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5月12日 巻坂長編その2UP。
~誠実な企み~
(今泉俊輔)
梅雨明けも近いらしく、湿気を含んだ日中の気温は徐々に近づく夏の訪れを告げていた。
何をしていなくとも自然と汗が垂れてくるのは自転車に乗っている時とはわけが違い
汗を掻くにしても心地の良いものでは無かった。
あっちはどうなんだろうか…ふと数日前に国外へ旅立った同級生を思い浮かべながら
いつも通りの放課後、俺は部室のドアノブを回した。
「うーす…」
「おースカシやんけ、チョリーっす」
声を掛けて入室すると既にそこにはユニフォームに着替えた鳴子の姿があり
挨拶もそこそこに流して自分の用意を進めていると、珍しく相手から話しかけてきた。
「しっかし小野田くんが海外に行ってもう二日も経つんやなぁ~
今頃アニメにまみれてさぞ楽しんでる頃だと思うケド…ケケッ…//
それに付き合う巻島さんの顔見られんのは残念やで、ホンマ」
やけに嬉しそうな声と地面に擦れる音が重なって耳に聴こえる。
シューズの具合でも確かめているんだろうと、着替えを続行しながら俺も口を開いた。
「あぁ、そういえば金城さんのところに『無事に預かった』ってメールが来たらしい。
他にも色々書いてあったらしいが聞いてない。」
「オッサンのところにも電話来た言うとったわ。
声が怖かったっていうわりにオッサン笑ってたし大した事や無かったんやろな。」
そりゃーそうだろう、行けの一点張りで押し切ったんだからな。
自分から話を持ちかけておいて言うのもなんだが、巻島さんが思い通り動いてくれて良かった。
ガチャリとロッカーを締めて振り向くとベンチに座る鳴子も音に気が付き振り返ってみせた。
「しっかし、お前も随分大胆な事考えたモンやな、
expo入場券と往復の航空券以外をキャンセルさせんの大変だったんと違うか?」
「いや、坂道から要項預かって読んだんだがホテルは元々希望者だけだったし、
大体の移動もexpoチケットが兼用だから大した事はしてねぇーよ。
鳴子、お前の方こそ行こうか悩んでる小野田の背中ド付き倒してたじゃねーか;」
「何言うてんねん!!人間何事も勢いが大事なモンやぞ、ましてや友達の晴れ舞台や!
放り出すくらいの気持ちでやらんと後味悪くなってまうやろ!」
「それにしたって大雑把過ぎなんだよ…;」
これだから勢いダケの奴は…でも一理ある。
俺がいくら手配を回しても引っ込み思案の坂道にはこの位の勢い付けた加速が必要だっただろう。
ベンチ中央に座る鳴子に手で詰めろと合図して俺も腰掛けてシューズの具合を確認し始めた。
しっかし、あんな電話のやり取りを飲んでくれた巻島さんもお人好しだが
鳴子の強引な押し出しにも負けず劣らずの態度に出た先輩達にも感謝しなければならない。
手嶋さんと青八木さんは坂道とバッティングしないように場所を確保してもらい、
忙しい中で金城さんと田所さんはわざわざ出てきてくれたんだからな。
「まぁ、上手くいったのは先輩方の力添えもあってだけどな。
俺達だけじゃ坂道はきっと行くなんて言わなかっただろうさ、結果オーライだ。
強いて言うならどっかのアホが電話口で騒がしくした時にはヒヤっとさせられたぜ;」
「せやかてあのオッサンがはっきり場所伝えられへんのやもの、
異国の地に小野田君ひとりぼっちなんてジョーダンにもシャレにもならん!」
「お前…どれだけ坂道が心配なんだよ;」
「おーおーよう言いますねぇ~全部の元凶は紛れも無くお前やぞ?;」
鳴子の言いたい事も分かるさ、深くは聞かずに協力してくれた先輩達の思いもだ。
巻島さんが渡英してからの坂道を間近で見ていた俺達からすれば、
この掴んだチャンスをフルに活かす手は無いだろうと考えたのはごく自然な事だった。
傍から見ていれば互いの気持ちなんて裸同然だったんだからな…
坂道もだが巻島さんもアレで気が付かないとでも思っていたんだろうか。
見ていて焦れったいったらありゃしねーよ…//;
鳴子との間に流れる言わずとも伝わる合致した意見。
当人同士に任せとけば、こんな歯痒くて気を揉む事もない話だって言うのに
意外と自分はお節介野郎なんだと思わずにはいられなかった。
『おい今泉、鳴子、そろそろ練習に出るぞ、早く来い!!』
「「はい!!」」
外で呼ぶ手嶋さんの声が一石を投じ、鳴子と同時に発した声が重なって響いた。
呑気に喋っている時間は無かったはずが思いの他長居してしまったらしい。
互いに一瞬睨み合い、すかさず押し合い競るように俺は出口へと歩き出した。
あと数日後には坂道もイギリスから帰国してくる。
帰ってきた時の表情が少しでも晴れやかになっていれば
多少強引に踏み切ったこの計画も無駄では無かった、俺はそう思えれば良いさ。
(今泉俊輔)
梅雨明けも近いらしく、湿気を含んだ日中の気温は徐々に近づく夏の訪れを告げていた。
何をしていなくとも自然と汗が垂れてくるのは自転車に乗っている時とはわけが違い
汗を掻くにしても心地の良いものでは無かった。
あっちはどうなんだろうか…ふと数日前に国外へ旅立った同級生を思い浮かべながら
いつも通りの放課後、俺は部室のドアノブを回した。
「うーす…」
「おースカシやんけ、チョリーっす」
声を掛けて入室すると既にそこにはユニフォームに着替えた鳴子の姿があり
挨拶もそこそこに流して自分の用意を進めていると、珍しく相手から話しかけてきた。
「しっかし小野田くんが海外に行ってもう二日も経つんやなぁ~
今頃アニメにまみれてさぞ楽しんでる頃だと思うケド…ケケッ…//
それに付き合う巻島さんの顔見られんのは残念やで、ホンマ」
やけに嬉しそうな声と地面に擦れる音が重なって耳に聴こえる。
シューズの具合でも確かめているんだろうと、着替えを続行しながら俺も口を開いた。
「あぁ、そういえば金城さんのところに『無事に預かった』ってメールが来たらしい。
他にも色々書いてあったらしいが聞いてない。」
「オッサンのところにも電話来た言うとったわ。
声が怖かったっていうわりにオッサン笑ってたし大した事や無かったんやろな。」
そりゃーそうだろう、行けの一点張りで押し切ったんだからな。
自分から話を持ちかけておいて言うのもなんだが、巻島さんが思い通り動いてくれて良かった。
ガチャリとロッカーを締めて振り向くとベンチに座る鳴子も音に気が付き振り返ってみせた。
「しっかし、お前も随分大胆な事考えたモンやな、
expo入場券と往復の航空券以外をキャンセルさせんの大変だったんと違うか?」
「いや、坂道から要項預かって読んだんだがホテルは元々希望者だけだったし、
大体の移動もexpoチケットが兼用だから大した事はしてねぇーよ。
鳴子、お前の方こそ行こうか悩んでる小野田の背中ド付き倒してたじゃねーか;」
「何言うてんねん!!人間何事も勢いが大事なモンやぞ、ましてや友達の晴れ舞台や!
放り出すくらいの気持ちでやらんと後味悪くなってまうやろ!」
「それにしたって大雑把過ぎなんだよ…;」
これだから勢いダケの奴は…でも一理ある。
俺がいくら手配を回しても引っ込み思案の坂道にはこの位の勢い付けた加速が必要だっただろう。
ベンチ中央に座る鳴子に手で詰めろと合図して俺も腰掛けてシューズの具合を確認し始めた。
しっかし、あんな電話のやり取りを飲んでくれた巻島さんもお人好しだが
鳴子の強引な押し出しにも負けず劣らずの態度に出た先輩達にも感謝しなければならない。
手嶋さんと青八木さんは坂道とバッティングしないように場所を確保してもらい、
忙しい中で金城さんと田所さんはわざわざ出てきてくれたんだからな。
「まぁ、上手くいったのは先輩方の力添えもあってだけどな。
俺達だけじゃ坂道はきっと行くなんて言わなかっただろうさ、結果オーライだ。
強いて言うならどっかのアホが電話口で騒がしくした時にはヒヤっとさせられたぜ;」
「せやかてあのオッサンがはっきり場所伝えられへんのやもの、
異国の地に小野田君ひとりぼっちなんてジョーダンにもシャレにもならん!」
「お前…どれだけ坂道が心配なんだよ;」
「おーおーよう言いますねぇ~全部の元凶は紛れも無くお前やぞ?;」
鳴子の言いたい事も分かるさ、深くは聞かずに協力してくれた先輩達の思いもだ。
巻島さんが渡英してからの坂道を間近で見ていた俺達からすれば、
この掴んだチャンスをフルに活かす手は無いだろうと考えたのはごく自然な事だった。
傍から見ていれば互いの気持ちなんて裸同然だったんだからな…
坂道もだが巻島さんもアレで気が付かないとでも思っていたんだろうか。
見ていて焦れったいったらありゃしねーよ…//;
鳴子との間に流れる言わずとも伝わる合致した意見。
当人同士に任せとけば、こんな歯痒くて気を揉む事もない話だって言うのに
意外と自分はお節介野郎なんだと思わずにはいられなかった。
『おい今泉、鳴子、そろそろ練習に出るぞ、早く来い!!』
「「はい!!」」
外で呼ぶ手嶋さんの声が一石を投じ、鳴子と同時に発した声が重なって響いた。
呑気に喋っている時間は無かったはずが思いの他長居してしまったらしい。
互いに一瞬睨み合い、すかさず押し合い競るように俺は出口へと歩き出した。
あと数日後には坂道もイギリスから帰国してくる。
帰ってきた時の表情が少しでも晴れやかになっていれば
多少強引に踏み切ったこの計画も無駄では無かった、俺はそう思えれば良いさ。
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