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5月12日 巻坂長編その2UP。
(巻島裕介)
「あっ…!」
「ん、どーしたショ、坂道」
授業が午前中で終了し、午後からたっぷりと部活をこなした午後3時過ぎ。
この季節の日差しは思いの外に肌に照りつけ、暖かいっていうより痛いって感じだ。
風に向かって走る自転車と違い、徒歩だとほぼ無風の今日…歩いて帰るには少々怠い気がするショ。
そんな事を考えながら部室を出ると先を歩く制服姿の小さな背中一つ、坂道だ。
珍しく徒歩での帰宅らしいと見た俺が一緒に帰るかと声を掛けると
メガネの奥の丸く大きな瞳がイイ返事と共に笑顔で大きく頷いてくれたのもあり、
一人で帰るよか良いかと自然と緩んだ笑みで俺達は学校を後にした。
「こ、コレ見てください巻島さん、当たりましたっ//!!」
部活の事や学校の言、それに坂道の好きなアニメの話少々…
そんな他愛もない話をしながら街中を抜けて住宅街を歩いていた時
隣から急に上がった坂道の声に目をやると一本の棒が両手に握られていた。
紙パックのカフェオレを飲みながら、さっと全体に視線を向けると
その棒の先端には平仮名で『あたり』の3文字が見えた。
さっき寄ったコンビニで買ったアイスに当りがでたらしい。
「へぇーラッキーっショ、おめでとさん」
「ハイっ、ありがとうございます//!!」
オーバー気味に喜ぶ坂道の様子は子供っぽくて、それでいて微笑ましく思える。
ちょうどこの先に同系列のコンビニがあるから寄ってくかと言うと大きく二回の頷きで返事を返してみせた。
「今時まだ残ってんだなぁ、当たり付きのアイスなんて久しぶりに見たショ」
「ハイ、僕も凄く久しぶりに当たりました!」
そう言いながら当たったアイスの棒をよく見えるようにと坂道は差しだしてみせた。
俺にもよく見えるしっかりと書かれた『あたり』の三文字は紛れも無く本物、
稀にこうやって時々あるラッキーは何でもなく嬉しくなるものだ。
自販機で当りが出るとか、そのくらいのレベルの本当に小さな事なんだが
なんだかイイことがあるかもと心がワクワクする…それにしても喜びすぎじゃねぇーのかね…?
「今日はついてるかも…ガシャポン回したらレア物が出る気もするなぁ~//」
「クハッ、前向きなのは何事にもイイ事ショ」
なんにせよ本人が嬉しいならばそれに越したことはないな、と
片手にしたカフェオレのストローをくわえながら嬉しそうな横顔を眺めていたが
ふいに坂道の顔付きが変わってみせた。
「そうだ…巻島さん、この当たり付きのアイスが当たる確率ってどのくらいなんでしょうね?」
「はっ?」
「あわわスイマセン、ちょっと気になったものですから…//;」
「いや別に謝んなくていいショ…//;」
聞かれた問いに投げやりに声を上げたせいか慌てて坂道は頭を下げちまった。
そんなにビクつかなくてもイイんだが…俺ってそんなに怖く見えるのか…;?
頬を指で掻きながら俯いてしまった坂道とアイスの棒を見ながら一つ溜息と言葉を吐いた。
「確率か…」
実に小さな事だが言われれば少し気にもなる。
多分直ぐに分かるだろうと制服のポケットから携帯を取り出し検索してみると、
さすが現代、答えは思いの外に早く知ることができた。
カチカチと指先の操作音を立てながら検索結果を目で攫いながら
横を歩く坂道へ答えようと声を掛けようとした。
「どのくらいなんだろうなぁ~…ひと箱に一本…でもそうすると12本入だとして…//」
なんか、めちゃくちゃ嬉しそう、というか楽しそうだ。
空いた片手の指で足りない本数を一生懸命折り数えているではないか。
邪魔しちゃ悪いショ…瞬間に思った俺はパタン、と、坂道に気がつかれないように
携帯をそのままポケットに戻して何も無かったように話に参加することにした。
「そうとは限らないショ、ひと箱10本入のもあれば15本のモノだってあるんじゃないのか?
原価と比率考えたら一ケースに一本かも知れないショ」
「えええっ!?そしたら当り引くのに何本アイス食べれば良いんですか//;」
簡単に予想してみたらしく坂道は手にしていたアイスの棒をじっと眺めながら
いかに自分が良い確率で当たりを引いたことを実感しているらしかった。
「クハッ、さーてねぇ~腹壊すのが先かもな…//」
「それは困っちゃいますね;へぇ~…そう考えると本当に僕ラッキーだったんですね//」
「あくまで予想の話、だけどな」
そうこうするうちに目の前には目的であるコンビニが見え、二、三歩と先に駆け出した坂道は
行ってきますと一言を告げて自動ドアの先へと飛び込んでいった。
俺の何か飲み物でも…と後を追ってコンビニに入ろうとしたが、
アイスを眺める坂道をガラス越しに見ていたらタイミングを失っちまったので
どうせ数分もかからないだろうとこのまま外で一人待つことにした。
「確率ねぇ~…」
言葉と一緒に吐いた浅い息を地面と爪先の間に泳がせながら二度目になる台詞にフッと漏れた笑み。
面白い事を考えるもんショ…ただ当たってラッキーだけで終わらないんだからな。
確かに、宝くじに当たるとか雨を避けて帰れるとか、デカい小さいは別にしても
生きているうちに何かが出会うとか起こるのには偶然でも必然でも確率が絡んでくるもんだ。
それじゃあこうして俺とお前が出会って、部活して一緒に帰るようになるのはどのくらいの確率だと思う?
それこそ、俺が自転車競技を初めて、総北に入学して部活に入部して
そして3年になった今年、今泉、鳴子の誘いで坂道が入部してきた。
自分では無縁だと思っていた運動部への入部だと坂道は言っていたが、
まさか俺が待ち望んだクライマーとしてだなんざ出来過ぎのようにも思えるショ。
ズズッ…
残り少なくなったカフェオレを啜りながらチラリと視線を上げて
店内を覗けば、坂道はレジ前でアイスを片手に会計待ちだ。
「全く、いつでもお前って奴は俺の予想の上を行く…」
いいや、考えるのはやめておこう、途方も無い話だし何よりそんな事で計って欲しくは無いショ。
先程ポケットに戻した携帯を確認しようと突っ込んでみるとカサリとレシートが出てきた。
そいつをゴミ箱に捨てるのと同時くらいに自動ドアが音を鳴らし、
中からビニール袋を下げた坂道が駆け寄ってくるのが見えた。
「巻島さん!お待たせしました//!!」
「いや、待ってるうちに入んないショ。
さーて、用事も済んだし帰るぞ、坂道」
「あ、ハイ、でもちょっと待って下さい!」
くるりと背を向けようとした俺にガサガサとビニールを揺らしながら
後ろ手何かもたついているのが分かったが、視線だけで振り返って見ると
その両手にはひと袋のアイスがあった。
「安いアイスですが、コレどうぞ!」
「え、いや、だってソレお前のショ?」
それは紛れも無く、さっき当たりを引き当てたアイスの交換品で
なんだと身体で振り向くと坂道は少し照れた様子で話し始めた。
「今日、こうしてラッキーだったのは巻島さんと一緒だったからじゃないかなって僕思うんです。
一緒に帰るかって声かけてくれたのも嬉しかったし、それだけでも僕には充分ラッキーでした//」
「オイオイ、それはちょっとオーバーっショ、話がデカいって//;」
「いえ!本当です// それにさっき僕は食べましたし、
巻島さんにもラッキーのお裾分です、良ければ食べてください//」
さらっと簡単にコイツは恥ずかしい事を言ってのける。
それは俺には到底出来ない坂道らしい素直な言葉だ。
答えは簡単に知る事ができる時代、現に今ポケットには用意されている。
しかし便利は時として不便てことなのだろう、頼るのも善し悪しだ。
こういうキッカケを逃す事になるならば俺は不便の方をえらびたくなっちまうね、どうしてか。
「ありがとさん、坂道のラッキー少し貰うショ」
「ハイ、ありがとうございます//」
日差しの下で濡めるアルミの袋、指先はひんやりと冷たい。
汗を掻いた袋を破った視線の先には嬉しそうな坂道の笑顔、見られてると照れるが悪い気はしない。
「クハッ、なんか変な会話だな」
「え、そ、そうですかね…//;」
「ま、いいさ、たまにはそーいうのも…//」
この出会いはラッキー以上の幸運だ。
俺とお前がいれば何だって楽しくなっちまう、そんな予感がするっショ。
【title:ice】
「あっ…!」
「ん、どーしたショ、坂道」
授業が午前中で終了し、午後からたっぷりと部活をこなした午後3時過ぎ。
この季節の日差しは思いの外に肌に照りつけ、暖かいっていうより痛いって感じだ。
風に向かって走る自転車と違い、徒歩だとほぼ無風の今日…歩いて帰るには少々怠い気がするショ。
そんな事を考えながら部室を出ると先を歩く制服姿の小さな背中一つ、坂道だ。
珍しく徒歩での帰宅らしいと見た俺が一緒に帰るかと声を掛けると
メガネの奥の丸く大きな瞳がイイ返事と共に笑顔で大きく頷いてくれたのもあり、
一人で帰るよか良いかと自然と緩んだ笑みで俺達は学校を後にした。
「こ、コレ見てください巻島さん、当たりましたっ//!!」
部活の事や学校の言、それに坂道の好きなアニメの話少々…
そんな他愛もない話をしながら街中を抜けて住宅街を歩いていた時
隣から急に上がった坂道の声に目をやると一本の棒が両手に握られていた。
紙パックのカフェオレを飲みながら、さっと全体に視線を向けると
その棒の先端には平仮名で『あたり』の3文字が見えた。
さっき寄ったコンビニで買ったアイスに当りがでたらしい。
「へぇーラッキーっショ、おめでとさん」
「ハイっ、ありがとうございます//!!」
オーバー気味に喜ぶ坂道の様子は子供っぽくて、それでいて微笑ましく思える。
ちょうどこの先に同系列のコンビニがあるから寄ってくかと言うと大きく二回の頷きで返事を返してみせた。
「今時まだ残ってんだなぁ、当たり付きのアイスなんて久しぶりに見たショ」
「ハイ、僕も凄く久しぶりに当たりました!」
そう言いながら当たったアイスの棒をよく見えるようにと坂道は差しだしてみせた。
俺にもよく見えるしっかりと書かれた『あたり』の三文字は紛れも無く本物、
稀にこうやって時々あるラッキーは何でもなく嬉しくなるものだ。
自販機で当りが出るとか、そのくらいのレベルの本当に小さな事なんだが
なんだかイイことがあるかもと心がワクワクする…それにしても喜びすぎじゃねぇーのかね…?
「今日はついてるかも…ガシャポン回したらレア物が出る気もするなぁ~//」
「クハッ、前向きなのは何事にもイイ事ショ」
なんにせよ本人が嬉しいならばそれに越したことはないな、と
片手にしたカフェオレのストローをくわえながら嬉しそうな横顔を眺めていたが
ふいに坂道の顔付きが変わってみせた。
「そうだ…巻島さん、この当たり付きのアイスが当たる確率ってどのくらいなんでしょうね?」
「はっ?」
「あわわスイマセン、ちょっと気になったものですから…//;」
「いや別に謝んなくていいショ…//;」
聞かれた問いに投げやりに声を上げたせいか慌てて坂道は頭を下げちまった。
そんなにビクつかなくてもイイんだが…俺ってそんなに怖く見えるのか…;?
頬を指で掻きながら俯いてしまった坂道とアイスの棒を見ながら一つ溜息と言葉を吐いた。
「確率か…」
実に小さな事だが言われれば少し気にもなる。
多分直ぐに分かるだろうと制服のポケットから携帯を取り出し検索してみると、
さすが現代、答えは思いの外に早く知ることができた。
カチカチと指先の操作音を立てながら検索結果を目で攫いながら
横を歩く坂道へ答えようと声を掛けようとした。
「どのくらいなんだろうなぁ~…ひと箱に一本…でもそうすると12本入だとして…//」
なんか、めちゃくちゃ嬉しそう、というか楽しそうだ。
空いた片手の指で足りない本数を一生懸命折り数えているではないか。
邪魔しちゃ悪いショ…瞬間に思った俺はパタン、と、坂道に気がつかれないように
携帯をそのままポケットに戻して何も無かったように話に参加することにした。
「そうとは限らないショ、ひと箱10本入のもあれば15本のモノだってあるんじゃないのか?
原価と比率考えたら一ケースに一本かも知れないショ」
「えええっ!?そしたら当り引くのに何本アイス食べれば良いんですか//;」
簡単に予想してみたらしく坂道は手にしていたアイスの棒をじっと眺めながら
いかに自分が良い確率で当たりを引いたことを実感しているらしかった。
「クハッ、さーてねぇ~腹壊すのが先かもな…//」
「それは困っちゃいますね;へぇ~…そう考えると本当に僕ラッキーだったんですね//」
「あくまで予想の話、だけどな」
そうこうするうちに目の前には目的であるコンビニが見え、二、三歩と先に駆け出した坂道は
行ってきますと一言を告げて自動ドアの先へと飛び込んでいった。
俺の何か飲み物でも…と後を追ってコンビニに入ろうとしたが、
アイスを眺める坂道をガラス越しに見ていたらタイミングを失っちまったので
どうせ数分もかからないだろうとこのまま外で一人待つことにした。
「確率ねぇ~…」
言葉と一緒に吐いた浅い息を地面と爪先の間に泳がせながら二度目になる台詞にフッと漏れた笑み。
面白い事を考えるもんショ…ただ当たってラッキーだけで終わらないんだからな。
確かに、宝くじに当たるとか雨を避けて帰れるとか、デカい小さいは別にしても
生きているうちに何かが出会うとか起こるのには偶然でも必然でも確率が絡んでくるもんだ。
それじゃあこうして俺とお前が出会って、部活して一緒に帰るようになるのはどのくらいの確率だと思う?
それこそ、俺が自転車競技を初めて、総北に入学して部活に入部して
そして3年になった今年、今泉、鳴子の誘いで坂道が入部してきた。
自分では無縁だと思っていた運動部への入部だと坂道は言っていたが、
まさか俺が待ち望んだクライマーとしてだなんざ出来過ぎのようにも思えるショ。
ズズッ…
残り少なくなったカフェオレを啜りながらチラリと視線を上げて
店内を覗けば、坂道はレジ前でアイスを片手に会計待ちだ。
「全く、いつでもお前って奴は俺の予想の上を行く…」
いいや、考えるのはやめておこう、途方も無い話だし何よりそんな事で計って欲しくは無いショ。
先程ポケットに戻した携帯を確認しようと突っ込んでみるとカサリとレシートが出てきた。
そいつをゴミ箱に捨てるのと同時くらいに自動ドアが音を鳴らし、
中からビニール袋を下げた坂道が駆け寄ってくるのが見えた。
「巻島さん!お待たせしました//!!」
「いや、待ってるうちに入んないショ。
さーて、用事も済んだし帰るぞ、坂道」
「あ、ハイ、でもちょっと待って下さい!」
くるりと背を向けようとした俺にガサガサとビニールを揺らしながら
後ろ手何かもたついているのが分かったが、視線だけで振り返って見ると
その両手にはひと袋のアイスがあった。
「安いアイスですが、コレどうぞ!」
「え、いや、だってソレお前のショ?」
それは紛れも無く、さっき当たりを引き当てたアイスの交換品で
なんだと身体で振り向くと坂道は少し照れた様子で話し始めた。
「今日、こうしてラッキーだったのは巻島さんと一緒だったからじゃないかなって僕思うんです。
一緒に帰るかって声かけてくれたのも嬉しかったし、それだけでも僕には充分ラッキーでした//」
「オイオイ、それはちょっとオーバーっショ、話がデカいって//;」
「いえ!本当です// それにさっき僕は食べましたし、
巻島さんにもラッキーのお裾分です、良ければ食べてください//」
さらっと簡単にコイツは恥ずかしい事を言ってのける。
それは俺には到底出来ない坂道らしい素直な言葉だ。
答えは簡単に知る事ができる時代、現に今ポケットには用意されている。
しかし便利は時として不便てことなのだろう、頼るのも善し悪しだ。
こういうキッカケを逃す事になるならば俺は不便の方をえらびたくなっちまうね、どうしてか。
「ありがとさん、坂道のラッキー少し貰うショ」
「ハイ、ありがとうございます//」
日差しの下で濡めるアルミの袋、指先はひんやりと冷たい。
汗を掻いた袋を破った視線の先には嬉しそうな坂道の笑顔、見られてると照れるが悪い気はしない。
「クハッ、なんか変な会話だな」
「え、そ、そうですかね…//;」
「ま、いいさ、たまにはそーいうのも…//」
この出会いはラッキー以上の幸運だ。
俺とお前がいれば何だって楽しくなっちまう、そんな予感がするっショ。
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