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5月12日 巻坂長編その2UP。
ガチャ…
時を置かずに真横から聞こえた開閉音、タイミング良過ぎだろ。
浅い溜息を鼻で抜いて顔を向けると顔色の良くなった小野田チャンが
首からタオルを下げて立っていた。
「ス、スイマセン…電源の切り方分からなくて中々出てこれませんでした//;」
「え、あぁ別にそのまんまで良かったンだけど…」
「えっ、そう、ですか…スイマセン…//;」
苦笑いをみせながら赤くなった頬を掻く小野田チャンをソファーを叩いて呼び寄せると、
ぺたぺたと素足を鳴らし、ほぼ無音のまま俺の隣へと腰を下ろした。
「具合は?」
「は、ハイ…もう大丈夫です、スイマセン、荒北さんに心配かけてしまって…」
「んなの当然じゃん、気にする事じゃねぇよ…」
「は、ハイ…//;」
先程の打ち解けた雰囲気は何処に行っちまったんだ、これじゃまるっきりゼロ状態じゃネェーの。
『絶対何かあっただろ』って言いたくてたまらない言葉が喉まで出かかってんのに
言っちまったらマズイって脳ミソが拒否すンだ、メンドクセー上にまどろっこしい…クッソ。
「なんか飲む?ってもベプシしか無ぇケド…」
「あ、ハイ、いただきます…//」
変わりに出てくるのはせいぜいこの程度。
思いを言葉にしてみろと簡単に言ってくれるが、んなイキナリなんて無理なンだよ。
人間はそんな単純に出来ちゃいねぇーんだよ覚えとけ。
アドバイスを残してったヤツの顔を空想で払いながらペプシ片手に戻ってくると
ソファーに寄りかかる小野田チャンの姿、時計を見れば午後23時を過ぎたところだった。
健全な高校生が眠くなるにはちと早い気もしたが結構長い時間
ぶっ続けでゲームしてたな…疲れが出てもヘンじゃネェか。
「小野田チャーン、眠いなら先にロフト上がってなよ」
「ふぇ、あ、あ、大丈夫です、ちょっとウトウトしてただけで…す…ぅ…」
そんな眠そうな顔をして大丈夫だと言われても信じらんねぇ。
つか可愛い顔して完全無防備カマしてくれちゃって…//;
声に答えようと眠たげな目元を歪めながらも
小さな頭が前後にゆらゆらと船を漕いで揺れ続けている。
トンっとペプシをテーブルに置いて、俺は再び小野田チャンの隣に腰を下ろした。
「無理すンな、ホラ」
船を漕ぐ頭をそっと抱えて自分の肩に寄せると、
コロンと小動物が転がるように小野田チャンの感触が伝わってきた。
風呂上がりだからかその体温はやけにリアルに思えて
小野田チャンの柔らかい髪が手の平を擽ってるみたい、でも心地良かった。
「ぁ…あらき…さん…」
「あぁ、なに小野田チャン」
半分寝ぼけも入ってて言葉が繋がらなくなってきてて上手く聞き取れねぇーなぁ…。
でも、それはそれで可愛いじゃんか、と俺はそのまま小野田チャンの話に耳を傾けた。
「僕、今日此処に来れて…ちがう、その前だ……
荒北さんは忙しいし…会えないのも我慢しなきゃと思ってたので…それで…
あら、きたさんが遊びに来いって、誘ってくれたとき、すごく嬉しかったんです……。」
そう言えば誘いの電話を入れた時、めちゃくちゃ嬉しそうだったのは良く覚えてる。
そりゃだって俺だって約束取り付けて内心ガッツポーズかましてたんだぜ、言わねぇーケドもさ。
「それで、今日…一緒にいて、ぼく安心しました…。」
「アンシン…?」
やっぱ何か心配事があったのか…。
俺は寄せた小野田チャンに呟くと、一度確かに首を縦に下ろして頷いた。
「荒北さんはカッコイイ…し、優しい…のに、…どうして僕だったのかなって…
僕以外にも沢山素敵な人はいるのにな…って…」
「ハァ?ンな考え過ぎだぜ小野田チャン」
何を一人で突っ走ってくれちゃってんだよ。
こんな美味しい状況じゃなかったら間違いなく詰め寄ってんぞ。
「そう…なんで、すか…?」
くわえてこのスットボケ具合、眠いってだけじゃ済まないンですケド?
ひとたび自転車に乗ればどんな奴でも引きつける走りをみせる、その実力は明白で未知数。
誰もが惹かれずにはいられねぇ…それを証拠に気が付けば周りは人で溢れてるってのに…。
どうして小野田チャンは自分にこんなにも自信が無ぇんだか今だに不思議で仕方無い。
「そう、誰でも良くって言えるセリフじゃねぇーし…軽い気持ちで言ったんでも無ェ」
俺がそれを独り占めしたいと思うまで時間は掛かんなかった。
誰にでも向けられる笑顔も、その隣の居場所も他のヤツになんかやれるかよ。
「小野田チャンだからイイんだよ」
我ながら恥ずかしいセリフだ。
しかし心配させてたって罪悪感も有りまくり…
優しく抱えた小野田チャンの頭を少しだけ引き寄せると
フワっと漂う風呂上がりのニオイをよりいっそう強く感じることができた。
俺はとんでもない思い違いをしてたんだな、まだちゃんと小野田チャンを手に入れてはなかったんだ。
結果的にはワガママな一方通行に付き合わせていたダケだったのか、それがどんなに不安にさせてたか
考えれば考えるほど自分に腹が立って仕方がなくなっちまう。
ふっと脳内にはさっきまで偉そうに話していたデコッパチの顔が過ぎっていった。
「ありがとう…ございます…僕も…荒北さん…だい、すきです… …//」
ゆっくりと確かに聴こえた耳間近での言葉は
驚くほどのスピードで顔中に熱を広げていくのが感じられる。
いつもなら出る鼻笑いや返事も今日に限っては出て来ないばかりか
言葉にならない息が喉で詰まって呼吸を苦しくさせていきやがる。
俺だって好きだよ、頭ん中真っ白になるくらい小野田チャンの事が好きなんだ。
しかし、俺が返事をする前に寄りかかる重みじゃ遠慮の無いものになってて
瞼は重くしっかりと下りて動かなかった。
『態度に悩む前に先ずは言葉にしてみると良かろう』
「っせ…っと…」
多分軽いだろうと思ってたが、こりゃ軽すぎダロ。
両腕で抱えた身体はほぼ何も持っていないみてぇーで普段ちゃんと食ってんのかって心配になっちまう。
起こさないように気を付けながら寝室変わりのロフトへの梯子を器用に上がり
敷いておいた薄っぺらい布団にそっと小野田チャンを下ろした。
「悪かった…マジでゴメンな、小野田チャン…」
すっかり眠りに落ちた小野田チャンには聞こえない言葉。
ガサリとポケットに手を伸ばし、本当ならば今日渡すはずだったプレゼント。
いつでも遊びに来いってつもりで用意した俺のアパートの鍵が入ってる紙袋に苦笑いが浮かんだ。
明日の朝、小野田チャンが起きたらちっとは優しい言葉が言えそうな気がすんな…
天使の言うことも満更じゃねぇーかも…そんな事を思いながら、そっと枕元のライトを落とした。
【…続…】
時を置かずに真横から聞こえた開閉音、タイミング良過ぎだろ。
浅い溜息を鼻で抜いて顔を向けると顔色の良くなった小野田チャンが
首からタオルを下げて立っていた。
「ス、スイマセン…電源の切り方分からなくて中々出てこれませんでした//;」
「え、あぁ別にそのまんまで良かったンだけど…」
「えっ、そう、ですか…スイマセン…//;」
苦笑いをみせながら赤くなった頬を掻く小野田チャンをソファーを叩いて呼び寄せると、
ぺたぺたと素足を鳴らし、ほぼ無音のまま俺の隣へと腰を下ろした。
「具合は?」
「は、ハイ…もう大丈夫です、スイマセン、荒北さんに心配かけてしまって…」
「んなの当然じゃん、気にする事じゃねぇよ…」
「は、ハイ…//;」
先程の打ち解けた雰囲気は何処に行っちまったんだ、これじゃまるっきりゼロ状態じゃネェーの。
『絶対何かあっただろ』って言いたくてたまらない言葉が喉まで出かかってんのに
言っちまったらマズイって脳ミソが拒否すンだ、メンドクセー上にまどろっこしい…クッソ。
「なんか飲む?ってもベプシしか無ぇケド…」
「あ、ハイ、いただきます…//」
変わりに出てくるのはせいぜいこの程度。
思いを言葉にしてみろと簡単に言ってくれるが、んなイキナリなんて無理なンだよ。
人間はそんな単純に出来ちゃいねぇーんだよ覚えとけ。
アドバイスを残してったヤツの顔を空想で払いながらペプシ片手に戻ってくると
ソファーに寄りかかる小野田チャンの姿、時計を見れば午後23時を過ぎたところだった。
健全な高校生が眠くなるにはちと早い気もしたが結構長い時間
ぶっ続けでゲームしてたな…疲れが出てもヘンじゃネェか。
「小野田チャーン、眠いなら先にロフト上がってなよ」
「ふぇ、あ、あ、大丈夫です、ちょっとウトウトしてただけで…す…ぅ…」
そんな眠そうな顔をして大丈夫だと言われても信じらんねぇ。
つか可愛い顔して完全無防備カマしてくれちゃって…//;
声に答えようと眠たげな目元を歪めながらも
小さな頭が前後にゆらゆらと船を漕いで揺れ続けている。
トンっとペプシをテーブルに置いて、俺は再び小野田チャンの隣に腰を下ろした。
「無理すンな、ホラ」
船を漕ぐ頭をそっと抱えて自分の肩に寄せると、
コロンと小動物が転がるように小野田チャンの感触が伝わってきた。
風呂上がりだからかその体温はやけにリアルに思えて
小野田チャンの柔らかい髪が手の平を擽ってるみたい、でも心地良かった。
「ぁ…あらき…さん…」
「あぁ、なに小野田チャン」
半分寝ぼけも入ってて言葉が繋がらなくなってきてて上手く聞き取れねぇーなぁ…。
でも、それはそれで可愛いじゃんか、と俺はそのまま小野田チャンの話に耳を傾けた。
「僕、今日此処に来れて…ちがう、その前だ……
荒北さんは忙しいし…会えないのも我慢しなきゃと思ってたので…それで…
あら、きたさんが遊びに来いって、誘ってくれたとき、すごく嬉しかったんです……。」
そう言えば誘いの電話を入れた時、めちゃくちゃ嬉しそうだったのは良く覚えてる。
そりゃだって俺だって約束取り付けて内心ガッツポーズかましてたんだぜ、言わねぇーケドもさ。
「それで、今日…一緒にいて、ぼく安心しました…。」
「アンシン…?」
やっぱ何か心配事があったのか…。
俺は寄せた小野田チャンに呟くと、一度確かに首を縦に下ろして頷いた。
「荒北さんはカッコイイ…し、優しい…のに、…どうして僕だったのかなって…
僕以外にも沢山素敵な人はいるのにな…って…」
「ハァ?ンな考え過ぎだぜ小野田チャン」
何を一人で突っ走ってくれちゃってんだよ。
こんな美味しい状況じゃなかったら間違いなく詰め寄ってんぞ。
「そう…なんで、すか…?」
くわえてこのスットボケ具合、眠いってだけじゃ済まないンですケド?
ひとたび自転車に乗ればどんな奴でも引きつける走りをみせる、その実力は明白で未知数。
誰もが惹かれずにはいられねぇ…それを証拠に気が付けば周りは人で溢れてるってのに…。
どうして小野田チャンは自分にこんなにも自信が無ぇんだか今だに不思議で仕方無い。
「そう、誰でも良くって言えるセリフじゃねぇーし…軽い気持ちで言ったんでも無ェ」
俺がそれを独り占めしたいと思うまで時間は掛かんなかった。
誰にでも向けられる笑顔も、その隣の居場所も他のヤツになんかやれるかよ。
「小野田チャンだからイイんだよ」
我ながら恥ずかしいセリフだ。
しかし心配させてたって罪悪感も有りまくり…
優しく抱えた小野田チャンの頭を少しだけ引き寄せると
フワっと漂う風呂上がりのニオイをよりいっそう強く感じることができた。
俺はとんでもない思い違いをしてたんだな、まだちゃんと小野田チャンを手に入れてはなかったんだ。
結果的にはワガママな一方通行に付き合わせていたダケだったのか、それがどんなに不安にさせてたか
考えれば考えるほど自分に腹が立って仕方がなくなっちまう。
ふっと脳内にはさっきまで偉そうに話していたデコッパチの顔が過ぎっていった。
「ありがとう…ございます…僕も…荒北さん…だい、すきです… …//」
ゆっくりと確かに聴こえた耳間近での言葉は
驚くほどのスピードで顔中に熱を広げていくのが感じられる。
いつもなら出る鼻笑いや返事も今日に限っては出て来ないばかりか
言葉にならない息が喉で詰まって呼吸を苦しくさせていきやがる。
俺だって好きだよ、頭ん中真っ白になるくらい小野田チャンの事が好きなんだ。
しかし、俺が返事をする前に寄りかかる重みじゃ遠慮の無いものになってて
瞼は重くしっかりと下りて動かなかった。
『態度に悩む前に先ずは言葉にしてみると良かろう』
「っせ…っと…」
多分軽いだろうと思ってたが、こりゃ軽すぎダロ。
両腕で抱えた身体はほぼ何も持っていないみてぇーで普段ちゃんと食ってんのかって心配になっちまう。
起こさないように気を付けながら寝室変わりのロフトへの梯子を器用に上がり
敷いておいた薄っぺらい布団にそっと小野田チャンを下ろした。
「悪かった…マジでゴメンな、小野田チャン…」
すっかり眠りに落ちた小野田チャンには聞こえない言葉。
ガサリとポケットに手を伸ばし、本当ならば今日渡すはずだったプレゼント。
いつでも遊びに来いってつもりで用意した俺のアパートの鍵が入ってる紙袋に苦笑いが浮かんだ。
明日の朝、小野田チャンが起きたらちっとは優しい言葉が言えそうな気がすんな…
天使の言うことも満更じゃねぇーかも…そんな事を思いながら、そっと枕元のライトを落とした。
【…続…】
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