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5月12日 巻坂長編その2UP。
それはクリスマスの光景にもよく似ていて、久しぶりに出掛けた都内の風景は実に華やかだった。
赤やピンクでデコレーションされたショウウィンドウ、それを眺めるカップルで賑わう中、
待ち合わせ場所に指定した駅前広場は時計台の下で一人、オレは携帯と睨み合っていた。
あと10分、もう電話しても良い頃なのでは無いだろうか。
自分に問うて返る答えは否、いかん、いかんぞ尽八、忍耐も必要だと携帯を閉じだ。
『今月の13日に実家帰るから翌日なら都合つくぜ』
高校卒業後、実家の旅館を継ぐべく日々勉強の毎日を送る中で
一年に一度、あるか無い、いいや非常に稀な国際電話がかかってきたのはつい先日。
その時の気分といったら実に晴れやかで清々しく、そしてこの上もなく胸はドキドキと高鳴ってみせた。
『お前はどうよ、尽八ィ』
勿論、オレは一も二も無く空いていると即答すると、相手は途端に笑い出してしまった。
その理由が分からずに、何故だ、どうしたと問い返すと変わらずの笑い声で話は続く。
『モテるって自負してるお前が、その日暇してるってなんか笑えて…クッハ…悪ィー悪ィ//』
一人で笑っていたと思えば、しっかりと諸注意を残して電話は一方的に切られてしまった。
まだまだ話したかったし、誘ったのはそっちではないか?
と、いうことは巻ちゃんだって暇だろうと言うタイミングも逃してしまっただろう。
まぁーいいさ、どっちにしろ当日になればそんな事も忘れてしまう程
思いきり巻ちゃんとのデートを満喫させて頂こうではないか。
久しぶりに会える恋人は一番始めにどんな顔を見せてくれるのだろう、
海外でファッションの勉強をしていると聞いているし嘸や美人に磨きをかけていることは間違いない。
「…なんだ、まだこれしか進んでいないのか;!」
再び携帯を取り出し開いてみると、待ち合わせの時間まで後6分もある。
苛立っても仕方のない事だとはいえ時間が進むのが遅すぎやしないだろうか?
たまらずアドレスから電話番号を引っ張りだし、通話ボタンに指をかける。
『約束の時間まで絶対電話してくんなショ、破ったらその場で俺は帰るからな』
巻ちゃんの言葉が不意に脳裏を過ぎり、あと一歩のボタンプッシュが阻止された。
落ち着け、あと6分弱ではないか、ここでフライングしては折角のデートが駄目になってしまう。
渋々と、また携帯をポケットに戻して辺へと視線を向けた
早く時間にならないものか…
恋人を待っている心持ちは、もどかしくも嬉しさに湧き立ち、
今にも相手の名前を叫びたくなる思いで溢れ出しそうだ。
定期的に電話しているとはいえ、やはり顔は見たい
両耳の鼓膜を甘く揺らす声を聞きたい、その姿に直に触れたい。
オレが巻島祐介を愛しているという事実と共に在り続ける永遠に満たされない欲求の一つだ。
「あと3分…もうそろそろ姿くらい見えても良いだろうに…」
街の往来は止まることを知らずに足早に流れてゆく中で相手を探してはみるが、
それらしい姿は未だ見えないまま…時間に遅れるような性格では無いのは承知している。
まぁ…今日はどこもかしこも混んでいるだろうし…と、無理やり自分を納得させて視線を下げた。
イギリスへ留学すると聞いた時には驚きもありつつも喜んで背中を押してやろう、
将来を見据えて行なった決断ならば誰に何を言われようが進むべきなのだから。
それはオレ自身にも言えることでもあり、おかげでぼんやりとしていた将来にも決断を付けることが出来た。
プロを目指す事も考えた、他の奴らと同じように大学に行くことも勿論考えた。
しかし、それより先に考えが辿り着いたのは意外かもしれないが家族の事であった。
学業や部活に明け暮れ、好きな事をとことん突き詰めてやらせてもらっていたのだから
感謝と恩を返さなければいけないと考えついたのだ。
後ろ盾で就職先があるズルイ奴だと思われるかも知れないが他でもない外野の意見に過ぎない。
一から覚える経営のノウハウ、接客や従業員の管理体制、
新たに挑戦する楽しみもあり、苦悩しつつの毎日だが後悔はしていない。
ロードは今でも乗れるし、嫌いになったわけでも当然無い。
別の土俵ではあるが巻ちゃんも先を目指しているのだ、弱音など吐けるはずもなかろう。
渡英の日が迫る中で忙しい巻ちゃんを呼び出して怒られた夏の日、
不機嫌そうな顔にも構わず『ずっと好きだった、それはこれからもずっと変わらないからな巻ちゃん』と
己の気持ちを伝えると、その自信にも負けない『ずっと知ってたショ…やっとちゃんと言ったな//;』
と苦笑いで返事をくれたものだよ。
「あと1分…」
早く会いたい、今日は年に一度の愛を伝える日だぞ。
勿体ぶらずに姿を見せたまえ…そう深く溜息をつきそうになった時、
頭上に響く鐘の音色に顔を上げると、広場の時計は待ち合わせの午後2時を知らせていた。
時間だ、漸く待ち合わせの時間になったと辺へ視線を向けて姿を探すも
歩道にも交差点にもその姿は現れないままだった。
オレは約束を守ったのだからもう電話しても怒られはしないだろうと
携帯を取り出しリダイアルボタンを押そうとした時、ディスプレイが一瞬暗くなってみせた。
♪~♪~♪
ピィッ!!
「もしもし巻ちゃん!?一体何処にいると言うんだね、もう待ち合わせの時間になっているというのに!?;」
聞きなれた相手指定のメロディーに名前も確認せず通話ボタンを押して応答に出ると
野外の騒音も混じる中で声が返ってきた。
『あぁ、本当だ…もう、そんなに経ったのか、全然気が付かなかったショ』
なんと呑気な返答だろうか、しかし向こう側の声も騒がしい事からまだ移動中のようだ。
尚も辺りに視線を配りながらオレは電話口の相手に話しかけ続ける。
「今、どの辺だ?オレもそちらに向かうから何か目印になるものを言ってくれ。」
『今、信号変わったな…結構な人並みが歩いてるのが見えるぜ』
「なんだいソレ…;動くものでは無く何か建物とか看板とかで教えて欲しいのだが…」
『あー…時計が見えるショ、古いタイプのアナログな時計だ』
巻ちゃんの言葉を頼りに見渡してみると電光掲示板に映し出されたデジタル時計が目に入る。
これではない、後は何処にあるのかと探し続けていると電話口からは
笑い声が小さく漏れ、咳払いの後に声が聞こえた。
『尽八、後ろ振り返ってみ…//』
「後ろ…?」
言葉の通りに振り返ってみると自分の後ろには巻ちゃんの目印といった古いタイプのアナログ時計。
その下では携帯を片手に此方を見ている人物に視線は釘付けとなった。
相手は笑いながら電話を切ると、二、三歩と足を進め、やがてオレの前で立ち止まり微笑んでみせた。
「久しぶりショ、何、そんなビックリした?」
いたずらっぽく携帯電話を見せるように振ってみせる仕草。
突然現れた待ち人に、言いたかった事は全て抜け飛んでいってしまった。
「何時からいたんだ、全く気が付かなかったんだが;?」
「お前が来る30分前くらいにゃ此処にいたショ、ずーっと見てたんだぜ?」
「どういうつもりなんだ…オレをビックリさせて何が楽しいんだ巻ちゃん//;」
「いや、ただ単純に俺を待ってるお前を見ていたかったってダケの話。」
そんなまどろっこしい事をしなくとも、そのままパッと現れて
ハグなり挨拶なりをしてくれれば良かったではないか。
納得のいかない思いが表情に出ていたようで、
巻ちゃんはオレの頬を指で突つきながら今度は穏やかになった口調で話し始めた。
「あるショ、そんななんでも無い事が楽しく見える時だって。
それに今日はバレンタインデーなんだから俺ばっかりチョコ渡して『ハイ、おしまい』じゃ、つまんないショ」
そう、今日は年に一度のバレンタインデー。
この日に帰国してきてくれたのも偶然か、はたまた狙ったのか
どちらにしてもオレに会いに来てくれるのだがら愛されているのだろうな。
外見に出さない巻ちゃんなりの大きな優しさだと思える。
「フン、海外生活で随分と大胆になったのではないか…//?
まぁーいいさ、可愛い恋人の可愛いイタズラもいいものだな!」
「は、恥ずかしい事デカい声で堂々と言うなショっ…//;」
「何故だい?今日くらいは天使も神様も許してくれるだろう…//?」
これでお愛顧、いたずらめいた表情は外らしても赤く染まっていることなんて分かっているのだよ。
久しぶりに会った恋人の不器用な笑顔はどんなチョコより優しく染み込んでいくものだ。
さぁ、早く、甘く満たされた心と共にその手を取ってこの派手やかにラッピングされた街へ出ようじゃないか
一年に一度の愛を伝える日に
何が欲しいと聞かれたならばオレの答えは一つしか無いだろう。
~END~
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2月といえばバレンタインということで初書きの東巻でした。
巻坂メインでお送りしておりますが、東巻も大好きです。
傾向的に東堂の片思いばかりが浮かびますが、バレンタインくらい
甘い雰囲気の両思いでもいいのではないだろうかと幸せにしてみました(´∀`*)
コンセプトはチョコレートでいうところの【sweet】、タイトルはエリック・サティの有名な曲から頂きました。
思い返せばこの曲で色々なカップリングを書いてますが毎回内容が違うなぁ~…とw
それだけいろんなジャンル書いてきたということですね、ハイ。
次は東堂→巻坂の片思い話を今度こど書きたいです。
切ない想いをする東堂さん胸アツ…それでは(o・・o)/
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