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5月12日 巻坂長編その2UP。
「そうなんです、ちょっと楽しみにしていたので見られそうに無くて残念です」
イギリス時間の日付が7月7日に変わる少し前
僕は逸る気持ちを抑え切れずに携帯電話を手にとった。
日本は既に日が昇り朝を迎えているけど、あちらは昨日と今日の境目だ。
「もう少しですね…早く巻島さんに言いたいです…//」
『へぇ~…何を?』
昨年はIHの事で頭が一杯でちゃんと伝えることが出来なかったから
たとえ電話越しでも今日こそは伝えたい。
「え、何をってそれは……ダメですよ、引っかかりません//;!」
巻島さんの誘導尋問に引っかかりそうになり、僕は慌てて言葉を飲んだ。
危ない危ない…あと数分だけどフライングしそうになったじゃないですか;!
僕の慌て声に電話口からは楽しそうな笑い声、きっと笑顔だ。
巻島さんの顔を思い浮かべながら壁に掛けられたカレンダーに視線を向けた。
【7月7日】そう、今日は大好きな巻島さんの生まれた特別に大切な日。
季節行事では七夕でもあって織姫と彦星が年に一度、天の川を渡って再会を許される日なんだけど…。
「そちらの天気はどうですか、巻島さん」
少しだけ話をそらそうと僕はイギリスの天気を尋ねた。
日本はと言えば生憎と朝から雨模様で、白く薄い雲がパラパラと音を立てて屋根に雨を落としている。
今朝起きて一番に部屋の窓を開けた時に湿気高い空気を頬に感じてガッカリ、そっと窓を閉めたんだ。
『さぁ~…どうだろうな、イギリスの天気は気まぐれだからその時の機嫌次第だな』
「そうですか、そっちでも見られないかも知れないんですね」
出来れば夜には晴れて欲しいな…
一年に一度会える特別な日なのに世界が雨だったら可哀想。
満点の星空とはいかなくても晴れていれば会えている事が分かるからだ。
『そうだな、でも別に天気が悪いからって会えないワケじゃ無いショ』
ガチャガチャと電話の向こうから聴こえた雑音。
あちらは今真夜中のハズだからきっとベッドに入ったんだと思う。
思えば僕、結構ワガママな事をしているんだよな…。
今日という日にも巻島さんには巻島さんの予定があるのに
大切なプライベートな時間を邪魔しているわけだし…。
ごめんなさいと心で謝りながら僕は巻島さんの話に耳を傾けた。
『子供の頃聴いた話でうる覚えだが、確か曇ってても雨が降っても彦星と織姫は会ってるハズだ。
天の川に掛かる橋のかわりに鳥に乗って…とか、地上で雨が降ってるのは再会が嬉しくて泣いてるからだ…とか…』
「えっ、そうなんですか…!!」
巻島さんの話してくれた逸話は本人の言う通りうる覚えな語り口だったけどロマンチックそのものだった。
年に一度だけ会えるのに誰にも邪魔されたくないって思ったら雨を降らせるのかも知れない。
『それに世界中で雨が降ってても宇宙で雨が降っているなんざ有り得ない話ショ』
「確かに…言われればそうですね//!!」
最後にはリアリストの巻島さんらしい意見で僕の心はすっかり持ち直していた。
やっぱり巻島さんは凄い人だ、いとも簡単に僕を元気にしてくれるんだから。
その時だった。
ピピピピピ……////
卓上の時計がセットした時刻を告げ、僕はアラームを止めて深呼吸を一つ。
ついに来た、やっと言えるんだ。
「巻島さん、お誕生日おめでとうございます//!!」
逃したくは無かったこの瞬間、僕は精一杯の気持ちを込めて巻島さんへおめでとうを伝えた。
電話口では間を置いて優しい声が言葉を返してくれた。
『ありがとさん、さっきは意地悪して悪かったショ』
「いいえ、ちゃんと言えたので…僕の方こそスイマセン、そちらは真夜中なのに//;」
『クハッ…気にすること無いショ、眠くは無いからな』
最後まで気を使ってくれる巻島さんの優しさに、僕は思わず泣きそうになってしまった。
目的は達成できたし僕にとってはもうこれで充分、そう思っていたハズなのに…。
今まで手紙を書いているときには抑えられていた想い、
電話番号も教えてもらっていたから掛けられなくはなかったけど勇気が出なかった。
今日は誕生日だからと決めて掛けたけど、やっぱり声を聴いたら会いたくなってしまった。
ダメだ、此処で泣いては困らせてしまうじゃないか、遠く離れたイギリスで応援してくれる巻島さんには心配をかけたく無いんだ。
「次に巻島さんが帰国した時に、ちゃんとおめでとうが言えるように僕頑張ります//
夜遅くにスミマセンでした、ゆっくり休んでください」
『ちょい待ち、坂道』
一度沸き上がった寂しさはあと少しで溢れてしまいそうで
これ以上声を聴いたら抑えきれそうにないところまできていた。
しかし、電話を切ろうとした僕を強めの声で巻島さんが呼び止めたんだ。
『次、でいいのか?』
「えっ…」
『空の上と違って曇ってようが雨が降ってようが
俺達はその気になれば会うことの出来る距離だ、違うか?坂道』
「は、はい…」
確かにそうだった。
果てない空の上の伝説と違ってたとえ距離は離れていても
僕達は簡単じゃないけれど会えなくは無い距離にいる。
『お前は俺に会いたい…?』
去年はちゃんとおめでとうは言えなくても巻島さんは傍にいてくれた。
今年はちゃんとおめでとうが言えたのに巻島さんは遠い異国の地にいる。
願ってもいいなら…どうしようもなくワガママになってしまいそうです。
「会いたいです…僕、巻島さんに会いたいです…っ…」
問い掛ける声に返したのは偽りない本音だった。
会えるなら会いたい、受話器越しじゃなくて本当の巻島さんの声が聞きたい。
鼓動がグラグラと胸を揺らすし声もひっくり返りそうで上手く喋れなくなってきた。
『分かった、外に顔出してくれるか?』
眼鏡をずらして目元を袖で拭い、今朝閉めた窓を開けて僕は見慣れた二階からの風景に視線を向けた。
相変わらずの曇り空、未だに小雨も降り続いていて晴れそうには無い天気。
きっと空の上では巻島さんの言う通り、彦星と織姫は再会を喜んでいるのかな…。
『違う違う、下見ろ、下…//』
「は、ハイ…した…」
ズズっと鼻を啜り、電話口から言われたように見下ろすと家の前の道路に誰かが立っているのが見えた。
何色とも言い難い柄物の傘を差した人物は、僕を見て右手を軽く上げて合図を送り、
その顔は遠目ながらに嬉しそうに見えたんだ。
驚きよりも先に足は駆け出し、声を上げるより先に階段を駆け下りて僕は外に飛び出した。
玄関先にあった母さんのサンダルを引っ掛けて上手く歩けない縺れる足のまま
さっき見えた風景に駆け寄ると、そこには確かに一人の人物が立っていた。
「な、会える距離だって言ったショ」
聞き違える筈の無い声は先程まで話していた会話を繰り返し、
慌てすぎだと苦笑いを浮かべて電話を切ると、それをポケットに入れそっと自分の差していた傘を傾けた。
「ほ、本当に…本当に、いつから此処に居たんですか…っ…//;」
「お前が電話くれた辺りから居たっショ、見つからないようにするのハラハラしたわ//;」
思い返して苦笑いを見せる巻島さんは頬を掻いていた指を下ろし
傘の持ち手を小脇に挟んでそっと僕に腕を伸ばしてみせた。
「今日は年に一回の誕生日だ、俺も少しはワガママになっても許されるショ。
先の話と言わずに、今日、坂道からおめでとうを貰いに来たんだケド…どうだ?」
「もちろんですっ、僕も本当は巻島さんに会って言いたかったので
こんなふうに叶って嬉しいです…//!!」
単に電話で終わってしまうと思っていたのに
冗談みたいな現実は
嬉しさと
びっくりを連れてきて
思ってもいなかった出来事に
目元を熱くさせ、
出てこようとしている言葉を邪魔してみせる。
とても信じられない僕に
嘘じゃないって教えてくれる触れた腕の感覚。
まだまだ気分は夢心地の中に
聴きたかった本物の声と
しっかりとした巻島さんの感触は
間違いじゃない事に今はただ浸っていてもいいですよね。
潸々と降る望まなかった雨が今は優しものに思えた。
【END】
====================
お誕生日おめでとう巻ちゃあああああああんんんん!!!!!
生まれてきてくれて本当にありがとう!!!
こんばんわ、絶叫から始まりましたL仔です(・∀・)
バースデイ話3話目となりましたが、一度巻ちゃんバースデを書いてしまっていたので
今回の展開どうするよと悩みました(~_~;)
最終的には幸せなら私は幸せなのですが。
そして一度やってみたかった『あいうえお作文』にも挑戦してみましたが
どこがなっているか探してみるのも楽しいかも知れません。
引き続き荒坂執筆中ですのでそちらでお会いしましょう(o・・o)/
それではありがとうございました。
イギリス時間の日付が7月7日に変わる少し前
僕は逸る気持ちを抑え切れずに携帯電話を手にとった。
日本は既に日が昇り朝を迎えているけど、あちらは昨日と今日の境目だ。
「もう少しですね…早く巻島さんに言いたいです…//」
『へぇ~…何を?』
昨年はIHの事で頭が一杯でちゃんと伝えることが出来なかったから
たとえ電話越しでも今日こそは伝えたい。
「え、何をってそれは……ダメですよ、引っかかりません//;!」
巻島さんの誘導尋問に引っかかりそうになり、僕は慌てて言葉を飲んだ。
危ない危ない…あと数分だけどフライングしそうになったじゃないですか;!
僕の慌て声に電話口からは楽しそうな笑い声、きっと笑顔だ。
巻島さんの顔を思い浮かべながら壁に掛けられたカレンダーに視線を向けた。
【7月7日】そう、今日は大好きな巻島さんの生まれた特別に大切な日。
季節行事では七夕でもあって織姫と彦星が年に一度、天の川を渡って再会を許される日なんだけど…。
「そちらの天気はどうですか、巻島さん」
少しだけ話をそらそうと僕はイギリスの天気を尋ねた。
日本はと言えば生憎と朝から雨模様で、白く薄い雲がパラパラと音を立てて屋根に雨を落としている。
今朝起きて一番に部屋の窓を開けた時に湿気高い空気を頬に感じてガッカリ、そっと窓を閉めたんだ。
『さぁ~…どうだろうな、イギリスの天気は気まぐれだからその時の機嫌次第だな』
「そうですか、そっちでも見られないかも知れないんですね」
出来れば夜には晴れて欲しいな…
一年に一度会える特別な日なのに世界が雨だったら可哀想。
満点の星空とはいかなくても晴れていれば会えている事が分かるからだ。
『そうだな、でも別に天気が悪いからって会えないワケじゃ無いショ』
ガチャガチャと電話の向こうから聴こえた雑音。
あちらは今真夜中のハズだからきっとベッドに入ったんだと思う。
思えば僕、結構ワガママな事をしているんだよな…。
今日という日にも巻島さんには巻島さんの予定があるのに
大切なプライベートな時間を邪魔しているわけだし…。
ごめんなさいと心で謝りながら僕は巻島さんの話に耳を傾けた。
『子供の頃聴いた話でうる覚えだが、確か曇ってても雨が降っても彦星と織姫は会ってるハズだ。
天の川に掛かる橋のかわりに鳥に乗って…とか、地上で雨が降ってるのは再会が嬉しくて泣いてるからだ…とか…』
「えっ、そうなんですか…!!」
巻島さんの話してくれた逸話は本人の言う通りうる覚えな語り口だったけどロマンチックそのものだった。
年に一度だけ会えるのに誰にも邪魔されたくないって思ったら雨を降らせるのかも知れない。
『それに世界中で雨が降ってても宇宙で雨が降っているなんざ有り得ない話ショ』
「確かに…言われればそうですね//!!」
最後にはリアリストの巻島さんらしい意見で僕の心はすっかり持ち直していた。
やっぱり巻島さんは凄い人だ、いとも簡単に僕を元気にしてくれるんだから。
その時だった。
ピピピピピ……////
卓上の時計がセットした時刻を告げ、僕はアラームを止めて深呼吸を一つ。
ついに来た、やっと言えるんだ。
「巻島さん、お誕生日おめでとうございます//!!」
逃したくは無かったこの瞬間、僕は精一杯の気持ちを込めて巻島さんへおめでとうを伝えた。
電話口では間を置いて優しい声が言葉を返してくれた。
『ありがとさん、さっきは意地悪して悪かったショ』
「いいえ、ちゃんと言えたので…僕の方こそスイマセン、そちらは真夜中なのに//;」
『クハッ…気にすること無いショ、眠くは無いからな』
最後まで気を使ってくれる巻島さんの優しさに、僕は思わず泣きそうになってしまった。
目的は達成できたし僕にとってはもうこれで充分、そう思っていたハズなのに…。
今まで手紙を書いているときには抑えられていた想い、
電話番号も教えてもらっていたから掛けられなくはなかったけど勇気が出なかった。
今日は誕生日だからと決めて掛けたけど、やっぱり声を聴いたら会いたくなってしまった。
ダメだ、此処で泣いては困らせてしまうじゃないか、遠く離れたイギリスで応援してくれる巻島さんには心配をかけたく無いんだ。
「次に巻島さんが帰国した時に、ちゃんとおめでとうが言えるように僕頑張ります//
夜遅くにスミマセンでした、ゆっくり休んでください」
『ちょい待ち、坂道』
一度沸き上がった寂しさはあと少しで溢れてしまいそうで
これ以上声を聴いたら抑えきれそうにないところまできていた。
しかし、電話を切ろうとした僕を強めの声で巻島さんが呼び止めたんだ。
『次、でいいのか?』
「えっ…」
『空の上と違って曇ってようが雨が降ってようが
俺達はその気になれば会うことの出来る距離だ、違うか?坂道』
「は、はい…」
確かにそうだった。
果てない空の上の伝説と違ってたとえ距離は離れていても
僕達は簡単じゃないけれど会えなくは無い距離にいる。
『お前は俺に会いたい…?』
去年はちゃんとおめでとうは言えなくても巻島さんは傍にいてくれた。
今年はちゃんとおめでとうが言えたのに巻島さんは遠い異国の地にいる。
願ってもいいなら…どうしようもなくワガママになってしまいそうです。
「会いたいです…僕、巻島さんに会いたいです…っ…」
問い掛ける声に返したのは偽りない本音だった。
会えるなら会いたい、受話器越しじゃなくて本当の巻島さんの声が聞きたい。
鼓動がグラグラと胸を揺らすし声もひっくり返りそうで上手く喋れなくなってきた。
『分かった、外に顔出してくれるか?』
眼鏡をずらして目元を袖で拭い、今朝閉めた窓を開けて僕は見慣れた二階からの風景に視線を向けた。
相変わらずの曇り空、未だに小雨も降り続いていて晴れそうには無い天気。
きっと空の上では巻島さんの言う通り、彦星と織姫は再会を喜んでいるのかな…。
『違う違う、下見ろ、下…//』
「は、ハイ…した…」
ズズっと鼻を啜り、電話口から言われたように見下ろすと家の前の道路に誰かが立っているのが見えた。
何色とも言い難い柄物の傘を差した人物は、僕を見て右手を軽く上げて合図を送り、
その顔は遠目ながらに嬉しそうに見えたんだ。
驚きよりも先に足は駆け出し、声を上げるより先に階段を駆け下りて僕は外に飛び出した。
玄関先にあった母さんのサンダルを引っ掛けて上手く歩けない縺れる足のまま
さっき見えた風景に駆け寄ると、そこには確かに一人の人物が立っていた。
「な、会える距離だって言ったショ」
聞き違える筈の無い声は先程まで話していた会話を繰り返し、
慌てすぎだと苦笑いを浮かべて電話を切ると、それをポケットに入れそっと自分の差していた傘を傾けた。
「ほ、本当に…本当に、いつから此処に居たんですか…っ…//;」
「お前が電話くれた辺りから居たっショ、見つからないようにするのハラハラしたわ//;」
思い返して苦笑いを見せる巻島さんは頬を掻いていた指を下ろし
傘の持ち手を小脇に挟んでそっと僕に腕を伸ばしてみせた。
「今日は年に一回の誕生日だ、俺も少しはワガママになっても許されるショ。
先の話と言わずに、今日、坂道からおめでとうを貰いに来たんだケド…どうだ?」
「もちろんですっ、僕も本当は巻島さんに会って言いたかったので
こんなふうに叶って嬉しいです…//!!」
単に電話で終わってしまうと思っていたのに
冗談みたいな現実は
嬉しさと
びっくりを連れてきて
思ってもいなかった出来事に
目元を熱くさせ、
出てこようとしている言葉を邪魔してみせる。
とても信じられない僕に
嘘じゃないって教えてくれる触れた腕の感覚。
まだまだ気分は夢心地の中に
聴きたかった本物の声と
しっかりとした巻島さんの感触は
間違いじゃない事に今はただ浸っていてもいいですよね。
潸々と降る望まなかった雨が今は優しものに思えた。
【END】
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お誕生日おめでとう巻ちゃあああああああんんんん!!!!!
生まれてきてくれて本当にありがとう!!!
こんばんわ、絶叫から始まりましたL仔です(・∀・)
バースデイ話3話目となりましたが、一度巻ちゃんバースデを書いてしまっていたので
今回の展開どうするよと悩みました(~_~;)
最終的には幸せなら私は幸せなのですが。
そして一度やってみたかった『あいうえお作文』にも挑戦してみましたが
どこがなっているか探してみるのも楽しいかも知れません。
引き続き荒坂執筆中ですのでそちらでお会いしましょう(o・・o)/
それではありがとうございました。
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