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5月12日 巻坂長編その2UP。


「ゴメンナサイっ!!」

「…ぇっ…」


一瞬、何を言われたのか分からなかったが今、確かにゴメンナサイとコイツは言ったと思う。
驚きに振り返り、視界に映ったのは頭を深々と下げるサカミチの後頭部、少し肩も震えているらしかった。


「昨日のことは驚きました…そして、とっても…怖かったです。
今までで一番、ヤストモさんを怖いと思いました…。
出会った時も、そりゃ怖かったですけど全く別物といいますか…
これが本当の姿なのかなって思うと今にも身体が震えてきそうです…。」


そいつはご感想どーも…当然の反応がここまで来ると新鮮に思えるゼ。
で、なんでお前が謝ってんの?やらかしたのはオレの方なんだぜ?
自分の頭じゃ理解できない事態と言葉に無意味な苛立ちが募っていくばかりだ。


「暫くの間、押し付けられた手が残っているみたいに胸も苦しかったですし、
意識もハッキリするのに時間が係かりました…けど、その中でボク、考えたんです」


「へぇ…考えたネェ…」


両ポケットへ手を突っ込みながら相槌を打つと、下を向いていたサカミチの顔がゆっくりと持ち上がってみせた。
大きな瞳と震える唇、さっきまでアラキタ ヤストモと楽しげに会話していた面影は今は無い、
反対にカラ笑いに自然と自分の口元が緩んでいくのが良くわかる。
そんなコワい思いしてまでオレに話しかけたんだ、話してみろよ。
一方的で為す術のなかったお前はどんな結論に達したのか聞かせてもらおうじゃねぇの。


「この一ヶ月半の間でヤストモさんと一緒に過ごしている間に、
親しさに慣れて知らず知らずにヤストモさんに失礼な事をしていたんじゃないかなって…。
それを思い出されば一番なんですが、ゴメンナサイ…いくら考えてもわかりませんでした。
中身の無いゴメンナサイが失礼なのは分かってます、けど、ボクは契約が終了する日までヤストモさんには傍にいて欲しいんです。
ボクの魂も荒北さんの魂も差し上げる事は出来ません、けど、たとえヤストモさんが人間じゃ無くたって、せっかく出会えたんだから…っ」


「ハァッ、随分と都合イイ話してんじゃねぇーの、オマエ」

「えっ…」


サカミチの震える声を遮るオレの言葉に目が一瞬だけ大きく開いたのが分かった。
目元にはジワリと滲む涙、コワい思いをしながら言った話がソレかよ。


「お前がオレと一緒に居てぇってのはアラキタ ヤストモの代役だからだろ?
音信不通の間も会えない間も好きだってヤツにソックリなヤツが傍に居たんだ、さぞや便利だっただろうナァ?
それが今になっていざご本人に会えて、アリガトウなんて抜かしやがってテメェーはどんだけ都合がイイってんだ、いい加減にしやがれっ!!」

「それは違いますっ!!」


今度はサカミチの声がオレの声を遮った。
たった一言だが場面を制止させるにゃ充分な力を持った言葉だった。
後に続いたのは掠れ気味に啜る音、そろそろ涙が溢れてくるに違いない。
しかし、涙の前に出てきたのは尚も違うというサカミチの弁解の言葉だった。


「違います…ヤストモさん…っ…ボクはヤストモさんを荒北さんだと思って、話してた事なんてありません…本当です、っ…」

「嘘クセぇ…最初散々疑ってたの何処の何奴だよ」

「それは…最初は本当に本人じゃないのかって何度も思いました…けど、姿とか声とかは一緒でも
ヤストモさんはヤストモさんだって、昨日荒北さんに会ってから尚の事感じました、人間、悪魔だって事を抜いても全くの別人なんだって。
…それに昨日のありがとうは、違うんです、…」


目元を手の甲で拭いながら苦しそうな声でも話を止めようとはしないサカミチ。
そんな必死になってまで何をオレに伝えたいんだろうか…。
先程までの上目線は消え、ただ単純にその続きを聞いてみたと言葉を待っていると
大きく鼻を啜ってサカミチは大きく息を吐いて話し始めた。


「荒北さんに会えない間、誰かが、傍に居てくれて安心したんです…っ…今泉君や鳴子君とは違う、
あまり人に話せない話を遠慮しないで話せて聞いてくれる…そんな相手がいたことが嬉しかったんです…っ
あと少ししかヤストモさんと一緒にはいられない…最後にちゃんとお礼が言えるかも、ボクにはわかりません…
だから、昨日、荒北さんにちゃんと気持ちが聴けると決心が着いたから、ちゃんとお礼言おうと思って…言ったんです…」


言い終えると今まで我慢していた分の涙が一気に溢れたらしくサカミチは下を向いてそれ以上は泣き声しか聴こえなくなっちまった。
よくクソ天使が人間の感情は複雑だが素晴らしいとか吐かしているが人間の気持ちなんてオレには理解出来ネェ。
カッコ悪ィ…トンだ勘違いしてたのはオレの方かよ…クソカッコ悪ィ…。
だけど此処で言わなきゃならない言葉は知っている、それがヤラカした事態へのケジメの一歩だ。
泣き声に気付きもしないだろうが、足音も静かにサカミチの前へとやってくると
その場に屈んで俯く顎を右手で持ち上げて上を向かせた。


「悪かった、ゴメン」

「……ヤストモ、さん…?」

オレの言葉に面食らった顔で瞳をぱちくりさせながら視線を重ねる。
擦って赤くなった目尻と涙の流れた痕がなんだか痛々しく見えて、自分のヤラカした事を思い知らされずにはいられなかった。


「コワい思いさせたのも、ジョーダンにも魂喰おうとしたのも全部オレが悪かった。
この話はこれで終いだ、二度とお前の魂喰うなんざぁしねぇよ…だから泣くな、サカミチ。」

「…ハイっ…、良かったぁ………//」


そう言ってサカミチは涙の残った瞳のまま今度は柔らかく微笑んでみせた。
今度は笑うのかよ、こんなに感情がコロコロと変わるって生き物も他に無ぇな…。
人間て生き物は面白い、天使の言うこともあながち間違いじゃ無かったってワケだ。
サカミチの顎から手を離し、ゆっくりと屈みから立ち上がるとオレは一度荒っぽく髪を掻きつけた。
やっぱこの笑顔は苦手だわ、焼き付いて離れねぇーつか、イライラとは別にムズムズして仕方無い。
そろそろもう一人も帰ってきそうな雰囲気だしもう一つ言う事言っとかなきゃね…。


「それと一ヶ月、オレの仕事延長になったから、また暫く厄介になっからヨロシク」

「本当ですか…っ、まだまだヤストモさんと話したい事もあったので嬉しいです…っ//」


目の前の笑顔にオレにしか見えないサカミチの魂が鮮やかな暖色が灯ったのがわかった。
強く、そして綺麗に輝くオノダ サカミチという人間をもっと知ってみたい、と思うと同時に
お前の好きなヤツの生気吸ってオレが此処に居るって知っても、そうやってお前は笑ってくれねぇだろうなとも理解する。
イラナイ感情を知ってしまった、コイツはメンドくせぇー事になりそうなニオイが鼻先を掠めやがる。


「つかさ、どこ行ったか知らねぇけどアラキタ ヤストモが帰ってくる前に
その顔なんとかしとかねぇーと疑われるぜ、サカミチ」


「えぇっ…そんなヒドイ顔してますか//;」

「笑える程にはネ」

慌てて両手で顔を擦ってみせるが、泣いた痕なんてそう簡単には消えないモンだぜ。
そうこうするうちに玄関先ではドアノブを捻る音が聞こえ、続いてコンビニの袋を片手にしたこの部屋の主が姿を現した。
音に気が付き玄関へ向かうサカミチの背中を見送る視線には自然とアラキタ ヤストモが映り込んでぼちぼち会話も聞こえ始めてきた。
互いに不幸だなアラキタ ヤストモ、望んでも居ないのにオレ達は運命共同体になっちまったワケだ。
だが、もしサカミチの期待を裏切るような真似をしたらオレは多分、電話で伝えられた後者の方法を選択するからそのつもりで…と、
甘ったるくなりそうな雰囲気に親指を下げてオレはその場を退散したのだった。

【…続…】
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