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5月12日 巻坂長編その2UP。

(巻島裕介)

一世一大の告白の甲斐あって、俺達は漸く互いの気持ちを知ることとなった今日。
それはからくも俺の誕生日当日という狙ったようなタイミングで訪れ、
今さっきまでその事実さえ俺自身が忘れていたってのに、
こんな最高のプレゼントが与えられるなんて想像もしてなかった。
あれだけ遠回りを望み、一歩を躊躇った帰路は重い足取りを忘れちまってて
温かさを微睡ませる幸せの余韻が俺達を包むように限りなく打ち寄せていた。


「鼻、まだ赤いな…//」

「ハイ…ちょっと泣き過ぎてしまいました…//;」


時折、坂道へ視線を向けて見てみると何時もより細めの目元で
此方へ笑顔を向ける様にどことない申し訳なさを感じながら笑みを返して俺は頷いた。
指先で繋いだ坂道の体温はいつもより高く思えて、未だに興奮冷めやらぬといった様子だが、
さして俺も変わんないんじゃないか…思い出してもグっときそうで胸が詰まるショ。
やがて間も無くアパートの部屋前に到着し、今朝と同じように部屋の鍵を開けると室内は当然真っ暗。
手探りで室内照明のスイッチを入れればパッと目に眩しく見慣れた光景が浮き上がる。
帰ってきたのか…明日には出るからと粗方片付けてから出たせいか妙に殺風景に感じる。
端に寄せられた坂道の旅行荷物がそれをいっそう醸し出しているようにも思えるなかで
今日のロンドン散策で購入してきた土産物を荷物の中へと混ぜ置いた。


「何だか足がフワフワする感じがします…まるで現実じゃないみたいで…//;」


荷物を見つめながら未だに赤い鼻が目立つ坂道の表情が
今ひとつ感覚をつかみきれていないように笑ってみせる。
それは俺にも同じ事が言えていて、足をつけて歩いているハズだってのに
浮き上がっているように軽くて一日歩いた疲れも感じてなかった。


「あぁ…そうだなぁ…」


言葉と同時に息を吐いた俺は坂道の背中へと近付き、その小さな背中を包むように抱きしめた。
もう何にも遠慮しなくていい、やっと俺の腕の中にやってきた欲しかったモノがこうしてある事実を確かめずにはいられない。
驚きはしたみたいだが直ぐに応えるようにそっと俺の腕へ添えられた坂道の手が力を込める。
薄手の夏服は素肌に近く、手に掻いたサラリとした汗と体温、そして微かに震えているのも分かった。


「どう…これで信じられるショ…//?」

「ハイ…本当に巻島さんです…//」


上目で見上げた坂道の顔は幸せそうに微笑んでいて、
さっきまで泣いていた涙の痕を消そうとしているようにも思える。
視線に微笑みながらそっと額にキスを一つ落とすと擽ったそう,な仕草に頬が緩むカンジだ。
なんだこのベタベタな甘い時間は…こんな事が俺にも出来るんだなぁ…
僅かに残っているリアリストが片隅で騒いでいる声も今は耳に届かない、
良いんだヨ、夢の時間を過ごしている時に現実は寝てればいいショ。


「さて…今晩はどうする?坂道が何かしたいことがあるなら言ってくれ、付き合うぜ」


自分の顎を坂道の頭に乗せながら言うと小さく唸った声が続いた。
そうだ…与えられた時間はとっくにカウントダウンを始めている、夜は始まったばかりだが思いの外に早い。
ならば最後まで坂道の思うようにさせてやるのが一番心残りも無いだろう。
その方が俺も安心できる…実際はこれだけ一緒の時間を過ごしているのに俺にはまだまだ足りないんだがな。
漸く手の中へとやってきた大切な存在を手放したくないし傍にいたいと思うのは、ごく普通の考えショ。
時間が止まらねぇかな…無理だって分かってるが願わずにはいられない、少しでも傍にいたいという欲求が先立つ。
彼是と俺がもどかしさを感じているうちに唸り声は止み、ボリューム小さく、坂道が何か言っているのが聞こえてきた。


「ま…さんと……ットで……したいです…//」

「…ぇ、何…良く聴こえないんだケド…?」


この距離でさえ聞き取れないくらい小さな声を耳に届ける為に
背を少し屈んで坂道の口元近くに耳を傾けると、やっと話している内容が聞き取れた。


「えぇー……あ、…本当にソレで…いいのか…?」

「ハイ、唯一してなかった事なので…//」


むしろ俺が聞き返したいショ…本当にそれで大丈夫なのかって…。
すると、くるりと腕を掴んだまま回りながら坂道が此方へ身体を向け今度は正面から顔を見上げてみせた。
再度の確認にも坂道の態度も願いも変わらないまま。
嬉しそうに、でも少し悩んだような大きな瞳が誘惑を促す…ダメだ、どうしようもなく可愛すぎるショ。


「…分かった、坂道が良いなら俺は良いヨ」

「本当ですかっ…ありがとうございます…//」


言葉と同時に坂道は俺の腹周りに抱きつきながら嬉しそうな表情をみせた。
その背中に手を当てて優しく撫でながら俺は見えないように軽く苦笑して天井を見上げ
普通の呼吸と同じに聴こえるように息を吐いた。


「とりあえず風呂入って来い、ベッドの用意は俺がしとくショ」

「そんな、僕も手伝いますよ」

「イイから…そういうのは任せときゃ良いんだって//;」


緩く視界に映る坂道の顔に笑んで頭に手を置いて言い聞かすと分かってくれたらしく頷いて身体を離した。
最後の最後まで可愛いお願いしてくれちゃって…
すっかり心を許してくれているのは嬉しいが少しは警戒した方が良いぞ…//;
もう少しだけ俺の理性よ頑張ってくれ、今のところ自信はコレっぽっちも無いがな。
風呂の用意は任せろとそのままバスルームに足早に向かう坂道の背中を見送りながら
俺も準備へとベッドルームへ足を向けて歩きだした。

まぁー恋人の申し出ならば彼氏として応えないワケにはいかないショ…と一人決意を固めながら…。

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