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5月12日 巻坂長編その2UP。
~U+K~
(巻島裕介)
よく親に『ながら作業はやめなさい』と言われた記憶はあるが
今朝ほどソレを守れば良かったと思うことは無い。
『俺の見間違いなど有り得ん話だ、東堂尽八、この名前にかけてもいいぞ!』
シンクに溜まった食器を洗いながら器用に片耳に携帯を挟みつつ相槌を打つ俺に
自信満々に捲し立てて熱く語る東堂の声は電話口を突き抜け鼓膜にキンキンと打ち響くばかりか、
拾いきれない音は、もはや何を話しているのかさえ聞き取れない。
昨晩は色々あったが久しぶりにベッドで寝れたおかげで寝不足を除けば体調はイイものだってのに…これじゃプラマイゼロだ。
大体、朝っぱらから耳元でそんな大きな声出すなと以前から言ってるにも関わらず
ワンコールごとに相手はそんな事は忘れてしまっているらしい。
何回お前は俺に電話してきてるんショ…低血圧な事も知ってるくせにお構いナシだ。
「んな、くだらない事に名前かけんなショ;」
『何がくだらないものかね!それだけ重要なことなのだよ!!』
何故こんな事になっているのか…順を追った事情はこうだ。
朝食を終えて間も無く、ランドリーから洗濯物を取ってくると
坂道が席を外したタイミングを見計らったように俺の電話へと着信が入った。
こんな時間に電話掛けてくるヤツなんて決まってるし昨日の着信は無視しちまっていたから
今朝は出てやらなきゃなと律儀に通話ボタンを押し、声を掛けると案の定それは東堂尽八からのものだった。
『久しぶりだな巻ちゃん、元気でやっているか?ちゃんと食っているか?』
大方そんな出だしから始まるかと思いきや、開口一番に振られた話題に俺の頬は引きつった。
「外国人なんて日本人からすればみんな同じに見えるモンだろ//;?」
『何を言う!この、三年間ライバルとして幾多のレースで競い高め合った俺が
たとえ国を超えても液晶越しでも巻ちゃんの顔を見間違う筈なんて無い、いいや有り得ない!』
偶然、通りががりに観た夕方のニュースでは海外で開催中の
ジャパンエキスポなる日本文化の祭典が特集されていたらしく、
その映像の中に俺らしい(東堂判断)人物が映っていたのを見掛けて
即座に電話を手にしたが繋がらずに今朝になったそうだ。
思い返せば会場にはテレビカメラを担いだ連中も多く、取材陣も多かったな…イギリス・BBC局の文字もあった。
でも、あの大勢の中で偶然にも程があるショ、しかもなんで日本のテレビに映っちまったかねぇ…いや、見つけた尽八が凄いのか?
まぁ当然と言えば当然なのだが、日本文化の祭典に日本のメディアが取材に来ていても可笑しくはないわな。
あれこれと自己解釈をする俺だったが、話は此処で終わら無かった。
『しかし、不思議な事もあるものだ…あの映像を見る限りでは
総北のあのメガネ君が一緒にいるようにも見えたが、誰かと一緒だったのか、巻ちゃん』
目敏い…映像を見たわけじゃ無ぇーから完全な想像ではあるが
外国人からすれば遥かに身長の低い坂道をあの人混みの中で見つけたのかよ…どんだけショ。
こうなってくると話は面倒だ…俺一人ならば通りがかったダケとも言えるが
坂道がこっちに来ているとは知られたくない、ヤツなら飛んで来かねないからだ。
いずれバレるにしても残り少ない坂道との時間は邪魔されたくは無い。
洗い物しながらの電話体勢もそろそろ辛くなってきたところだと
最後のマグカップを流し終え、蛇口を締めて電話を持ち直した。
「尽八よぉ…俺がアニメに興味無い事は知ってるショ;
だいたい俺が住んでるのはイギリスで、そのエキスポ会場はフランス、場所が全然違う。
それに小野田が海外にいるワケないっショ、な?」
『…ふむ…それもそうか…。
巻ちゃんの言う通り、あのメガネ君が一人海外旅行とは考えにくいしな…』
苦しく聞こえるが最もらしくも聞こえる理由を付けて諭すように弁解すると
相手もやっと落ち着いたらしく軽く唸る声に変わってみせた…あともう少し…そう俺が思った時だった。
「巻島さーん、洗濯物何処に置きますかー?」
背後に聞こえた声に即座に振り返ると、そこには両腕に洗濯物を抱えた坂道の姿。
ヤバイと思うより先に電話口からは東堂の言葉が矢のように放たれた。
『おい巻ちゃん!!今、確かに巻ちゃんを呼ぶ声が聞こえたが…』
「あ、悪ィ、もう家出る時間だから電話切るわ、じゃーな」
ピッ…
返事を待たずに一方的に電話を切り、何も無かったかのように
ポケットにしまうと坂道は笑顔でタオルを一枚、差し出してくれた。
「東堂さんですか?」
「そうだ…よく分かったな//;」
「やっぱり、声が漏れてましたから//」
懐かしい名前を耳にした坂道は頷いて答え、抱えてきた洗濯物を畳み始めたので
俺もそれを手伝いながら今し方まで東堂からの聞いた話を聞かせると、
冗談のような事実に驚いたらしく大きな瞳を開いて頬を赤く染めてみせた。
「まさか僕、海外で日本のテレビに出てるなんて思ってもみませんでした//」
「だな、何処で何がどうなるかなんて分かんないモンだな…//;」
そんな会話をしているうちにすっかり洗濯物も畳み終え、
大方の片付けも済んだ事を見渡しながら上着を片手に、財布をポケットに突っ込んだ。
窓越しに映る外の天気はどうやら晴れ、最近は良く晴れて珍しいなと思いながら
荷物をしまう坂道の背中に声を掛けた。
「準備はOKか?」
「いつでもOKです!」
返事と共に振り返った姿は肩にスポーツバックを持ち、表情はとても晴れやかなものだった。
気持ちの良い返事に微笑みながら俺が鍵を手に玄関へと向かうと、坂道も後を追うようについてきた。
内ロックを外して部屋を出ると、手にしていた鍵を音を立てて鍵穴に差し込む。
坂道がくれたキーホルダー、くも太郎…って名前だったな、
渡英の際に何か持っていけないかと探すまでもなく手にとったのがコレだった。
離れていても近くにいる…なんてガラにも無いが、見る度に傍に感じられる思いがするショ。
ガチャ…ッ
最終日の今日は俺にとっても坂道にとっても特別な日になるだろう、
自分の引き寄せた幸運と一大決心、そして仲間内の協力もあり決行したこの旅行の総仕上げだ。
音を立ててロックの掛かったドアより手を離し、ポンと坂道の肩を叩いた。
「そんじゃー行くっショ!」
「ハイ//!」
この笑顔が声が感じられなくなるのは寂しい…本音を言っちまえばな。
そいつを上手く隠しながら今日を一日過ごそうと思う。
俺の出来る全力をもって今日のこの日を最高の思い出にしていって欲しいショ。
坂道が笑顔で日本に帰れるように、俺が笑顔で見送れるように…
そう願いつつ、俺達は足早にアパートを後にしたのだった。
(巻島裕介)
よく親に『ながら作業はやめなさい』と言われた記憶はあるが
今朝ほどソレを守れば良かったと思うことは無い。
『俺の見間違いなど有り得ん話だ、東堂尽八、この名前にかけてもいいぞ!』
シンクに溜まった食器を洗いながら器用に片耳に携帯を挟みつつ相槌を打つ俺に
自信満々に捲し立てて熱く語る東堂の声は電話口を突き抜け鼓膜にキンキンと打ち響くばかりか、
拾いきれない音は、もはや何を話しているのかさえ聞き取れない。
昨晩は色々あったが久しぶりにベッドで寝れたおかげで寝不足を除けば体調はイイものだってのに…これじゃプラマイゼロだ。
大体、朝っぱらから耳元でそんな大きな声出すなと以前から言ってるにも関わらず
ワンコールごとに相手はそんな事は忘れてしまっているらしい。
何回お前は俺に電話してきてるんショ…低血圧な事も知ってるくせにお構いナシだ。
「んな、くだらない事に名前かけんなショ;」
『何がくだらないものかね!それだけ重要なことなのだよ!!』
何故こんな事になっているのか…順を追った事情はこうだ。
朝食を終えて間も無く、ランドリーから洗濯物を取ってくると
坂道が席を外したタイミングを見計らったように俺の電話へと着信が入った。
こんな時間に電話掛けてくるヤツなんて決まってるし昨日の着信は無視しちまっていたから
今朝は出てやらなきゃなと律儀に通話ボタンを押し、声を掛けると案の定それは東堂尽八からのものだった。
『久しぶりだな巻ちゃん、元気でやっているか?ちゃんと食っているか?』
大方そんな出だしから始まるかと思いきや、開口一番に振られた話題に俺の頬は引きつった。
「外国人なんて日本人からすればみんな同じに見えるモンだろ//;?」
『何を言う!この、三年間ライバルとして幾多のレースで競い高め合った俺が
たとえ国を超えても液晶越しでも巻ちゃんの顔を見間違う筈なんて無い、いいや有り得ない!』
偶然、通りががりに観た夕方のニュースでは海外で開催中の
ジャパンエキスポなる日本文化の祭典が特集されていたらしく、
その映像の中に俺らしい(東堂判断)人物が映っていたのを見掛けて
即座に電話を手にしたが繋がらずに今朝になったそうだ。
思い返せば会場にはテレビカメラを担いだ連中も多く、取材陣も多かったな…イギリス・BBC局の文字もあった。
でも、あの大勢の中で偶然にも程があるショ、しかもなんで日本のテレビに映っちまったかねぇ…いや、見つけた尽八が凄いのか?
まぁ当然と言えば当然なのだが、日本文化の祭典に日本のメディアが取材に来ていても可笑しくはないわな。
あれこれと自己解釈をする俺だったが、話は此処で終わら無かった。
『しかし、不思議な事もあるものだ…あの映像を見る限りでは
総北のあのメガネ君が一緒にいるようにも見えたが、誰かと一緒だったのか、巻ちゃん』
目敏い…映像を見たわけじゃ無ぇーから完全な想像ではあるが
外国人からすれば遥かに身長の低い坂道をあの人混みの中で見つけたのかよ…どんだけショ。
こうなってくると話は面倒だ…俺一人ならば通りがかったダケとも言えるが
坂道がこっちに来ているとは知られたくない、ヤツなら飛んで来かねないからだ。
いずれバレるにしても残り少ない坂道との時間は邪魔されたくは無い。
洗い物しながらの電話体勢もそろそろ辛くなってきたところだと
最後のマグカップを流し終え、蛇口を締めて電話を持ち直した。
「尽八よぉ…俺がアニメに興味無い事は知ってるショ;
だいたい俺が住んでるのはイギリスで、そのエキスポ会場はフランス、場所が全然違う。
それに小野田が海外にいるワケないっショ、な?」
『…ふむ…それもそうか…。
巻ちゃんの言う通り、あのメガネ君が一人海外旅行とは考えにくいしな…』
苦しく聞こえるが最もらしくも聞こえる理由を付けて諭すように弁解すると
相手もやっと落ち着いたらしく軽く唸る声に変わってみせた…あともう少し…そう俺が思った時だった。
「巻島さーん、洗濯物何処に置きますかー?」
背後に聞こえた声に即座に振り返ると、そこには両腕に洗濯物を抱えた坂道の姿。
ヤバイと思うより先に電話口からは東堂の言葉が矢のように放たれた。
『おい巻ちゃん!!今、確かに巻ちゃんを呼ぶ声が聞こえたが…』
「あ、悪ィ、もう家出る時間だから電話切るわ、じゃーな」
ピッ…
返事を待たずに一方的に電話を切り、何も無かったかのように
ポケットにしまうと坂道は笑顔でタオルを一枚、差し出してくれた。
「東堂さんですか?」
「そうだ…よく分かったな//;」
「やっぱり、声が漏れてましたから//」
懐かしい名前を耳にした坂道は頷いて答え、抱えてきた洗濯物を畳み始めたので
俺もそれを手伝いながら今し方まで東堂からの聞いた話を聞かせると、
冗談のような事実に驚いたらしく大きな瞳を開いて頬を赤く染めてみせた。
「まさか僕、海外で日本のテレビに出てるなんて思ってもみませんでした//」
「だな、何処で何がどうなるかなんて分かんないモンだな…//;」
そんな会話をしているうちにすっかり洗濯物も畳み終え、
大方の片付けも済んだ事を見渡しながら上着を片手に、財布をポケットに突っ込んだ。
窓越しに映る外の天気はどうやら晴れ、最近は良く晴れて珍しいなと思いながら
荷物をしまう坂道の背中に声を掛けた。
「準備はOKか?」
「いつでもOKです!」
返事と共に振り返った姿は肩にスポーツバックを持ち、表情はとても晴れやかなものだった。
気持ちの良い返事に微笑みながら俺が鍵を手に玄関へと向かうと、坂道も後を追うようについてきた。
内ロックを外して部屋を出ると、手にしていた鍵を音を立てて鍵穴に差し込む。
坂道がくれたキーホルダー、くも太郎…って名前だったな、
渡英の際に何か持っていけないかと探すまでもなく手にとったのがコレだった。
離れていても近くにいる…なんてガラにも無いが、見る度に傍に感じられる思いがするショ。
ガチャ…ッ
最終日の今日は俺にとっても坂道にとっても特別な日になるだろう、
自分の引き寄せた幸運と一大決心、そして仲間内の協力もあり決行したこの旅行の総仕上げだ。
音を立ててロックの掛かったドアより手を離し、ポンと坂道の肩を叩いた。
「そんじゃー行くっショ!」
「ハイ//!」
この笑顔が声が感じられなくなるのは寂しい…本音を言っちまえばな。
そいつを上手く隠しながら今日を一日過ごそうと思う。
俺の出来る全力をもって今日のこの日を最高の思い出にしていって欲しいショ。
坂道が笑顔で日本に帰れるように、俺が笑顔で見送れるように…
そう願いつつ、俺達は足早にアパートを後にしたのだった。
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