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5月12日 巻坂長編その2UP。
(巻島裕介)

………

朝が来てしまった、来なけりゃ全然、それで構わなかったのに…。
ベッドールームの窓辺からはしっかりと閉めたハズでも漏れる陽の光、
見たくも無い時計は昨日の晩に全部ひっくり返しておいた。
それだけ、この時間てものが煩わしいくて、流れていく様が俺には恨めしかった。

でも大体…感覚的にはまだ大丈夫だろう。
野外の音も午前10時にやってくるフロアーの清掃音も聞こえない、
どうせならばこのまま時間が止まってくれはしないだろうか…いいや、無理だな//;
見慣れた天井の照明に届くんじゃないかってくらい、俺は深い溜息を吐き出した。
後頭部で組んだ腕を崩して寝返ると、隣では静かに眠る坂道の姿。
…漸く、ちゃんとマトモに見れたショ、こんな可愛い寝顔してたのか。

そっと身体を寄せて、包むように肩を抱き寄せてみせると
小さく身じろいだ後、閉じていた瞳をゆっくりと開いてみせ、二、三度の瞬きを繰り返した。


「ぁ……おはよう…ございます…巻島さん…//」

「ん…あぁ…おはようさん」


腕の中で朝の挨拶を済ますと、そのまま坂道は俺の胸へとおさまった。
俺のより高い体温、昨日洗ったシャンプーの香りが鼻先に香りを漂わせる。


「もう、朝なんですね…昨日いつ寝たのか、全然覚えて無くて…」

坂道の篭った声が、素肌の胸を擽り伝って聞こえてくる。
くすぐったい感覚を紛らわせるように、いっそう身体を引き寄せた俺は
そうか、と頷きで答えた。


「本当にあっという間の日々でした…//
毎日が楽しくて、色々な場所に行けて、沢山巻島さんと話して…楽しかったです。」

「俺も…坂道のおかげで、また暫くは頑張れそうショ」


坂道の楽しかったに俺は笑顔で答えを返した。
あの日置いてきた忘れ形見を受け取って、こうして今、
自分の身体にはめ込んだ心は足りなかった大切なものを認識してずっしりと確かな質量をみせている。
それはとても心地のよい重さ…これが守る責任ってヤツなのかもしれない。
すると、自分の胸に坂道の肌とは別の温い感覚が現れた。


「泣いてンのか…」


一言だけ呟いて、坂道の頭を抱え寄せると二度目の温い感覚…溜息だ。
見上げてみせた表情は今にも泣く事を必死に我慢して笑う坂道の笑顔だった。


「ダメですね…今日は笑顔で見送って貰おうって思ってたのに…
どうしても、また離れちゃうんだと思ったら寂しくて、寂しくてっ…
…涙、出そうになって止まらないんです…ゴメンナサイ…」


仕方の無い話だ、この状況も変えようのない現実も。
やっと互いの気持ちが通じ合えたところで、無情にも別れって奴はやってくるんだ。
坂道にとって酷意外の何ものでもないと胸の奥が鈍く痛むッショ…。
詰まりそうになる心を溜息にして吐き出すと、たまらず坂道の泣いてる顔ごと強く抱きしめて叫ぶように答えた。


「んな顔されたら帰したく無くなるっショ…//;;
お前ホント、俺のコトどうしたいワケ…好き過ぎて頭おかしくなるわ…。
いっそコッチに住んじまえよ、坂道」

「…そうしたい…ですけど、それは出来ません…//;」


わかりきっていた、その答えは正しい。
坂道も俺も紛れもない本音は本音だ、でも相手を困らせたい訳じゃない。
身体を離し、数センチだけ空けた空間に、また視線を合わせて俺は口を開いた。


「今年の冬、必ず日本に帰る…そしたら二人でどっか旅行に行くってのはどうだ、坂道」

「それ、良いですね…!!巻島さん温泉好きだし、近場で箱根とかいいと思います。」


一瞬、騒がしいヤツの顔も覗き見えたが知れた場所なら案内など頼んでみるのもいいかもしれない。
何より明確に、先に楽しみがあればソイツを糧に日々を送っていけるだろう。
楽しかろうと苦しかろうと一歩ずつ前に進めば、それだけ喜びに近づけるモンだ。


「決まりショ、俺も楽しみが増えたからお前も部活頑張れよ、坂道」

「ハイっ…!あ…そうだ、この旅行帰ったらバンバンメニューこなしてもらうって
言われてたのすっかり忘れてました…どう…なるんだろ//;」

「いいンじゃんそれで…何かに打ち込んでれば時間なんざあっと言う間だ。
先に向かって走り続けろ、俺もお前と一緒に走ってるショ」

「ハイッ…!!」


こうして互いの温もりを惜しむように、優しく抱きしめ合って
何度目かの慣れないキスを交わしてベッドから現実へと一歩、足を降ろした。

坂道は最高の笑顔を見せてくれたおかげで俺は比較的穏やかな気持ちで送り出すことが出来た。
帰りはイギリスから旅立つ坂道を空港のガラス越しのロビーから見送った俺は
坂道の乗った飛行機をカタチが見えなくなるまで追いかける。

その空は恋人と満喫したあのロンドンの日と同じように澄んで青く晴れ渡っていて…
次は日本で、その時はまた最高の笑顔を俺に見せてくれると未来を描きながら…。


【END】
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