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5月12日 巻坂長編その2UP。
~ opening とある路地より ~
この国では珍しい青空の下に広がる見慣れない風景。
全てが目新しくて新鮮、でもちょっと落ち着かない。
耳に聞こえてくる話し声は何て言っているのか僕にはさっぱりだし
みんな僕より、それは当たり前か、女性の方でも身長が高くて迫力もある。
「キョロキョロすんな…前見て歩け」
「あ、あハイ、スミマセン…//;」
隣で僕の手を繋いでくれている細くて白い手の感覚に
緊張からかだんだんと俯きがちだった顔を上げると
そうそう、と久しぶりでも見慣れた笑顔を見せてくれた。
僕、小野田坂道は今、イギリスはロンドンに来ています。
それには嘘みたいな幸運と、これは後になって知ったんだけど
今泉君、鳴子君、田所さんに金城さん、手嶋さんに青八木さん
自転車競技部の皆さんが影で色々計画してくれたらしく
おかげでこうして実現することが出来たのだ。
「そろそろ着くっショ、荷物しっかり持ってるか?」
「ハイ、大丈夫です、半分は巻島さんが持ってくれてますし…//」
ありがとうございますの意味も込めて笑顔で僕が言うと
巻島さんは指で頬を掻きながら、何か言いたげな表情をみせた。
そうだよ、僕だって未だに信じられていない部分があるんだから。
そもそも、当初の予定では僕はイギリスに来る予定は無かったんだ。
やがで見えてきた赤レンガ作りのクラシックな作りのアパートの前で足は止まり
僕は肩にかけた荷物を持ち直し、巻島さんに連れられるまま中へと足を進めた。
レンガ作りの五階建て、ロビーにはエレベーターもあったけれどそれには乗らず
鉄製の階段を音を立てながら上り続けて暫く、一番上の五階までやってくると
巻島さんはポケットから鍵を取り出し、どれが合うかと探している様子をみせた。
いよいよヘンに緊張してきた…どうしよう、いや、
今更どうしようもできないんだけど;
肩にかけたショルダーベルトをぎゅっと握りながら
落ち着かない気持ちを紛らわせようとしていると、耳にカチャリと鍵が外れる音が聞こえた。
「やーっと開いたショ…ったく、なんでこんなに鍵が有るんだか…;」
ジャラジャラと鍵を鳴らしながらポケットに戻した巻島さんは
ドアノブに手を掛けてゆっくりと押し開けると、キィー…と軽い音が響き
開かれた部屋は窓辺から漏れる優しい陽射しに照らされて白く明るく。
巻島さん同様に、僕を歓迎してるれているように思えた。
「遠路遥々イギリスによく来たショ、坂道。
今日から数日間、ここが俺とお前の部屋だ」
緊張と幸せに高鳴る胸に手が少し震える中で部屋への一歩を踏み出す。
これは幸運のチケットを手に入れた僕の短い夏の数日間の出来事である。
~episode 1へ続く ~
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