更新情報

5月12日 巻坂長編その2UP。
「あれ…」


部室のロッカーで捜し物をしていたとき、ふと空間が瞬いてみせた。
気のせいかとも思ったけれど、確かめるように部室の窓の外に視線を向けると
いつの間に悪くなったんだろう、空は灰色の雲で覆われていた。
今朝のニュースでは雨だなんて言ってなかったんだけどな…


「そうだ、天気…天気っと…」


ポケットから携帯を取り出して気象予報を見てみても今現在の時刻は晴れの表示。
見比べるようにもう一度外を眺めても変わらず空模様は良くない、しかもただの雨では無さそうだった。


ピカッ… …ゴロゴロ…ー……


やっぱり、見間違いかとも思ったけど確かに光った。
灰色の雲間に繰り返す光と後追いの遠音、間違いなく雷だ。


「うぁ……うそーー;」


これはきっと夕立というヤツで直ぐに降り出すかもしれない。
さっき教室を出たときにはまだ晴れてたのに…と、僕は溜息をついた。
今日の部活は先輩方の都合で休みだと連絡を受けたけど、
自主朝練の時にロッカーに忘れ物をした事を思い出した放課後、
マネージャーの寒崎さんに鍵を借りて今は捜し物の真っ最中だった。


「あぁ、あったっ、良かった…//!」


さして入っていない自分の使うロッカーを覗き込み、手探りして
漸く目的の忘れ物を見つけたと思ったらこの天気…それは無いよ、神様;
でも見つかったし、兎に角急いで帰ろう。
鍵は明日の朝に返してくれればいいって寒崎さんは言っていたし
降り出しても少し濡れるくらいで済むかもしれない。
頭の中で計画しながら僕は両手でしっかりとロッカーを閉めた。
その時、ガチャン、と音を立てるロッカーと同時に背後から声がした。


「何してるショ、坂道」

「ふえっ…!!??」


突然声を掛けられて思わず変な声が出てしまった。
自然と丸まった背中のまま、声の方向に振り返ってみると
部室の入口には制服姿の巻島さんが僕を見ながら立っていた。


「お前ビックリし過ぎショ、今日は部活休みだぞ」

「は、ハイ知ってます!でも今朝の練習で忘れ物しちゃって…//;
ま、巻島さんこそどうして部室にいらっしゃったんですか…?
先輩方の都合で休みだって聞きましたけど…」

「それは金城と田所っちの都合だ、俺は別に用事無いヨ。
帰りがけに部室の電気がついてたから変だと思って寄ってみたダケ。
それより早くしねぇーと一雨来るショ」

「あ、は、ハイ…っ!」


右手の親指で外を指しながら理由を説明する巻島さんに
とりあえず怒ってはいなさそうだと安心した僕はポケットに手を当てた。
忘れ物も入れたし、鍵も持ったよね。
ベンチに駆け寄り、置いておいたカバンを肩に掛けて
もう一度忘れ物が無いかを確認して…と、またまたその時だった。
カン、カンと軽い音が二三度耳に鳴ったかと思ったら
急に追い立てるような水音が辺りに聞こえ始めた。


「あ~あ~あ~ー…//;」


独り言にしては大きい声を上げた巻島さんは、くるりと振り向き外を見やった。
急いで僕も入口へと顔を出すと、そこはすっかり雨模様、酷い土砂降りの光景が目に映った。


「こりゃ~雨足落ち着くまで待つしかねぇーなぁ…」

「そー…ですね、ハァ~…;」

遅かった…とうとう降り出しちゃった…;
地面に跳ねて叩きつける雨に飛び出せば間違いなく全身びしょ濡れになるのは想像が付く。
仕方無いとばかりに頬を掻いてみせた巻島さんは部室のドアを閉めて
部室中央のベンチに腰を降ろし、ポケットから携帯を取り出した。


「どーした、お前もこっち来て座れば?」

「いや僕は…大丈夫です;」

「この降り方、すぐにはおさまんねぇーと思うケド。」

「それなら僕、走って傘取って来ます!」

「いいって、ずぶ濡れになる必要無いっショ。
待ってりゃ止むんだから、それまでの辛抱だ…」


巻島さんはそう言ってまた携帯に視線を戻した。
口調がいつもより早口に思える、それがなんだかイライラしているみたいに僕には聞こえていた。
それもそうだ、こうなってしまったのは僕のせいなのだから、怒っていても不思議じゃない。
さっさと荷物を取って部室から出れば巻島さんは真っ直ぐ帰れた筈だから。


「あの、巻島さん…その、」

「何…どうしたショ、坂道」

「ご、ゴメンさない僕のせいで帰りが遅くなってしまって…;」

「…なんでお前が謝んの、俺が気になって部室に来んだから
坂道が気にする必要全然ねぇーって、いいから、こっち来いって;」


と、言う割にはやっぱり口調が怖いです;
普段は優しいし怒った姿は見たことがないけれど、その分想像がつかないよ…;
これ以上にイライラさせちゃ駄目だ、とりあえず言われた通りにすれば少しは怒りが収まるかも…。
そう考えた僕は一人分空けてベンチに座ることにした。
相変わらず音を立てて降り続ける雨の音だけが耳に聞こえる中、
なんとも言えない気まずい雰囲気が辺を漂っている…何か、会話をしなければ…。


「それにしても、きゅ、急に降り出しちゃいましたね…//;
天気予報では雨なんて言ってなかったんですけど…」

「あぁ、多分通り雨ショ、風が湿ってたから降るかなとは予想ついてた。
まぁー雷付きだとは思わなかったケドな…」


当たり障りの無い話題を振って正解だった。
僕自身、あんまり話すのが得意じゃないからこういう時ってどんな会話を振っていいのか分からない。
でも巻島さんも話に乗って答えてくれたし、とりあえず大丈夫そうだと僕は話を続けることにした。


「巻島さんて天気が読めるんですか?」


「自転車乗ってれば、フツー大体わかるモンだぜ、
風の強さとか雲の流れ…あと風に混じる水の匂い感じたら
その場で対応考えねぇーとレースにならなくなっちまう場合もあるからな」

「へぇ~、やっぱり巻島さんてスゴイです!」

「そんなことねーっショ、お前も慣れてくればわかるようになる…つーか
ママチャリ乗って毎週アキバまで行ってんなら帰りに雨降るとかもあっただろ;?」


意外にも今度は巻島さんから聞き返された。
前に会話するの苦手だって言ってたけど、もしかして気を使ってくれてるのかな…。


「ハイ、降られちゃった時はありましたよ。
でもアキバに行きたいって気持ちの方が大きくて、
テンションが高くなってるっていいますか、あまり考えた事は無かったです」


「お前、ポジティブ過ぎショ…//;」


苦笑いを浮かべながら言う巻島さんに僕もつられて苦笑いをした。
自分的には普通の感覚なんだけど、やっぱり他の人には違うらしいと
数秒間考えてしまったせいか、また会話が途切れてしまった。
どうしよう…もう話せる話題とか思いつかないよ…っ;
クロマニュ?ラブひめ?あぁ…でも、変なこと言って会話続かなくなるものイヤだし;

視線を合わせるのも気まずい…
あれこれと変な焦りが出始めた僕の耳に、パチンと何かを閉じる音か聞こえた。


「…帰りどーすんの、この雨じゃチャリ乗れないっショ?」


それはどうやら巻島さんが携帯を閉じる音だったらしく
顔を上げると、こちらを見ている巻島さんの顔が目に映った。
でも気のせいかな、少し顔色が悪いように思えるんだけど…。


「あ、それなら大丈夫です!カッパ持ってきてますから//」


「カッパって…畑帰りのばーちゃんか、お前っ//;
今時レインコートのことカッパなんて言う奴、久しぶりに見たショ;」


「え、でも凄く便利なんですよ!僕基本的にアキバに行く時は必ず持って行くんですよ!
濡れずに荷物運べるし、雨も気にしないで自転車乗れますし//!」


「あ、そう…;」


苦笑い変わらずに頷く巻島さんだったけど、話している僕は楽しかった。
勘違いかもしれないけれど、心配してくれてるのかなと思っただけでも嬉しいです。
でも、その様子はやっぱり何処かいつもの巻島さんじゃない気がする。
妙にソワソワしてるっていうか落ち着かないみたいだ…。


僕がそんな事を考えている間も、雨足は弱まるどころかますます強くなり
ゴロゴロと大きな音を立てて雷も近付いて来ているらしかった。
部室の蛍光灯もチカチカと点滅している、停電とかしなきゃいいけどなぁ…。
なんて思いながら窓の外に視線を移した時だった。


ドドーーーーッーーーーッ!!



点滅する雷光の後、一瞬だけ辺が静かになったように思った次の瞬間。
耳を劈く大砲のような大音響が辺りにこだまして建物が微かに揺れたのだ。
どうやら何処かに落ちたらしい。


「うわっ…ビックリした、学校大丈夫ですかね、巻島さん」

「……」

「巻島さん?」


窓の外を見ながら呼びかけてみるけれど巻島さんから反応は返って来なかった。
その表情に視線を合わせてみると、明らかにさっきより青ざめていた。


「だ、大丈夫ですか!?顔真っ青ですよ;?」

「いや、うん、大丈夫…でも無いけど大丈夫…」


片手の平を広げ、浅く何度か頷いて見せたけれど答える声は微かにしか聞こえない。
耳にまだ先程の大音響が残っている気がしたけど、そんなことはお構いなしに
また空は光り、音を上げてみせていた。


ゴロゴロゴロゴロ…


「あーーーーっ、やっぱ無理、早く止めよ、ったく…;;!!」


何度目かの雷音を耳にした途端、巻島さんは突然の大声を上げて叫んだのだ。
両手で耳を塞ぎながら天井を見上げ、両目はキツく閉じたまま、顔色なんて青を通り越して真っ白だ。
もしかして…と何と無く理由が分かった気がし始めた頃、僕が尋ねる前に
観念したとばかりに重々しく溜息を付きながら巻島さんの口から語れ始めたんだ。


「俺…、雷ダメなんだ、マジで無理、本当にムリッ!
何あいつ、なんで鳴るの、なんで光るの!?意味わかんないショっ;;!!」

「えええっ…そ、そうですねっ;!!」


独り言だとは思ったけど、勢いから僕はそう答えてしまった。
すると、声に反応してか、キッ…と巻島さんは何故か僕を睨みつけるような表情を見せた。

「お前なんでヘーキなの、さっきから外でドッカンドッカン鳴ってるっつーのに、
全然ビックリもしねーし、呑気そうな顔しちゃって…っ、坂道!お前アレ止めてこいっ!!」


「なっ、そんな無茶ですよっ;;!!」


僕は大慌てで顔を左右に振って答えた。
巻島さんは怒っているっていうよりパニックになっているみたいで、
未だ野外頭上で鳴り続けるどうしようもない雷に怒りをぶつける他無いらしかった。

なんとかしなきゃ…でも、雷止めるなんて絶対無理だし…
でもこのままじゃ巻島さんは暴れ出しかねないよぉ…;;
ぐるぐると回るアレコレの中、そうだ!と僕は一人分空けたベンチを詰めて
巻島さんの隣に座り寄せた。


「巻島さん、失礼します!!」


一応、断りを入れてから返事を待たずに
僕は片耳を塞いでいた巻島さんの左手を取ってぎゅっと握りしめた。


「な、何…してるショ、坂道っ…っ//;!?」


突然、何をされたのか分からないらしく、巻島さんの表情は呆気にとられていた。
それにも僕は構わず、冷たくなった巻島さんの手を握りながら笑顔で話し始めた。


「あ、コレ僕が小さい頃にお母さんにしてもらってたおまじないなんです…//
雷の音にビックリして泣き出した時とか、こうやってギュっと手を握ってもらうと
落ち着くっていうか、一人じゃないって安心するので巻島さんにも効くかな…って、思って…//」


「おま…おまじない…;?」

「ハイ、雷は止められませんし僕の気休めですけど…アハハ//;」


握った手の間を小さく脈打つ感覚が分かる。
冷たかった巻島さんの手にも熱が戻ってきているらしく
鼓動が僕の手の中にも伝わってきていた。
細い指に大きな手、僕のとは全然違うけれど
同じようにハンドルを握ってペダルを回して自転車に乗る遥か先の存在。
僕にとっては憧れの人の手を握っていると考えるとちょっと不思議な気分だな。
おまじないしているのは僕の方なのに、なんだか逆にパワーを貰っているようにも思える。



「…おい…みち、坂道…」


どのくらいそうしてたか分からない。
気が付くと、僕の名前を呼んでいる声に顔を上げると
すぐ目の前に巻島さんの顔があった。


「あ、ハイ、なんでしょうか…//?」

「雨、上がったみたいショ…ホラ」


顎で窓外を指す素振りに視線を向ければ、早い雲の流れの間から薄い水色が顔を覗かせていた。
そういえば雷の音もだいぶ遠くになっているみたいだ。


「良かったーー、やっと止んだんですね//」


漸く雨から解放された嬉しさを僕は心から喜んだ。
隣ではヤレヤレといった溜息を吐きながら巻島さんも笑っている。
顔色も戻ったみたいだし、手も温かいしもう大丈夫だと
握っていた手を放そうとした。


「待った」

「えっ…」

「もう少しこうしてるショ」


力を抜いた僕の手を今度は巻島さんが握り返してみせた。
その力は優しくも強くて、ベンチから立ち上がることも出来ないままでいると
隣から巻島さん独特の笑い声が聞こえてきた。


「クハッ…カッコ悪いところ見られたケド
おかげで落ち着けたし助かったショ、ありがとな、坂道」

「ぇ、あ、いえ、どういたしまして…//」

「でもオレ以外にはやらない方がイイ…いや、やっちゃ駄目だからな」


そうだよね、あの時はああするしか思いつかなかったけど
今更になって考えれば男の人の手を握るなんて変なことをしてしまったかも…
最初、巻島さんもワケが分からないって顔してたし、次からはちゃんと、もっと考えよう。
でも巻島さんが落ち着いたって言ってくれたから、僕としては良かったことだと思います。


「一緒に帰るか、坂道」


「ハイ!あ、それじゃ僕、自転車取ってきますね。
裏門で待ち合わせで大丈夫ですか?」

「OKショ、先に行ってる」


そう言って巻島さんは立ち上がり、そっと手を放して一足先に部室を後にしていった。
僕も荷物を持って部室から出ると雨の上がった涼しい風が気持ち良く顔に吹いてきた。
大変な通り雨だったけど、巻島さんとお話できたし楽しかったようにも思える。

鍵を掛けてポケットにしまい、僕は濡れた地面を蹴り上げながら駐輪場へと足を急がせた。
弾む気持ちが重なっているせいか、雨粒に濡れた風景は
夕暮れの光を受けてとても綺麗に僕の目に映っていた。


……………


「ぁ~…ぁ、雷と一緒にとんでもないモン落としていったショ、アイツ…//;」


今までの感覚を確かめるように
握っては開いてを繰り返しながら俺は大きく深呼吸をして呟いた。
雨に雷は最悪だったが、結果タナボタだったわけだし良しとしよう。
しっかし、俺以外の誰彼構わず手握ってるわけじゃ無い…よな…釘は刺しといたけど。


♪~♪~♪


ポケットから耳慣れた着信音が聞こえ、ディスプレイを確認して電話に出た。


「悪い、迎えいらなくなった…そう、歩いて帰るショ」


先程、雨が降り出しそうだと気が付いた時に早めに連絡を入れておいた折返しの電話だった。
小降りのままだったら坂道乗せて帰ろうとも考えていたが、今はその必要も無くなった。
手短に会話を終わらせた俺は通話終了のボタンを押してポケットに捩じ込み
待ち合わせ場所である裏門へと足を急がせた。
地面に濡れて重たいはずの足は心無しか軽く思えていて風も気持ちがいい。


嫌いな雷もたまにはイイコトしてくれるッショ。


~END~


=====================


巻坂三話目。お付き合い前の二人を書いてみました。
今回は坂道君視点で最後ちょっとだけ巻島さん視点です。
なんとなくのイメージで巻ちゃん雷ダメっぽそうだと捏造して書きましたのでご注意下さい。
あとタイトルは響きとニュアンスで付けていますので意味がパープーでも許してください
一応、【心模様】と意識したつもり…(英語能力ゼロ)
次は東巻か長い巻坂話のどちらかになる予定です。
今回も糖度高めでお送りしました、やっぱり甘い話しか書けない…
では(o・・o)/


スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。