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5月12日 巻坂長編その2UP。

「なぁ、坂道…聞いてもいいか?」

ちょうど帰路を半分くらいまで来たであろう森中の遊歩道での事、
木製で造られた短いアーチを渡る途中で俺は足を止めて坂道に声を掛けた。
先程の大自然とはまた違う青い風景の中に観光客の姿も見当たらない、
かわりに風は優しく木々を揺らし、近くを流れる小川は涼しげにせせらいでいる。


「はい、なんでしょうか?」


俺に合わせて坂道の足も止まり、声に見上げる視線を重ねた。
坂道と恋人関係となって遠距離ながらもうまくやれているし、想いもあの頃から変わらずに日々を募らせている。
そんな中でも一つだけ俺の中でどうしても考えに行き着かない事があった。
いや、正確に言えば俺の中での結論は出ているのだが対の意見が足りていない…
ソイツをこの旅で実際に坂道と会って聞いてみようと思っていたんだ。
人影も無い場所なら遠慮無しに坂道も答えやすいだろうと俺はひと呼吸置いて言葉を切り出した。


「坂道、お前はいずれ結婚とかしたいって思うか?」


唐突に口から出た言葉に視界に映る表情が固まってみせた。
漠然としすぎてて見えない先の話だとは思う、俺だって同じだ。
今の世の中、同性同士でもする気になれば結婚できるようにはなっているが
それは付き合うとは全くの別物で、一時的な感情で『はいそうです』と簡単に答えられる事でも無い。
相手の事を想えばこそ突き詰めた答えが必要になることだってある、キツイだろうがな。
しかし、曖昧にしてはいけない事でもあるだろう。


「そうです、ね…正直、今はちょっとピンとこない感じもします。」


表情とは反対に穏やかな口調と真剣さを醸し出す声色。 
やっぱり坂道も自分なりに考えていた事があるのだろうと察して言葉を待っていると
視線を俯かせながら少しづつ唇を動かし、話し始めた。


「僕は裕介さんが好きです、それはこれからもきっと変わりません…//
性別が違えばもう少し緩く考えを持てたのかな…とか、もっと年が近ければとか…
僕なりにも色々と考えもしましたけど…でも、どれも違うと思えます。」


自分なりの考えを挙げ、伝える意思が声となってしっかりと耳に届く。
よかった、俺が思っているより坂道はしっかりとした考えを持っている事に驚きつつも安心した。
言いたかった事の半分は代弁してくれたようなものショ…、そこまで聞ければ充分だ。


「ありがとさん、お前の言う通り…俺も今はイマイチ、ピンと来ないショ」


向かい合った瞳に微笑んで頷き、詰まった息を開放するように
俺は空を見上げて大きく息を吸って、また視線を戻した。


「実際、そのへんは複雑…すんなり行く事じゃないのは分かってる。
時間は掛かるだろうし、理解も完全にはされない、
現実晒されて不合理に言いくるめられて泣くことだってあるかも知れない…。
俺達が思っている以上に風当たりは強いだろうさ…。」


高校で出会い、共に過ごした約半年の学校生活。
芽生えた相手への気持ち、それを互いに知る事の出来たイギリスでの5日間。
そこには何ものにも変えることの出来ない大切な二人の時間があった。
坂道の事は好きだ、いや、此処までくれば愛してるといった方が正しいショ。
今までが幸せで、この時間も幸せ、できるならこの先もずっと幸せでありたいと願うのは自然な事。
しかし、俺も坂道もまだまだ未熟で人生経験も浅いから失敗したり後悔したりもするだろう、
そいつに坂道を巻き込んでしまうかもしれないと思うと正直怖くてたまらない、
傷付かずに済むのならそう願いたい…なにより相手の幸せを願っているからだ。


「でも、これだけははっきりと分かる事があるショ」


緊張した空気を砕くように俺が言うと、声に驚いた坂道が目を見開いてみせた。
漸く穴の空いていた結論が完結を迎えた、やはり欲しかったのは坂道の言葉だった。
やはり俺の中で見えている未来ってヤツは間違いじゃないショ…不確かだってのに自信がある。
そっと両手を坂道の肩に添えて俺は言葉を続けた。


「2年後、5年後、それこそ10年経ったって俺はお前と一緒にいるビジョンが固まってる。
まだまだ駆け出しの俺に全部任せろとか無責任な事は言えねぇーケド、これだけは約束できる事実だ。
両手広げてお前を迎えられるように俺は変わらずに前だけ見て突っ走れるショ」


「ハイ…!!僕は裕介さんと一緒ならばいつも幸せです。
だからこの先も一緒にいる姿が見えているならば
それはきっと幸せのカタチなんじゃないかなって思います…//
僕も負けないように走れます、ずっと、ずっと先まで…っ//」


頬の赤くなった坂道は照れながらも嬉しそうに答えを返した。
こうやって笑って、話して、触れて、一つ一つを大切に数えて積み重ねながら相手を知る喜びは尽きない。
一度、二度と触れあえば想いはその度に新しく生まれ変わってみせ、また一つ坂道を知ることになる。
いくら時が過ぎても俺の視界には常にお前が映ってる、それってこの上もなく特別だ。
変化を繰り返す未知数で予測不可能な愛のカタチに終わりなんて言葉は知らないショ。


「流石…俺の好きになったヤツ、言ってくれる台詞が違うワ//;」


熱く早まった胸の鼓動を伝えたくて、そのまま坂道の身体を抱きしめると、
同じように身体に返される優しく締め付ける細い両腕が心地良い。

もうこの腕を離してやれない、かわりに後悔もさせない。
そのくらいの誓いを立てたって大袈裟じゃねぇーさ

共に歩んでくれるのなら、一つ先で待っている未来でも
きっと今と同じように俺は幸福の笑顔をしていられるショ。


「あの、裕介さん…//」


腕の中で聴こえる呼びかけに視線を下げると
大きな両の瞳が何かを言いたげに見つめているのに気が付いた。


「どうしたショ、坂道」


「あの、久しぶりに呼び方変えても良いですか、一回だけ…//」


何を言われるんだろうかと思ったが、なんだそんな事か…//;
若干ビビって損したと俺が笑って頷くと嬉しさに満ちて笑う顔は
色褪せることのない出会った頃、そのままだった。


「これからも宜しくお願いします、巻島さん…っ//!!」

「クハッ…久しぶりだと擽ったいショ…//」


懐かしい呼び方は胸に響き、鮮明に初恋を思い出させてくれる。
そいつは照れつつもも嬉しくて、恥ずかしさを隠すように大きく二人で笑いあった。


まだ透明な指輪のかわりに抱擁を
蕾にも満たないブーケのかわりに有り余るキスを。

過去の自分に笑われないように
先にある未来へと向かい
流れゆく今を、お前と共に進んでいこう。


【Happy Ending】
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