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5月12日 巻坂長編その2UP。


~ 観察日誌 ~


カチカチ…カチッ…


『異常無ク変化モ無シ 現状観察ヲ続行スル。』


悩みも迷いようも無い定期報告文、毎回ながらコレが何気に面倒い。
予測変換を選択するだけにしたって回数を重ねればいい加減に飽きもするっつーの、
しっかし、支給品とはいえ此の携帯も年期入ってきたな…報告内容よりもオレはそっちの方が気になるぜ。


【送信完了シマシタ】


画面の表示を一応確認して携帯を折り畳み、ズボンのポケットに突っこんで手近にあった雑誌に手を伸ばす。
これで暫くは催促は来ねぇーだろう、と、ヤレヤレ感たっぷりにページを適当に捲って再び眺めた。
その視界の端っこに常にチラっと小っさい背中が切れて映っている。
時々肩を大きく下げて俯いているのが伺え、またか…と思いつつも
敢えて声はかけない、大体の事態が容易に想像出来るからだ。


(さぁ~て、どーすンだ…)


雑誌の隙間から視界を少し広げれば手に派手な色使いのストラップが
目立つ形遅れの携帯電話が握られてるのが分かる。
誰かからの連絡を待っているのか、いいや違うな…心情穏やかじゃねぇーし…
まぁ、でもそれも仕方無ぇーかも知れねぇーけど。


「よし…っ」


此方の視線に全く気が付く様子も無く、一人決意を固めた独り言を呟いたかと思えば徐に携帯電話を操作し始めた。
ご苦労さん…と、オレは視線を再び雑誌に戻して動向結果を見守る事にした。
こんな呑気に雑誌を眺めているがオレはがっちり仕事中の身、至って真面目にやってんだぜ。
【あの世連合・寿命管理二部門所属 悪魔】 なんてカタっ苦しい肩書きがいつの間にか付いていたが
要は寿命の延命、短縮を指示のもとに管理しているリーマンに過ぎねぇー。
非日常的、大凡信じられねぇーと思うかもしれねぇーが人間世界だって仕事なんざ千差万別多種多様、
何があったって不思議でも何でも無い、オレ達の世界だって大差無い。
要は命に関わる事柄が俺達の仕事管轄内であることを信じるか信じねぇーかって話で…
…あ゛ぁー説明がメンドクセぇーんだよ!!兎に角、人間には出来ねぇー仕事をオレはやってる。


ピッ… ポッ… ピッ…


それにしたって今回の仕事の内容はなんだってんだ…。
特務なんてカッコつけた言い方しちゃいるが上司の透けた魂胆が見え見えじゃねーか。
実験的試験期間じゃ何が起こるか予測も出来ねぇーし、場合によっちゃ天界全体の責任になっちまう。
経験浅い大勢の下連中に任せて大事を招くくらいならば
ある程度の権限があって対応対処が出来る暇で融通の効くオレ達のような
2~3番手連中が駆り出されたんだろうと少し考えれば普通に気付く話だ。
相変わらず遠回しでまどろっこしいっつーんだよ、ストレートに言えばいいってのに…。


(何でも出来る便利屋じゃねーってんだ、あのクソ上司…)


散々悪態は吐くが与えられた以上、きっちり最後までカタをつけるのがオレの主義。
たとえどんなにメンドーだろうが無茶だろうが文句は言わせねぇーし聞きたか無ェーからだ。
今までも、これからも変わらない信念に違いは無ぇーンだがよォ…


トゥルルル…トゥルルル…トゥルル…ッ ガチャ


『おかけになった電話番号は只今お繋ぎすることが出来ません、暫く経ってから…』


ピィッ…


トゥルルル…トゥルルル…トゥルル…ッ ガチャ


『おかけになった電話番号は只今お繋ぎっ…』


ツー…ツー…ツー…


「……やっぱりダメか…;」


こんなにメンドクセぇーと思った事は今までに無く初めてだ。
オレの知る限りでもう何度目だ、そうやって携帯握り締めてデケェー溜息ついてんのは。


「どうしちゃったんでしょうか…荒北さん;」


続くのは今にも死んじまいそうな声と視線を向けて意見を乞う情けない顔ときている
パターンに入ってるにしたって、いい加減それも見飽きてくるってモンだ…。


「さぁーなぁー…」



マトモに取り合う煩わしさを回避すべく、大半を読み終えて内容もダダ被りしている雑誌から
視線も外さずに適当な相槌を返すと、部屋の空気が幾分、本当に微々たる程軽くなったのが感じられた。
なんだよ返答がある事が救いのような雰囲気を醸し出して…そういう問題じゃねぇーだろ。

こいつ名前をオノダサカミチ、高校2年になる男子高校生、自転車競技部所属、趣味はアニメ。
一見すれば平々凡々の一人間だが、抱えている問題により選別された今回のオレの仕事相手だ。
既にコイツと正式契約してから今日で二週間が過ぎようとしているも進展どころか後退もしないまま、
期限時間ばかりが過ぎていく毎日にコイツは焦りを感じて居ないのか、今はそれどころじゃ無いってカンジだがな。


「メールしても返って来ないし電話も繋がらない……あの、ヤストモさん」

「アン?」

「ダメ元で聞きますけど、本当はヤストモさんが荒北さん…ってことは…」


またその話かよ…と、舌を鳴らして視線を上げれば聞いたことを申し訳ないと思っている視線と目が合った。
再三何度も違うっつってんのにまだコイツは疑ってんだなと容易に伺い知れる。


「次言ったら口縫うぞ」

「です…よねぇ~…アハハ……ハァ…//;」


それにしちゃ諦め切れてねぇーってのが丸わかりの溜息じゃねぇーか。
最初の威勢と度胸は何処にいっちまったんだか…と、今度はオレが息を吐く。
大方内情を察するに付き合っている奴にそっくりな奴が目の前に居て、
そいつが電話に出なかったら自然と疑念が浮かぶってモンだな。
だが残念な事にオレはアラキタ・ヤストモでも無けりゃ人間でも無ぇ。


「普通の人間は宙に浮いたり出来ないです…もんね…//;」

「ったりめぇーだろ」


一度、そんなに似てるのかと言ったオレに差し出された写真を見れば可も無く不可も無く…
おまけに、そん時の嬉しそうな顔ったらどういっていいものか困るくらいのものだった。
本音も聞けずに悩んでるっつーのに考えるだけで幸せになれるなんざぁ人間てヤツは複雑、
オレには到底理解出来ない感情だな…と、他人事様々な考えしか無かった。
再度、ゆっくりと視線を動かして確かめるようにオレの姿を隅々まで眺めると
サカミチはもう一度、自分の手にした携帯電話に視線を落とした。
全くもって見苦しい…此処にいなきゃならねぇーオレの身にもなってみろと口が言いたくてムズムズしやがる。



「あぁ~あっ…ったく!!」


いつの間にか伝染した溜息を呑んで空気を破するようにオレは声を上げて読み飽きた雑誌を閉じた。
突然の大声に驚いた肩が一度大きく跳ねたのが見え、その両目は大きく丸く見開いている。


「なんか話せ、それか聞け」

「えっ…?」

「話し相手になってやるっつってんだよ、文句あンのか」


イライラする感覚を祓うように荒っぽく頭を掻きながらサカミチの目の前に胡座を組んでオレは漸く床に腰を降ろた。
本来なら仕事外の分野、だがこれ以上部屋の空気が重くなってもオレの気分が悪い。
なら出て行けば良いだろうって話だが生憎とそれが出来無い理由がオレにはあンだよ。
あぁ…メンドクセぇー…が、与えられた仕事はやり遂げる主義を曲げる気も無ぇーから仕方ねぇーケド。
急な話の吹っかけに驚いたらサカミチは問いに悩む顔をしてみせたが、ツラはそっちのが幾分もマシに見える。


「えっ…ぇっと……えっと…そうだ、ヤストモさんは普段は何してるんですか、…休日とか…//?」

「寝てっか、どっかテキトーに出掛けてる」

「へぇー…それって僕達の生活している世界に…って事ですか?」

「滅多にコッチには来ねぇーよ、俺達の住んでる世界をテキトーにぶらついてる。」


何でも良いとは言ったがコレは聞いて何かになる話なんだろうか…。
当たり障りがないと言えば確かにそうだろうが面白みには到底欠けていて、
見込み違いのツマんねぇー奴…と、口からついて言葉に出そうになった時だった。


「そういえば僕、けっこうヤストモさんと一緒に居るはずなのにヤストモさんの事を殆ど知らないままですね。」


あ…変わった、さっきまで死にそうなくらい雨曇で落ちていた色が急に晴れたらしい。
オレの職業上、人の魂だとか内心を見分けるのは容易いが、こんなにコロっと変わって見せる人間も珍しい。


「良ければ話してもらえませんか…ヤストモさんの住んでる世界、どんなところなんですか…//?」


へぇー…やっぱおもしれぇー奴じゃん…オノダ サカミチ。
灰色から鮮やかな黄色への変化に感心したオレは暇つぶしがてら
自分の世界の話をサカミチにしてやることにした。
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