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5月12日 巻坂長編その2UP。
(巻島裕介)
据膳喰わぬはって言葉があるが、俺は努力したッショ精一杯。
初日からの試行錯誤して手ェ出さ無ぇように立ち回って…なんやかんやで今現在。
さっきまでの決意はどこ行った?と問い掛けるカケラになった理性に知らないショ、と溜息を投げつけた。
「ま…あのっ…まき…しまさ…ん//;」
「お前さ…無自覚にも程度ってモンがあるっショ…//;」
「えっ…;」
何となくも状況を把握しつつある坂道だが、今のこの状況を未だに半信半疑って感じだった。
真下では困惑した大きな瞳が迷いながらも視線を外そうとしないので、
呆れまじりの溜息と苦笑いを浮かべながら俺は口を開いた。
「ベッドの上で好きな奴からの不意打ち食らったらこうなるって流れ…読めなかったのか?」
「いえ、だって…何かしなきゃって思ったので…//;」
恋人同士になった間柄で必要以上の敬語や遠慮はイラナイって意味だったんだ。
だが思わぬ行動に安全装置が解除され、引き金に指を掛けさせたのは他ならぬ坂道自身、
本人はもしかしてやってしまったかも…と視線を合わせたまま、俺は苦笑いを浮かべていた。
「俺だっていつまでもヒツジの顔じゃいられないショ、
本当ならもっと時間を掛けてとか思ってたが今のままじゃ到底抑えられそうにねぇーんだけど」
「…っ、……//;」
意味を身をもって理解した坂道は小さい悲鳴をつまらせながらも
何かを言おうとして口を動かすが、緊張で上手く言葉がならないらしい。
当然か、和やかな談話から一転、押し倒されたんだからな。
「巻島さんは…」
「ん…?」
目を見ては言いにくいのか、視線を下げながら
言葉を詰まらせながら俺とに開いた数センチの空間に言葉を浮かべた。
「その…僕とセ…っ…セッ…」
「したいショ、フツーにしたい、坂道とセックス」
言おうとした言葉を汲み取って解釈し、俺が変わりに答えると
途端に顔面が真っ赤に染まっていく、何されるか頭では分かってるってのに
この初々しさ…張り詰めた空気が緩み、堪えきれずに笑っちまった。
「クハッ…でも、坂道が嫌なら今はしないショ」
先程の張り詰めた緊張感から一転し笑顔になった俺を見て
坂道の言葉がまた止まり、含んだ俺の笑い声の中で視線が重なってみせる。
一見すればファーストキスの時と同じように俺の髪がカーテンみたいに垂れ下がって
空間を遮ってくれてるってのにエラい違いだな。
「こうやって、今日からやっと始まったばっかりだってのに、
早々に起承転結で全部を一気に詰めて進んじまうは勿体無いだろ…?」
「は、はい…」
巫山戯ているわけじゃない、いたって真剣に問い掛けると
おっかなびっくりしながらも頷いて坂道は答えてくれた。
言いたいことは伝わってくれていると安心した俺は寄せた顔を離した。
「怖い思いさせて悪かった、坂道からのキスが強烈だったって思っててくれ」
漸く影になった坂道の顔が、薄暗い間接照明の光を受けて表情を露にする。
少し怯えたような節もみえたが、これ以上は何もするつもりがない俺は
最初と同じ所定位置に身体を移そうとした時、急にTシャツが引っ張られる感覚に振り返った。
「ま、まって下さい//!」
それは他ならぬ坂道の右手で、しっかりとTシャツの端を掴みながら
真剣な眼差しと変わらずに、頬を赤く染めながらも今度ははっきりとした口調で話し始めた。
「僕が嫌ならって、巻島さんは言いましたけど…巻島さんはそれでイイんですか?」
「…クハっ、良いとか悪いとか、それ以前の問題だ」
どういう意味だろうと言いたげな視線で問い掛ける坂道に
今度はゆっくりと顔を近付けて囁くように答えた。
偽りのない無い、っつーか嘘のつきようが無い俺の本音だ。
「お前の事が心底好きだからに決まってるショ…って言わせんなショ恥ずかし…っ//;」
想いは思うより言葉にすると明白で、坂道への本心が露になる。
自分で言っておいてなんだがメチャクチャ恥ずかしいな…コレ//;
まともに顔が見られそうに無かった俺は赤くなっているであろう顔を外らそうとすると
今度は坂道の手が腕へと掴み直され、先程よりも行動を遮ってみせた。
「僕も巻島さんが大好き…です、だから…僕も巻島さんに応えたいですっ…//」
坂道の言葉に胸の中が熱い、一音を重くじわりと広がる血脈の流れと共に心臓が早くなる。
再びベッド上で合わせる互いの視線、坂道の表情は柔らかで怯えた様子は見られなかった。
「坂道はそれで後悔しないのか…」
「しません…巻島さんと一緒なら僕は後悔も失敗もそうは思いません…//」
その一言に、もうこれ以上の言葉はいらないだろう。
一度の長い瞬きの後、再び開いても光景は変わらず、これが夢では無いと心は微笑んだ。
坂道へ眼差しを真っ直ぐに向けて顔を近づけると同じように坂道も顔を近づけて、そっと唇が重なった。
触れるだけのキスから呼吸を共有するような深いキスを交わせば、柔らかい唇にいっそうの熱が宿っていくようだった。
お前となら何も怖くない、全てが同じ時間を共に出来る幸せに変わっちまうんだ。
熱に浮かされた二度目のキスから最初で、それでいて最後の夜が始まろうとしている。
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