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5月12日 巻坂長編その2UP。
「……ハァ!?ンだヨそれジョーダンだろ!!??」
お節介な同僚から見透かされた説教を食らっている真下、オレに掛かってきた一本の電話。
あぁ来た来た…と、それ事態には驚きもしなかったが着信応答に出てみりゃそれはオレ直属の上司では無く
隣で今さっきまでオレに説教していた天使の上司からのものだった。
何でだ?なんか妙な感じがスンなとも思ったが別に告知は誰でも同じか、問題は内容だ…。
違和感を覚えつつも耳を張っていると上司は軽い調子で内容を口にし始めた。
「…ッバッカじゃねェのォ!!オレはキャバクラのホステスじゃ無ェっつんだよぉ!!」
それがあまりにもブッ飛んでやがって、ハイソウデスカなんてお利口チャンな返事が出来るわけも無く、
一体どういうことだと携帯がブッ壊れるくらいの大声で相手の耳を劈かんばかりに噛み付いてやった。
しかし説明される内容を聞けば聴くほど頭ン中は混乱していくばっかり、どう聞いても冷静になんてなれやしなかった。
「ナァナァナァ天使サンよォ…今日一日の様子見てたって続ける必要あるかっ!?
それによォ契約終了まで相手の身体が持たねぇーぞ、何考えてやがんだァ!?」
今までの仕事経験上、ミスった事も無いがコレはどう考えてもオカシイ。
しかし一度決定してしまった内容が一悪魔の一言で覆るハズも無く、
オレの反論も虚しく兎に角続行だと伝えられ一方的に電話は切られちまった。
連中が何を考えてんだか全く理解出来ねぇーわ…クッソ…頭ン中がゴチャゴチャしやがる。
「怖いもの知らずだとは思っていたが、未だかつてこんなに処罰に噛み付く輩をオレは見たことが無いぞ…;」
すっかり忘れかけてた存在の声に視線を落とすと自分の携帯を片手にオレを見ている同僚の天使の姿があった。
怒鳴り声にビックリしたのか、掻い摘んで聴いてた話の内容に驚いてるのか知れネェけど、さっさと内容を話せって表情で訴えかけている。
お前、確かオレに偉そうに言ってくれちゃったよナァ?じゃあコレは一体どういう事なんだよ。
さっきの説教と上司の電話内容が相まった不満タラタラな心持ちの中、でもコイツにも関係無い話じゃ無ェよな…と、
通話の切れた携帯をポケットに突っこんで今し方伝えたれた内容を説明して聞かせた。
「…なんだとぉ!?継続維持で一ヶ月延長っ!?」
オレの話を耳にするや否や、普段おちゃらけている同僚の顔付きがすっ飛んだ驚き顔に変わり、
軽く腰掛けていた体勢から立ち上がると眉を寄せながら距離を一歩詰め寄ってきた。
今度は近い、近ぇーよ顔がっ…つかなんでオレよりお前の方が動揺しちゃってんだよ。
「一体どういうことなのだ…;?オレはさっき例外は無いとお前に啖呵を切ったが、
上の決定がコレでは赤っ恥になってしまうでは無いか;」
「いや、お前が言ってた事に間違いは無かったから恥じゃねぇダロ。
つか、問題は処罰内容だぜ…やらかしたオレが言うのもヘンだが聞いたことネェよ、こんな話」
うっとおしいく寄ってきた顔を片手で押し退けると、同僚は歪んで赤く擦れた頬を摩りながら眉を寄せて溜息を一つ吐いた。
減給だとか降格だとかならオレ自身がやっちまった事の処罰にはなるのは分かる。
しかし今回告げられた内容は何を思って決まったのか考え追えないものだった。
さっきコイツが口を酸っぱくして期限期限と騒いだのか、それにもちゃんとした理由があンだ。
オレ達悪魔が現世に留まる為には一定条件を満たした人間の生気を頂戴しなきゃならネェ、
それも誰でも良いってワケじゃ無く、対象者の身近な人物で波長が合ってそこそこに体力のあるヤツ…。
しかし人間には限りがある、物を食えば無くなっちまうように生気もいつまでも続くモンじゃ無い。
ただ黙って生気を吸っても無害でいられる限界が最大限延ばしても三ヶ月、
それを超えたら媒体になってるヤツの身の保証が無ェってワケ…今回、その媒体者がアラキタ ヤストモだったんだ。
「奴等め何を考えているのだ…、いや、何か考えがあってのことだろうが…」
理解は出来ないが事態は把握したらしい同僚はブツブツと独り言を繰り返し考え込んでいる。
様子を見る限りコイツも早々に気がついてたんだ…アラキタ ヤストモの魂が三ヶ月しか無いって事に。
そうでなければ元来プライド高い天使が仕事に関係無い人間に構うハズが無ェもんなァ…一緒に居りゃ情も移る、仕方無ェか。
「しかし解せない、オレの上司ならさておき、お前の上司など規律や規則には何より煩さそうなタイプであろう?」
「だな、どっちも無口で片方は鉄仮面とキテやがる…自分から進んで破るようなタイプじゃナイネ」
ふっと浮かんだ上司二人の顔に『何考えてンの?』と問うてみたところで答えは返ってくるハズもない。
無闇に人の魂は奪わない、必要以上の手出しはしない、それが天界のオレ達の仕事ルールで常識だった…それが今回破られようとしている。
そういやあコレは試験期間だとか最初に言ってたな、まさか試されてたのはオレ達の方だったってのか?
オイオイ冗談じゃねぇヨ、だとしたらトンだビンボークジ引かされちまったってワケ?
アイツらこうなること知っててオレをオノダ サカミチに付けたってのかァ?んなバカな話有り得ねぇダロ。
「まぁ…ざっとしたオレの見解に過ぎないが、アラキタ ヤストモの魂は後一ヶ月は何の問題も無い。
しかしその先はオレ達にとって未知の領域だ、人間側は明白であるが…」
「ンなバカな事あってたまるか…オレァ仕事に関しちゃマジメちゃんなんだヨォ?
人間一人見過ごせってイミなのか…っかんネェーなァ~バカじゃナァイ!?」
オレが自問自答を繰り返している傍らでは同僚が携帯片手に何かを調べているらしく、
じっと画面を眺めては小さく口元が独り言を呟いていた。
上の連中がそんな簡単にシッポ捕ますような事するわねェじゃん…と、今度はオレが腰を屈め、暗い街並みに視線を向けた。
夜空に浮かぶ街の光はいまだ眠らず、耳をすませば雑踏や街路、はたまた夜間飛行中の飛行機まで
様々な生ける音が聴こえてくる、なんだろうか、妙に騒がしい気がスんな…。
(何より最後のアレが一番意味わかんねぇーわ…)
心無しか身体も重い…色々有りすぎて気分悪ィぜ…。
さっき掛かってきた電話がまだ耳の中で続いてるみたいで、
片手で耳を塞いでも奥にこびりついた上司の最後の一言が煩いんだ。
そりゃまるで天使が言った悪魔のような言葉、これはコイツには言わない方がいいんだろうな…
『期間終了後、アラキタ ヤストモのかわりにお前が荒北靖友になることも可能ショ』
あぁ…冗談のキツイ、タチの悪い罰だわ、コレ…。
……………………
それからの時間の流れは思いの外に早く、特別何も無いままに世は朝を迎えていた。
しかし状況にはしっかりと変化が見られ、この決して新しくは無い男一人暮らしのアパートからは
さも幸せですと言いたげな穏やかな雰囲気が溢れ出していた。
『荒北さん料理上手いんですね!今朝のご飯もとって美味しかったです//』
『そぉ?バイト先でまかない作ってっからかなー、でも結構テキトーだぜ』
『それはセンスがあるって事ですよ、ボク大好きですよ、荒北さんの作るゴハン//』
『あっ、ウン、アリガト…っつとっ…;』
『あわわお皿がぁっ;!!』
…ムリ、耐えらンネェ…ったく此処に居なきゃならねぇーオレの身にもなってみろと口がムズムズして仕方ネェわ。
まだマシなのはうっとおしい同僚の姿が今朝から無いことくらいか…、確か本来の契約者のもとへ仕事に戻ると
言い残していたような昨日の記憶、それも薄くって良く覚えていやしなかった。
しっかし仕事を投げ出すわけにもいかネェからなぁ…ちっとばっかし確認しとくことがあンだよねぇ…。
溢れる会話に耳を塞ぎながら屋根上から室内へと入り、一階の賑やかな奴らは無視しオレは真っ直ぐロフトへと向かった。
寝室変わりに使っているスペースにざっと視線を広げると目的の物は容易に見つけることができた。
「ハッ…更新してんじゃネェーよ、マジかよ…」
契約時にサカミチへ預けていた液晶パッドを拝借し、起動してみると、
いつの間にか勝手にバージョンアップしたらしく期限と電池など幾つかが更新されているのがわかった。
上の連中は本気なのか…あと一ヶ月で何がどう変わるってんだ、今のところ全く想像つかねぇーわ。
ブツブツ言いながら画面をスライドさせていると、一つ、明らかに最初には無かったページがあることに気が付いた。
しかも、コレはサカミチ宛じゃ無ぇ…オレ宛じゃん。
人間には見えない読めない天界の文字で綴られたボタンを押し、
ロックを外すと画面に映し出されたのはオレの所属機関の管理番号と起動前のデジタル表示の時計、
あと意味の分んねぇメーター表示ダケのグラフ、なんも映っちゃいねぇし…なんだコレ。
八つ当たり混じりの操作で何度確認しても他にオレに宛てられたメッセージを読み解く鍵は見当たらず
悩む頭を上げると、いつの間にか賑やかだった声は静かになっていた。
ロフトから降り、小狭い一階を見渡しても二人の姿は無い、どっか出掛けたのか…でも近所だな。
アラキタ ヤストモの気配は無いがオレの管理範囲内にサカミチはまだいるのは気配で分かる。
(つっても…顔合せずらいわ、流石に…)
ふと蘇る十数時間前の記憶に何処でオレの予定は狂っちまったんだろうかと考えずにはいられなかった。
今までの仕事と同じ、四六時中監視、観察して結果見定めて報告してオシマイってなるハズだったんだよ。
大体ナンなんだよ今回の仕事はヨォ、なんで野郎同士のカップルを見守ってなきゃならねぇんだよ、オレ悪魔だぜ?
もっとこう張り詰めた空気っつーか生死ギリギリの緊迫、緊張感ある場所に派遣されんなら分かるんだ。
それがよりにもよって平和ボケした高校生が相手って冗談にしたって面白くも無ぇわ。
『契約をする前に僕からも一つだけお願いがあるんですが…名前で読んでください、それだけで良いです…//』
名前のないオレに名前をつけて呼び、自分に課せられた運命に臆するどころか
こっち側の心配までしてくれちゃってホントお人好し、馬鹿じゃナァイ、普通の人間だったら怯えたり毛嫌ったりするモンなんだよ。
全部知ってんだゼ、お前がオレをアラキタ ヤストモと重ねて見てンのは。
さぞ便利だったダロ、居ない恋人にそっくりな奴がここ二ヶ月の間身近に居たんだからヨォ。
それでイイじゃん、何が悪い事だってんだ、オレには関係無い、生温さに溺れてお前だけ破滅しちまえ甘チャンが…。
『宜しくお願いします、ヤストモさん…//』
ところが何時からだ…さっさと終わらせて帰りてぇナって思わなくなってたのは。
日、一日を重ねて過ごすうちにムカついてたハズの笑顔がオレに向けられるたびに変にコッチが動揺しちまう、
その度に何も入ってない胸ン中が音を立て始めているコトに知らん顔してたンだ。
『ありがとうございます、ヤストモさん//』
そんなオレを他所に、昨晩のサカミチからの礼に今まで知らん顔してたモノが一気に限界点へと駆け登ってイっちまった。
ヤラカシタって感覚より、ただ単純に手に入れたいという思いの方がデカくて、
心の底から嬉しそうにアラキタ ヤストモが好きだと語るサカミチにどうにも抑え切れなくなっちまったんだ。
日に日に輝きを増して光る魂、何を疑うこともなく笑うカオ、それが全部欲しいと思った、このままじゃ破滅スンのはオレの方じゃん…
「クソッ、アリガトウって何なんだよ…」
チラつくなんてレベルじゃ無ェ、なんでこんなにポンポンとサカミチの顔が浮かぶんだ。
支給品だって事を忘れて手にぶら下げた液晶パットを投げ付けたくなっちまうぜ…
久しぶりに肩から落ちるような溜息を吐きそうになった、と、その時…ガチャリと小さく横から室内ドアの開く音が聞こえた。
「ぁ……っ」
続いたのたこれまたちっせぇ声、しかも視線がばっつり合っちまってやがる。
そういやコイツ(液晶パッド)を持ってる時って気配も姿も意思に関係無く無効化されちまうって契約書にあったっけナァ。
ハッ!そーかいそーかい、オレだってバカじゃねぇしやれって事は理解してやんゼ、納得はしねぇーけどな!
ったく、メンドクセーぜぇ、ハカリゴト企ててる天使サマさまヨォ。
「ンだよ」
「ぇ、いや、あの、その…」
投げやった言葉にサカミチは顔を強ばらせたままその場に固まって動かなかった。
最初にあった時にもこんなにビビってなかっただろ、と、
不機嫌極まりない声で手にしていた液晶パットをチラつかせながらオレは話を続けた。
「んなビビんな、仕事でちっと出てきたダケだから直ぐ消えんぜ、ホラこれ返すわ」
「ぁ、どうも…」
少し震えの見える両手に液晶パットを投げ渡すと、怯えの隠せない俯いたままの表情でサカミチは手の中を見つめていた。
そうだ、そうやって一歩引いてビビっててくれりゃこっちも気が楽で仕事もし易い。
上の連中の思惑やらは二の次にしても、これ以上深入りスんのはヤバイって事は自分が一番良く分かってる。
長居は無用だ、とっとと退散しちまおうと背を返して部屋から出ていこうとすると、背後から深い呼吸と声に呼び止められた。
「あ、あの待って下さいヤストモさんっ!!」
「ナニィ?」
…しまった、聞こえない振りしときゃ良かったのに思わず返しちまった。
人間世界の甘ったるい空気に慣れすぎた油断と仕事とはいえサカミチの傍に居すぎたせいか
呼ばれれば返事をするって事が当たり前になっちまってやがる…つかテメェも話しかけんなよ、
めちゃくちゃビビってんのまるわかりじゃねぇーか。
「お話したいことがっ…その、昨日のこと、なんですけど…けど…」
それでそーくんのかよ、何考えてんだバカじゃナァイ?
なんで態々苦い記憶を蒸し返す必要があンだ、具合悪い話になるって分かってんのに持ち出す必要が無ェダロ。
自分にもサカミチにも苛立ちながら何て答えるか考えていると、次に続いたのは意外な言葉だった。
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