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5月12日 巻坂長編その2UP。
「この世界と何も変わらねぇーよ、風景もそのまんまっつってもいいくらい似てる。
住んでる奴等の数も大体一緒…ぐらいだったかもな…生きてる奴は一人もいねぇーケドな」
「え、だってヤストモさんが居るのに…?」
「お前…馬鹿だろ//;」
そう言いながら自分の胸を指で指し示してみせると、意味が読めないのか首を傾げるサカミチ。
肝心な事がすっ飛んでいる事に気が付かない仕草が可笑しく見え、ニヤリと口元だけを笑わせながらオレは話を続けた。
「オレ達悪魔に『生』は無ぇーんだ、当然だがな。
同じように天使にも死神にも『生』も無けりゃ魂も無い、存在するってダケ、空気と変わらない程度だ。
よく下界の映画とか物のたとえに『悪魔に魂を売り渡した』とか言う台詞があるが
俺達は必要以上に人間の魂を狩ったりしねぇーし、強要したりもしない決まりになってんだ。」
「空気…でも、それじゃどうしてああいう台詞が出てくるんですか?」
「それは時偶稀に人智を越えた願いが下界から届けられる場合があンだ。
この辺はオレもどうやって選んでんのかは知らねぇーが
そいつの願いを叶えてやっても良いかって天界での審議会の後、
善と悪の比率によって担当者が天使か悪魔かが決まるんだ。
それを聞いたか体験した昔の奴が後世への伝達の中で面白可笑しく脚色されてったんだろ。
…オレから言わせりゃどっちにしたって結果は変わらねぇー気がすんだけどな…実際。」
サカミチへの説明の中でフっと以前に代打とか吐かして仕事を押し付けられた事を思い出しちまった。
あのクソ天使、未だに借りっ放しで返す気配さえ無ぇーでやんの…絶対バックレだけはさせねぇーぞ。
耳につく笑い声が蘇りそうなところを眉間にシワを寄せて押さえ込む。
あぁーぁ、今度はオレの機嫌が悪くなっちまいそうだぜ…;
「…ん?…ちょっと待って下さい、…じゃあ、なんでヤストモさんは荒北さんの魂を持っていくって…」
「あ?」
「いや、だって今、必要以上に魂を狩ったりしないって言ったじゃないですか。
それなら別の方法もあるんじゃないかな…って、思ったので…。」
遮るようにサカミチの声が一回り大きく聞こえ、深く頬杖を付いた顔を上げると今にも身を此方に乗り出しそうな勢いだった。
あぁ、初日の夕暮れに確かにオレはそう言った、嘸や衝撃的な内容だったに違い無ぇーわな…。
方法は任せると上の連中には言われたがサカミチの言うように別に他の選択肢が無いわけじゃ無い。
寿命だってまだまだ余裕であったし…と、不安げな顔を眺めつつ思いながらも
また口元を片方だけ上げたオレはスッと顔を近付けた。
「甘チャンのサカミチ、勘違いすんなよ。
いくらオレがアラキタ ヤストモに似てるっつっても
本人でも無けりゃ人間でも無い全くの別物だって事忘れてンじゃねーぞ。
天使の奴等ならどう転がしても平和的な結末を用意するんだろうがオレは生憎と悪魔なんでね…
契約期間終了時に条件が満たされ無い場合はオレのやり方で決着させてもらう、例外は無い」
天使と悪魔の対応差、結論の不平等、傍から見れば貧乏クジ引いたも同然。
だがオレだってお前と契約した時点で立場は差ほども無く、仕事上の誓約書にサインしたのと同じ扱いになっている。
サカミチに提示した条件と同じく詳細を含めれば100ちょいもあるが最低限事項は3つだ。
1:契約期間中は天界には戻れない
2:常に対象者の一定距離内にいなければならない
3:対象者同士の間柄に一切の手出し厳禁 破った場合には処罰が下る
そんな内容だったか…全く堅苦しくて嫌になるよなァ、常にオレも監視されてるってワケだ。
互いに対等で同等の負荷を…なんて精神はご立派で飽き飽きもするが無ければ自分でやる仕事も増える。
そいつをカバーしてくれるいわば最低限の保険も兼ね備えてるのだとか、ったく上手く出来てるシステムだ。
「キツイか…?悪魔との契約ってのはこういうモンなんだぜ、サカミチ」
現実味の無い現実的な話、常識から捕らえれば理解に苦しむ矛盾塗れの紛れもない事実。
サカミチにすれば、まるで空気を無理やり形にして掴むような感覚だろぜ…
そらみろ、現に今、この空間は止まっちまったように静か、さぞ聞かなきゃ良かったと後悔してるに違いない…
「そうか…そうなんですよね、ヤストモさん!」
かと思いきや、オレの言葉を耳にしたサカミチの心は落ち着き、限りなく穏やかなってみせていた。
それどころか魂の色がどんどん強くなっていくじゃねぇーか…どうなってんだ。
「ヤストモさんは仕事で来ているんです、しかも普通では絶対に有り得ない特別な仕事を。
それに試練を受けると言い出したのは僕からだったし今更泣き言なんて言えるわけが無いんです、
逆を返せば僕は今とっても貴重な体験をしているわけだし…そう思えば悄げてなんていられないんだ。」
ポジティブ…つか、物分りが良すぎて逆にオレがドン引くレベルだぞ。
沈んだ空気は払拭され当初の目的は果たせた変わりにサカミチの決意に間接的に火をつけちまったらしい。
現実を受け入れた時の物分りの良さには感心するが、この安易に信じやすい性格は危ねぇーな…とも思った。
「ハッ、せいぜい足元掬われねぇーようにやるんだな…」
「はい、ありがとうございます//」
「ウッセ、礼とかいらねぇーし」
此処までの改善は望んで無かったが最初とは比べ物にならない程に空気感は良いものになっていた。
まぁーイイんじゃねぇーの…気の持ちようで何とかなる場合もあるし、
こういう時の人間が引き寄せる力ってのは馬鹿に出来ないモンがある。
「んぁ…なんだ…?」
やや拍子抜けしているオレへ浅く振動が走る、それはさっきポケットに突っ込んだ携帯からだった。
取り出し、ディスプレイを見ると【A:003】との表示に電話先の顔が思い浮かび、口元が若干の痙攣をみせた。
「あっ…ああっ…スイマセン、ちょっと出てきます!!」
全くの同時タイミングでサカミチにも電話が入ったらしく、
慌てて縺れる足のままバタバタと部屋を出ていっちまった。
ほらな…と、ドア一枚隔てた先を見ながらオレも通話ボタンを押して応答に出ると、
鼻に掛かるテンション高めの声が耳を駆け抜けた。
「ウッセーよ、少しボリューム落として喋れ!!…つか何の用だよ…
…ハァ?状況だぁ?テメェーには関係無ェーだろ……」
文句もお構いなしのマシンガントークに耳がやられる。
しかもオレの不機嫌な声を聞き慣れているせいか、
上手く躱しながら現状報告をしろという始末にどっと疲れが襲ってきやがる。
「さっき上には定期報告したっつーの、それにオレは仕事中なんだよ。
暇してるテメェーとは違……だからウッセーっつーのっ!;
兎に角こっちは問題無ぇーよ、…あぁ?……あぁ…分かった分かった…じゃな」
特に要件らしい項目も読み取れなかったオレは早々に電話を切り、
二度目が無いように今度は電源を落としてポケットへ戻した。
アホか、暇つぶしで電話掛けてきやがって…あ、前回代打してやった仕事の話も振っときゃ良かったか…
これだから天使ってやつは自由楽天的でオレの性格には合わねぇーわ。
ガチャッ!!
すると彼方も電話が終わったらしく、ドアの開けられる音に視線を向けると
さっきとは別人かってくらいに血色の良くなったサカミチが姿を見せた。
あぁ成程、何があったか実に分かりやすい反応だ。
「ヤストモさん!今、荒北さんから電話がありました…//!!」
「あー…そう」
「荒北さんが言ってた通り、引越しとか大学の準備で忙しかったそうで…
病気とか事故とかじゃ無くて本当に良かったです…僕も安心しました//」
「そりゃ良かったな」
適当の返事にもサカミチは笑顔で嬉しそうに話し続ける、今のオレとは正反対だ。
だがこれでオレがアラキタとは別者だって事もハッキリしただろう、それだけでも良しとしようじゃねぇーか。
「んで、そのアラキタは他に何か言ってたのか?」
「ハイ、今度のGWに引越し先のアパートに遊びに来いって…//」
やーれやれ漸く進展か、或いは後退か…どっちにしても停滞していた奴等に動きが望めそうだ。
面倒な誓約が無けりゃ直々に相手の様子見に行くことも出来んだが…それはコイツのタメにならない。
それにただ仕事をするだけじゃツマラナイし、どうせなら何かあっての結果の方が面白いってモンだ。
「今から楽しみだなぁ~…久しぶりに荒北さんに会えるんだ//」
にしてもサカミチ、お前は自分が持っている運ってヤツにもう少し気づくべきじゃねーか。
オレにしか見えねぇーが魂の色が変わった途端に風向きが変わったようにも思えた。
何よりあの色、あんなに鮮やかな魂をオレは一度も見たことが無かったぞ。
「ケッ…糠喜びなら他所でやれってんだ」
自分の目に狂いは無かったって事か…おもしれぇーぜ、オノダ サカミチ。
目の前の満面の喜ぶ顔に芽生え始めた興味本心を映しながら
さも何事もなかったようにオレは浅い溜息をついてみせたのだった。
【…続…】
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