更新情報

5月12日 巻坂長編その2UP。

「羊がいっぴきぃー…羊がぁーにひきぃー…」


その日の晩は何故か眠れんで、ベッドに横になってからも目は冴えていた。
暗くなった天井はやがて慣れた目がその姿を浮かび上がらせてみせたが
そこには何も変わらない平面があるばっかり、なんや、こんな日も珍しい。
眠くでもなるか思うて、目を閉じて口に出して小声で数を数えてニ週目、
100までの数を数え切っても眠気さんは一向に降りてはこうへんかった。

「羊がよんひきぃー…羊がごひきぃー…」


とうとう周回は三週目へと突入、アカン、だんだん言ってる口が疲れてきた。
これで駄目ならひと回してこよう、あ、でも家の人に知れたないな…


「羊がぁーろくひぃ…」


ブー…ブー…ブー…ッ


いい加減、もう止そうかと思っていた真下、片耳に聴こえる震動音。
ベッド横に置いた充電中の携帯が震えとるんか、誰や、こんな真夜中に鳴らすヤツは…。


ブー…ブー…ブー…ッ


「羊がななひきぃー…」


ブー…ブー…ブー…ッ

「羊がはっぴきぃー…羊がぁー…」

「9ひきっ」

「……はァ…なに?」


間近に聞こえた声に、閉じていた両目をかっ広げてみると
何故か、なんでか理解できひんけどベッドサイドに立っているチビでメガネの姿があった。
だいたい今何時やと思ってるんや、全く…意味がわからん


「…キミ、なんで此処におるんや」

「ぇっと…なんでだろう…、電話鳴らしても返事が無かったから、かな…//?」


そんな事有り得るか、今し方やぞ電話が鳴ってたのは。
そこから間髪いれずにお前はボクの目の前に現れた、現実的でない。


「用向きは何や、さっさと済ませて出てってくれるか、
見てわかる通りにボク、これから寝るんでね」

「うん、どうしても御堂筋君に言いたいことがあってさ。
それを言ったら帰るよ、大丈夫、安心して」


アンシン…?この状況で何を言ってるんや、
不法侵入で警察呼ぶでマジに。


「はよ言えや、そしてさっさと帰ってくれるか」

「あ、ちょっと待って…もう少しだから」


待てって何をや、ボクはさっさとしてくれって言うてるんに。
だんだんイライラし始めたボクを他所に、チビのメガネ…坂道はただ黙って
じぃーっと此方を見てるばかり…これはいつ終わるんや、そう思っていた時だった。

ギュ…と、ちっさい身体が抱きついてきた。
固まるボク、突然何が起こったんか理解が追いつかない、
そもそも何でこんな事をしとるのかワケが分からない。
固まった身体を動かす事も出来ずに、ボクは眼下の坂道へ視線を落とす。
どういうつもり…そう言いかけた言葉は、相手の言葉に重なり消え
耳には坂道の言葉が響いた。


「誕生日おめでとう、御堂筋君…//!!
僕、君に会えて、君と走れて本当に楽しいよ!」


ぎゅっとまた力の入る腕に寝間着が擦れる感覚が肌に当たった。
ヘンを遥か通り越して頭オカシイんと違うか、ボクの誕生日とか…なんやソレ。

「キミ、余程いかれとんと違う、だいたいボクの誕生日とか知らんやろ」

そうや、誰にも教えた覚えが無い。
学校の連中にも、ましてやあのヨワ泉君が知ってるとは思えん。
やのに何でコイツが知ってるなんて言い抜かすのか…。


「そうかも知れない…けど、御堂筋君が思ってくれたから
僕はおめでとうって言いたくて出てきたんだ…//」

「思った、ボクが?」

もう自分の頭では収集がつけられへんと判断し、
抱きつく坂道の身体に手を伸ばして引き離そうとした。
すると、どうや…体には感覚はあれど、掴んだ両手からは徐々に
感覚が消えていくやないか…、それはまるで空気でも掴んでるみたいに…
それがボクの思った最後の感覚だった


…………………


「……………」


ボクは目を覚ました。
映ったのはさっきと変わらずの平たい天井、薄闇に浮かぶ白い壁。

ユメ…夢だったんか、いつの間に寝たんや…


自然と吐いた深い呼吸は声と共に胸元が膨らみ山となり沈む。
次に浮かんだのは腹そこから湧き上がる可笑しさだった


「…キモ…どんだけキモイんや…キモキモ…」


あの刹那、いや、どっからが夢だったかも定かでない。
眠れずに羊を数えていたのも、電話が震えたのも全部が見ていた夢だったいうんか…
釈然とせん、すっぽりと抜け落ちた感覚が気持ち悪くてたまらん。
確かめようと携帯に手を伸ばして開くと、着信もメールも無かったが
変わりに、今日が昨日に、明日が今日に変わった事を示していた。


1月31日 時刻 AM0:00


『誕生日おめでとう、御堂筋君…//!!』

「…はっ…ホンマ、底無しにキモイわ…」


言葉のナイフが唇をなぞり、ボクの耳へと滑り落ちていく。
確かに聞こえた坂道の声、あれも夢やハズなんに
伝えようとする甘ったるいオメデトウの言葉が可笑しくてたまらん。
なんでそんなに一生懸命なんやろうな、赤の他人の僕が
生まれたってダケの日、特別とか言われるとキモイわ。


「…まぁ、ありがとうさん、受け取っとくわ」


ディスプレイを閉じ、また充電器へとセットする。
アイツ、どんだけキモイんやろか…でも冷やかしやなかったわ。
それはボクの描いた願望、でも今日くらいは甘んじて許してもええか、
緩まった口元を閉じ、瞼を降ろせばやっと安らかな闇が迎えてくれた。
そうか、今晩眠れんかったのはこのせいなんやな…。


1月31日(金)
時刻はAM0:03を少し過ぎていた。


~END~

===================

御堂筋君お誕生日おめでとうーー!!
一日遅刻したけどお祝いしたくて書きました。
京都弁難しいです、そしてこれ本当に御堂筋君か怪しい…。
みどさか目指して書きましたが、結構この二人好きです。

スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。