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5月12日 巻坂長編その2UP。
~穏やかな夜を過ごして~
(巻島裕介)
日もすっかり沈んだ午後8時、夜空の雲間から時折星も覗いてみせる。
隣接するアパートの各階の灯りが窓外に溢れる風景は穏やかでイイもんだ。
でも自分達のいる部屋も他からすれば変わらずに映っていることだろうさ。
「そうか…なぁ~る程なぁ…」
今晩の夕食は帰り道のレストランでテイクアウトしてきた軽食で済ますことにした。
ヌードルカップ、いやランチカップって言うのか?
四角い紙製の箱に納められたサラダや肉料理、あと良く分からない炒め物を適当に広げると
まぁーなんとかそれっぽく見えるもので、味も可も無く不可も無くといったところ。
向かいの席に座る坂道はといえば目の前の食事よりも話すことの方が忙しいらしく、
次々に話題を上げては会話が途切れないようにと口を動かし続けている。
こんなに話せる奴だったのかと思いながら耳を傾け視線を合わせつつ
俺は相槌と共にマグカップへ口をつけてコーヒーを一口飲んだ。
「本当、抽選券を引き当てた時はどうしよう…っというか、
どうしたらわからなかった僕に今泉君が任せて欲しいと言ってくれた時は助かりました。
パスポートの取り方とか、飛行機の乗り方とかも僕、全然わからなかったので…//;」
困ったような笑顔を浮かべつつ、坂道はグラスに注がれたミネラルウォーターへ手を伸ばした。
さっきから結構しゃべりっぱなしだったし、喉も乾いただろう。
夕方、スーパーからの帰り道では掻い摘んでの経緯は聞くことが出来たが、
順を追っての説目に、漸く事の全体を理解も含めて把握することが出来た。
多分、アイツらは俺をビックリさせたくて所々を伏せていたんだろうが
今思い返してもあの電話は無かったショ…と、内心苦笑いを浮かべた。
「今泉は他になんか言ってたか、フランス着いてからとか、外貨両替の仕方とか…」
「あ、それは現地の知人に頼んであるから任せていいって言ってました。
でも、ビックリしましたよ…空港に着いたら出口ゲートで巻島さんが待ってたんですから//」
パァァア…と、効果音が聞こえてきそうな明るい笑顔を見せる坂道。
言い出しっぺは今泉か、帰国したら一回シメるっショ…
旅行券を引き当てたのは坂道自身だが、金城、田所っちまで使って
俺のところにレールを合わせてくるなんざぁ出来る男だ。
と、同時にまるで全部がヤツの手の上だと思うと些か腹が立った。
「俺だってビックリっショ、田所っちから電話貰って
空港に行ったらお前がゲートから出てくんだからよぉ…//;」
「あの時、僕と巻島さんだけゲートで暫く呆然としてて係員さんに注意されましたね//;」
どちらにせよ、やつらの計画は見事成功、結果は今こうして俺の目の前に坂道がいる。
クハッ…可愛い子には旅をさせろとは言うが、それこそ冒険させすぎっショ、
何かあったらとか考えなかったのかねぇー…
「そうそう、ガチで睨んでたショ…//;」
しっかし今泉の協力があったとはいえ、それはあくまで助力に過ぎないわけだ…
行くと最終決断をしたのは坂道自身、色々準備も大変だったろうにと思う反面
俺が日本を離れて暫く…コイツはひと回りもふた回りもデカく成長したんだな、と喜びを感じずにはいられなかった。
残り半分となったマグカップの中身に視線を落としてそんな事を思っていると、
坂道の声が急に静かになったのに気が付き顔を上げた。
何か言いたげに口を篭らせていたがスッと顔を上げ、俺との視線を合せてみせた。
「あ、あの、お久しぶりです、巻島さん…//」
「えぇ…?急に改まってどうしたショ、坂道」
「いえ、ちゃんと挨拶してなかったなって思って…。
あ、あの、僕、今回の旅で巻島さんに会えるなんて思ってなかったので
なんていうか、びっくりもしたって沢山言ったんですけど、それ以上に嬉しくて…」
とても懐かしい感じがする…そう、俺とお前がまだ初対面の時みたいだ。
急にかしこまってしまった坂道を目の前にし、ふと、あの部活最後の日が思い出された。
インターハイ後、予てから予定していたイギリス留学の話が部活連中に伝わった時は
大騒ぎになったらしく、悪いなと思いつつ、こういう伝え方しか俺には出来ないと考えていた。
手嶋、青八木にはタイミングの流れ上、先に伝えておいたが他の奴らには直前の報告になっちまったんだ。
坂道に峰が山へのラストクライムを一度は断られたが、虫の知らせのように感じたのか
やっぱり行っていいか?と声を掛けられた時には鳥肌が立った。
やっぱ、コイツには敵わない。
なんでいつもそんなに俺の心を高鳴らせるんだ、
鈍いようで鋭くて、誰よりも前を向いて進む素直なヤツ…
ここまでくると男とか年下とか、もはや問題外の話ショ。
坂道を知れば知るほど、俺は魅せられて
その意味を考えるまでも無く、気が付けばその全てが好きになっていた。
俺は坂道に紛れもない恋をしていたのだ。
『自転車は楽しいか、坂道!』
『はいっ!!』
そうさぁ、俺が見たかったのは生き生きと誰よりも楽しげに坂を登る姿。
伝えなければいけない『さよなら』の悲しそうな顔で別れたくは無かったっていう俺のワガママ。
お前の笑顔が見られれば、俺は心置きなくイギリスに旅立つことが出来る、何も心配いらない。
いつか、まだまだ先になるだろうが坂道に俺の本心を伝えられる時まで俺は俺の道を走れるショ。
「クハッ…オイオイ、今更かよ…確かにちゃんと挨拶はしてなかったケドもさ…//;」
「アハハッ…やっぱり、ヘン、でしたよね…//;」
こそばゆい感覚に耐えられず、笑いが込み上げる。
そういう変わってないところを見ると、心底安心するわ…と
俺は身体を席から起こし、手を伸ばして坂道の頭へと置いた。
「イイんじゃねーの、そういうお前らしさってヤツ。
久しぶりショ、坂道、俺もお前に会えるなんてコレっぽっちも思って無かったヨ」
「ぼ、僕もです!」
「ソレ、さっきも聞いたショ…//」
ポンポンと頭を二、三度撫でた手には坂道の感覚。
照れたような、嬉しそうな笑顔にたまらず脈が早くなっていくのが分かる。
柔らかい髪質に小さな額、心地の良い坂道の感覚はクセになりそうだが
これ以上は歯止めが効かなくなるだろうと名残惜しさを隠しつつ手を引き、変わりに携帯を掴んだ。
「それで、お前が来たっていうフランスの祭り…だっけか、場所と時間はどーなってんの?」
「あ、そうだった!えぇーっと…コレです!」
俺の質問に、坂道も本来の目的を思い出したらしく
片隅に寄せられた荷物へと駆け寄って要項を手に取ると俺へと差し出してきた。
ややよれた白封筒から適当に資料を引っ張りだして目を通し、場所と時間を確認すると
シャルルドゴール空港の目と鼻であることが分かった。
「上手くいけば3時間くらいで到着する計算だ、列車のチケットは持ってるんだよな?」
「ハイ、expoのチケットがフリーパスになってるって今泉君が言ってました。」
そう言って坂道が俺に翳して見せたのは開催期間中有効の会場入場券、兼、列車フリーパス。
相当デカい祭りなんだろうな、主催やスポンサーがしっかりしてなきゃ此処まで出来るもんじゃない。
さて、そこで問題が一つある、多分、送り出したアイツらも俺が最初から坂道を一人で行かせるなんては思っていないだろう。
「今から予約取れっかなぁー…」
「ええっ!!あ、あの巻島さん!?」
急にすっ飛んだ声を上げた坂道にビックリし、思わず携帯を落としそうになった。
その顔は俺を空港で見つけた時より驚いているようにも見えたが、
なおいっそうに表情が明るくなっていくのが分かった。
「いいいイイんですかっ!!一緒に行ってくれるんですかっ…//!!」
「最初っからそのつもりだったショ…てか大体さ、
初めての海外で一人歩きさせるほど俺は薄情なヤツに見えるのか…っ;」
「いえいえいえいえっ!!そうじゃ無くて、僕、巻島さんと行きたいって思ってたから
なんて言ってお誘いしようかと考えてたので…その、嬉しいです!とっても…!!」
そう坂道は興奮気味に思いを早口で捲し立てると、
また急いで自分の荷物へと駆け寄り何かを探しているらしかった。
あぁ…そういう事か、なんかちょっと安心した…//;
薄情なヤツとは思われていないと分かり、俺はまた携帯へと意識を戻す。
先程から指先は忙しく仕事をしているが中々目当ての項目は見つからない…
すると視界に何か白いものが差し出されたのが見えた。
「あの、忘れてたんですけど、これ今泉君が巻島さんに渡してくれって預かってきました!」
「今泉から?」
差し出してきたのは他でもない坂道で、差出人は今泉からだという。
携帯を閉じてそいつを受け取り、口を破いて中を確認すると
メッセージカードの添えられたチケットが入っていた。
【餞別です】
たった四文字のメッセージだが、何を言わんとしているかは充分に理解出来た。
その答えはチケットにも記されており、正に俺が探していた列車の予約乗車券、
先程の踊らされている腹立たしさも相手には知れているらしい、または誰かの入れ知恵かもな。
俺はチケットをまた封筒に戻すとマグカップに残っていたコーヒーを飲み干した。
「坂道、明日は早いぞ。
時差ボケはなさそうだが早めに寝とけよ、寝坊したらシャレにならないショ」
「はいっ、でも楽しみ過ぎてとっても眠れないかもしれ…あああーーーーっ…;;!!」
先程の明るい表情から一転、急に青ざめた顔で坂道は悲鳴のような声を上げた。
慌てて自分の携帯を取り出す手はやや震えている。
「どうした;?」
「母さんに連絡するのすっかり忘れててっ…;!!」
そう言って電話をかけようとする坂道に待ったをかける。
しっかり時差ボケは出ていたと苦笑いしながら日本は明け方だと説明し
メールにするように伝えると、まだ不安は残っているようだが理解はしてくれたようだ。
「あと二時間もすればあっち(日本)は朝だし、明日の準備がてら待てばいい」
「そう、ですね…一応メールもしたし、怒られるの半分で済むかなぁ…;;」
「そん時は俺も説明するから大丈夫だって…、あと番号とアドレス教えろ。」
「え、母さんのですか?」
「違う違う違う、お前の!!」
「あわわっ、ス、スミマセン;;!!」
どこまでボケてるんだとツッコミつつも、俺は坂道のアドレスを手に入れた。
こんなに賑やかな時間は久しぶり、こんなに穏やかな気持ちになったのも久しぶりだ。
こうして坂道との再会を喜んだ一日目の夜は更けていこうとしている。
あ、そう言えば明日行くJapan・expo…だったか、?
日本の何かってことは想像つくが具体的にどういうモンなんだろうか…。
まぁ、明日行けば判るだろう…と、俺達は食べ終えた食事の後片付けを始めることにした。
(巻島裕介)
日もすっかり沈んだ午後8時、夜空の雲間から時折星も覗いてみせる。
隣接するアパートの各階の灯りが窓外に溢れる風景は穏やかでイイもんだ。
でも自分達のいる部屋も他からすれば変わらずに映っていることだろうさ。
「そうか…なぁ~る程なぁ…」
今晩の夕食は帰り道のレストランでテイクアウトしてきた軽食で済ますことにした。
ヌードルカップ、いやランチカップって言うのか?
四角い紙製の箱に納められたサラダや肉料理、あと良く分からない炒め物を適当に広げると
まぁーなんとかそれっぽく見えるもので、味も可も無く不可も無くといったところ。
向かいの席に座る坂道はといえば目の前の食事よりも話すことの方が忙しいらしく、
次々に話題を上げては会話が途切れないようにと口を動かし続けている。
こんなに話せる奴だったのかと思いながら耳を傾け視線を合わせつつ
俺は相槌と共にマグカップへ口をつけてコーヒーを一口飲んだ。
「本当、抽選券を引き当てた時はどうしよう…っというか、
どうしたらわからなかった僕に今泉君が任せて欲しいと言ってくれた時は助かりました。
パスポートの取り方とか、飛行機の乗り方とかも僕、全然わからなかったので…//;」
困ったような笑顔を浮かべつつ、坂道はグラスに注がれたミネラルウォーターへ手を伸ばした。
さっきから結構しゃべりっぱなしだったし、喉も乾いただろう。
夕方、スーパーからの帰り道では掻い摘んでの経緯は聞くことが出来たが、
順を追っての説目に、漸く事の全体を理解も含めて把握することが出来た。
多分、アイツらは俺をビックリさせたくて所々を伏せていたんだろうが
今思い返してもあの電話は無かったショ…と、内心苦笑いを浮かべた。
「今泉は他になんか言ってたか、フランス着いてからとか、外貨両替の仕方とか…」
「あ、それは現地の知人に頼んであるから任せていいって言ってました。
でも、ビックリしましたよ…空港に着いたら出口ゲートで巻島さんが待ってたんですから//」
パァァア…と、効果音が聞こえてきそうな明るい笑顔を見せる坂道。
言い出しっぺは今泉か、帰国したら一回シメるっショ…
旅行券を引き当てたのは坂道自身だが、金城、田所っちまで使って
俺のところにレールを合わせてくるなんざぁ出来る男だ。
と、同時にまるで全部がヤツの手の上だと思うと些か腹が立った。
「俺だってビックリっショ、田所っちから電話貰って
空港に行ったらお前がゲートから出てくんだからよぉ…//;」
「あの時、僕と巻島さんだけゲートで暫く呆然としてて係員さんに注意されましたね//;」
どちらにせよ、やつらの計画は見事成功、結果は今こうして俺の目の前に坂道がいる。
クハッ…可愛い子には旅をさせろとは言うが、それこそ冒険させすぎっショ、
何かあったらとか考えなかったのかねぇー…
「そうそう、ガチで睨んでたショ…//;」
しっかし今泉の協力があったとはいえ、それはあくまで助力に過ぎないわけだ…
行くと最終決断をしたのは坂道自身、色々準備も大変だったろうにと思う反面
俺が日本を離れて暫く…コイツはひと回りもふた回りもデカく成長したんだな、と喜びを感じずにはいられなかった。
残り半分となったマグカップの中身に視線を落としてそんな事を思っていると、
坂道の声が急に静かになったのに気が付き顔を上げた。
何か言いたげに口を篭らせていたがスッと顔を上げ、俺との視線を合せてみせた。
「あ、あの、お久しぶりです、巻島さん…//」
「えぇ…?急に改まってどうしたショ、坂道」
「いえ、ちゃんと挨拶してなかったなって思って…。
あ、あの、僕、今回の旅で巻島さんに会えるなんて思ってなかったので
なんていうか、びっくりもしたって沢山言ったんですけど、それ以上に嬉しくて…」
とても懐かしい感じがする…そう、俺とお前がまだ初対面の時みたいだ。
急にかしこまってしまった坂道を目の前にし、ふと、あの部活最後の日が思い出された。
インターハイ後、予てから予定していたイギリス留学の話が部活連中に伝わった時は
大騒ぎになったらしく、悪いなと思いつつ、こういう伝え方しか俺には出来ないと考えていた。
手嶋、青八木にはタイミングの流れ上、先に伝えておいたが他の奴らには直前の報告になっちまったんだ。
坂道に峰が山へのラストクライムを一度は断られたが、虫の知らせのように感じたのか
やっぱり行っていいか?と声を掛けられた時には鳥肌が立った。
やっぱ、コイツには敵わない。
なんでいつもそんなに俺の心を高鳴らせるんだ、
鈍いようで鋭くて、誰よりも前を向いて進む素直なヤツ…
ここまでくると男とか年下とか、もはや問題外の話ショ。
坂道を知れば知るほど、俺は魅せられて
その意味を考えるまでも無く、気が付けばその全てが好きになっていた。
俺は坂道に紛れもない恋をしていたのだ。
『自転車は楽しいか、坂道!』
『はいっ!!』
そうさぁ、俺が見たかったのは生き生きと誰よりも楽しげに坂を登る姿。
伝えなければいけない『さよなら』の悲しそうな顔で別れたくは無かったっていう俺のワガママ。
お前の笑顔が見られれば、俺は心置きなくイギリスに旅立つことが出来る、何も心配いらない。
いつか、まだまだ先になるだろうが坂道に俺の本心を伝えられる時まで俺は俺の道を走れるショ。
「クハッ…オイオイ、今更かよ…確かにちゃんと挨拶はしてなかったケドもさ…//;」
「アハハッ…やっぱり、ヘン、でしたよね…//;」
こそばゆい感覚に耐えられず、笑いが込み上げる。
そういう変わってないところを見ると、心底安心するわ…と
俺は身体を席から起こし、手を伸ばして坂道の頭へと置いた。
「イイんじゃねーの、そういうお前らしさってヤツ。
久しぶりショ、坂道、俺もお前に会えるなんてコレっぽっちも思って無かったヨ」
「ぼ、僕もです!」
「ソレ、さっきも聞いたショ…//」
ポンポンと頭を二、三度撫でた手には坂道の感覚。
照れたような、嬉しそうな笑顔にたまらず脈が早くなっていくのが分かる。
柔らかい髪質に小さな額、心地の良い坂道の感覚はクセになりそうだが
これ以上は歯止めが効かなくなるだろうと名残惜しさを隠しつつ手を引き、変わりに携帯を掴んだ。
「それで、お前が来たっていうフランスの祭り…だっけか、場所と時間はどーなってんの?」
「あ、そうだった!えぇーっと…コレです!」
俺の質問に、坂道も本来の目的を思い出したらしく
片隅に寄せられた荷物へと駆け寄って要項を手に取ると俺へと差し出してきた。
ややよれた白封筒から適当に資料を引っ張りだして目を通し、場所と時間を確認すると
シャルルドゴール空港の目と鼻であることが分かった。
「上手くいけば3時間くらいで到着する計算だ、列車のチケットは持ってるんだよな?」
「ハイ、expoのチケットがフリーパスになってるって今泉君が言ってました。」
そう言って坂道が俺に翳して見せたのは開催期間中有効の会場入場券、兼、列車フリーパス。
相当デカい祭りなんだろうな、主催やスポンサーがしっかりしてなきゃ此処まで出来るもんじゃない。
さて、そこで問題が一つある、多分、送り出したアイツらも俺が最初から坂道を一人で行かせるなんては思っていないだろう。
「今から予約取れっかなぁー…」
「ええっ!!あ、あの巻島さん!?」
急にすっ飛んだ声を上げた坂道にビックリし、思わず携帯を落としそうになった。
その顔は俺を空港で見つけた時より驚いているようにも見えたが、
なおいっそうに表情が明るくなっていくのが分かった。
「いいいイイんですかっ!!一緒に行ってくれるんですかっ…//!!」
「最初っからそのつもりだったショ…てか大体さ、
初めての海外で一人歩きさせるほど俺は薄情なヤツに見えるのか…っ;」
「いえいえいえいえっ!!そうじゃ無くて、僕、巻島さんと行きたいって思ってたから
なんて言ってお誘いしようかと考えてたので…その、嬉しいです!とっても…!!」
そう坂道は興奮気味に思いを早口で捲し立てると、
また急いで自分の荷物へと駆け寄り何かを探しているらしかった。
あぁ…そういう事か、なんかちょっと安心した…//;
薄情なヤツとは思われていないと分かり、俺はまた携帯へと意識を戻す。
先程から指先は忙しく仕事をしているが中々目当ての項目は見つからない…
すると視界に何か白いものが差し出されたのが見えた。
「あの、忘れてたんですけど、これ今泉君が巻島さんに渡してくれって預かってきました!」
「今泉から?」
差し出してきたのは他でもない坂道で、差出人は今泉からだという。
携帯を閉じてそいつを受け取り、口を破いて中を確認すると
メッセージカードの添えられたチケットが入っていた。
【餞別です】
たった四文字のメッセージだが、何を言わんとしているかは充分に理解出来た。
その答えはチケットにも記されており、正に俺が探していた列車の予約乗車券、
先程の踊らされている腹立たしさも相手には知れているらしい、または誰かの入れ知恵かもな。
俺はチケットをまた封筒に戻すとマグカップに残っていたコーヒーを飲み干した。
「坂道、明日は早いぞ。
時差ボケはなさそうだが早めに寝とけよ、寝坊したらシャレにならないショ」
「はいっ、でも楽しみ過ぎてとっても眠れないかもしれ…あああーーーーっ…;;!!」
先程の明るい表情から一転、急に青ざめた顔で坂道は悲鳴のような声を上げた。
慌てて自分の携帯を取り出す手はやや震えている。
「どうした;?」
「母さんに連絡するのすっかり忘れててっ…;!!」
そう言って電話をかけようとする坂道に待ったをかける。
しっかり時差ボケは出ていたと苦笑いしながら日本は明け方だと説明し
メールにするように伝えると、まだ不安は残っているようだが理解はしてくれたようだ。
「あと二時間もすればあっち(日本)は朝だし、明日の準備がてら待てばいい」
「そう、ですね…一応メールもしたし、怒られるの半分で済むかなぁ…;;」
「そん時は俺も説明するから大丈夫だって…、あと番号とアドレス教えろ。」
「え、母さんのですか?」
「違う違う違う、お前の!!」
「あわわっ、ス、スミマセン;;!!」
どこまでボケてるんだとツッコミつつも、俺は坂道のアドレスを手に入れた。
こんなに賑やかな時間は久しぶり、こんなに穏やかな気持ちになったのも久しぶりだ。
こうして坂道との再会を喜んだ一日目の夜は更けていこうとしている。
あ、そう言えば明日行くJapan・expo…だったか、?
日本の何かってことは想像つくが具体的にどういうモンなんだろうか…。
まぁ、明日行けば判るだろう…と、俺達は食べ終えた食事の後片付けを始めることにした。
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