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5月12日 巻坂長編その2UP。

喉が渇いた。
その感覚に目を覚ますと視界は薄暗く、
あぁ…まだ夜なんだとぼやけた俺の頭が周囲を認識した。
手探りでベッドサイドに転がした携帯を開くと、光光とした液晶には
デジタル数字で02:03と表示されていた。
薄い闇が支配する見慣れた自室の天井、壁紙、ロードメンテナンス一式が
闇に慣れてきた目にぼんやりと輪郭を現してみせる。
良い睡眠を得るための寝心地の良いベッドに肌触りの良いシーツ、
いつもは一人で悠々と寝ているベッドに、今夜は膨らみが一つあった。


「ん~……」


弱々しく上下するシーツに手を掛け、そっと引いてみると
小さく身体を丸めて気持ちよさそうに寝息を立てている坂道の顔が目に映った。
良かった、寝られてるみたいだと安心した俺は肩元までシーツを引き下ろす。
風呂上がりに貸してやった自分のTシャツは肩幅が合わず、坂道の体には大きかったらしい。


連休ともなると俺は坂道を自分の家へと招いた。
初めはド緊張してガチガチだった態度も、飯食ったり話したりしているうちに徐々に解け
普通に話せるまでなった…まぁ、俺自身もべったり友情とか人付き合いは苦手だったハズなのになぁ…と
心境の変化にも驚いたが、それ以上に坂道と一緒にいたいと思うようになっていて、
それはどうやら相手も同じだったらしい。


「水……~…っと」


ベッド下に転がるペットボトルに手を伸ばし、重みのあるモノを選んで引き上げた。
坂道にと用意していたものだったが、相当疲れていたのか
一口飲んだ後、直ぐに眠ったっきり今現在も起きる気配が無い。
キャップを捻り、口に含んだそれは温く喉を通り過ぎていった。


「気持ちよさそうに眠っちゃって、まぁ~…」


うっすらと汗をかいた額に手を当ててみると
坂道はくすぐったいのか身動ぎしつつ、シーツを握ってみせた。
無理もないよな、と苦笑いを浮かべながら、手を指に変えてそっと寝ている頬に這わせた。
自分のよりも少し高めの体温、これで二つ下なだけだっつーんだから信じられない。
俺が高一の時って、どんなんだったっけ…なんて思いながら肘枕で坂道の寝顔を眺めた。
コイツが自転車競技部の部室に現れた時には正直、さえない奴が来たな、
しかも経験ゼロの新人君ぐらいにしか思っていなかった。

しかし、いざ自転車に跨り、ペダルを回し始めれば別人と言っていいほど不思議な魅力を放つ。
自分の心にバカ正直で純粋、ただ真っ直ぐに前だけを目指してペダルを回す姿は
その場にいた誰もを驚かせて魅了した、それこそあっという間に…。


「何処にそんなパワーがあるのか教えて欲しいっショ…本当、お前って面白い奴…」


眠る横顔に尋ねてみても答えは帰ってくるはずも無く、俺はまた一人でクスリと笑った。
互いの気持ちを確かめ合った後、こうして寝顔を見るのは俺だけの密かな楽しみで、
頬を寄せてキスして、腕の間で俺の名前を呼ぶ度に鼓動が跳ねて熱くなる。
坂道を手に入れたという堪らない優越感、そうっショ、こんな姿見られんのは俺だけだ。


真夜中の静寂に繰り返す寝息を耳に擽らせながら自然と漏れた溜息。
この幸福な微睡みの中、細やかな不安に怯えなからも俺自身は甘い悩みに酔っていた。


これから先の事も当然ながら色々悩んださ、
このまま何もなく終われば思い出話で済むだろうが
一歩踏み込めば戻れない事も承知している。
高山に咲く野花が人の手の入らない自然の中で、本来の美しさを魅せるように
本来のあるべき姿でいるのが一番正しいことなのだと、俺達の場合は先輩、後輩ってところか。

しかし、ひと度均衡を崩してしまえば、もう、もとには戻せない、それは自然も人も同じこと。
仮にそっくりな姿をしていても以前のソレでは無くなってしまう。
そんな逆境に巻き込んじまうのは心が痛い、でも嘘は付けないわけで…
ダメモト覚悟の告白をした俺を坂道は受け入れてくれた、本当嘘みたいな話だ。


『僕、も…巻島さんの事……だ、大好きですっ……っ////!!』


俺の答えを受け入れてくれた坂道に、好転、悩みがいい方へと吹っ切れた。
この先がどうなるかなんて想像もつかねぇーし、もしかしたら俺は明日死んじまう可能性だってある。
だったら一緒にいられる時間の中で何か一つ本当の事が残れば、それでイイんじゃないだろうか。
朧気だが儚くはない、どこからかは知れないがコイツを幸せにする自信が俺にはある。


「俺のハートまでカっ攫うなんざ…お前、どんだけのダークホースだったんだ、坂道…//?」


大丈夫、俺とお前が一緒にいるならば未来は決して暗くはない。


それが、今の俺の答えだ。


額にキスを一つをして小さく愛おしい恋人を抱き寄せれば、包む腕はとても温かい。
二人をくるむシーツに身を任せて外が明るむまでの数時間、この穏やかな眠りを共に過ごそう。


~END~


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坂道君の事が大好きな巻ちゃんの一人語りでした。
何してたかは察して上げてください、いつか本番も…書きます多分。
書いてみたいシーンもあるので…|゚Д゚)))

人付き合いも苦手で友情とかにもイマイチ、ピンと来ない巻ちゃんが
坂道君と出会い、ちょっとずつ変わっていく話が大好きです。
当初、巻ちゃんは一人っ子だよ絶対!と思ってました。


次はlongで書くか、本番か、ほのぼのか…
でも変わらず巻坂書いてると思います。
落ち着いたら東巻も書いてみたい、きっと東堂の片思いになるけど(笑)


それでは、ありがとうございました(o・・o)/

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