鍵は見当たらず
悩む頭を上げると、いつの間にか賑やかだった声は静かになっていた。
ロフトから降り、小狭い一階を見渡しても二人の姿は無い、どっか出掛けたのか…でも近所だな。
アラキタ　ヤストモの気配は無いがオレの管理範囲内にサカミチはまだいるのは気配で分かる。


（つっても…顔合せずらいわ、流石に…）


ふと蘇る十数時間前の記憶に何処でオレの予定は狂っちまったんだろうかと考えずにはいられなかった。
今までの仕事と同じ、四六時中監視、観察して結果見定めて報告してオシマイってなるハズだったんだよ。
大体ナンなんだよ今回の仕事はヨォ、なんで野郎同士のカップルを見守ってなきゃならねぇんだよ、オレ悪魔だぜ？
もっとこう張り詰めた空気っつーか生死ギリギリの緊迫、緊張感ある場所に派遣されんなら分かるんだ。
それがよりにもよって平和ボケした高校生が相手って冗談にしたって面白くも無ぇわ。


『契約をする前に僕からも一つだけお願いがあるんですが…名前で読んでください、それだけで良いです…//』


名前のないオレに名前をつけて呼び、自分に課せられた運命に臆するどころか
こっち側の心配までしてくれちゃってホントお人好し、馬鹿じゃナァイ、普通の人間だったら怯えたり毛嫌ったりするモンなんだよ。
全部知ってんだゼ、お前がオレをアラキタ　ヤストモと重ねて見てンのは。
さぞ便利だったダロ、居ない恋人にそっくりな奴がここ二ヶ月の間身近に居たんだからヨォ。
それでイイじゃん、何が悪い事だってんだ、オレには関係無い、生温さに溺れてお前だけ破滅しちまえ甘チャンが…。


『宜しくお願いします、ヤストモさん…//』


ところが何時からだ…さっさと終わらせて帰りてぇナって思わなくなってたのは。
日、一日を重ねて過ごすうちにムカついてたハズの笑顔がオレに向けられるたびに変にコッチが動揺しちまう、
その度に何も入ってない胸ン中が音を立て始めているコトに知らん顔してたンだ。


『ありがとうございます、ヤストモさん//』


そんなオレを他所に、昨晩のサカミチからの礼に今まで知らん顔してたモノが一気に限界点へと駆け登ってイっちまった。
ヤラカシタって感覚より、ただ単純に手に入れたいという思いの方がデカくて、
心の底から嬉しそうにアラキタ　ヤストモが好きだと語るサカミチにどうにも抑え切れなくなっちまったんだ。
日に日に輝きを増して光る魂、何を疑うこともなく笑うカオ、それが全部欲しいと思った、このままじゃ破滅スンのはオレの方じゃん…


「クソッ、アリガトウって何なんだよ…」


チラつくなんてレベルじゃ無ェ、なんでこんなにポンポンとサカミチの顔が浮かぶんだ。
支給品だって事を忘れて手にぶら下げた液晶パットを投げ付けたくなっちまうぜ…
久しぶりに肩から落ちるような溜息を吐きそうになった、と、その時…ガチャリと小さく横から室内ドアの開く音が聞こえた。


「ぁ……っ」


続いたのたこれまたちっせぇ声、しかも視線がばっつり合っちまってやがる。
そういやコイツ（液晶パッド）を持ってる時って気配も姿も意思に関係無く無効化されちまうって契約書にあったっけナァ。
ハッ！そーかいそーかい、オレだってバカじゃねぇしやれって事は理解してやんゼ、納得はしねぇーけどな！
ったく、メンドクセーぜぇ、ハカリゴト企ててる天使サマさまヨォ。


「ンだよ」


「ぇ、いや、あの、その…」


投げやった言葉にサカミチは顔を強ばらせたままその場に固まって動かなかった。
最初にあった時にもこんなにビビってなかっただろ、と、
不機嫌極まりない声で手にしていた液晶パットをチラつかせながらオレは話を続けた。


「んなビビんな、仕事でちっと出てきたダケだから直ぐ消えんぜ、ホラこれ返すわ」

「ぁ、どうも…」


少し震えの見える両手に液晶パットを投げ渡すと、怯えの隠せない俯いたままの表情でサカミチは手の中を見つめていた。
そうだ、そうやって一歩引いてビビっててくれりゃこっちも気が楽で仕事もし易い。
上の連中の思惑やらは二の次にしても、これ以上深入りスんのはヤバイって事は自分が一番良く分かってる。
長居は無用だ、とっとと退散しちまおうと背を返して部屋から出ていこうとすると、背後から深い呼吸と声に呼び止められた。


「あ、あの待って下さいヤストモさんっ!!」

「ナニィ？」


…しまった、聞こえない振りしときゃ良かったのに思わず返しちまった。
人間世界の甘ったるい空気に慣れすぎた油断と仕事とはいえサカミチの傍に居すぎたせいか
呼ばれれば返事をするって事が当たり前になっちまってやがる…つかテメェも話しかけんなよ、
めちゃくちゃビビってんのまるわかりじゃねぇーか。


「お話したいことがっ…その、昨日のこと、なんですけど…けど…」


それでそーくんのかよ、何考えてんだバカじゃナァイ？
なんで態々苦い記憶を蒸し返す必要があンだ、具合悪い話になるって分かってんのに持ち出す必要が無ェダロ。
自分にもサカミチにも苛立ちながら何て答えるか考えていると、次に続いたのは意外な言葉だった。

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		<dc:date>2014-11-19T12:18:26+09:00</dc:date>
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		<dc:publisher>WOX</dc:publisher>
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		<title>【Lucky】（巻坂）</title>

		<description>（巻島裕介）


「あっ…！」

「ん、…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ （巻島裕介）


「あっ…！」

「ん、どーしたショ、坂道」

授業が午前中で終了し、午後からたっぷりと部活をこなした午後３時過ぎ。
この季節の日差しは思いの外に肌に照りつけ、暖かいっていうより痛いって感じだ。
風に向かって走る自転車と違い、徒歩だとほぼ無風の今日…歩いて帰るには少々怠い気がするショ。
そんな事を考えながら部室を出ると先を歩く制服姿の小さな背中一つ、坂道だ。
珍しく徒歩での帰宅らしいと見た俺が一緒に帰るかと声を掛けると
メガネの奥の丸く大きな瞳がイイ返事と共に笑顔で大きく頷いてくれたのもあり、
一人で帰るよか良いかと自然と緩んだ笑みで俺達は学校を後にした。

「こ、コレ見てください巻島さん、当たりましたっ//!!」

部活の事や学校の言、それに坂道の好きなアニメの話少々…
そんな他愛もない話をしながら街中を抜けて住宅街を歩いていた時
隣から急に上がった坂道の声に目をやると一本の棒が両手に握られていた。
紙パックのカフェオレを飲みながら、さっと全体に視線を向けると
その棒の先端には平仮名で『あたり』の３文字が見えた。
さっき寄ったコンビニで買ったアイスに当りがでたらしい。


「へぇーラッキーっショ、おめでとさん」

「ハイっ、ありがとうございます//!!」

オーバー気味に喜ぶ坂道の様子は子供っぽくて、それでいて微笑ましく思える。
ちょうどこの先に同系列のコンビニがあるから寄ってくかと言うと大きく二回の頷きで返事を返してみせた。

「今時まだ残ってんだなぁ、当たり付きのアイスなんて久しぶりに見たショ」

「ハイ、僕も凄く久しぶりに当たりました！」

そう言いながら当たったアイスの棒をよく見えるようにと坂道は差しだしてみせた。
俺にもよく見えるしっかりと書かれた『あたり』の三文字は紛れも無く本物、
稀にこうやって時々あるラッキーは何でもなく嬉しくなるものだ。
自販機で当りが出るとか、そのくらいのレベルの本当に小さな事なんだが
なんだかイイことがあるかもと心がワクワクする…それにしても喜びすぎじゃねぇーのかね…？

「今日はついてるかも…ガシャポン回したらレア物が出る気もするなぁ～//」

「クハッ、前向きなのは何事にもイイ事ショ」

なんにせよ本人が嬉しいならばそれに越したことはないな、と
片手にしたカフェオレのストローをくわえながら嬉しそうな横顔を眺めていたが
ふいに坂道の顔付きが変わってみせた。


「そうだ…巻島さん、この当たり付きのアイスが当たる確率ってどのくらいなんでしょうね？」

「はっ？」

「あわわスイマセン、ちょっと気になったものですから…//；」

「いや別に謝んなくていいショ…//；」


聞かれた問いに投げやりに声を上げたせいか慌てて坂道は頭を下げちまった。
そんなにビクつかなくてもイイんだが…俺ってそんなに怖く見えるのか…；？
頬を指で掻きながら俯いてしまった坂道とアイスの棒を見ながら一つ溜息と言葉を吐いた。

「確率か…」

実に小さな事だが言われれば少し気にもなる。
多分直ぐに分かるだろうと制服のポケットから携帯を取り出し検索してみると、
さすが現代、答えは思いの外に早く知ることができた。
カチカチと指先の操作音を立てながら検索結果を目で攫いながら
横を歩く坂道へ答えようと声を掛けようとした。

「どのくらいなんだろうなぁ～…ひと箱に一本…でもそうすると１２本入だとして…//」

なんか、めちゃくちゃ嬉しそう、というか楽しそうだ。
空いた片手の指で足りない本数を一生懸命折り数えているではないか。
邪魔しちゃ悪いショ…瞬間に思った俺はパタン、と、坂道に気がつかれないように
携帯をそのままポケットに戻して何も無かったように話に参加することにした。

「そうとは限らないショ、ひと箱１０本入のもあれば１５本のモノだってあるんじゃないのか？
原価と比率考えたら一ケースに一本かも知れないショ」

「えええっ!?そしたら当り引くのに何本アイス食べれば良いんですか//；」

簡単に予想してみたらしく坂道は手にしていたアイスの棒をじっと眺めながら
いかに自分が良い確率で当たりを引いたことを実感しているらしかった。

「クハッ、さーてねぇ～腹壊すのが先かもな…//」

「それは困っちゃいますね；へぇ～…そう考えると本当に僕ラッキーだったんですね//」

「あくまで予想の話、だけどな」


そうこうするうちに目の前には目的であるコンビニが見え、二、三歩と先に駆け出した坂道は
行ってきますと一言を告げて自動ドアの先へと飛び込んでいった。
俺の何か飲み物でも…と後を追ってコンビニに入ろうとしたが、
アイスを眺める坂道をガラス越しに見ていたらタイミングを失っちまったので
どうせ数分もかからないだろうとこのまま外で一人待つことにした。

「確率ねぇ～…」

言葉と一緒に吐いた浅い息を地面と爪先の間に泳がせながら二度目になる台詞にフッと漏れた笑み。
面白い事を考えるもんショ…ただ当たってラッキーだけで終わらないんだからな。

確かに、宝くじに当たるとか雨を避けて帰れるとか、デカい小さいは別にしても
生きているうちに何かが出会うとか起こるのには偶然でも必然でも確率が絡んでくるもんだ。
それじゃあこうして俺とお前が出会って、部活して一緒に帰るようになるのはどのくらいの確率だと思う？
それこそ、俺が自転車競技を初めて、総北に入学して部活に入部して
そして３年になった今年、今泉、鳴子の誘いで坂道が入部してきた。
自分では無縁だと思っていた運動部への入部だと坂道は言っていたが、
まさか俺が待ち望んだクライマーとしてだなんざ出来過ぎのようにも思えるショ。


ズズッ…

残り少なくなったカフェオレを啜りながらチラリと視線を上げて
店内を覗けば、坂道はレジ前でアイスを片手に会計待ちだ。

「全く、いつでもお前って奴は俺の予想の上を行く…」

いいや、考えるのはやめておこう、途方も無い話だし何よりそんな事で計って欲しくは無いショ。
先程ポケットに戻した携帯を確認しようと突っ込んでみるとカサリとレシートが出てきた。
そいつをゴミ箱に捨てるのと同時くらいに自動ドアが音を鳴らし、
中からビニール袋を下げた坂道が駆け寄ってくるのが見えた。


「巻島さん！お待たせしました//!!」

「いや、待ってるうちに入んないショ。
さーて、用事も済んだし帰るぞ、坂道」

「あ、ハイ、でもちょっと待って下さい！」


くるりと背を向けようとした俺にガサガサとビニールを揺らしながら
後ろ手何かもたついているのが分かったが、視線だけで振り返って見ると
その両手にはひと袋のアイスがあった。


「安いアイスですが、コレどうぞ！」

「え、いや、だってソレお前のショ？」


それは紛れも無く、さっき当たりを引き当てたアイスの交換品で
なんだと身体で振り向くと坂道は少し照れた様子で話し始めた。


「今日、こうしてラッキーだったのは巻島さんと一緒だったからじゃないかなって僕思うんです。
一緒に帰るかって声かけてくれたのも嬉しかったし、それだけでも僕には充分ラッキーでした//」


「オイオイ、それはちょっとオーバーっショ、話がデカいって//；」

「いえ！本当です//　それにさっき僕は食べましたし、
巻島さんにもラッキーのお裾分です、良ければ食べてください//」

さらっと簡単にコイツは恥ずかしい事を言ってのける。
それは俺には到底出来ない坂道らしい素直な言葉だ。
答えは簡単に知る事ができる時代、現に今ポケットには用意されている。
しかし便利は時として不便てことなのだろう、頼るのも善し悪しだ。
こういうキッカケを逃す事になるならば俺は不便の方をえらびたくなっちまうね、どうしてか。


「ありがとさん、坂道のラッキー少し貰うショ」

「ハイ、ありがとうございます//」


日差しの下で濡めるアルミの袋、指先はひんやりと冷たい。
汗を掻いた袋を破った視線の先には嬉しそうな坂道の笑顔、見られてると照れるが悪い気はしない。


「クハッ、なんか変な会話だな」

「え、そ、そうですかね…//；」

「ま、いいさ、たまにはそーいうのも…//」



この出会いはラッキー以上の幸運だ。
俺とお前がいれば何だって楽しくなっちまう、そんな予感がするっショ。


【title：ice】
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		<title>～・～</title>

		<description>…………………………………………

「なんだこの中身は……</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ …………………………………………

「なんだこの中身は…ベプシばかりではないか；」

天使を足蹴にする人間がいるなどやはり地上は恐ろしい場所だ、お気に入りのスーツに痕が残らず本当に良かった。
記憶と共に蘇った背中の鈍痛を撫でながら開いた冷蔵庫の前でオレは呆気にとられた溜息をついていた。
今まで一度も開けたことは無かったが、今晩使った材料の残り以外ものの見事にベプシしか入っていない。
食生活は大丈夫なのかと呆れつつも片手にしていた未開封のベプシをサイドポケットに差し込み、扉を閉めた。
冷蔵庫のファンが回転する音が耳に聞こえる中で灯りの消えて薄暗くなった室内へ視線を回すと
カーテンの閉じたベランダ窓、電源の落ちたテレビと何も乗っていないテーブルが薄闇にぼんやりとカタチを映している。
先日までヤキモキ、ピリピリしていた周りの空気は無く、今夜が如何に満ち足りたものに変化しでいることを告げていた。
視線を更に上げロフトへ続く梯子へと向ければ、それはいっそう強く感じられる。
恐らく今夜はもうアラキタ　ヤストモは起きてこないだろう、漸く恋人と過ごす時間が持てたのだから邪魔するのは野暮というもの。
オレはそっと身を浮かせ音を立てないようにそのままベランダへと足を向け、カーテン越しにガラス窓に触れてベランダへと通り抜けた。
都会の曇り空は間も無く明日に変わろうとしている夜の色に霞みを纏い、遠くに映る街並みの雑居ビルの光も朧で淡く浮かんで見え、
春に芽吹く草木が夜露を含んで香り立たせている近所とは反対に都心は忙しく眠りを知らないらしい。


「下界は忙しいなぁ、とりわけ日本人は少しは休むという事を覚えたほうが良いとは思わんか？」

「…サァーなァ、働くの好きなんじゃん？」


狭いベランダに立ち、両手を手摺に付きながら遠くに映る街並みを眺めてオレが言うと
斜め上の背後から、さもどうでも良いと言わんばかりの気怠く鼻掠った声が返ってきた。
上半身を捻り見上げると平たい屋根の上に屈みこんでぼぉーっと空を見上げている同僚の姿、
その表情はオレから見ればなんと情けない、それでも悪魔だと言えるのか？と溜息を付いてしまいそうになる。
隣まで移動すればいっそう露となり、いつもの不機嫌そうな表情に拍車をかけているようにも思える。


「まぁ、忙しいオレ達になぞ言われたくはないだろう」

「んー…」


見事な生返事だ、手本と言ってもよい。
何処を見ているのか知れない視線の先を追いかけてもやはり何を見ているかは分からない。
やれやれ、己のしたことを反省するタマではないと思っていが恐らくヤツ自身どうしたのかと自問自答している最中なのだろう。
普段やらかさないヤツほど一旦事件を起こすと規模のデカいこと…とっくに上司には事態を知られてしまっている状況は極めて微妙なのだ。
それが分っていてこの態度、もう世間話で気を紛らわせてやる必要も無いだろう。

「オイ」

「…ンだよ」

「オレはお節介だが優しくは無いぞ」

「はぁ？」


宣言はしたぞ、許可など必要でない。
一向に此方を見ようとしない顔にグイと詰め寄り、右手人差し指を相手の額に押し付けた。


「いいかよく聞け、オレ達の仕事は期限が全てだ、何故なら仕事内容云々より重要視される対象者の今後が関わっているからだ。
もし破れば厳罰処分では済まない、それは機関二番手のお前ならば良く知っている事だろう？
決められた期間内に自分の任務を遂行することこそが全て…例外は認められない。」

「っだよイキナリ…つか指さすのヤメロっ；」

「いいや止めない、どうせお前のことだから連絡がきても必要以上に携帯は見ていないのだろう。
コレを見ろ、つい今し方オレの上司から来たメールだ、一部にしか知られてはいないがお前のしたことがちょっとした騒ぎになっておるのだぞ！」


指差しをやめないまま突きつけた携帯電話の画面に相手の視線が文面を攫うように動く。
内容はオレ個人に送られたもので、見ていたのなら現状を報告せよとのモノだった。
先程起こった事件、コイツが自分の契約者オノダ　サカミチに危害を加えようとした疑惑、確かにオレはごく間近で見ていたが
久しく見ていない悪魔が欲する恍惚の表情に天使のオレでさえ背筋が凍る思いだったが止めようにも無理だったのだ。
何故ならオレは天使、コイツは悪魔、互いの仕事には一切手出しが出来ない仕様になっている。


「お前の上司二名、オレの上司、あと死神部門が一名で現在会議中だと秘書からメールが追送されてきた。
仕事真面目なお前らしくも無い軽率な行動、一体どうしたというのだ？」


それは今朝、今日来るというアラキタ　ヤストモの恋人を一目見てやろうと軽い気持ちでくっついて行ったらどうだ。
オノダ　サカミチの隣を歩いているコイツの姿に驚いたのなんの…と、同時にいつもと違う悪魔らしからぬ雰囲気に
これは少しマズイか、と厄介な事に発展しそうな気配もあの時確かにオレは感じ取っていた。
犠牲なくして幸福は得られない、幸せを目の前にすると裏側に隠れている不幸の存在には中々にして気が付けない。
しかし人間だろうが例え悪魔だろうが人を想う感情に大差は無い、オレに気がつかれないとでも思ったのか、甘いな、天使の力をナメるものではないぞ。


「お前個々の感情はわからんでも無い、しかし厳しい事を言うが相手想うならば仕事に徹しろ、本来のお前のようにな。
そうでなければアラキタ　ヤストモだけでなくオノダ　サカミチまでも不幸に巻き込むぞ」


「っだぁぁあああああ―――っ!!」


オレが言い終えるか否かの瞬間、目の前のヤツは牙を剥き出しに叫び上がった。
たまらず背後に一歩下がって相手を見据えると、まるで狼の遠吠えのように空を見上げ
一通り声を出し切った後、その場に立ち上がり右足で地団駄を踏み鳴らしてみせた。


「ウッセぇーんだよテメェは、わかってんだよンな事はヨ!!
他の連中は放っておいたとしたって自分の上司に迷惑かかってんのも知ってんだ、
だけどな、一番予想外なのはオレ自身だっつーんだよクソが…っ…ーぁー意味分かんネェっ…!!」


今までこんなに感情を露にしたコイツを見たことがない、いいやそれまでの仕事が本当にただ作業としての仕事だったということなのだ。
オノダ　サカミチ、お前はコイツに何をしたのだ…あの人間は悪魔さえも惑わしたというのか、契約違反を犯しても良いと思わせる程に。
しかしそれは破滅の道にほかならない、ついついオレも熱くなってしまったが同僚で同期、何より友人であるコイツが居なくなるのはオレも嫌だ。


「スマン、言いすぎたようだ…」

「ウッセッ謝んなっ」


バツの悪そうな表情で頭をガシガシ掻きながら吐き捨てると
漸く静かになった空間に着信を知らせる電子音、それは相手の上着ポケットからだった。


「お前の電話、鳴っているぞ」

オレの問い掛けに無言で溜息を付き、上着ポケットを荒々しく探り取り出すと薄暗い空間に光るディスプレイが目立った。
恐らく渦中の電話に違いないと容易に察せたが何故か一瞬、眉間にシワを寄せて出るのを躊躇っているようにオレには見て取れた。
しかし出ないわけにはいかないと通話ボタンを押し、ゆっくりと普段より数倍不機嫌そうな声で相手は応答に出た。


「電話かける相手間違えてんゼ、オメェーの部下なら隣に…はァ？オレに用事ってどーいうコト…」


成程、どうやら電話先の相手が自分の上司ではなく天使、つまりオレの上司からの電話だったらしい。
会議の結果どういう対処に出ることになったのかと予想しながら自分の携帯電話を取り出そうとした時、
隣で心の底から仰天し、困惑する声が再び地上の夜に吠え響いたのだった。


【…続…】
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