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5月12日 巻坂長編その2UP。
夕暮れの駅前は帰宅ラッシュの真っ只中で景色が目まぐるしく流れていく。
腕時計を確認しながら改札へ流れ込むサラリーマンの横を、
これから出掛けるのか小洒落た身なりの奴等が往来し会話も入り雑じって騒音に近い。
こりゃー朝はもっとヒデぇー有り様なんだろう…心底電車通学じゃ無くて良かったと思える。
しっかし歩きにくいったら無ェーなァ…もう少し時間ズラせば良かったゼ、ったく…;
文句を口の中で噛み殺しながら今し方まで通話していた携帯に視線を移せば
間も無く夕方16:00~になろうとしていた。
「腹減ったなァ…とっとと帰りてぇーンだケド…」
誰に言うつもりの無かった言葉が往来に紛れて宙を舞う、
やがて微かに人並みが落ち着き始めたのを感じ、俺はその場を離れることにした。
この春、無事に箱根学園を卒業し、進学の道を選んだ俺は大学生になる予定が立っていたが
その前にこなさなきゃならねぇー事が山のように待ち構えていやがったんだ。
面倒な手続きやら書類の作成やらに追われる日々じゃロクに自分の時間も取れやしねぇーわ。
大学には寮もあったが、思うところあってアパート暮らしを選んだのは良いとして
覚悟していた以上の忙しさに今までは相当楽してたんだなと思わずにはいられなかった。
「つか…うっかりとかの話じゃねぇーって、マジで馬鹿じゃネェーの;」
今だってそうだ、なんで態々この帰宅ラッシュの時間に駅前にいるかって事態も俺の些細なミスが原因だった。
大学生になってまで親に携帯代払ってもらってるなんざカッコ悪すぎだろと自分で言い出したまでは良かったがツメが甘かった…
引越しの手続きに連絡先の変更が遅れてれ携帯の支払請求書が行き違ってやがったんだ。
元々、あんま電話もメールもしねぇーし、特定の奴等からしか連絡来ねぇーもんだから止まってた事にさえ気が付かなかった。
しっかし電源まで落ちてたって事は相当な時間放置してた事になるよなァ…感じもしなかったがそんだけ忙しかったって事なのかも知れない。
ようやく復活した携帯は今まで溜まってた分のメールが間髪いれずに受信されているらしく
さっさとマナーモードに切り替えたはいいがうっとおしいくらい震え続けている。
俺の用事は済んだし電源落としてやろうかとも思ったが、
誰かからまだ繋がらないと言われても後々メンドーだしとポケットに突っ込んでやった。
(小野田チャンには悪ィーコトしちまったなぁ…)
気が付いた時点では明日でも良いかとも思ったが、なんかヘンに胸が騒いじまって
気が付いたら財布掴んでアパートを飛び出してた。
近所のコンビニで済ませられるかと思いきやショップまで来る羽目になり、結果この帰宅ラッシュの真っ只中っつーワケだ。
人間すっかり忘れて気にもしてなかった事を思い出すとコレだから厄介だ、まぁ…俺の場合、対象者は一人だけなんだケドよ。
久しぶりに聴いたせいじゃ無い、柄にも無く誰かの声ってこんなに有り難いモンなんだな。
折れるかよと意気込んで俺自身で決めて進めた準備が漸く整い、電話を掛けてサプライズ…でも逆だった。
小野田チャンの声は忙殺されて自然に刺さくれてた神経を平たくするように撫でてくれて、満たされて癒されるっつーか…不思議な感覚だ。
早く会いてぇーよ、正直なところこのまま引き返して電車に飛び乗ってやろうかって勢いだ。
「あ゛ぁーあー…っ!!」
身体を返しそうになる衝動を声に変えて叫んでも喧騒に上手く紛れてくれたおかげで誰も不振には思わないだろうぜ。
ダメだ、此処で投げたら今まで用意したサプライズが全部パァーになっちまう、それは流石に嫌だ。
最後に会ったのが軽く二週間前で、そんときイラついてたのは覚えてんだ…
小野田チャンにじゃあー無ぇーよ、思うように進まない計画に地団駄踏んで素っ気無くした自分にだ。
悩むなんざぁ自分らしくネェーってのも分かってる、だがどうにも頭から離れない、それだけ本気なンだよ。
(早くゴールデンウィークになんねぇーかな…)
周りですれ違ったり傍らで耳に障る話し声を耳にしながら、あと少しの辛抱を胸に抱える俺は
取り敢えず気を紛らわす為に今晩の飯の心配でもすることにしようとアパートへの帰路を早足で戻ることにした。
家についたら何気無くメールでもしてみようと思いつつ、携帯を突っ込んだポケットとは反対側のポケットの膨らみを確認しながら…。
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