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5月12日 巻坂長編その2UP。
(小野田坂道)
「こっちだ、坂道」
昨日巻島さんが出掛けたというマーケットは思いの外近所だったみたいで周辺は凄く賑やか。
一度足を踏み入れたらなかなか抜け出せそうに無いなーと眺めれいると
そっちじゃ無いと手を引かれて地下鉄の駅へと向かい電車に乗り、ロンドンの中心街へとやってきた。
テムズ川沿いにはイギリスの顔でもあるビッグベン、世界最大級の観覧車ロンドン・アイ。
美術の教科書でしか見たことのないゴシック建築といわれるウエストミンスター寺院、
歴史を感じずにはいられない世界遺産の数々に僕は今更だけど
やっとイギリスに来ているという実感がふつふつと湧いてきていた。
「うわ大っきいー…もっと離れた場所にあると思っていましたけど結構街の中にあるんですね//!!」
「確かにデカいショ…俺もマトモに見たの初めてだ」
イギリスに留学してからの日々は何かとやることが多く、
遠目に眺めることはあっても街中を歩いたことは無かったと巻島さんも感心した様子。
すっかり観光客気分で風景を楽しんだ後は移動販売のワゴンアイスを買って次の場所へ。
少し遠回りすると巻島さんに連れられるままにやってきたのはあの有名な推理小説の舞台となったベイカーストリート、
本当に221Bとドアに掛けてあるし、雰囲気バッチリの佇まいにタイムスリップしてきたみたいだ。
通り道には蝋人形館やUK音楽のミュージアムなんかもあって視線で追うだけでも忙しいくらい、
イギリスは色々な物語の舞台になっているのは知っていたけど、当たり前のように街中に溢れているなんて思わなかった。
買ったアイスも食べ終わる頃には次の駅へと到着し、巻島さんはポケットから地図を取り出しながら
多分こっちだとついて歩いて行くこと暫く…そこはあまりにも有名なファンタジー映画のワンシーンが再現された駅のホームだった。
「わわわっ!!此処ってまさか…うそ本物ですかっ//!!!」
わき目も振らずに駆け寄ると、そこにはしっかりと壁半分まで埋まっているカートと
写真撮影の目印に掲げられた【platform9・3/4】のプレート。
スクリーンで観たままの光景、全シリーズ映画で観ていた僕にとっては正に現実とファンタジーの境目のようで、
もしかしたらこのまま壁をすり抜けた先には魔法学校行きの列車が待っている気がしてならなかった。
「凄い…っ//!! まさか目の前で大好きな映画の舞台が見られるなんて夢みたいだ//!!」
「クハッ、こういうの好きかとは思ったケド…どうやらカンは当りだったみたいショ」
背後を追いかける巻島さんの笑い声に振り返ると、その手には携帯電話が握られている。
壁を指差しながら何度も頷いてばかりだった僕に写真を撮ってくれると言ってくれたので
満面の笑顔で【platform9・3/4】に手を添えてポーズを取ると、2、3度のシャッター音の後
くるりと画面を返して見せてくれた写真は自分で予想している以上の笑顔だった。
「今度は巻島さんも一緒に撮りませんか//?
旅行の記念にもなりますし、是非お願いします//!!」
僕の申し出に一度はビックリした顔をしてみせたけれど、苦笑いながら『わかった』と隣に並んでくれた。
二人で壁を背にしてカメラを構える、巻島さんの長い手がいっぱいに伸ばされ
頬っぺたがくっつくギリギリまで顔を寄せて間も無く、カシャ…とシャッターが切られた音、
フォルダーを開いて確認してみると、しっかりと二人の顔が画面に写っていた。
「良かったーキレイに撮れてますね//!」
「そう、だな…いや、坂道がイイってなら別に構わないケドさ…//;」
「…けど、どうしたんですか?」
「ま、いいショ…携帯に送っとくからな…//;」
僕と目を合わせた巻島さんは苦笑いを浮かべて髪を掻き上げてみせた。
視線は何処か困っているようにも見えたけど、それ以上の理由は口に出さず
かわりに指で頬を掻きながらも片手で携帯を操作していた。
すると僕の携帯が震えたのに気が付き、取り出して開いてみると
たった今撮られたばかりのツーショット写真が添付されて来ていた。
「ちゃんと届いてるか?」
「ありがとうございます!帰ったら皆に自慢出来ちゃいますね//」
「…あぁ…思いっきり自慢してやれショ…//;」
この時、巻島さんが言わんとしていたことは後々の日本に帰ってから知ることになる僕だったけど
今は何より保存された記念写真に心を踊らせずにはいられなかった。
移動続きで小腹の空いた僕達はちょうど昼食時だと駅近くのレストランに入り、
この後の予定について相談しながら注文した料理を待っていると、意外に早く、ものの数分で運ばれてきた。
僕の前には野菜とチキンのプレート、巻島さんはコーヒーとキッシュだ。
「あれっ…巻島さんは御飯食べないんですか?」
「あぁ、いいから気にせず食うショ…//」
笑んで食べるように促すので、それじゃあと遠慮なく目にも鮮やかなサラダにフォークを伸ばして一口。
続いてプレートに盛り付けられたチキン、温野菜にとフォークを移して口を動かしていると
目の前で吹き出す声が聞こえたので顔を上げると面白そうに見ている巻島さんと目があったんだ。
「どうショ、坂道」
「ふぇ…?」
「美味い…//?」
ニヤリとした笑顔に僕は昨日の話を思い出した。
『イギリス料理は味がしない』って言っていたけれど、確かに…なんて言うか素朴な…味…?
それ以上の感想を求められても困ってしまう…巻島さんはこうなることを知っていたみたいだ。
やっぱり自分達で作った御飯の方が美味しいなと思いながら
黙々と料理を食べ終え、美味しい紅茶を飲み終えた後に僕達は店を出た。
「さーて、次は土産の調達か…予算もあるだろうし小売よりマーケットの方が手っ取り早いショ」
「この近くにもマーケットってあるんですか?」
「あぁ、ロンドン各地にあるショ、昨日行けなかったし行ってみるか?」
「ハイ是非!」
先程の相談で手軽で数の買えるマーケットを覗いてみるかと名案を出してくれた巻島さんに連れられ、
そのまま賑やかなマーケットへと飛び込み、あれこれと眺めながらみんなへのお土産も無事に購入。
僕の目的にしていたものも無事に買えたし、後はコレを渡すだけ…巻島さんは受け取ってくれるかな…//
少しの不安と期待の中で、僕は無くさないようにとしっかりバッグの底へとしまい込んだ。
昨日考えていた計画もどうやら成功しそうだし…と、スポーツバッグに視線を向けていると
ポンと肩を叩かれて顔を上げた僕に、巻島さんは『まだまだこれからショ』と再び街へと歩き出した。
僕も楽しいけれど、巻島さんも楽しそうで良かった…//
おかげで時間と体力の許す限りロンドンを満喫しているうちに、
気が付けば長いイギリスの日も傾きはじめていて…
そろそろ帰るかとタクシーを拾おうとした巻島さんに地下鉄で帰りたいと僕は我儘を言ってしまった。
「いいのか、結構歩いたし疲れただろ?」
「いいえ、僕なら大丈夫です…//」
少しでも遠回りをして帰りたい、この最高の時間を少しでも長引かせたい。
けれど何事もないように日は落ちてゆき、帰りの駅に着いた時にはうっすら微かに星も一つ二つ輝き始めていた。
ゆっくり、ゆっくりと色を落とす空はまるで別れをカウントしているみたいで
一歩進めばそれだけサヨナラが近づいてしまう、でも帰らないわけにはいかない。
どうして時間は進んでしまうんだろう、楽しい時間は尚更早い。
仕方のないことだけれど、もう少しだけ…ほんの少しだけでもいいから
この時間がゆっくり流れて欲しいと願ったけれど、街路も見慣れたものに変わり始めて
遠目に映る視界には目指す僕達の到着点、あぁ…もうすぐアパートについてしまうんだ。
最後まで笑顔でいようと決めていたのにやっぱり心は正直で、
思わず溜息が零れそうになるのを我慢していても、寂しい気持ちが胸を揺らしながら広がっていくばかり。
自然と下がってた視線は歩く石畳を映したままで、なかなか顔を上げられないでいると、
隣で静かに名前を呼んでいる巻島さんの声に気がついた。
耳に届く大好きな人の声は沈んだ心を優しく掬い上げてくれるようで
僕は鼓膜を揺らす心地いい思いの中で漸く顔を上げる事が出来たんだ。
「こっちだ、坂道」
昨日巻島さんが出掛けたというマーケットは思いの外近所だったみたいで周辺は凄く賑やか。
一度足を踏み入れたらなかなか抜け出せそうに無いなーと眺めれいると
そっちじゃ無いと手を引かれて地下鉄の駅へと向かい電車に乗り、ロンドンの中心街へとやってきた。
テムズ川沿いにはイギリスの顔でもあるビッグベン、世界最大級の観覧車ロンドン・アイ。
美術の教科書でしか見たことのないゴシック建築といわれるウエストミンスター寺院、
歴史を感じずにはいられない世界遺産の数々に僕は今更だけど
やっとイギリスに来ているという実感がふつふつと湧いてきていた。
「うわ大っきいー…もっと離れた場所にあると思っていましたけど結構街の中にあるんですね//!!」
「確かにデカいショ…俺もマトモに見たの初めてだ」
イギリスに留学してからの日々は何かとやることが多く、
遠目に眺めることはあっても街中を歩いたことは無かったと巻島さんも感心した様子。
すっかり観光客気分で風景を楽しんだ後は移動販売のワゴンアイスを買って次の場所へ。
少し遠回りすると巻島さんに連れられるままにやってきたのはあの有名な推理小説の舞台となったベイカーストリート、
本当に221Bとドアに掛けてあるし、雰囲気バッチリの佇まいにタイムスリップしてきたみたいだ。
通り道には蝋人形館やUK音楽のミュージアムなんかもあって視線で追うだけでも忙しいくらい、
イギリスは色々な物語の舞台になっているのは知っていたけど、当たり前のように街中に溢れているなんて思わなかった。
買ったアイスも食べ終わる頃には次の駅へと到着し、巻島さんはポケットから地図を取り出しながら
多分こっちだとついて歩いて行くこと暫く…そこはあまりにも有名なファンタジー映画のワンシーンが再現された駅のホームだった。
「わわわっ!!此処ってまさか…うそ本物ですかっ//!!!」
わき目も振らずに駆け寄ると、そこにはしっかりと壁半分まで埋まっているカートと
写真撮影の目印に掲げられた【platform9・3/4】のプレート。
スクリーンで観たままの光景、全シリーズ映画で観ていた僕にとっては正に現実とファンタジーの境目のようで、
もしかしたらこのまま壁をすり抜けた先には魔法学校行きの列車が待っている気がしてならなかった。
「凄い…っ//!! まさか目の前で大好きな映画の舞台が見られるなんて夢みたいだ//!!」
「クハッ、こういうの好きかとは思ったケド…どうやらカンは当りだったみたいショ」
背後を追いかける巻島さんの笑い声に振り返ると、その手には携帯電話が握られている。
壁を指差しながら何度も頷いてばかりだった僕に写真を撮ってくれると言ってくれたので
満面の笑顔で【platform9・3/4】に手を添えてポーズを取ると、2、3度のシャッター音の後
くるりと画面を返して見せてくれた写真は自分で予想している以上の笑顔だった。
「今度は巻島さんも一緒に撮りませんか//?
旅行の記念にもなりますし、是非お願いします//!!」
僕の申し出に一度はビックリした顔をしてみせたけれど、苦笑いながら『わかった』と隣に並んでくれた。
二人で壁を背にしてカメラを構える、巻島さんの長い手がいっぱいに伸ばされ
頬っぺたがくっつくギリギリまで顔を寄せて間も無く、カシャ…とシャッターが切られた音、
フォルダーを開いて確認してみると、しっかりと二人の顔が画面に写っていた。
「良かったーキレイに撮れてますね//!」
「そう、だな…いや、坂道がイイってなら別に構わないケドさ…//;」
「…けど、どうしたんですか?」
「ま、いいショ…携帯に送っとくからな…//;」
僕と目を合わせた巻島さんは苦笑いを浮かべて髪を掻き上げてみせた。
視線は何処か困っているようにも見えたけど、それ以上の理由は口に出さず
かわりに指で頬を掻きながらも片手で携帯を操作していた。
すると僕の携帯が震えたのに気が付き、取り出して開いてみると
たった今撮られたばかりのツーショット写真が添付されて来ていた。
「ちゃんと届いてるか?」
「ありがとうございます!帰ったら皆に自慢出来ちゃいますね//」
「…あぁ…思いっきり自慢してやれショ…//;」
この時、巻島さんが言わんとしていたことは後々の日本に帰ってから知ることになる僕だったけど
今は何より保存された記念写真に心を踊らせずにはいられなかった。
移動続きで小腹の空いた僕達はちょうど昼食時だと駅近くのレストランに入り、
この後の予定について相談しながら注文した料理を待っていると、意外に早く、ものの数分で運ばれてきた。
僕の前には野菜とチキンのプレート、巻島さんはコーヒーとキッシュだ。
「あれっ…巻島さんは御飯食べないんですか?」
「あぁ、いいから気にせず食うショ…//」
笑んで食べるように促すので、それじゃあと遠慮なく目にも鮮やかなサラダにフォークを伸ばして一口。
続いてプレートに盛り付けられたチキン、温野菜にとフォークを移して口を動かしていると
目の前で吹き出す声が聞こえたので顔を上げると面白そうに見ている巻島さんと目があったんだ。
「どうショ、坂道」
「ふぇ…?」
「美味い…//?」
ニヤリとした笑顔に僕は昨日の話を思い出した。
『イギリス料理は味がしない』って言っていたけれど、確かに…なんて言うか素朴な…味…?
それ以上の感想を求められても困ってしまう…巻島さんはこうなることを知っていたみたいだ。
やっぱり自分達で作った御飯の方が美味しいなと思いながら
黙々と料理を食べ終え、美味しい紅茶を飲み終えた後に僕達は店を出た。
「さーて、次は土産の調達か…予算もあるだろうし小売よりマーケットの方が手っ取り早いショ」
「この近くにもマーケットってあるんですか?」
「あぁ、ロンドン各地にあるショ、昨日行けなかったし行ってみるか?」
「ハイ是非!」
先程の相談で手軽で数の買えるマーケットを覗いてみるかと名案を出してくれた巻島さんに連れられ、
そのまま賑やかなマーケットへと飛び込み、あれこれと眺めながらみんなへのお土産も無事に購入。
僕の目的にしていたものも無事に買えたし、後はコレを渡すだけ…巻島さんは受け取ってくれるかな…//
少しの不安と期待の中で、僕は無くさないようにとしっかりバッグの底へとしまい込んだ。
昨日考えていた計画もどうやら成功しそうだし…と、スポーツバッグに視線を向けていると
ポンと肩を叩かれて顔を上げた僕に、巻島さんは『まだまだこれからショ』と再び街へと歩き出した。
僕も楽しいけれど、巻島さんも楽しそうで良かった…//
おかげで時間と体力の許す限りロンドンを満喫しているうちに、
気が付けば長いイギリスの日も傾きはじめていて…
そろそろ帰るかとタクシーを拾おうとした巻島さんに地下鉄で帰りたいと僕は我儘を言ってしまった。
「いいのか、結構歩いたし疲れただろ?」
「いいえ、僕なら大丈夫です…//」
少しでも遠回りをして帰りたい、この最高の時間を少しでも長引かせたい。
けれど何事もないように日は落ちてゆき、帰りの駅に着いた時にはうっすら微かに星も一つ二つ輝き始めていた。
ゆっくり、ゆっくりと色を落とす空はまるで別れをカウントしているみたいで
一歩進めばそれだけサヨナラが近づいてしまう、でも帰らないわけにはいかない。
どうして時間は進んでしまうんだろう、楽しい時間は尚更早い。
仕方のないことだけれど、もう少しだけ…ほんの少しだけでもいいから
この時間がゆっくり流れて欲しいと願ったけれど、街路も見慣れたものに変わり始めて
遠目に映る視界には目指す僕達の到着点、あぁ…もうすぐアパートについてしまうんだ。
最後まで笑顔でいようと決めていたのにやっぱり心は正直で、
思わず溜息が零れそうになるのを我慢していても、寂しい気持ちが胸を揺らしながら広がっていくばかり。
自然と下がってた視線は歩く石畳を映したままで、なかなか顔を上げられないでいると、
隣で静かに名前を呼んでいる巻島さんの声に気がついた。
耳に届く大好きな人の声は沈んだ心を優しく掬い上げてくれるようで
僕は鼓膜を揺らす心地いい思いの中で漸く顔を上げる事が出来たんだ。
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