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5月12日 巻坂長編その2UP。
薄暗い車内と揺れに誘われるまま、どのくらい経った頃だろう。
体の感覚は心地よく、意識はどこかをフワフワと漂って定まらない。
あれ…、さっきまで、ボクは福富さんの運転する車に乗って、
鳴子くんや今泉君、新開さんと一緒で…そうだ、東堂庵に招待されて、
そこに向かってる途中だったと思ったんだけど…。
今此処に至るまでの過程に順を追ってみても、
やっぱりどこにいるのかボクには分からない。
自分視点で広がる視界は白くて広い、
場所というよりは空間に飛ばされたような…そう考え始めた時だった。
「坂道、坂道…呆けた顔してるショ、ちゃんとオレが見えてるか?」
なんの前触れもなく、耳に聞こえた声がボクの名前を繰り返し呼んでみせた。
この声には覚えがある、ううん、それどころか絶対に聞き違えるハズなんて無い声。
けれど、なんで此処に巻島さんの声が聞こえるんだろうか。
巻島さん、巻島さんですよね…っ、
どうして何処にいるんですか、今はイギリスにいるハズなんじゃ…っ
声に返してボクも名前を呼ぶと、それが合図になったように周囲が質量を持ち、色をつけ始めた。
染まり広がる世界、いるはずのない巻島さんの呼び声…こんなこと、現実ではありえないよ。
…そうか、ここはボクの夢、きっと移動中の車内で眠ってしまって、まだ到着しないから眠ったままなんだ。
相変わらず自分の姿は見えないけれど、かわりに目の前に現れてみせたのは、
全体的に黒っぽいながらも、綺麗な玉虫色の長い髪が鮮やかに色映えて目立つ。
それをひとつに緩く束ねた髪型に目元と口元のホクロ…、細身の長身はボクよりもずっと高い。
「クハッ、そんなにビックリした…って、聞くのもヘンだよなァ…でもまぁ、計画通りに成功したショ」
間違いない、ううん、間違えるはずなんかない。
ボクの知る限り、それは一番最近に会った巻島さんの姿そのものだった。
違っているといえば、服装が見慣れないスーツのような、
とてもカッチリとした礼服を着ているらしく、巻島さんにしては大人しい色合いに
意外さと違和感がある、服装の色のせいか顔色も冴えないように見えるんだけど…。
どうしたんだろう、つい数日前に電話したときは元気そうだったのに…と、すっかりこれが
自分の見ている夢である事も忘れて、もっと様子を見なければと視線を合わせていると、
目の前に立つ巻島さんの細くて長い両腕がスっと伸びてきたかと思えば、それはそっとボクの両肩に置かれたのだ。
「坂道、今から話す事をちゃんと聞いて欲しいショ、そうすればどういうことか全部わかるハズなんだ」
優しい微笑みの中に、少し見せた困り顔。一体何が語られるんだろう、
自然と身構える心が心臓を刺激して、胸が大きく早く鼓動を繰り返している。
お話って…巻島さん、そうボクが名前を口にしようと、唇
を動かそうとしたタイミングより微々早く、巻島さんが話し始めた。
「ゴメン、坂道…オレは一つ、お前にウソをついたショ…」
ウソ、たった二文字が与えた衝撃は思いの外に大きく、
胸打つ鼓動に加えてズシッと重みが生まれたようだった。
それでも鼓動は変わらずに繰り返されていて、一つを数える程に
どんどん重みと締めつけを強めていくみたいだ…いま、とても息苦しい。
ボクは全然、気がつきませんでしたけど…いったい、どうして…
巻島さ、んは…理由もなしに、そんな事するような人じゃない…です、よ、ね…。
最初はあれだけハッキリと呼べた名前に言葉が掠れる、
自分の言葉なのに途切れ途切れで聞きにくい。
ダメだ、ちゃんと理由を聞かなきゃ…巻島さんが話しているのに…、どうして頭まで重く感じてきている。
「…コレで全部終わり、……オレ…さかみち……の……さい、ご………」
しかし、自分の意思も虚しく、限界点を超えてしまったのか、
ボクの耳には最後まで巻島さんの声を聞き取ることができなかった。
なにかあったんですか、巻島さん…どうしよう、どうしたら…待ってください巻…島さん、
まだ全部、ボクは聞けてない、のに…。苦しくなった胸に呼吸が上手く出来ず、
声を張り上げようにも詰まって出でこない。目の前にいる巻島さんが意識ごと
後ろに引っ張られるように遠退いていく中で、優しく微笑む顔をただ見ていることしかできない
もどかしさに、ボクは一体どうしたらいいんだ…。
なんですか…よく聞き、取れないです…。最後って…ウソって、なんですか、巻、島さん…っ
………………………
「小野田、…小野田そろそろ起きろ、小野田」
「……っ……ん……ぅ…」
もがいて、どのくらいか経った頃に、体を微細に揺らす振動にボクは目を覚ました。
瞼を上げると、そこは薄暗くて狭く、身動きが取りづらいように思う。
近くに人の気配がしたので、その方向へゆっくりと首を傾けると、
十数センチ先に今泉君の顔がぼんやりと映っってみせたのだった。
「あれ…いまい、ずみ…くん…?」
「やっと起きたか、随分よく眠ってたな」
苦笑いの今泉君の言葉に、どろんと重くなった瞼を擦り、続いて鈍く痛む首を傾けてみると、
辺りは暗くて景色はよく見えなかったけれど、車は随分と前に停車していたらしい。
エンジンの切られた車内には眠っていたボクしかいないから暖房も付いておらず、
眠りで火照った頬にはひんやりとしていた。けれど、そんな中でも肌寒さを感じずにいたのは、
胸元に掛けられていた見覚えのある赤のダウンジャケットのおかげだった。
「ご、ゴメン…ボク、だいぶ寝ちゃってたんだね、山道の途中から記憶が無くて…」
「お前乗った時から静かだったからな、オレ達が気がついたら頃には眠っちまってたぞ。
それにしても…あんまり気持ちよさそうだったから、起こすのも悪いかと思ってな。」
「本当にゴメン…うん…」
今泉君との会話に、じゃあ、さっきのはやっぱり夢だったんだ…と、ボクは深く息を吐いた。
あぁ、だから見慣れない格好も、突然と変わる風景も、意味の分からない話の内容も、
それなら全て理屈が付く。実に夢らしく、捉えようのないもの…遠く離れた土地にいる巻島さんに、
たとえ夢の中でも会えたことは嬉しかった。けれど…、どうしてあんな夢見たんだろう。
まさか、巻島さんの身になにかあったっていうんだろうか…。
「ほら、いい加減に中入らないと風邪引くぞ」
「あ、うん…鳴子くんにもジャケット返さないと…っ!」
心に少々の引っ掛かりを持ったまま、でも、いつまでも此処にいるわけにもいかない。
態勢を低くしながら身体を車外へと引いた今泉君に続いてボクもカバンと鳴子くんのジャケットを手に
外へ出ると、刺すような冬の冷気が体に染み込んでいくようで、あっという間に体温を奪い始めた。
こっちだ、と、息を白くさせながら先を行く今泉君の後を追いかけていくと、間もなく目の前には
風情ある門構えが現れ、圧倒されつつも潜り進むと、季節柄寂しくは見えるけれど立派な日本庭園が出迎え、
庵へと続く道には飛石が一定の感覚で敷かれている。一歩一歩確かめるように、それでも早足で渡り歩いていくと、
漸く、庵の面が姿を現した。暖かみのある玄関の明かりが寒さにぼんやりと、まるで疲れた旅人を、
暖かく静かに出迎えている、そんなふうにボクには思えた。ここが東堂さんの家…老舗だとは聞いていたけれど、
見ると聞くとじゃ感じ方がまるで違う。緊張で一歩を躊躇うボクを他所に、一度潜っている今泉君が躊躇いもなく中に入ると、
よく通った高い、この庵の主の声が聞こえてきた。懐かしい声に足を誘われ、
ボクも暖簾を潜ると、着物姿にトレードマークのカチューシャというアンバランスで実に、らしい、東堂さんが笑顔で立っていた。
「漸くお目覚めだなぁメガネ君!起きないのではと心配していたところだ。
車内とはいえ冬の箱根は寒かろう、そうだろう。しかし、ようもよく眠っていたものだ、
まさか具合でも悪いわけではあるまいな?」
「い、いえ全然っ!!せっかくご招待頂いたのに、遅れてしまって申し訳ありませんでしたっ!!」
緊張しつつ、深々と頭を下げて一人遅れてしまった事を謝罪すると、
軽音な足音が近づいてきたかと思えば、トンッと軽く肩を叩かれた。
視界の端に揺れる白の混じった鼠色の羽織を映しながらボクが
ゆっくりと顔を上げると、もう目の前は東堂さんの顔だった。
「なに、気にすることはない、今日は気の置けない仲間しか集まってはおらんし、
オレもそのつもりで出迎えている。ようこそ東堂庵へ、よく来てくれたメガネ君…、いいや小野田坂道くん。」
「はい…、ありがとうございます//」
高校時代に知っている東堂さんの雰囲気に、あの頃にはなかった
一つの主としての気質とてもいうのだろうか。東堂さんは世話好きで少しお節介だと、
以前に真波君が話していたけれど、それは家柄や、育った環境からなるものなんだと思える。
紺青の鮮やかな着物が似合う、立派な庵の主に出迎えられて、ボクは東堂庵へと招き上がった。
準備があると一言を伝えて、今泉君は先に部屋へ向かったらしく、ボクの荷物も
鳴子君のジャケットもいつの間にか手元から無くなっていた。あれ?と、思う暇もなかった早業に、
よほど自分がぼぉーっとしていたのかと思うと、変な夢を見たにしてもずいぶん間抜けじゃないか。
履物を脱ぎ、足裏に心地よい触りを感じながら辺りを見渡すと内装も、どこか懐かしく、
表門と同じく暖かみのある雰囲気。素敵な場所だなぁ…と、物珍しさに視線を動かしながらも
圧倒されて転ばないように気を落ち着けながら、東堂さんの背中について廊下を進んでいくと、
とある妙なことに気がついた。
「あの、東堂さん」
「ん~、どうしたんだね?」
「いえ、なんだかすごく静かに思うんですけど…」
夜だし、外観も朧げにしか見ていないけれど、入口から門構えから察するに、
この東堂庵の敷地は結構広いだろうと予想出来る。…に、しても人の声がしない、
さっきのが言うところの正面玄関だとすれば、他に在泊しているお客さんの姿や
声が聞こえても可笑しくはないはずなんだ。
「あぁ、今日はオレ達だけの貸切だからな。」
「貸切っ、ですか?」
「そうだ、旧友との久しぶりの騒ぎに水を差すような事があっては成らん。
なにより他に、遠慮するような事があっては十分に楽しめんだろう。
心配は無用だ、箱根が忙しくなるのはクリスマスより年の暮れと正月三が日がメイン。
駅伝のコースに被っている旅館など目も当てられんよ、ウチもそうだがな。」
東堂さん、サラリと言ってますが、それ凄いことですよ、旅館を貸切って本当にあるんだ…。
やや呆け気味のボクを他所に、スタスタと廊下を進むと、遠くに微かざわつく人の声が聞こえ始めてきた。
賑やかで、騒がしく、でも楽しそうな声は、どうやら廊下を伝わって響き聞こえている。
しかし実際はまだ全然離れていると、東堂さんはガラス越しに指を指してみせた。
ビードロ硝子に甘く歪んだ外の景色の先には、雰囲気の違うまた別の棟があるのが見えたけれど、
声のわりに人影や姿を見かけることはできなかった。あの離れが会場か、
一体どんな内装になっているんだろう…それに誰がいるのかな?ワクワクとドキドキを混じらせながら
期待大、ところが、東堂さんはくるりと足向く方向をかえ、逆へと角を曲がってしまったんだ。
「あれっ東堂さん、会場ってあそこじゃないんですか?」
「ん~…あぁ、会場はそうだ。
しかし君には先に風呂に入ってもらおうかと思ってな。」
「えっ、お風呂ですか…?でも、ボクばっかり先に入っちゃ皆さんに申し訳ないですよ、ボクも準備を…」
「ああいう力仕事は体力の有り余っている奴らに任せておけば万事問題ない。
現場監督には荒北を指名してあるし、奴なら誰にでも遠慮もなく指示を飛ばせるだろう。
それにオレが風呂に入れといったのは、メガネ君は先程まで車で寝ていたんだろう?
預かる身として君に風邪でも引かれたら事だ、疲れをしっかりとってもらう必要があるのだよ。」
いつの間にか呼び方も戻っていて、背中で話す東堂さんの声色はどこか笑っているようにも聴こえた。
いいのかな…気を使わせちゃって申し訳ないなとは思いつつ、
確かに体は怠くも感じていたし、ボクはその行為に甘えることにした。
すると、すぐ間近から電話の呼び出し音が鳴り響き、自分だと気がついた東堂さんは
着物の袂へ手を入れて自分の携帯電話を取り出すと、少しここで待っているようにと言って
近くの部屋へと入っていってしまった。きっと仕事での大切な電話かな…そういえばボクの電話、
今泉君が持っていたカバンの中に入れっぱなしだ。着いたら巻島さんに電話しようと思っていたのに、
妙な夢を見たせいで、東堂さんにお礼を言うのもすっかりと忘れていた。
クリスマスパーティーが始まる前には必ずしよう、そう思っていた時だった。
「ったく、アイツどこ行きやがったんだよォ、サボりやがって…」
すぐ近くで聞こえた聞き覚えのある声に、今歩いてきた廊下を振り返ると、
不機嫌そうな表情に頭を掻きながら辺りを見渡している、ボクが知っている頃よりも
少し髪の伸びた黒いニットにジーンズ姿の荒北さんが立っているのが見えた。
「荒北さんっ!!」
「ん?あぁー!!小野田チャンじゃねぇーのォ!!」
数年ぶりの懐かしい顔に名前を呼んで駆け寄ると、荒北さんも
ボクが誰だか直ぐに分かったらしくて名前を呼び返してくれた。
目の前までやってくると、全然あの頃と変わらずの容姿…
私服のせいかもしれないけれど、むしろ年齢よりもずっと若く見えるかもしれない。
「お久しぶりです荒北さんっ、お元気でしたか?」
「あぁ大して変わんねぇ、小野田チャンこそ久しぶり過ぎんぜ、
相っ変わらずちっさくて細ぇーなァ。つか、こんなトコでなにやってんの、
まだソッチの準備できてねぇーみたいだけど?」
準備?準備ってなんのことだろう…手伝いますと申し出たけれど、
先にお風呂へと言われた以外、何も知らされていないからボクには
全くなんの話か分からない。よく見れば、荒北さんの着ているニットは
所々に白い汚れがついていて、東堂さんの言う通り、ついさっきまで
パーティー会場の準備をしていた事が伺い知れた。
「ボク、東堂さんに連れられてお風呂に行く途中だったんですけど、
東堂さんに電話が入って今、待っているところなんです。
荒北さんは会場を作っている係、か何かだってお話では聞いてますけど、何か探し物ですか?」
ボクの質問返しに、フッと事柄を思い出したらしく、荒北さんは眉間に皺を寄せながら
廊下の先や背後を見渡して舌打ちを一回、続いて呆れ顔に溜息をくわえて腕を組んでみせた。
「探し物っつーか人探し中なんだよ、準備の途中で真波が消えやがって
今手分けして探してるトコ。小野田チャン、どっかで真波見なかった?」
「いえ、見てませんけど…真波君いなくなっちゃったんですか?」
「そっ、気づいたら居なかった。昔っからの不思議チャンで自由奔放なトコ、
今も全然変わってねぇんだぜ?らしいっちゃらしいけど、少し落ち着けってんだあのボケナスが…」
荒北さんには申し訳ないけれど、そういうところ真波君は誰よりも要領が良いと思う。
一体今頃どこにいるんだろう…庵内ならばいいけれど、もしかして外に?とも思ったけれど、
先程の寒さを思い出せばいくらなんでもそれは無いよね。
「おーいメガネ君、待たせてすまな…ん、荒北ではないか。
こんなところでどうした、何かトラブルか?」
そこへ東堂さんが電話を終えたたらしく、声をかけながらこちらに向かってくる
小刻みな足音が背後から近づいて聞こえてきた。すぐに、ボクの先に荒北さんの姿を
見留めたみたいだけど、振り向き見た顔は、なぜ此処にいると言いたげな表情だった。
「アホの真波がどっかに消えちまったから、泉田と手分けして探し回ってんだよォ」
「なにっ消えた…相変わらず自由なヤツだな真波は…」
さも面倒だと抜けた唸り声を引きつつ、荒北さんは自分の携帯電話を取り出して
誰かと連絡を取っているようだった。片や、ことの次第にも呆れたらしく、
東堂さんも袂の携帯を確かめながら両手を袖にしまって一度、肩を上げ下ろした。
こういう事態には慣れっこなのだろう、動じる様子も無く、仕方の無いとしか言えないような苦笑いだった。
「全く仕方の無い…。この寒空の夜に野外とも考えられんし、いくらアイツでも
時間には会場に戻ってくることだろう。オレも見かけたら直ぐに戻るように言っておくから、
荒北は部屋に戻って自分達の支度を始めてくれ、皆にもそう伝えてな」
「あぁ、そーするわ~。じゃ後でな小野田チャン。オレ泉田捕まえて先に行ってっから」
「はい、それじゃまた後で、荒北さん」
とりあえず状況をまとめた東堂さんと荒北さんは二手に別れ、ボクはまた東堂さんの案内で
庵内を奥へと進むことになった。なんだか、あの頃と全然変わりませんね、と、ボクが言うと、
それが良くもあり悪くもあるのだよ!と、東堂さんはさっきより随分と大きな溜息をついて
ガクリと首を下げた。そこから暫く、自分が振り回された真波君のあれこれを、まるで独り言のように
東堂さんは話し続け、マシンガントークな思い出話を聞いているうちに、場所は目的地である大浴場の入口へと到着した。
「さて着いたぞ、ここが湯殿だ。アメニティは全て中に揃っている、
バスタオルは籠の中に入れたままでいいぞ」
品の良い紺色の暖簾が入口を半隠し、ここが男湯である事を教えている。
大きそうなお風呂…ボクがそう思いながら暖簾を見つめていると、突然その入口戸が
ひとりでにガラガラと音を立て開いたのだから、ボクも東堂さんも驚いて一歩後退りをしてしまった。
ボク達が凝視する中で、白い手が暖簾の間を掻いて現れたかと思えば、
中から出てきたのは、さっき荒北さんが探し回っていた真波君その人だった。
「ん?あっ東堂さん、それに坂道君!」
「まっ、真波君!?」
「久しぶりだね、変わらず元気そうでなによりだよ//」
すっかりとお風呂上がりらしく、首に自前のスポーツタオルを下げた
血色の良い頬に湿った髪の毛、表情は当然、満面の笑み。
まさか真波君はお風呂に入っているなんて、どこを探しても見つからないですよね、荒北さん。
「真波ィ…お前、こんなところで何をしているのだ…;?」
「何って、お風呂ですよ?いやぁ~気持ちよかったです//」
「そうでは無いは馬鹿者っ、何故お前がいま風呂に入っているんだと聞いているんだ…っ!」
晴れ晴れとした表情の真波君とは反対に、額に手を当てて具合の悪そうな東堂さんが問質すと、
会場の準備中、疲れて眠くなってしまったから目を覚ますのにお風呂に入りにきたとのこと。
眠ってしまたら時間になっても起きる自身がなかったと真波君に笑顔で言われては、
東堂さんも何も言えなくなってしまったようだった。
「坂道君も入っておいでよ、移動で疲れただろうしサッパリするし。
あ、坂道君が入るならボクももう一回…」
「マぁーナぁーミぃー、お前は戻って自分の支度をしておけっ!!」
「えぇーでも…」
「えー、ではないわっ、それに荒北がカンカンになって探していたぞ。
今戻らんとフォローせんからな、いいのかそれで?」
東堂さんの言葉に、さすがの真波君もマズイと思ったらしく、
苦笑いで頬を掻きながら分かったと頷いて返事を返した。
それじゃ、また後でね、と簡単な挨拶の後、小走りで廊下を戻っていく真波君の背中を見送って
脱衣所へと入ると、そこは籐と木の空間に温泉の湯香り漂うとても雰囲気の良いものだった。
「ウチの温泉は美肌の湯として有名でな、まぁーオレを見れば一目瞭然だと思うが。
ゆっくりと浸かって、疲れを癒すが良いぞメガネ君。」
「あ、ハイ…ありがとうございます」
笑顔を絶やさず、こんなにも饗してくれる東堂さんには感謝している。
けれど、みんながパーティー会場を設営しているのに、ボクだけが何もしないとうのは実に申し訳がない。
何か一つ、手伝いでもしていれば気持ちも幾分か変わっていただろうけど、今のところなんの役にも立っていない。
遠慮するなと言われても気持ちが納得するものでは無かった。それに今は一人になるのはちょっとマズイ気がする、
できれば誰かと一緒、賑やかなら尚いいんだけれど。こう思うのにも理由はあって、ボクの頭の片隅にはさっき見ていた夢が、
チラチラと引っかかって依然として彷徨っていた。夢の話なんだし気にしなければいいのに、
出てきたのが巻島さんというのがどうにも気になってしまう。いまだ連絡は出来ていないし、まさか、
そんな事はないと思うけど身に何かあったのかという虫の知らせだったらどうしよう。
せめて声が聞ければ、安心するんだけどな…。そんな想いと一人葛藤しつつ、
脱衣所の棚の前で着替えカゴに手を掛けたまま、じっと考えているボクの顔に、何か思いを感じ取ってくれたのか、
東堂さんはフッと小さく声を漏らして笑ったかと思うと、スタスタと隣に並んで、着ていた羽織を脱ぎ始めた。
「…よし、オレも入ろう、そうすればメガネ君も遠慮はないだろう」
「えっ、いいんですか東堂さん」
「構わんさ、それに真波が先に入ったのも少々癪だしな。」
話しながらも東堂さんはあっという間に着物を脱ぎ終わり、タオルを片手に浴場へと入って行ってしまった。
やることが飛んでいて大胆だと思いながらも、その強引さに遠慮していた気持ちも幾分か薄らぎ、
後を追いかけるようにボクも浴場へと足を運んだ。湧き出でる湯の流れる音と、
桶が床に当たる反響音が耳に心地よく、それだけで気分が癒される思いがする。
まさかここで東堂さんとお風呂に入る事になるなんて…と、予想外の展開にドキドキしつつも
体を洗って湯船へと足をつけると、湯気の先には既にお湯に浸かっている東堂さんの姿が裸眼の目にもぼんやりと写って見えた。
「湯加減はどうだ、箱根でも美人の湯として有名な、我が東堂庵の風呂は最高だろう!」
「とっても気持ちイイです…~…考えれば温泉入るの、すごく久しぶりでした…~//」
肌を優しく包むような湯質に、冷えた体を癒す温度は極楽そのもの。
蕩蕩と湧き流れる湯音を耳にしながら、肩まで浸かって自然とつく溜め息は
なんて贅沢なものなんだろう。目を閉じて身を任せていると考え事も霞む、
湯気に混じって一緒に気持ちが解きほぐされていくようだった。
「フン…やっと、いつものメガネ君に戻ったな」
「えっ…」
隣から聞こえた声に顔を向けると、目を瞑って静かに湯を楽しんでいる東堂さんの横顔がすぐ近くに近くに見えた。
湯気で濡れた髪が、いつもより色を増して黒く、カチューシャの無い姿はどこか別人のようで新鮮だった。
すると、体をこちらへ向けたかと思うと、懐かしいあの東堂さんの指差しポーズさながらに
一本の指がボクへ向かって指し示されたのだ。
「このオレが気がつかないとでも思ったのか。此処へ来てからのメガネ君には
どこか不安な色が見え隠れしているようで、どうにも引っかかっていた。
道中何があったかは知らんが、さえない顔色にぎこちない話し方からして余程の事なんだろう。
どうにか誤魔化してもいずれは誰かにバレてしまうぞ、君は正直な人間だからな。」
「いや、あの…はい、…そうなんですけど…//;」
ズバリと、ここまで東堂さんに見抜かれているならば、もう隠している必要は無いよね。
浮かない表所の理由が、たかが夢なんかと思われるだろうけど、気になっていることを
全部話してスッキリさせてしまおう。そうすれば今日のパーティーだって思いっきり楽しめるハズだ。
温泉の力と東堂さんの勢いを借りて、決心の着いたボクは車の中で見た夢の話を、
覚えている限りできるだけ正確に話した。不思議な空間、いるはずのない巻島さん、
よく聞き取れなかった言葉など…一つ一つボクが話している間、表情はよく見られなかったけれど、
東堂さんは腕を組んで二、三度頷きを交えながら黙って聞いてくれてた。そして全てを話し終え、やっと言えたと
溜息をついたボクに続いて、東堂さんも小さく一つ唸った後にお湯を掻き寄せて、自分の肩へとかけ流してみせた。
「成る程…福富から車内の事は電話で聞いていたが、オレも福富も、
あまり話したことのない連中の中で気疲れしたんだろうと思っていた。
夢とは思いもつかなかったが…そうか、そうか…//」
こんな、ちぐはくな内容だったにも関わらず、東堂さんは納得したように言葉を繰り返した。
ボクは自分で話したにも関わらず、その意味するところが分からないままに、
巻島さんに何か悪いことが起きなければ、ただそればかりだった。
「その夢あながち悲観することもないぞ、君は逆夢というのを知っているか?」
聞きなれない言葉に、ボクは首を横に振って答えると、記憶の中の知識を追いかけるように、
天井の一点を見つめながら東堂さんは頷いて内容を話してくれた。夢には色々な種類があって、
その中の一つに逆夢というものがあるのだという。誰かとケンカする、事故に遭う、
亡くなるなど夢の中で悪いものを見たからといって、それが全て悪い意味を暗示しているとは限らない、
逆に、これから現実で起こるかも知れない事柄に良い意味を暗示する場合もあるのだそうだ。
「君の見た夢の中で、巻ちゃんは君にウソをついたと告白したんだよな。
うる覚えで申し訳ないが、それも決して悪い意味ではなかったような…
何か、話したいことがあるからだと記憶している。」
「それじゃ、あの最後に聞き取れなかった話がそうなんでしょか…」
ボクにウソをついていたと告白した、夢の中の巻島さん。
しかし、その話は最後まではボクの耳には届かなかった。
東堂さんの教えてくれた話にボクがそう聞き返すと、
少しだけ考えた素振りを見せながらも、まるで答えを知っているかのように、
口元だけが微笑んでいた。
「さてそれはどうだろうか、夢は占いと一緒で『当たるも八卦、当たらぬも八卦』だ。
あまり気にする程の事でもない…そうショボくれた顔をするなメガネ君。
たとえ、どんな夢を見て、不可解な事を言われようとも君は巻ちゃんの事が好きなのだろう?」
「それはっ、そうです!」
東堂さんの問いにボクは即答で答えた、それは自分でも驚く程の速さで。
すると口元だけの笑みが高らかなものに変わり、東堂さんは遠慮も無く笑いだした。
「全く、巻ちゃんもメガネ君も…いやぁスマンな、以前に巻ちゃんも
笑顔のメガネ君が一番好きだと言っていたことを思い出してな、つい…//」
「まっままま巻島さんがですか…っ…そんなっ…なんか、すごく恥ずかしいです…//;」
「なにを今更…、10年も経つのに初々し過ぎやしないか…;
皆の知る仲なのだし恥ずかしがることも無いだろう。」
今までのしんみりした空気は何処へやら。東堂さんの発した言葉がなんの前触れもなく、
突然として全てを吹き飛ばしていったみたいだ。巻島さん、一体何を話したんだろう…
或いは東堂さんは何を聞き出したんだろうか、全然想像がつかない。
動転した気持ちが現れたように、バシャバシャと湯を掻きながら壁伝いに身を引くと、
東堂さんは苦笑いで撥ねた湯を手で避けた。
「しかし、それだけはっきりと君が言えるのであれば、
オレからは何も言うことはない。…どれ、先に失礼するぞ、メガネ君」
言い終えると同時に、ザバァっと勢いのある水音を響かせながら
東堂さんは立ち上がると、出口へ向かって湯船の中を歩き始めた。
そろそろボクも、と、立ち上がると、君はもうしばらく入っていて欲しい、
そうでないと二人で湯上り顔だと皆に何を言われるか分からないだろうと言って、
東堂さんは笑いながら脱衣所に消えていった。細い背中を湯気の中でぼんやりと見送りながら、
ぽつんと一人になった大浴場でボクはもう一度話の内容と夢を思い返してみることにした。
もう不安は無い、不可思議な内容も、巻島さんが言っていた話も、今は冷静になって考えられる。
東堂さんも言っていた、夢は夢、現実では無い。それならば確かめればいい、
電話しようと思っていたんだから、その時に聞いてみればいいんだ。
きっと巻島さんなら笑って聞いてくれると思うし、逆を返せばあの時、
声が遠くにかすれ消えたのだって、まだその話は聞くべきじゃないと
言われているようにも思える。ありがとうございます、あっ、しまった…また、ちゃんと
東堂さんにお礼言えなかった。ボク助けられてばっかりだな、もっとしっかりしなきゃならないのに…。
「…よし、もう大丈夫だ。」
決意も新たに固まり、それならば急がなければと思い立ったボクは勢いよく湯船から立ち上がった。
足元が滑らないように気をつけながら脱衣所へと向かい、すっかりと軽くなった心で
戸を横引くと、既にそこには東堂さんの姿は無くて、かわりにボクの脱いだ服の上にメモが置かれていた。
内容は『先に戻っている、着替えを済ませたら地図にある部屋で、用意してある正装へ着替えていてくれ』とのこと。
なんだろう、パーティー用の服かな?と思いながら手早く着替えを済ませて、温まった体には必要ない
外着を片腕に引っ掛けながら廊下に出たボクは、もらった簡易的な館内図に従い、
その部屋に向かうことにした。しんとした館内の中、自分の足音だけが静かに聞こえて暫く、
指定された部屋へと無事にたどり着いて、目の前の障子戸を静かに横引くと、
そこは白と青に色合いの統一された8畳ほどの間取りで、天井からは淡い照明が下がり、
部屋全体が静をあらわした様な雰囲気、その真ん中にポツンと白いカバーの掛かった洋風のラック。
一着だけ、ポツンと洋服がかかっているのが目立っていた。
「これかな…?」
恐る恐る、目の前の白いカバーへ手をかけて引き取ると、
そこには真っ白な、まるで雪のように真っ白なスーツが姿をあらわした。
触るのも躊躇ってしまう、こんな改まった服なんて着る機会のないボクにとって
緊張して仕方がない。けれど、すごく、すごく綺麗な服…そして、とっても暖かい感じを受けた。
吸い寄せられるように上着に手をかけて外し、ワイシャツ、内ベスト、パンツ、
最後にネクタイを身に付けていくと、驚くことにサイズはボクの体型にピッタリで、
キツくもなく、緩くも無い、まるで肌みたいだ。自然に身に纏っている着心地に酔いながら、
室内にあった全身鏡で姿を確かめてみると、見慣れない自分の姿に気恥ずかしさと
違和感を覚えながらも、心は不思議と安心していた。
コンコンッ
『おるな、メガネ君。着替えは済んだか?終わったら廊下に出てきてくれ』
「あっ、ハイ、今行きます!」
一枚襖を隔てた先から、具合を伺う東堂さんの声に返事をしたボクは
着ていた服を簡単に畳みながら、特に荷物らしいものも持ってこなかったし、
忘れ物はなさそうだと確認した後、そっと障子戸を開けて廊下を覗き見てみた。
そこには壁に背を預けてボクを待っている東堂さんが立っていて、先程とは違う、
どこか特別な晴れ着のような着物へと変わっていた。パーティー用ってことなのかな…
そう思いながら恥ずかしさでぎこちない足取りのまま廊下へ出ると、ボクに気がついた東堂さんは
一歩下がって全身を眺めながら何度か頷いてみせると、一つ手を打ち鳴らしてみせた。
「うむ、よく似合っているぞ…//」
「ありがとうございます…でも、ちょっと恥ずかしいです…//;
全身真っ白の服なんて着る機会ありませんし…本当はどこか変じゃありませんか?;」
「なにを言う、白を君が着ることに意味があるのだよ!」
そう断言した東堂さんは、くるりと背を向けて静かに歩き始めた。
もうこうなったら着いて行くしかない無い、お風呂も入ったし着替えもした、
あとは何が待ち構えているんだろう。巻島さん、ちょっと変わったクリスマスプレゼントだって
言ってましたけど、これはまるで注文の多い料理店に迷い込んだお客さんみたいです。
まさか食べられてしまう、なんて怖いオチはあるはずないと自分の気持ちを落ち着かせながら、
東堂さんの背中に続いて長い廊下を歩き、離れへ続く渡り廊下を歩いていると、
お風呂で温まった頬に夜風が冷たく心地よかった。屋根の先に見える夜空は薄曇りで、
遠く高い場所で雲を透かした月が見下ろす中、ふと目の前の足が歩みを止めた。
東堂さんの姿越しに先を覗き見ると、それは旅館内の純和風な雰囲気とは明らかに違う、
2ドア造りの扉で、ここから先は別の世界だと知らせるような趣がある。
「さて、メガネ君、この扉の向こうが会場だが、準備は良いか?」
「はい、なんだかドキドキしてきました…でも大丈夫です!」
「うむ、では行くぞ」
着物の衿を正して具合を確かめた後、東堂さんは微笑んで頷くと、
ゆっくりとその扉に手を押し当て開いた。すると、東堂さんの手が
扉を数センチも開かないうちに、中からゆっくりと扉は引き開けられてゆき、
室内は野外の暗さから一転して眩しく、目を守るようにボクは両目を瞑って扉が開くのを待ったんだ。
パチパチパチパチッ…ッ!!!////
途端、目の前に差し出されるように溢れ聞こえてきた沢山の拍手音、
それは大きかったり小さかったりと一定でない音の中にはザワザワと人の声も混じっている。
何がおこっているんだろう、と、瞑っていた目を開き、その先に広がる光景にボクは言葉を失ったんだ。
アンティーク調に纏められた洋風の室内からは、入口に立つボク達に視線を向ける懐かしい人達の顔ぶれ、
金城さんに田所さん、今泉君に鳴子君、箱根学園の皆さんも揃っている。服装は皆さんとも正装で統一されていて、
アットホームのような、それでいて形式的なものを感じる。そしてなによりボクを驚かせたのは部屋の最奥、
小さなテーブルの前でボクとは反対の黒のタキシード姿の巻島さんが立っていることだった。
なんで、どうして、すっかり混乱した頭では考えても答えが纏まるハズもない。
鳴り止まない拍手の中で、どうしたら良いのか分からずにその場に立ち尽くしていると、
そっとボクの背中に触るものの感覚に気がついた。
「しっかりしろメガネ君、目の前に本人がいるのだぞ。
今こそ知りたい事を、巻ちゃん本人から聞くがいい。」
背中に手を添えて、奥へ進むように優しく促す東堂さんの声に震えそうな足を正し、
部屋の奥へと進み歩くと、辺りには懐かしい大好きな香りがし始めた。
それは普段、巻島さんが愛用している香水の香りで、部屋の最奥に到着する頃には、
僕の周りをすっかりとその香りが包囲していた。目の前までやってきたはいいけれど、
此処にいるのは本当に巻島さんなんだろうか。その姿を隅々まで確認しようと忙しく瞳を動かすボクに、
こちらを向いていた顔がふっと笑ってみせ、ゆっくりとその口が動き始めた。
「坂道、坂道…呆けた顔してるショ、ちゃんとオレが見えてるか?」
「えっ、は…はい、…あの、巻島さん…ですか?」
声に香り、姿に笑顔、確かに目の前には巻島さんなのに未だ信じられない思いもある。
そうだ、この感覚には覚えがある…あの夢の光景、気になっていて仕方が無かった続きが、
今目の前で再現されているんだ。それじゃ、あれはこの状況を知らせていたもの…だったんだ。
ゆっくりと視線を巻島さんから真横に向けると、見守り役のように間に立つ東堂さんの姿があり、
その表情はただ黙って頷きながらも、聞きたいことがあるなら今しかなかろう、そう語っているようだった。
「クハッ、そんなにビックリした…って、聞くのもヘンだよなァ…でもまぁ、計画通りに成功したショ」
当然の質問に笑う巻島さんが東堂さんとアイコンタクトすると、
会場からもざわめきの中に溢れる微かな笑い声。そちらにボクも目を向けてみると、
その場にいる人達はみんな穏やかな表情を見せていた。そんな中にバタンと、
扉が閉まる音が室内に聞こえると、ようやく離れていた現実的な感覚が戻り始めた。
そうだよ、聞いてみようと思っていたじゃないか、聞きたいことは沢山ある。
電話ではなく、本人を目の前にしてになってしまったのは予想外だけれど、あの夢の続きも分かるはずだ。
「あのっ、これって一体、どういうことなんですか…。
今年は会えないって…巻島さんはイギリスにいるはずじゃ…。」
気を正したボクが改めて巻島さんに事の真相を尋ねると、
巻島さんは一つ咳払いをしてまたボクへと向き直り、笑顔をみせたままの視線は
真剣なものへと変わってみせた。玉虫色の長い髪が、黒のタキシードに不思議な色合いを持たせ、
怪しささえ醸し出している。少し怖い、いつのも巻島さんじゃないみたいだ…と、
不安に揺れる思いの中でも状況は進行していく。すると、まるで夢と同じ光景を再現するかのように
目の前に立つ巻島さんの細くて長い両腕がスっと伸びてきて、ボクの両肩にそっと添え置かれたのだ。
「坂道、今から話す事をちゃんと聞いて欲しいショ、そうすればどういうことか全部わかるハズなんだ。」
ゴクリと喉を鳴らして飲み込んだ唾に喉が痛む、まるで同じだ。
立っているのがやっと、というくらい緊張で背中が張っている。
でも、ここは現実、夢の続きであっても覚める事はないのだから、
あの時聞けなかった続きが待っている。覚悟はとうに出来ているし、なにより続きが知りたいし聞きたい。
しっかりと頷いたボクを見て、巻島さんは微笑んで続きを口にし始めた。
「ゴメン、坂道…オレは一つ、お前にウソをついたショ。クリスマスに会えないって言ったアレな、
実はその前からずっとこの日の計画をしてたんだ。今までのホリデーは全部、
お前と過ごすのが当たり前で、それはオレにとっても特別な意味を持ってる。
高校時代から付き合い始めてもう十年、けど、それもいい加減頃合に決着を着けなきゃならないかと思ってたショ。」
巻島さんの言葉を耳にしながら、脳内を思い出がフラッシュバックしていく。
高校の部活時代、一緒に走った峰が山、インターハイ、渡英に再会、全部がボクにとって、
かけがえのない宝物たちだ。どうしよう、いまにも涙が溢れそうです…夢の中の巻島さんのセリフが蘇る、
それはコレで全部終わり、そう言っていた。拳と瞳にぐっと力を入れて言葉を待っていると、
巻島さんは両肩に添えていた手を下ろし、自分の上着のポケットへと手を入れ、
何かを取り出している気配がする、あたりはまたザワザワと騒がしい。
すると、両目を瞑った先に何かが差し出されているのがわかり、ボクは恐る恐る両目を開いた。
そこには小さな青い箱に指輪が二つはめ込まれていて、続いて巻島さんの声がこう言ったんだ。
「結婚しよう、坂道」
「…………ぇ」
一瞬、なにを言われているのかが理解できず、ただ目の前の指輪を見つめていると、
巻島さんがボクの顔の前へ手を翳して振りながら、照れの混じった苦笑いで言葉を続けた。
「オイオイ、一生に一度の大事なプロポーズに、えっ…て//;
式と一緒になっちまったけれども、このくらいのサプライズがなきゃお前の事心底驚かせないショ」
呆然とするボクを目の前に、巻島さんは浅く息をして頬を指で掻いてみせた。
ぎこちなく首だけで辺りを見回してみると、会場にいる人達はさっきとは違う、
まるで茶化すような含んだ笑顔を見せたり、一部真剣な面持ちでこちらを凝視している人もいた。
「あの…あの巻島さんっ…それじゃ、夢の中で言っていた、これで全部終わりって…最後って…」
「夢?…クハッ、こいつは夢なんかじゃない、現実の話ショ」
ボクの言葉の意味が分からないもの当然だけれど、言葉を繋ぐのにやっとだったから、
今はどちらが本当で、どこまでが本当の出来事なのか分からなくなりそうだ。
と、ここでそれを見守っていた東堂さんが間に入って事の次第を説明すると助け舟を出してくれた。
「黙っていて悪かったなメガネ君、仰天するのも無理はない。
君に手紙を出す一ヶ月前から、オレは巻ちゃんから、
このサプライズウエディングの話を聞いていたんだ。
当初二人で式を挙げると言うのを説得するのに、どれだけオレが苦労したことか…」
「当然ショ東堂、こんな公開的にプロポーズして式とか恥ずかしさの極みだぜ//;」
「何を言うっ、やるなら思い出に残る、知った仲間に祝福されるものの方が
断然良いではないか!…ま、それは良い。場所はウチを提供するとして、君に知られずに、
いかにして当日事を運ぶものかと考えて、招待客の皆に協力してもらったのだ。
君と仲の良い今泉と鳴子は元より、福富と新開を迎えにやったのも、然とした理由があったのだよ」
順を追って話す東堂さんは顔を上げて誰かに視線を送ったのが分かり、
ボクもそちらへ顔を向けると、それはすぐ近くにいた金城さんに向けられていた。
そういえば福富さんは本来なら迎えに来るのは金城さんだった、と、車の中で話してくれたんだった。
「小野田。福富から聞いているとは思うが、実際は少し事情が違っているんだ。
お前達が此処へ向かっている間、オレは巻島の付き添いで神社に居た。
今、お前の目の前に差し出されている結婚指輪に願掛けする為にな。」
低く優しい声で話す金城さんの言葉に、またボクは向き直って目の前の指輪へと視線を戻した。
銀色に輝くシンプルなデザイン、よく見れば内側に何か文字が彫ってあるのが見える。
それじゃ巻島さんはボクなんかよりずっと先に、この場所に来ていたのか。
本当に何も知らなかったのはボクだけだったんだ…とても、想像出来るものじゃなかったけれど。
「巻ちゃん一人で行かせるのは少々心配でな、オレが一緒に行くことも考えたんだが、
会場の設営と皆の到着を待たねばならん仕事があったので金城に任せたというワケなのだよ。
そこから順々に田所と泉田、一番心配していた真波を連れた荒北も無事に到着したし、
あとは君を連れてくるメンバーからの連絡を待ちながら内密に計画を進めていたというのが全貌だ。
君から夢の話を聞いた時には、一瞬ヒヤリともしたが…だから言っただろう、夢は占いと一緒だとな」
「夢ってなんの事ショ;」
「フフ…オレとメガネ君の秘密だ」
説明を終えた東堂さんの表情は成し遂げた満足感に満ちていたけれど、
巻島さんはやや納得のいっていない様子。それでも、話を聞くうちに混乱していたボクの頭は
すっかりと解きほぐされていて、未だに胸はドキドキしているけれど状況を受け止めるまでには落ち着いている。
今度はしっかりとした目線で辺りを見渡すと、満面の笑顔でこちらに手を振る鳴子君、
隣で静かに笑っている今泉君の姿に、計画成功の色が浮かんでいたのが見えて、ボクも自然と笑顔になれた。
「クハッ…ったく、どうしようもないお節介野郎達ばっかだな。
でも、坂道が笑顔になってくれれば、オレはそれだけで充分コレを計画した甲斐はあったショ。
服の着心地は悪くないか?」
「はい、とっても着ていて気持ちがいい…もっ、もしかして、この服は巻島さんがっ…!?」
言われるまで、当たり前のように着ていたけれど、そうだよこの感触。
あたたかくて優しい、寸法もピッタリでとても市販品では有り得ないじゃないか。
ボクの反応を目にした巻島さんが、やっと気がついたかというような表情で胸元に飾ったスカーフを整えてくれた。
「この日に合わせて作り始めてたんだが、やっぱり実際に見てみないと作った身としては心配だからな。
お前が扉の向こうに見えた時に半分は無くなったが、今の感想でそれもゼロになった。似合ってるショ、坂道」
「まっ…巻島、さっ…ん…っ…」
全ての事実を知って、ボクは込み上げてくるものが抑えきれ無くなってしまった。
視界に揺蕩う涙でゆっくりと視界が霞むし、頬と耳は急に熱を広げ始めてじわじわと擽るように熱くなっていく。
手の甲で流れ落ちる涙をいくら拭っても流れ続けて止まらない。さっきまで悲しくて、
怖くて仕方が無かった時は寸前まで我慢出来ていたのに、嬉しい時って涙は我慢出来ないんだ。
皆が見ているのに泣き止めない、カッコ悪いかもしれないけれど、だってこんなにもボクは幸せなんだから。
「オイオイ、まだ泣くのは早いショ…//オレは正式な返事、坂道から貰ってないんだけど?」
すっと伸びてきた巻島さんの細い指が、頬に流れ残った涙を拭ってくれたので、
泣き笑いのまま、ボクは赤くなった鼻を啜りながら、声のする頭上を見上げて
巻島さんの顔へ視線を合わせた。
「はい…っ、よろしく…おねがい、します…っ//」
ボクの声はきっと涙で掠れていたと思う。
けれど、それも瞬間に巻島さんに抱きしめられたから皆には聞こえなかっただろう。
再び会場には沢山の拍手と祝福の言葉が飛び交い、誰かの泣いているような笑っているような声もしていた。
東堂さんに好い加減に離れて式を進めるように言われるまでの間、ボクは巻島さんの腕の中で最後の言葉を教えてもらったんだ。
『不安にさせて悪かったショ、コレで全部終わりだ。
これからはずっと一緒だからな…オレが坂道にウソをつくのは今日が最初で最後だ』
聖なる夜に、こんなにも祝福される中で、夢のような夢の続きを知った時、
そこには最高の幸せが待っていた。いつだって、何処にいたって、ボクは巻島さんに会えた事が
最高の幸福と思っていた今まで。そして、これからも、ボクが巻島さんを好きだという想いが
尽きることが無いように、ずっと続いていくのだから。
【END】
====================
こんばんわ、L仔です(o・・o)/
年が明けてますがクリスマスのお話の巻坂でした。
今まで沢山巻坂を書いてきましたが、ひとつだけやってない大切な事があるじゃないか!
片思いも両思いも書いたんだったら最後はやっぱりプロポーズしてもらおう。
うちの巻島さんはサプライズ好き、そして東堂さんめっちゃいい人です。
思えば今月(2015/01/07)で巻坂を書き始めて早一年になります。
ありがたいですね、一年間通して創作力を維持できるほど夢中になれるものに出会えた幸せヽ(´▽`)/
そして沢山のペダルクラスタ様に出会えたこともとっても嬉しいことです。
次はハネムーンかな?ありがとうございましたー(*゚▽゚*)
体の感覚は心地よく、意識はどこかをフワフワと漂って定まらない。
あれ…、さっきまで、ボクは福富さんの運転する車に乗って、
鳴子くんや今泉君、新開さんと一緒で…そうだ、東堂庵に招待されて、
そこに向かってる途中だったと思ったんだけど…。
今此処に至るまでの過程に順を追ってみても、
やっぱりどこにいるのかボクには分からない。
自分視点で広がる視界は白くて広い、
場所というよりは空間に飛ばされたような…そう考え始めた時だった。
「坂道、坂道…呆けた顔してるショ、ちゃんとオレが見えてるか?」
なんの前触れもなく、耳に聞こえた声がボクの名前を繰り返し呼んでみせた。
この声には覚えがある、ううん、それどころか絶対に聞き違えるハズなんて無い声。
けれど、なんで此処に巻島さんの声が聞こえるんだろうか。
巻島さん、巻島さんですよね…っ、
どうして何処にいるんですか、今はイギリスにいるハズなんじゃ…っ
声に返してボクも名前を呼ぶと、それが合図になったように周囲が質量を持ち、色をつけ始めた。
染まり広がる世界、いるはずのない巻島さんの呼び声…こんなこと、現実ではありえないよ。
…そうか、ここはボクの夢、きっと移動中の車内で眠ってしまって、まだ到着しないから眠ったままなんだ。
相変わらず自分の姿は見えないけれど、かわりに目の前に現れてみせたのは、
全体的に黒っぽいながらも、綺麗な玉虫色の長い髪が鮮やかに色映えて目立つ。
それをひとつに緩く束ねた髪型に目元と口元のホクロ…、細身の長身はボクよりもずっと高い。
「クハッ、そんなにビックリした…って、聞くのもヘンだよなァ…でもまぁ、計画通りに成功したショ」
間違いない、ううん、間違えるはずなんかない。
ボクの知る限り、それは一番最近に会った巻島さんの姿そのものだった。
違っているといえば、服装が見慣れないスーツのような、
とてもカッチリとした礼服を着ているらしく、巻島さんにしては大人しい色合いに
意外さと違和感がある、服装の色のせいか顔色も冴えないように見えるんだけど…。
どうしたんだろう、つい数日前に電話したときは元気そうだったのに…と、すっかりこれが
自分の見ている夢である事も忘れて、もっと様子を見なければと視線を合わせていると、
目の前に立つ巻島さんの細くて長い両腕がスっと伸びてきたかと思えば、それはそっとボクの両肩に置かれたのだ。
「坂道、今から話す事をちゃんと聞いて欲しいショ、そうすればどういうことか全部わかるハズなんだ」
優しい微笑みの中に、少し見せた困り顔。一体何が語られるんだろう、
自然と身構える心が心臓を刺激して、胸が大きく早く鼓動を繰り返している。
お話って…巻島さん、そうボクが名前を口にしようと、唇
を動かそうとしたタイミングより微々早く、巻島さんが話し始めた。
「ゴメン、坂道…オレは一つ、お前にウソをついたショ…」
ウソ、たった二文字が与えた衝撃は思いの外に大きく、
胸打つ鼓動に加えてズシッと重みが生まれたようだった。
それでも鼓動は変わらずに繰り返されていて、一つを数える程に
どんどん重みと締めつけを強めていくみたいだ…いま、とても息苦しい。
ボクは全然、気がつきませんでしたけど…いったい、どうして…
巻島さ、んは…理由もなしに、そんな事するような人じゃない…です、よ、ね…。
最初はあれだけハッキリと呼べた名前に言葉が掠れる、
自分の言葉なのに途切れ途切れで聞きにくい。
ダメだ、ちゃんと理由を聞かなきゃ…巻島さんが話しているのに…、どうして頭まで重く感じてきている。
「…コレで全部終わり、……オレ…さかみち……の……さい、ご………」
しかし、自分の意思も虚しく、限界点を超えてしまったのか、
ボクの耳には最後まで巻島さんの声を聞き取ることができなかった。
なにかあったんですか、巻島さん…どうしよう、どうしたら…待ってください巻…島さん、
まだ全部、ボクは聞けてない、のに…。苦しくなった胸に呼吸が上手く出来ず、
声を張り上げようにも詰まって出でこない。目の前にいる巻島さんが意識ごと
後ろに引っ張られるように遠退いていく中で、優しく微笑む顔をただ見ていることしかできない
もどかしさに、ボクは一体どうしたらいいんだ…。
なんですか…よく聞き、取れないです…。最後って…ウソって、なんですか、巻、島さん…っ
………………………
「小野田、…小野田そろそろ起きろ、小野田」
「……っ……ん……ぅ…」
もがいて、どのくらいか経った頃に、体を微細に揺らす振動にボクは目を覚ました。
瞼を上げると、そこは薄暗くて狭く、身動きが取りづらいように思う。
近くに人の気配がしたので、その方向へゆっくりと首を傾けると、
十数センチ先に今泉君の顔がぼんやりと映っってみせたのだった。
「あれ…いまい、ずみ…くん…?」
「やっと起きたか、随分よく眠ってたな」
苦笑いの今泉君の言葉に、どろんと重くなった瞼を擦り、続いて鈍く痛む首を傾けてみると、
辺りは暗くて景色はよく見えなかったけれど、車は随分と前に停車していたらしい。
エンジンの切られた車内には眠っていたボクしかいないから暖房も付いておらず、
眠りで火照った頬にはひんやりとしていた。けれど、そんな中でも肌寒さを感じずにいたのは、
胸元に掛けられていた見覚えのある赤のダウンジャケットのおかげだった。
「ご、ゴメン…ボク、だいぶ寝ちゃってたんだね、山道の途中から記憶が無くて…」
「お前乗った時から静かだったからな、オレ達が気がついたら頃には眠っちまってたぞ。
それにしても…あんまり気持ちよさそうだったから、起こすのも悪いかと思ってな。」
「本当にゴメン…うん…」
今泉君との会話に、じゃあ、さっきのはやっぱり夢だったんだ…と、ボクは深く息を吐いた。
あぁ、だから見慣れない格好も、突然と変わる風景も、意味の分からない話の内容も、
それなら全て理屈が付く。実に夢らしく、捉えようのないもの…遠く離れた土地にいる巻島さんに、
たとえ夢の中でも会えたことは嬉しかった。けれど…、どうしてあんな夢見たんだろう。
まさか、巻島さんの身になにかあったっていうんだろうか…。
「ほら、いい加減に中入らないと風邪引くぞ」
「あ、うん…鳴子くんにもジャケット返さないと…っ!」
心に少々の引っ掛かりを持ったまま、でも、いつまでも此処にいるわけにもいかない。
態勢を低くしながら身体を車外へと引いた今泉君に続いてボクもカバンと鳴子くんのジャケットを手に
外へ出ると、刺すような冬の冷気が体に染み込んでいくようで、あっという間に体温を奪い始めた。
こっちだ、と、息を白くさせながら先を行く今泉君の後を追いかけていくと、間もなく目の前には
風情ある門構えが現れ、圧倒されつつも潜り進むと、季節柄寂しくは見えるけれど立派な日本庭園が出迎え、
庵へと続く道には飛石が一定の感覚で敷かれている。一歩一歩確かめるように、それでも早足で渡り歩いていくと、
漸く、庵の面が姿を現した。暖かみのある玄関の明かりが寒さにぼんやりと、まるで疲れた旅人を、
暖かく静かに出迎えている、そんなふうにボクには思えた。ここが東堂さんの家…老舗だとは聞いていたけれど、
見ると聞くとじゃ感じ方がまるで違う。緊張で一歩を躊躇うボクを他所に、一度潜っている今泉君が躊躇いもなく中に入ると、
よく通った高い、この庵の主の声が聞こえてきた。懐かしい声に足を誘われ、
ボクも暖簾を潜ると、着物姿にトレードマークのカチューシャというアンバランスで実に、らしい、東堂さんが笑顔で立っていた。
「漸くお目覚めだなぁメガネ君!起きないのではと心配していたところだ。
車内とはいえ冬の箱根は寒かろう、そうだろう。しかし、ようもよく眠っていたものだ、
まさか具合でも悪いわけではあるまいな?」
「い、いえ全然っ!!せっかくご招待頂いたのに、遅れてしまって申し訳ありませんでしたっ!!」
緊張しつつ、深々と頭を下げて一人遅れてしまった事を謝罪すると、
軽音な足音が近づいてきたかと思えば、トンッと軽く肩を叩かれた。
視界の端に揺れる白の混じった鼠色の羽織を映しながらボクが
ゆっくりと顔を上げると、もう目の前は東堂さんの顔だった。
「なに、気にすることはない、今日は気の置けない仲間しか集まってはおらんし、
オレもそのつもりで出迎えている。ようこそ東堂庵へ、よく来てくれたメガネ君…、いいや小野田坂道くん。」
「はい…、ありがとうございます//」
高校時代に知っている東堂さんの雰囲気に、あの頃にはなかった
一つの主としての気質とてもいうのだろうか。東堂さんは世話好きで少しお節介だと、
以前に真波君が話していたけれど、それは家柄や、育った環境からなるものなんだと思える。
紺青の鮮やかな着物が似合う、立派な庵の主に出迎えられて、ボクは東堂庵へと招き上がった。
準備があると一言を伝えて、今泉君は先に部屋へ向かったらしく、ボクの荷物も
鳴子君のジャケットもいつの間にか手元から無くなっていた。あれ?と、思う暇もなかった早業に、
よほど自分がぼぉーっとしていたのかと思うと、変な夢を見たにしてもずいぶん間抜けじゃないか。
履物を脱ぎ、足裏に心地よい触りを感じながら辺りを見渡すと内装も、どこか懐かしく、
表門と同じく暖かみのある雰囲気。素敵な場所だなぁ…と、物珍しさに視線を動かしながらも
圧倒されて転ばないように気を落ち着けながら、東堂さんの背中について廊下を進んでいくと、
とある妙なことに気がついた。
「あの、東堂さん」
「ん~、どうしたんだね?」
「いえ、なんだかすごく静かに思うんですけど…」
夜だし、外観も朧げにしか見ていないけれど、入口から門構えから察するに、
この東堂庵の敷地は結構広いだろうと予想出来る。…に、しても人の声がしない、
さっきのが言うところの正面玄関だとすれば、他に在泊しているお客さんの姿や
声が聞こえても可笑しくはないはずなんだ。
「あぁ、今日はオレ達だけの貸切だからな。」
「貸切っ、ですか?」
「そうだ、旧友との久しぶりの騒ぎに水を差すような事があっては成らん。
なにより他に、遠慮するような事があっては十分に楽しめんだろう。
心配は無用だ、箱根が忙しくなるのはクリスマスより年の暮れと正月三が日がメイン。
駅伝のコースに被っている旅館など目も当てられんよ、ウチもそうだがな。」
東堂さん、サラリと言ってますが、それ凄いことですよ、旅館を貸切って本当にあるんだ…。
やや呆け気味のボクを他所に、スタスタと廊下を進むと、遠くに微かざわつく人の声が聞こえ始めてきた。
賑やかで、騒がしく、でも楽しそうな声は、どうやら廊下を伝わって響き聞こえている。
しかし実際はまだ全然離れていると、東堂さんはガラス越しに指を指してみせた。
ビードロ硝子に甘く歪んだ外の景色の先には、雰囲気の違うまた別の棟があるのが見えたけれど、
声のわりに人影や姿を見かけることはできなかった。あの離れが会場か、
一体どんな内装になっているんだろう…それに誰がいるのかな?ワクワクとドキドキを混じらせながら
期待大、ところが、東堂さんはくるりと足向く方向をかえ、逆へと角を曲がってしまったんだ。
「あれっ東堂さん、会場ってあそこじゃないんですか?」
「ん~…あぁ、会場はそうだ。
しかし君には先に風呂に入ってもらおうかと思ってな。」
「えっ、お風呂ですか…?でも、ボクばっかり先に入っちゃ皆さんに申し訳ないですよ、ボクも準備を…」
「ああいう力仕事は体力の有り余っている奴らに任せておけば万事問題ない。
現場監督には荒北を指名してあるし、奴なら誰にでも遠慮もなく指示を飛ばせるだろう。
それにオレが風呂に入れといったのは、メガネ君は先程まで車で寝ていたんだろう?
預かる身として君に風邪でも引かれたら事だ、疲れをしっかりとってもらう必要があるのだよ。」
いつの間にか呼び方も戻っていて、背中で話す東堂さんの声色はどこか笑っているようにも聴こえた。
いいのかな…気を使わせちゃって申し訳ないなとは思いつつ、
確かに体は怠くも感じていたし、ボクはその行為に甘えることにした。
すると、すぐ間近から電話の呼び出し音が鳴り響き、自分だと気がついた東堂さんは
着物の袂へ手を入れて自分の携帯電話を取り出すと、少しここで待っているようにと言って
近くの部屋へと入っていってしまった。きっと仕事での大切な電話かな…そういえばボクの電話、
今泉君が持っていたカバンの中に入れっぱなしだ。着いたら巻島さんに電話しようと思っていたのに、
妙な夢を見たせいで、東堂さんにお礼を言うのもすっかりと忘れていた。
クリスマスパーティーが始まる前には必ずしよう、そう思っていた時だった。
「ったく、アイツどこ行きやがったんだよォ、サボりやがって…」
すぐ近くで聞こえた聞き覚えのある声に、今歩いてきた廊下を振り返ると、
不機嫌そうな表情に頭を掻きながら辺りを見渡している、ボクが知っている頃よりも
少し髪の伸びた黒いニットにジーンズ姿の荒北さんが立っているのが見えた。
「荒北さんっ!!」
「ん?あぁー!!小野田チャンじゃねぇーのォ!!」
数年ぶりの懐かしい顔に名前を呼んで駆け寄ると、荒北さんも
ボクが誰だか直ぐに分かったらしくて名前を呼び返してくれた。
目の前までやってくると、全然あの頃と変わらずの容姿…
私服のせいかもしれないけれど、むしろ年齢よりもずっと若く見えるかもしれない。
「お久しぶりです荒北さんっ、お元気でしたか?」
「あぁ大して変わんねぇ、小野田チャンこそ久しぶり過ぎんぜ、
相っ変わらずちっさくて細ぇーなァ。つか、こんなトコでなにやってんの、
まだソッチの準備できてねぇーみたいだけど?」
準備?準備ってなんのことだろう…手伝いますと申し出たけれど、
先にお風呂へと言われた以外、何も知らされていないからボクには
全くなんの話か分からない。よく見れば、荒北さんの着ているニットは
所々に白い汚れがついていて、東堂さんの言う通り、ついさっきまで
パーティー会場の準備をしていた事が伺い知れた。
「ボク、東堂さんに連れられてお風呂に行く途中だったんですけど、
東堂さんに電話が入って今、待っているところなんです。
荒北さんは会場を作っている係、か何かだってお話では聞いてますけど、何か探し物ですか?」
ボクの質問返しに、フッと事柄を思い出したらしく、荒北さんは眉間に皺を寄せながら
廊下の先や背後を見渡して舌打ちを一回、続いて呆れ顔に溜息をくわえて腕を組んでみせた。
「探し物っつーか人探し中なんだよ、準備の途中で真波が消えやがって
今手分けして探してるトコ。小野田チャン、どっかで真波見なかった?」
「いえ、見てませんけど…真波君いなくなっちゃったんですか?」
「そっ、気づいたら居なかった。昔っからの不思議チャンで自由奔放なトコ、
今も全然変わってねぇんだぜ?らしいっちゃらしいけど、少し落ち着けってんだあのボケナスが…」
荒北さんには申し訳ないけれど、そういうところ真波君は誰よりも要領が良いと思う。
一体今頃どこにいるんだろう…庵内ならばいいけれど、もしかして外に?とも思ったけれど、
先程の寒さを思い出せばいくらなんでもそれは無いよね。
「おーいメガネ君、待たせてすまな…ん、荒北ではないか。
こんなところでどうした、何かトラブルか?」
そこへ東堂さんが電話を終えたたらしく、声をかけながらこちらに向かってくる
小刻みな足音が背後から近づいて聞こえてきた。すぐに、ボクの先に荒北さんの姿を
見留めたみたいだけど、振り向き見た顔は、なぜ此処にいると言いたげな表情だった。
「アホの真波がどっかに消えちまったから、泉田と手分けして探し回ってんだよォ」
「なにっ消えた…相変わらず自由なヤツだな真波は…」
さも面倒だと抜けた唸り声を引きつつ、荒北さんは自分の携帯電話を取り出して
誰かと連絡を取っているようだった。片や、ことの次第にも呆れたらしく、
東堂さんも袂の携帯を確かめながら両手を袖にしまって一度、肩を上げ下ろした。
こういう事態には慣れっこなのだろう、動じる様子も無く、仕方の無いとしか言えないような苦笑いだった。
「全く仕方の無い…。この寒空の夜に野外とも考えられんし、いくらアイツでも
時間には会場に戻ってくることだろう。オレも見かけたら直ぐに戻るように言っておくから、
荒北は部屋に戻って自分達の支度を始めてくれ、皆にもそう伝えてな」
「あぁ、そーするわ~。じゃ後でな小野田チャン。オレ泉田捕まえて先に行ってっから」
「はい、それじゃまた後で、荒北さん」
とりあえず状況をまとめた東堂さんと荒北さんは二手に別れ、ボクはまた東堂さんの案内で
庵内を奥へと進むことになった。なんだか、あの頃と全然変わりませんね、と、ボクが言うと、
それが良くもあり悪くもあるのだよ!と、東堂さんはさっきより随分と大きな溜息をついて
ガクリと首を下げた。そこから暫く、自分が振り回された真波君のあれこれを、まるで独り言のように
東堂さんは話し続け、マシンガントークな思い出話を聞いているうちに、場所は目的地である大浴場の入口へと到着した。
「さて着いたぞ、ここが湯殿だ。アメニティは全て中に揃っている、
バスタオルは籠の中に入れたままでいいぞ」
品の良い紺色の暖簾が入口を半隠し、ここが男湯である事を教えている。
大きそうなお風呂…ボクがそう思いながら暖簾を見つめていると、突然その入口戸が
ひとりでにガラガラと音を立て開いたのだから、ボクも東堂さんも驚いて一歩後退りをしてしまった。
ボク達が凝視する中で、白い手が暖簾の間を掻いて現れたかと思えば、
中から出てきたのは、さっき荒北さんが探し回っていた真波君その人だった。
「ん?あっ東堂さん、それに坂道君!」
「まっ、真波君!?」
「久しぶりだね、変わらず元気そうでなによりだよ//」
すっかりとお風呂上がりらしく、首に自前のスポーツタオルを下げた
血色の良い頬に湿った髪の毛、表情は当然、満面の笑み。
まさか真波君はお風呂に入っているなんて、どこを探しても見つからないですよね、荒北さん。
「真波ィ…お前、こんなところで何をしているのだ…;?」
「何って、お風呂ですよ?いやぁ~気持ちよかったです//」
「そうでは無いは馬鹿者っ、何故お前がいま風呂に入っているんだと聞いているんだ…っ!」
晴れ晴れとした表情の真波君とは反対に、額に手を当てて具合の悪そうな東堂さんが問質すと、
会場の準備中、疲れて眠くなってしまったから目を覚ますのにお風呂に入りにきたとのこと。
眠ってしまたら時間になっても起きる自身がなかったと真波君に笑顔で言われては、
東堂さんも何も言えなくなってしまったようだった。
「坂道君も入っておいでよ、移動で疲れただろうしサッパリするし。
あ、坂道君が入るならボクももう一回…」
「マぁーナぁーミぃー、お前は戻って自分の支度をしておけっ!!」
「えぇーでも…」
「えー、ではないわっ、それに荒北がカンカンになって探していたぞ。
今戻らんとフォローせんからな、いいのかそれで?」
東堂さんの言葉に、さすがの真波君もマズイと思ったらしく、
苦笑いで頬を掻きながら分かったと頷いて返事を返した。
それじゃ、また後でね、と簡単な挨拶の後、小走りで廊下を戻っていく真波君の背中を見送って
脱衣所へと入ると、そこは籐と木の空間に温泉の湯香り漂うとても雰囲気の良いものだった。
「ウチの温泉は美肌の湯として有名でな、まぁーオレを見れば一目瞭然だと思うが。
ゆっくりと浸かって、疲れを癒すが良いぞメガネ君。」
「あ、ハイ…ありがとうございます」
笑顔を絶やさず、こんなにも饗してくれる東堂さんには感謝している。
けれど、みんながパーティー会場を設営しているのに、ボクだけが何もしないとうのは実に申し訳がない。
何か一つ、手伝いでもしていれば気持ちも幾分か変わっていただろうけど、今のところなんの役にも立っていない。
遠慮するなと言われても気持ちが納得するものでは無かった。それに今は一人になるのはちょっとマズイ気がする、
できれば誰かと一緒、賑やかなら尚いいんだけれど。こう思うのにも理由はあって、ボクの頭の片隅にはさっき見ていた夢が、
チラチラと引っかかって依然として彷徨っていた。夢の話なんだし気にしなければいいのに、
出てきたのが巻島さんというのがどうにも気になってしまう。いまだ連絡は出来ていないし、まさか、
そんな事はないと思うけど身に何かあったのかという虫の知らせだったらどうしよう。
せめて声が聞ければ、安心するんだけどな…。そんな想いと一人葛藤しつつ、
脱衣所の棚の前で着替えカゴに手を掛けたまま、じっと考えているボクの顔に、何か思いを感じ取ってくれたのか、
東堂さんはフッと小さく声を漏らして笑ったかと思うと、スタスタと隣に並んで、着ていた羽織を脱ぎ始めた。
「…よし、オレも入ろう、そうすればメガネ君も遠慮はないだろう」
「えっ、いいんですか東堂さん」
「構わんさ、それに真波が先に入ったのも少々癪だしな。」
話しながらも東堂さんはあっという間に着物を脱ぎ終わり、タオルを片手に浴場へと入って行ってしまった。
やることが飛んでいて大胆だと思いながらも、その強引さに遠慮していた気持ちも幾分か薄らぎ、
後を追いかけるようにボクも浴場へと足を運んだ。湧き出でる湯の流れる音と、
桶が床に当たる反響音が耳に心地よく、それだけで気分が癒される思いがする。
まさかここで東堂さんとお風呂に入る事になるなんて…と、予想外の展開にドキドキしつつも
体を洗って湯船へと足をつけると、湯気の先には既にお湯に浸かっている東堂さんの姿が裸眼の目にもぼんやりと写って見えた。
「湯加減はどうだ、箱根でも美人の湯として有名な、我が東堂庵の風呂は最高だろう!」
「とっても気持ちイイです…~…考えれば温泉入るの、すごく久しぶりでした…~//」
肌を優しく包むような湯質に、冷えた体を癒す温度は極楽そのもの。
蕩蕩と湧き流れる湯音を耳にしながら、肩まで浸かって自然とつく溜め息は
なんて贅沢なものなんだろう。目を閉じて身を任せていると考え事も霞む、
湯気に混じって一緒に気持ちが解きほぐされていくようだった。
「フン…やっと、いつものメガネ君に戻ったな」
「えっ…」
隣から聞こえた声に顔を向けると、目を瞑って静かに湯を楽しんでいる東堂さんの横顔がすぐ近くに近くに見えた。
湯気で濡れた髪が、いつもより色を増して黒く、カチューシャの無い姿はどこか別人のようで新鮮だった。
すると、体をこちらへ向けたかと思うと、懐かしいあの東堂さんの指差しポーズさながらに
一本の指がボクへ向かって指し示されたのだ。
「このオレが気がつかないとでも思ったのか。此処へ来てからのメガネ君には
どこか不安な色が見え隠れしているようで、どうにも引っかかっていた。
道中何があったかは知らんが、さえない顔色にぎこちない話し方からして余程の事なんだろう。
どうにか誤魔化してもいずれは誰かにバレてしまうぞ、君は正直な人間だからな。」
「いや、あの…はい、…そうなんですけど…//;」
ズバリと、ここまで東堂さんに見抜かれているならば、もう隠している必要は無いよね。
浮かない表所の理由が、たかが夢なんかと思われるだろうけど、気になっていることを
全部話してスッキリさせてしまおう。そうすれば今日のパーティーだって思いっきり楽しめるハズだ。
温泉の力と東堂さんの勢いを借りて、決心の着いたボクは車の中で見た夢の話を、
覚えている限りできるだけ正確に話した。不思議な空間、いるはずのない巻島さん、
よく聞き取れなかった言葉など…一つ一つボクが話している間、表情はよく見られなかったけれど、
東堂さんは腕を組んで二、三度頷きを交えながら黙って聞いてくれてた。そして全てを話し終え、やっと言えたと
溜息をついたボクに続いて、東堂さんも小さく一つ唸った後にお湯を掻き寄せて、自分の肩へとかけ流してみせた。
「成る程…福富から車内の事は電話で聞いていたが、オレも福富も、
あまり話したことのない連中の中で気疲れしたんだろうと思っていた。
夢とは思いもつかなかったが…そうか、そうか…//」
こんな、ちぐはくな内容だったにも関わらず、東堂さんは納得したように言葉を繰り返した。
ボクは自分で話したにも関わらず、その意味するところが分からないままに、
巻島さんに何か悪いことが起きなければ、ただそればかりだった。
「その夢あながち悲観することもないぞ、君は逆夢というのを知っているか?」
聞きなれない言葉に、ボクは首を横に振って答えると、記憶の中の知識を追いかけるように、
天井の一点を見つめながら東堂さんは頷いて内容を話してくれた。夢には色々な種類があって、
その中の一つに逆夢というものがあるのだという。誰かとケンカする、事故に遭う、
亡くなるなど夢の中で悪いものを見たからといって、それが全て悪い意味を暗示しているとは限らない、
逆に、これから現実で起こるかも知れない事柄に良い意味を暗示する場合もあるのだそうだ。
「君の見た夢の中で、巻ちゃんは君にウソをついたと告白したんだよな。
うる覚えで申し訳ないが、それも決して悪い意味ではなかったような…
何か、話したいことがあるからだと記憶している。」
「それじゃ、あの最後に聞き取れなかった話がそうなんでしょか…」
ボクにウソをついていたと告白した、夢の中の巻島さん。
しかし、その話は最後まではボクの耳には届かなかった。
東堂さんの教えてくれた話にボクがそう聞き返すと、
少しだけ考えた素振りを見せながらも、まるで答えを知っているかのように、
口元だけが微笑んでいた。
「さてそれはどうだろうか、夢は占いと一緒で『当たるも八卦、当たらぬも八卦』だ。
あまり気にする程の事でもない…そうショボくれた顔をするなメガネ君。
たとえ、どんな夢を見て、不可解な事を言われようとも君は巻ちゃんの事が好きなのだろう?」
「それはっ、そうです!」
東堂さんの問いにボクは即答で答えた、それは自分でも驚く程の速さで。
すると口元だけの笑みが高らかなものに変わり、東堂さんは遠慮も無く笑いだした。
「全く、巻ちゃんもメガネ君も…いやぁスマンな、以前に巻ちゃんも
笑顔のメガネ君が一番好きだと言っていたことを思い出してな、つい…//」
「まっままま巻島さんがですか…っ…そんなっ…なんか、すごく恥ずかしいです…//;」
「なにを今更…、10年も経つのに初々し過ぎやしないか…;
皆の知る仲なのだし恥ずかしがることも無いだろう。」
今までのしんみりした空気は何処へやら。東堂さんの発した言葉がなんの前触れもなく、
突然として全てを吹き飛ばしていったみたいだ。巻島さん、一体何を話したんだろう…
或いは東堂さんは何を聞き出したんだろうか、全然想像がつかない。
動転した気持ちが現れたように、バシャバシャと湯を掻きながら壁伝いに身を引くと、
東堂さんは苦笑いで撥ねた湯を手で避けた。
「しかし、それだけはっきりと君が言えるのであれば、
オレからは何も言うことはない。…どれ、先に失礼するぞ、メガネ君」
言い終えると同時に、ザバァっと勢いのある水音を響かせながら
東堂さんは立ち上がると、出口へ向かって湯船の中を歩き始めた。
そろそろボクも、と、立ち上がると、君はもうしばらく入っていて欲しい、
そうでないと二人で湯上り顔だと皆に何を言われるか分からないだろうと言って、
東堂さんは笑いながら脱衣所に消えていった。細い背中を湯気の中でぼんやりと見送りながら、
ぽつんと一人になった大浴場でボクはもう一度話の内容と夢を思い返してみることにした。
もう不安は無い、不可思議な内容も、巻島さんが言っていた話も、今は冷静になって考えられる。
東堂さんも言っていた、夢は夢、現実では無い。それならば確かめればいい、
電話しようと思っていたんだから、その時に聞いてみればいいんだ。
きっと巻島さんなら笑って聞いてくれると思うし、逆を返せばあの時、
声が遠くにかすれ消えたのだって、まだその話は聞くべきじゃないと
言われているようにも思える。ありがとうございます、あっ、しまった…また、ちゃんと
東堂さんにお礼言えなかった。ボク助けられてばっかりだな、もっとしっかりしなきゃならないのに…。
「…よし、もう大丈夫だ。」
決意も新たに固まり、それならば急がなければと思い立ったボクは勢いよく湯船から立ち上がった。
足元が滑らないように気をつけながら脱衣所へと向かい、すっかりと軽くなった心で
戸を横引くと、既にそこには東堂さんの姿は無くて、かわりにボクの脱いだ服の上にメモが置かれていた。
内容は『先に戻っている、着替えを済ませたら地図にある部屋で、用意してある正装へ着替えていてくれ』とのこと。
なんだろう、パーティー用の服かな?と思いながら手早く着替えを済ませて、温まった体には必要ない
外着を片腕に引っ掛けながら廊下に出たボクは、もらった簡易的な館内図に従い、
その部屋に向かうことにした。しんとした館内の中、自分の足音だけが静かに聞こえて暫く、
指定された部屋へと無事にたどり着いて、目の前の障子戸を静かに横引くと、
そこは白と青に色合いの統一された8畳ほどの間取りで、天井からは淡い照明が下がり、
部屋全体が静をあらわした様な雰囲気、その真ん中にポツンと白いカバーの掛かった洋風のラック。
一着だけ、ポツンと洋服がかかっているのが目立っていた。
「これかな…?」
恐る恐る、目の前の白いカバーへ手をかけて引き取ると、
そこには真っ白な、まるで雪のように真っ白なスーツが姿をあらわした。
触るのも躊躇ってしまう、こんな改まった服なんて着る機会のないボクにとって
緊張して仕方がない。けれど、すごく、すごく綺麗な服…そして、とっても暖かい感じを受けた。
吸い寄せられるように上着に手をかけて外し、ワイシャツ、内ベスト、パンツ、
最後にネクタイを身に付けていくと、驚くことにサイズはボクの体型にピッタリで、
キツくもなく、緩くも無い、まるで肌みたいだ。自然に身に纏っている着心地に酔いながら、
室内にあった全身鏡で姿を確かめてみると、見慣れない自分の姿に気恥ずかしさと
違和感を覚えながらも、心は不思議と安心していた。
コンコンッ
『おるな、メガネ君。着替えは済んだか?終わったら廊下に出てきてくれ』
「あっ、ハイ、今行きます!」
一枚襖を隔てた先から、具合を伺う東堂さんの声に返事をしたボクは
着ていた服を簡単に畳みながら、特に荷物らしいものも持ってこなかったし、
忘れ物はなさそうだと確認した後、そっと障子戸を開けて廊下を覗き見てみた。
そこには壁に背を預けてボクを待っている東堂さんが立っていて、先程とは違う、
どこか特別な晴れ着のような着物へと変わっていた。パーティー用ってことなのかな…
そう思いながら恥ずかしさでぎこちない足取りのまま廊下へ出ると、ボクに気がついた東堂さんは
一歩下がって全身を眺めながら何度か頷いてみせると、一つ手を打ち鳴らしてみせた。
「うむ、よく似合っているぞ…//」
「ありがとうございます…でも、ちょっと恥ずかしいです…//;
全身真っ白の服なんて着る機会ありませんし…本当はどこか変じゃありませんか?;」
「なにを言う、白を君が着ることに意味があるのだよ!」
そう断言した東堂さんは、くるりと背を向けて静かに歩き始めた。
もうこうなったら着いて行くしかない無い、お風呂も入ったし着替えもした、
あとは何が待ち構えているんだろう。巻島さん、ちょっと変わったクリスマスプレゼントだって
言ってましたけど、これはまるで注文の多い料理店に迷い込んだお客さんみたいです。
まさか食べられてしまう、なんて怖いオチはあるはずないと自分の気持ちを落ち着かせながら、
東堂さんの背中に続いて長い廊下を歩き、離れへ続く渡り廊下を歩いていると、
お風呂で温まった頬に夜風が冷たく心地よかった。屋根の先に見える夜空は薄曇りで、
遠く高い場所で雲を透かした月が見下ろす中、ふと目の前の足が歩みを止めた。
東堂さんの姿越しに先を覗き見ると、それは旅館内の純和風な雰囲気とは明らかに違う、
2ドア造りの扉で、ここから先は別の世界だと知らせるような趣がある。
「さて、メガネ君、この扉の向こうが会場だが、準備は良いか?」
「はい、なんだかドキドキしてきました…でも大丈夫です!」
「うむ、では行くぞ」
着物の衿を正して具合を確かめた後、東堂さんは微笑んで頷くと、
ゆっくりとその扉に手を押し当て開いた。すると、東堂さんの手が
扉を数センチも開かないうちに、中からゆっくりと扉は引き開けられてゆき、
室内は野外の暗さから一転して眩しく、目を守るようにボクは両目を瞑って扉が開くのを待ったんだ。
パチパチパチパチッ…ッ!!!////
途端、目の前に差し出されるように溢れ聞こえてきた沢山の拍手音、
それは大きかったり小さかったりと一定でない音の中にはザワザワと人の声も混じっている。
何がおこっているんだろう、と、瞑っていた目を開き、その先に広がる光景にボクは言葉を失ったんだ。
アンティーク調に纏められた洋風の室内からは、入口に立つボク達に視線を向ける懐かしい人達の顔ぶれ、
金城さんに田所さん、今泉君に鳴子君、箱根学園の皆さんも揃っている。服装は皆さんとも正装で統一されていて、
アットホームのような、それでいて形式的なものを感じる。そしてなによりボクを驚かせたのは部屋の最奥、
小さなテーブルの前でボクとは反対の黒のタキシード姿の巻島さんが立っていることだった。
なんで、どうして、すっかり混乱した頭では考えても答えが纏まるハズもない。
鳴り止まない拍手の中で、どうしたら良いのか分からずにその場に立ち尽くしていると、
そっとボクの背中に触るものの感覚に気がついた。
「しっかりしろメガネ君、目の前に本人がいるのだぞ。
今こそ知りたい事を、巻ちゃん本人から聞くがいい。」
背中に手を添えて、奥へ進むように優しく促す東堂さんの声に震えそうな足を正し、
部屋の奥へと進み歩くと、辺りには懐かしい大好きな香りがし始めた。
それは普段、巻島さんが愛用している香水の香りで、部屋の最奥に到着する頃には、
僕の周りをすっかりとその香りが包囲していた。目の前までやってきたはいいけれど、
此処にいるのは本当に巻島さんなんだろうか。その姿を隅々まで確認しようと忙しく瞳を動かすボクに、
こちらを向いていた顔がふっと笑ってみせ、ゆっくりとその口が動き始めた。
「坂道、坂道…呆けた顔してるショ、ちゃんとオレが見えてるか?」
「えっ、は…はい、…あの、巻島さん…ですか?」
声に香り、姿に笑顔、確かに目の前には巻島さんなのに未だ信じられない思いもある。
そうだ、この感覚には覚えがある…あの夢の光景、気になっていて仕方が無かった続きが、
今目の前で再現されているんだ。それじゃ、あれはこの状況を知らせていたもの…だったんだ。
ゆっくりと視線を巻島さんから真横に向けると、見守り役のように間に立つ東堂さんの姿があり、
その表情はただ黙って頷きながらも、聞きたいことがあるなら今しかなかろう、そう語っているようだった。
「クハッ、そんなにビックリした…って、聞くのもヘンだよなァ…でもまぁ、計画通りに成功したショ」
当然の質問に笑う巻島さんが東堂さんとアイコンタクトすると、
会場からもざわめきの中に溢れる微かな笑い声。そちらにボクも目を向けてみると、
その場にいる人達はみんな穏やかな表情を見せていた。そんな中にバタンと、
扉が閉まる音が室内に聞こえると、ようやく離れていた現実的な感覚が戻り始めた。
そうだよ、聞いてみようと思っていたじゃないか、聞きたいことは沢山ある。
電話ではなく、本人を目の前にしてになってしまったのは予想外だけれど、あの夢の続きも分かるはずだ。
「あのっ、これって一体、どういうことなんですか…。
今年は会えないって…巻島さんはイギリスにいるはずじゃ…。」
気を正したボクが改めて巻島さんに事の真相を尋ねると、
巻島さんは一つ咳払いをしてまたボクへと向き直り、笑顔をみせたままの視線は
真剣なものへと変わってみせた。玉虫色の長い髪が、黒のタキシードに不思議な色合いを持たせ、
怪しささえ醸し出している。少し怖い、いつのも巻島さんじゃないみたいだ…と、
不安に揺れる思いの中でも状況は進行していく。すると、まるで夢と同じ光景を再現するかのように
目の前に立つ巻島さんの細くて長い両腕がスっと伸びてきて、ボクの両肩にそっと添え置かれたのだ。
「坂道、今から話す事をちゃんと聞いて欲しいショ、そうすればどういうことか全部わかるハズなんだ。」
ゴクリと喉を鳴らして飲み込んだ唾に喉が痛む、まるで同じだ。
立っているのがやっと、というくらい緊張で背中が張っている。
でも、ここは現実、夢の続きであっても覚める事はないのだから、
あの時聞けなかった続きが待っている。覚悟はとうに出来ているし、なにより続きが知りたいし聞きたい。
しっかりと頷いたボクを見て、巻島さんは微笑んで続きを口にし始めた。
「ゴメン、坂道…オレは一つ、お前にウソをついたショ。クリスマスに会えないって言ったアレな、
実はその前からずっとこの日の計画をしてたんだ。今までのホリデーは全部、
お前と過ごすのが当たり前で、それはオレにとっても特別な意味を持ってる。
高校時代から付き合い始めてもう十年、けど、それもいい加減頃合に決着を着けなきゃならないかと思ってたショ。」
巻島さんの言葉を耳にしながら、脳内を思い出がフラッシュバックしていく。
高校の部活時代、一緒に走った峰が山、インターハイ、渡英に再会、全部がボクにとって、
かけがえのない宝物たちだ。どうしよう、いまにも涙が溢れそうです…夢の中の巻島さんのセリフが蘇る、
それはコレで全部終わり、そう言っていた。拳と瞳にぐっと力を入れて言葉を待っていると、
巻島さんは両肩に添えていた手を下ろし、自分の上着のポケットへと手を入れ、
何かを取り出している気配がする、あたりはまたザワザワと騒がしい。
すると、両目を瞑った先に何かが差し出されているのがわかり、ボクは恐る恐る両目を開いた。
そこには小さな青い箱に指輪が二つはめ込まれていて、続いて巻島さんの声がこう言ったんだ。
「結婚しよう、坂道」
「…………ぇ」
一瞬、なにを言われているのかが理解できず、ただ目の前の指輪を見つめていると、
巻島さんがボクの顔の前へ手を翳して振りながら、照れの混じった苦笑いで言葉を続けた。
「オイオイ、一生に一度の大事なプロポーズに、えっ…て//;
式と一緒になっちまったけれども、このくらいのサプライズがなきゃお前の事心底驚かせないショ」
呆然とするボクを目の前に、巻島さんは浅く息をして頬を指で掻いてみせた。
ぎこちなく首だけで辺りを見回してみると、会場にいる人達はさっきとは違う、
まるで茶化すような含んだ笑顔を見せたり、一部真剣な面持ちでこちらを凝視している人もいた。
「あの…あの巻島さんっ…それじゃ、夢の中で言っていた、これで全部終わりって…最後って…」
「夢?…クハッ、こいつは夢なんかじゃない、現実の話ショ」
ボクの言葉の意味が分からないもの当然だけれど、言葉を繋ぐのにやっとだったから、
今はどちらが本当で、どこまでが本当の出来事なのか分からなくなりそうだ。
と、ここでそれを見守っていた東堂さんが間に入って事の次第を説明すると助け舟を出してくれた。
「黙っていて悪かったなメガネ君、仰天するのも無理はない。
君に手紙を出す一ヶ月前から、オレは巻ちゃんから、
このサプライズウエディングの話を聞いていたんだ。
当初二人で式を挙げると言うのを説得するのに、どれだけオレが苦労したことか…」
「当然ショ東堂、こんな公開的にプロポーズして式とか恥ずかしさの極みだぜ//;」
「何を言うっ、やるなら思い出に残る、知った仲間に祝福されるものの方が
断然良いではないか!…ま、それは良い。場所はウチを提供するとして、君に知られずに、
いかにして当日事を運ぶものかと考えて、招待客の皆に協力してもらったのだ。
君と仲の良い今泉と鳴子は元より、福富と新開を迎えにやったのも、然とした理由があったのだよ」
順を追って話す東堂さんは顔を上げて誰かに視線を送ったのが分かり、
ボクもそちらへ顔を向けると、それはすぐ近くにいた金城さんに向けられていた。
そういえば福富さんは本来なら迎えに来るのは金城さんだった、と、車の中で話してくれたんだった。
「小野田。福富から聞いているとは思うが、実際は少し事情が違っているんだ。
お前達が此処へ向かっている間、オレは巻島の付き添いで神社に居た。
今、お前の目の前に差し出されている結婚指輪に願掛けする為にな。」
低く優しい声で話す金城さんの言葉に、またボクは向き直って目の前の指輪へと視線を戻した。
銀色に輝くシンプルなデザイン、よく見れば内側に何か文字が彫ってあるのが見える。
それじゃ巻島さんはボクなんかよりずっと先に、この場所に来ていたのか。
本当に何も知らなかったのはボクだけだったんだ…とても、想像出来るものじゃなかったけれど。
「巻ちゃん一人で行かせるのは少々心配でな、オレが一緒に行くことも考えたんだが、
会場の設営と皆の到着を待たねばならん仕事があったので金城に任せたというワケなのだよ。
そこから順々に田所と泉田、一番心配していた真波を連れた荒北も無事に到着したし、
あとは君を連れてくるメンバーからの連絡を待ちながら内密に計画を進めていたというのが全貌だ。
君から夢の話を聞いた時には、一瞬ヒヤリともしたが…だから言っただろう、夢は占いと一緒だとな」
「夢ってなんの事ショ;」
「フフ…オレとメガネ君の秘密だ」
説明を終えた東堂さんの表情は成し遂げた満足感に満ちていたけれど、
巻島さんはやや納得のいっていない様子。それでも、話を聞くうちに混乱していたボクの頭は
すっかりと解きほぐされていて、未だに胸はドキドキしているけれど状況を受け止めるまでには落ち着いている。
今度はしっかりとした目線で辺りを見渡すと、満面の笑顔でこちらに手を振る鳴子君、
隣で静かに笑っている今泉君の姿に、計画成功の色が浮かんでいたのが見えて、ボクも自然と笑顔になれた。
「クハッ…ったく、どうしようもないお節介野郎達ばっかだな。
でも、坂道が笑顔になってくれれば、オレはそれだけで充分コレを計画した甲斐はあったショ。
服の着心地は悪くないか?」
「はい、とっても着ていて気持ちがいい…もっ、もしかして、この服は巻島さんがっ…!?」
言われるまで、当たり前のように着ていたけれど、そうだよこの感触。
あたたかくて優しい、寸法もピッタリでとても市販品では有り得ないじゃないか。
ボクの反応を目にした巻島さんが、やっと気がついたかというような表情で胸元に飾ったスカーフを整えてくれた。
「この日に合わせて作り始めてたんだが、やっぱり実際に見てみないと作った身としては心配だからな。
お前が扉の向こうに見えた時に半分は無くなったが、今の感想でそれもゼロになった。似合ってるショ、坂道」
「まっ…巻島、さっ…ん…っ…」
全ての事実を知って、ボクは込み上げてくるものが抑えきれ無くなってしまった。
視界に揺蕩う涙でゆっくりと視界が霞むし、頬と耳は急に熱を広げ始めてじわじわと擽るように熱くなっていく。
手の甲で流れ落ちる涙をいくら拭っても流れ続けて止まらない。さっきまで悲しくて、
怖くて仕方が無かった時は寸前まで我慢出来ていたのに、嬉しい時って涙は我慢出来ないんだ。
皆が見ているのに泣き止めない、カッコ悪いかもしれないけれど、だってこんなにもボクは幸せなんだから。
「オイオイ、まだ泣くのは早いショ…//オレは正式な返事、坂道から貰ってないんだけど?」
すっと伸びてきた巻島さんの細い指が、頬に流れ残った涙を拭ってくれたので、
泣き笑いのまま、ボクは赤くなった鼻を啜りながら、声のする頭上を見上げて
巻島さんの顔へ視線を合わせた。
「はい…っ、よろしく…おねがい、します…っ//」
ボクの声はきっと涙で掠れていたと思う。
けれど、それも瞬間に巻島さんに抱きしめられたから皆には聞こえなかっただろう。
再び会場には沢山の拍手と祝福の言葉が飛び交い、誰かの泣いているような笑っているような声もしていた。
東堂さんに好い加減に離れて式を進めるように言われるまでの間、ボクは巻島さんの腕の中で最後の言葉を教えてもらったんだ。
『不安にさせて悪かったショ、コレで全部終わりだ。
これからはずっと一緒だからな…オレが坂道にウソをつくのは今日が最初で最後だ』
聖なる夜に、こんなにも祝福される中で、夢のような夢の続きを知った時、
そこには最高の幸せが待っていた。いつだって、何処にいたって、ボクは巻島さんに会えた事が
最高の幸福と思っていた今まで。そして、これからも、ボクが巻島さんを好きだという想いが
尽きることが無いように、ずっと続いていくのだから。
【END】
====================
こんばんわ、L仔です(o・・o)/
年が明けてますがクリスマスのお話の巻坂でした。
今まで沢山巻坂を書いてきましたが、ひとつだけやってない大切な事があるじゃないか!
片思いも両思いも書いたんだったら最後はやっぱりプロポーズしてもらおう。
うちの巻島さんはサプライズ好き、そして東堂さんめっちゃいい人です。
思えば今月(2015/01/07)で巻坂を書き始めて早一年になります。
ありがたいですね、一年間通して創作力を維持できるほど夢中になれるものに出会えた幸せヽ(´▽`)/
そして沢山のペダルクラスタ様に出会えたこともとっても嬉しいことです。
次はハネムーンかな?ありがとうございましたー(*゚▽゚*)
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