更新情報
5月12日 巻坂長編その2UP。
~気まぐれな距離~
(小野田坂道)
今は多分、ロンドン時間ではお昼頃だとは思う。
確かじゃないのは僕の持っている携帯が日本の現在時刻を指している為
正確な時間が分からないのだ。
僕は誘われるままに返事をして、目的地も知らされないまま
巻島さんに連れられロンドンの街中を歩いていた。
今はどの辺なのかな、地下鉄やバスにも乗ったけれど
知らない土地では距離感も掴めないせいか随分遠くに来たようにも思える。
朝食中、冗談話を真に受けた僕に気を使わせちゃったみたいで
なんだか悪い事をしてしまったように思えて仕方が無いのだけれど、
巻島さんの話を僕は一つも漏らさず聞いていたかったんだ。
昨日の帰り道、巻島さんと残りの日程を一緒に過ごしたいって言った時には
当然のようにびっくりした顔をされてしまったけれど、無事に願いは叶えられた。
良いよ、と言葉での返事は無かった変わりに黙って引いてくれた手に
少しだけだけど距離が近づいた気がする…向かい合わせでの会話や道案内じゃなく、
日常の中での隣は自分が望んだはずなのに胸がドキドキして仕方無いんだ。
「イギリスって案外日本ぽいんですね、巻島さん」
「ん?…あぁ、そうだなーこの通りは特にそう思うかも知れないな」
建物を渡すように渡掛かる赤い提灯を見上げながら僕は呟いた。
数日前とは違い、風景を楽しむくらいの余裕が生まれていたこともあって
今もこうして視界に映る街並の広い範囲まで視線を伸ばして見渡しているところだ。
そこは意外にも外国という雰囲気の反面、日本でもお馴染みの大手デパートや
ファーストフートの看板、それに漢字表記の和風っぽい看板を掲げた店まである…
遠く離れた異国の地で漢字を目にするとは正直な話、全く予想していなかった。
「ここから少し行った先はチャイナタウンだ。
世界各国にもアジアタウンは多いがイギリスも例外じゃ無い。
日本食の店が結構多くなってるって聞くし、
文化的に考えれば外国人が一番住みやすい国だとも言われてるショ」
「へぇ~…イギリスの人達って取り入れ上手なんですね//」
路地の先を指さしながら説明する巻島さんに頷いて指し示す方向に視線を合せた。
言葉の通り、先に有るであろう飲食街がら美味しそうな匂いが風に乗って僕の鼻を擽り通り過ぎていく。
ほんの少し前に朝ごはんを食べたばかりだっていうのにお腹が空いてしまいそうだ。
「日本だって変わらないショ、流行り廃りは激しいケドな。
この国のビックリするところは新しいものを取り入れつつ
平然と昔の文化が生きていたりするところ…そこも面白いトコだ」
巻島さんは視線を伏せながら小さく笑んで、何故か嬉しそうに言った。
その言葉通りに、僕達が歩いてきた道沿いには幾つもの教会や
歴史を感じる建物がなんの違和感も無く存在する不思議さがある。
まるでファンタジー映画のワンシーンみたいだなぁ…//
今朝の会話でちょっと驚かされてけど、巻島さんが言っていた意味がなんとなく分かったような気がした。
「でも流石に日本風の建物はありませんね、あ、でもあったら逆にヘンか//;」
「いや、建てたくても建てられねぇーんだヨ。
イギリスは一日の間に四季があるってくらい天候が変わりやすい国だ、
晴れていたと思えば途端に雨が降ったり、今時期夏だってのに
涼しいを通り越して寒いくらいの風が吹いたりもするんだぜ、
純日本家屋建てようもんならカビが生えるショ…//」
「だからみんなレンガとかブロックなんですね…へぇ~…」
巻島さんは僕の疑問にズバリとした納得の答えを出してくれた。
ちょっと冗談のつもりでもあったけど、あながち的外れではなかったみたいだと
思っていると、目的地に着いたらしく足取りを止めてみせた。
「さ、やっと着いたショ」
巻島さんの言葉と共に僕の視界に飛び込んできたのは
見るからに立派で荘厳という言葉が合っているのかは分からなかったけど、
僕なりに例えるならば、ダークファンタジーテイストのRPGに登場する如何にも曰くありげな佇まいのお城。
ひと度足を踏み入れれば、そこは剣と魔法が支配する神聖な世界が広がっていそうだ。
きっと外壁にはステンドグラスとかもあったりして、石造りの回廊とか螺旋階段とか…!!
隅々まで探したら宝箱の一つでもありそうな気がする、
それってまるでゲームの世界に入り込んだみたいで雰囲気満点過ぎるよ~//!!
「ここスッゴイです巻島さん!!なんて言うお城なんですか//!!」
「城って…期待してるところ申し訳無いンだが、此処は俺の通う大学なんだワ…//;」
「だっ…大学!?」
すっかり興奮していた僕には意外すぎる衝撃的な答えだった。
これが学校だと言われてもちょっと信じられないですよ、
だって二次元世界の建物が今、目の前にあるんですから!
「残ってた課題提出を遠い散歩がてら届けに来たんショ。
敷地内は誰でも出入り自由、ちょっとした公園にもなってンの、行くぞ坂道」
未だ呆然とする僕の背中を軽く叩いて巻島さんは再び歩きだした。
慌てて置いて行かれないようにと後を追いかけて隣に並ぶと、
それを待っていてくれたように続きを話してくれた。
「俺ゲームとかはやらないし映画もあんまり観ねぇーけど
坂道の言うファンタジーってヤツがこのイギリスにはそこらじゅうに転がってるショ。
結構そういう映画の舞台にもなってるし、実際に市内の建物使って撮影してるみたいだな」
「僕、なんだか分かる気がします…//
今朝は幽霊とかオバケとかで少し怖かったですけど、
逆に考え直せばファンタジーの舞台になっているくらいだし
不思議な出来事があっても全くおかしくはないんですよね!」
「クハッ…今朝と大違いっショ、でも、まぁ…気に入ったか?」
「ハイ!勿論です//!!」
すっかりテンションの上がった僕は周りも気にせずに大きく返事をして
隣を歩く巻島さんに笑顔を向けると、言葉の変わりに口角を上げて一度頷いてまた視線を前へと戻した。
でも、ここは本当に大学なのかな…公園とかテーマパークだと言われても充分信じられる。
通路を示した石畳、緑も多い中に噴水や花壇もキレイに設備されていて
のんびりと散歩を楽しんだり、楽しそうにお喋りする学生さんぽい人達ともすれ違う。
此処で巻島さんは勉強しているんだ…
同じ学校にいた頃も三年生の教室には行ったことは無かった僕にとって
少しだけ垣間見せてくれた秘密事に触れているみたいでちょっと特別な気分がする。
用事ついでの散歩だっていってたけど、新しい世界を僕に見せてくれた事がたまらなく嬉しかった。
「すぐ済むから此処に居るショ」
やがて正面玄関らしき場所までやってきた時、
巻島さんは僕に待つように言うとブザーを鳴らして中に入っていった。
数分後、出てきた巻島さんは少し疲れた表情で扉を閉めながら
息を付くには大きい溜息を吐いてみせた。
「あの、大丈夫ですか、巻島さん…?」
「平気、ちぃーっとばっかしテンションに疲れただけだ…//;
歩いてりゃ直ぐに良くなる、行こうぜ坂道」
そういうと巻島さんは姿勢を伸ばして歩き出したので僕も後に続いて歩きだした。
先程と同じ風景を戻る中、辺には風の音と遠くで聴こえる鳥の鳴き声、
会話は無かったけれど、なんだかとても心地良い…
何か無理に話すより隣にいる巻島さんを見ていたい、そんな気分だった。
やっぱり、巻島さんてスゴイ人なんだ。
今はこうして隣を歩いているはずなのに、果てなく先を目指して進んでいる姿は
僕の憧れた、あのレースで誰よりも早くクライムする姿に重なって見えていた。
日本を離れて一人、目標に向かって一歩を進める姿はとってもカッコイイ。
『俺はいつでもお前と一緒に走ってるショ』
最後の峰が山クライムの時に巻島さんから貰った言葉が自然と頭に浮かんだ。
抜けと言われた遠く眩しい背中にいつか追い付きたい、そして一緒に走りたい、、、
叶えるにはまだまだ程遠い話だけれど、今はこうして隣を歩いている
意味合いは違うけれど、それだけで胸はいっぱいになっていくのが分かるんだ
やっぱり、僕、巻島さんが好きなんだ…この思いは大それた事だって分かってる、
だからとても言えないけれど、思っているだけなら迷惑にはならないよね…。
「あのさ、坂道…」
「はっ、ハイ!」
急に話しかけられ、たまらず声がひっくり返った僕に巻島さんも言葉に詰まってしまったらしかった。
このビックリする癖をなんとかしないと駄目だよね…と内心思っていると、
少し歩くペースを落とした巻島さんは静かに話し始めた。
(小野田坂道)
今は多分、ロンドン時間ではお昼頃だとは思う。
確かじゃないのは僕の持っている携帯が日本の現在時刻を指している為
正確な時間が分からないのだ。
僕は誘われるままに返事をして、目的地も知らされないまま
巻島さんに連れられロンドンの街中を歩いていた。
今はどの辺なのかな、地下鉄やバスにも乗ったけれど
知らない土地では距離感も掴めないせいか随分遠くに来たようにも思える。
朝食中、冗談話を真に受けた僕に気を使わせちゃったみたいで
なんだか悪い事をしてしまったように思えて仕方が無いのだけれど、
巻島さんの話を僕は一つも漏らさず聞いていたかったんだ。
昨日の帰り道、巻島さんと残りの日程を一緒に過ごしたいって言った時には
当然のようにびっくりした顔をされてしまったけれど、無事に願いは叶えられた。
良いよ、と言葉での返事は無かった変わりに黙って引いてくれた手に
少しだけだけど距離が近づいた気がする…向かい合わせでの会話や道案内じゃなく、
日常の中での隣は自分が望んだはずなのに胸がドキドキして仕方無いんだ。
「イギリスって案外日本ぽいんですね、巻島さん」
「ん?…あぁ、そうだなーこの通りは特にそう思うかも知れないな」
建物を渡すように渡掛かる赤い提灯を見上げながら僕は呟いた。
数日前とは違い、風景を楽しむくらいの余裕が生まれていたこともあって
今もこうして視界に映る街並の広い範囲まで視線を伸ばして見渡しているところだ。
そこは意外にも外国という雰囲気の反面、日本でもお馴染みの大手デパートや
ファーストフートの看板、それに漢字表記の和風っぽい看板を掲げた店まである…
遠く離れた異国の地で漢字を目にするとは正直な話、全く予想していなかった。
「ここから少し行った先はチャイナタウンだ。
世界各国にもアジアタウンは多いがイギリスも例外じゃ無い。
日本食の店が結構多くなってるって聞くし、
文化的に考えれば外国人が一番住みやすい国だとも言われてるショ」
「へぇ~…イギリスの人達って取り入れ上手なんですね//」
路地の先を指さしながら説明する巻島さんに頷いて指し示す方向に視線を合せた。
言葉の通り、先に有るであろう飲食街がら美味しそうな匂いが風に乗って僕の鼻を擽り通り過ぎていく。
ほんの少し前に朝ごはんを食べたばかりだっていうのにお腹が空いてしまいそうだ。
「日本だって変わらないショ、流行り廃りは激しいケドな。
この国のビックリするところは新しいものを取り入れつつ
平然と昔の文化が生きていたりするところ…そこも面白いトコだ」
巻島さんは視線を伏せながら小さく笑んで、何故か嬉しそうに言った。
その言葉通りに、僕達が歩いてきた道沿いには幾つもの教会や
歴史を感じる建物がなんの違和感も無く存在する不思議さがある。
まるでファンタジー映画のワンシーンみたいだなぁ…//
今朝の会話でちょっと驚かされてけど、巻島さんが言っていた意味がなんとなく分かったような気がした。
「でも流石に日本風の建物はありませんね、あ、でもあったら逆にヘンか//;」
「いや、建てたくても建てられねぇーんだヨ。
イギリスは一日の間に四季があるってくらい天候が変わりやすい国だ、
晴れていたと思えば途端に雨が降ったり、今時期夏だってのに
涼しいを通り越して寒いくらいの風が吹いたりもするんだぜ、
純日本家屋建てようもんならカビが生えるショ…//」
「だからみんなレンガとかブロックなんですね…へぇ~…」
巻島さんは僕の疑問にズバリとした納得の答えを出してくれた。
ちょっと冗談のつもりでもあったけど、あながち的外れではなかったみたいだと
思っていると、目的地に着いたらしく足取りを止めてみせた。
「さ、やっと着いたショ」
巻島さんの言葉と共に僕の視界に飛び込んできたのは
見るからに立派で荘厳という言葉が合っているのかは分からなかったけど、
僕なりに例えるならば、ダークファンタジーテイストのRPGに登場する如何にも曰くありげな佇まいのお城。
ひと度足を踏み入れれば、そこは剣と魔法が支配する神聖な世界が広がっていそうだ。
きっと外壁にはステンドグラスとかもあったりして、石造りの回廊とか螺旋階段とか…!!
隅々まで探したら宝箱の一つでもありそうな気がする、
それってまるでゲームの世界に入り込んだみたいで雰囲気満点過ぎるよ~//!!
「ここスッゴイです巻島さん!!なんて言うお城なんですか//!!」
「城って…期待してるところ申し訳無いンだが、此処は俺の通う大学なんだワ…//;」
「だっ…大学!?」
すっかり興奮していた僕には意外すぎる衝撃的な答えだった。
これが学校だと言われてもちょっと信じられないですよ、
だって二次元世界の建物が今、目の前にあるんですから!
「残ってた課題提出を遠い散歩がてら届けに来たんショ。
敷地内は誰でも出入り自由、ちょっとした公園にもなってンの、行くぞ坂道」
未だ呆然とする僕の背中を軽く叩いて巻島さんは再び歩きだした。
慌てて置いて行かれないようにと後を追いかけて隣に並ぶと、
それを待っていてくれたように続きを話してくれた。
「俺ゲームとかはやらないし映画もあんまり観ねぇーけど
坂道の言うファンタジーってヤツがこのイギリスにはそこらじゅうに転がってるショ。
結構そういう映画の舞台にもなってるし、実際に市内の建物使って撮影してるみたいだな」
「僕、なんだか分かる気がします…//
今朝は幽霊とかオバケとかで少し怖かったですけど、
逆に考え直せばファンタジーの舞台になっているくらいだし
不思議な出来事があっても全くおかしくはないんですよね!」
「クハッ…今朝と大違いっショ、でも、まぁ…気に入ったか?」
「ハイ!勿論です//!!」
すっかりテンションの上がった僕は周りも気にせずに大きく返事をして
隣を歩く巻島さんに笑顔を向けると、言葉の変わりに口角を上げて一度頷いてまた視線を前へと戻した。
でも、ここは本当に大学なのかな…公園とかテーマパークだと言われても充分信じられる。
通路を示した石畳、緑も多い中に噴水や花壇もキレイに設備されていて
のんびりと散歩を楽しんだり、楽しそうにお喋りする学生さんぽい人達ともすれ違う。
此処で巻島さんは勉強しているんだ…
同じ学校にいた頃も三年生の教室には行ったことは無かった僕にとって
少しだけ垣間見せてくれた秘密事に触れているみたいでちょっと特別な気分がする。
用事ついでの散歩だっていってたけど、新しい世界を僕に見せてくれた事がたまらなく嬉しかった。
「すぐ済むから此処に居るショ」
やがて正面玄関らしき場所までやってきた時、
巻島さんは僕に待つように言うとブザーを鳴らして中に入っていった。
数分後、出てきた巻島さんは少し疲れた表情で扉を閉めながら
息を付くには大きい溜息を吐いてみせた。
「あの、大丈夫ですか、巻島さん…?」
「平気、ちぃーっとばっかしテンションに疲れただけだ…//;
歩いてりゃ直ぐに良くなる、行こうぜ坂道」
そういうと巻島さんは姿勢を伸ばして歩き出したので僕も後に続いて歩きだした。
先程と同じ風景を戻る中、辺には風の音と遠くで聴こえる鳥の鳴き声、
会話は無かったけれど、なんだかとても心地良い…
何か無理に話すより隣にいる巻島さんを見ていたい、そんな気分だった。
やっぱり、巻島さんてスゴイ人なんだ。
今はこうして隣を歩いているはずなのに、果てなく先を目指して進んでいる姿は
僕の憧れた、あのレースで誰よりも早くクライムする姿に重なって見えていた。
日本を離れて一人、目標に向かって一歩を進める姿はとってもカッコイイ。
『俺はいつでもお前と一緒に走ってるショ』
最後の峰が山クライムの時に巻島さんから貰った言葉が自然と頭に浮かんだ。
抜けと言われた遠く眩しい背中にいつか追い付きたい、そして一緒に走りたい、、、
叶えるにはまだまだ程遠い話だけれど、今はこうして隣を歩いている
意味合いは違うけれど、それだけで胸はいっぱいになっていくのが分かるんだ
やっぱり、僕、巻島さんが好きなんだ…この思いは大それた事だって分かってる、
だからとても言えないけれど、思っているだけなら迷惑にはならないよね…。
「あのさ、坂道…」
「はっ、ハイ!」
急に話しかけられ、たまらず声がひっくり返った僕に巻島さんも言葉に詰まってしまったらしかった。
このビックリする癖をなんとかしないと駄目だよね…と内心思っていると、
少し歩くペースを落とした巻島さんは静かに話し始めた。
スポンサードリンク
コメントフォーム