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5月12日 巻坂長編その2UP。
(小野田坂道)

穏やかに晴れた日差しも眩しい休日の午後、
僕は巻島さんに連れられるままに街を歩いていた。
さすが、というかイメージにピッタリでお洒落な街並みを
遠慮しがちに歩いていると隣でクスリと笑い声が漏れ聞こえてきた。


「クク…何縮こまってんだ、堂々としてりゃイイっショ」

「は…ハイ…//;」


返事をしたはいいけれど、肌に合わないっていうか高級感漂う
街の雰囲気に当てられたのかで若干頭がクラクラする…。
レンガの石畳に洋風の街灯、散歩させている犬とかも高そう…
すっかり気持ち負けして胸のあたりがきゅうきゅうしますよ、巻島さん…//;
当初、今日の予定は巻島さんの家に遊びに行くと思っていたから
いつも通りの普段着に小物が少し入る程度のリュック、絶対に場違いだよぉ…//;


「おっ、アレだな…着いたショ、坂道」

「ふぇ…//;?」


不安いっぱいの僕の耳に聞こえる巻島さんの声に石畳に向けた視線をそっと上げると、
目の前にはカーブしたガラスショーケース、中には目にも鮮やかな
フルーツが宝石でも飾るようにライトアップされていた。


「ここ…ケーキ屋さん…ですか?」


視線を更に上げると其処には巻島さんの横顔があって、
色白の肌に綺麗な玉虫色の髪を緩く一つにまとめている。
オシャレだなぁ…と、なんとなくにも見とれている僕の視線に気がついたらしく、
巻島さんも横目にしていた視線がそうだと答えるように此方を向いて軽く頷いてみせた。


「テイクアウトするから好きなもの選ぶショ」


ふいに合った視線と問い掛けに僕は慌ててショーケースに顔を向き戻した。
部活や学校とは違うプライベートの時間に一緒に出かけられるのは嬉しいんだけど、やっぱりいつまでも慣れない。
なにせ大好きな人が隣にいるってだけでドキドキするのだから。


「どれも美味しそうで悩んじゃいますね…//」

「確かに、いっぱいあるな…スイマセン、オススメのケーキってなんですか?」

「それでしたら本日のケーキは如何でしょうか、季節のフルーツタルトでございます…//」


ピンクのエプロンが似合う店員さんが笑顔で答えてみせると
巻島さんはそれを一つ、あとレアチーズケーキ一つと注文した。
選ばなきゃと再びショーケースに視線を映したはいいけど悩みは増す一方。
目移りってこういうことなんだ、ぱっと見ただけでも10種類以上で
そのどれもこれもが美味しそう、迷わずにはいられなかった。


「クハッ…坂道って意外と優柔不断なのな」

「はわわっ…す、スイマセン…//;」


僕の悩んでいる姿に笑い声を漏らした巻島さんに、
また視線を上げると楽しそうに僕を見てる顔が此方を向いていた。


「生クリームとチョコレートどっちが好き?」

「え、えっと…どっちも好きですけど…」

「あ~…ん、分かったショ」


巻島さんの質問にも曖昧に答えてしまったけれど、
それでも答えを聞いて返事をした巻島さんはザッハトルテとショートケーキを注文した。
カッコイイ、その決断力カッコイイです巻島さん//
尊敬の視線で見つめている僕を他所にさっさとお会計を済ませてら数分後、
また街路を歩いている巻島さんの手にはケーキ屋さんの箱が下がっていた。


「巻島さんて、甘いものお好きなんですか//?」


後は帰るだけだと来た道を歩いている途中に僕はふと何気無く聞いてみた。
箱の中にはケーキが四つ、全て種類は違うけど美味しそうなものばかり。
でも4つは多い気がするな…と、ちょっとだけ疑問に思ったからだ。


「いや、…あれば食うかなって程度」

「えっ、そうなんですか?4つも買ったからケーキ好きなのかと思いました。」


その割には即決してたよなと思いながら巻島さんを見上げていると
揺らさないように持たれた箱を一度チラリと見て巻島さんは
どこか照れたような表情で頬を掻いてみせた。


「家に呼んだのにコンビニの菓子じゃ色気無いショ…//
たまたま雑誌で美味いケーキ屋の記事見つけたから
散歩がてら寄り道してみるかって思ったんだ…今更だけど坂道ケーキ食えるよな?」


それって、僕の為にわざわざケーキを買いに遠回りしてくれたんだ。
慣れない街の雰囲気にオドオドもしたけど、それ以上に
巻島さんの気遣いに僕の胸は嬉しさでいっぱいになっていった。


「ハイ、僕ケーキ好きです//」

「んなら良かったショ、俺一人じゃ2つ食うのもキツイからなぁー」


照れた顔が緩んだ微笑みに変わった巻島さんの表情に僕も自然と笑顔になれる。
そうだ、僕も何かお礼が出来ないかな…ケーキも買ってもらってしまったし、家に遊びにお邪魔させてもらってる。
出来るに限りはあるけれど、それでも何かしなくてはと思い立った。


「あの、巻島さん」

「ん、なんだ?」

「巻島さんの好きなものってなんですか?」


グラビアが趣味だとは聞いていたけど、その他に好きなものって何かないのかな?
巻島さんの事がもっと知りたいと思う気持ちもあった僕はこれはチャンスだと聞いてみることにしたんだ。


「ぇ、俺の好きなもの?」

「ハイ、あ、グラビア以外でお願いします//
食べ物でも楽曲でもアニメでも何でも…できれば一番好きなもので//」


巻島さんの私生活なんて僕には想像も出来ない。
あんなに大きな豪邸に住んでいて部屋もオシャレだし、
グラビアが趣味っていっても僕には全くの別世界のジャンルだ。
でも以前、食玩で黒マニュを貰った事もあるし、もしかしたらアニメとかも見るのかな//?
期待と興奮で高ぶった心で身を乗り出しなが早口で質問を言い終えると、
思い悩んだように巻島さんは軽く唸ってみせた。


「一番好きなもの…ねぇ~……」

「ハイ…//」


呟きに相槌を打つと、チラっと一瞬だけ巻島さんと視線が合った。
悩ませてしまっている…なんだか申し訳ない気もするけど
僕からここまで聞いてしまったら逆に良いですとも言い出しづらい。
それに僕は知りたいし、どんな答えが返ってくるのかも楽しみだ。


「ぁ~……あのな…」

「ハイ…//」

「…内緒ショ」

「えぇっ、そんな…//;」


僕の期待に反して、あっさりと答えははぐらかされてしまった。
何が好きなのか聞けるかもと期待していた分、思いの外のがっかりが
余程あからさまに表情に出てしまっていたらしく、そのままがくりと頭を下げた。
何かお返しが出来るかもと思ったに…そう残念に思っていた時、
背中に心地良い手の感覚、巻島さんの右手がポンと軽く叩いたのに気がついたんだ。


「まぁ…ウチ帰ったら教えるショ」

「え、本当ですか//?」


巻島さんの言葉に沈みかけた心が間も無く持ち直され
大急ぎで顔を向けると、先程まで外れていた視線が重なってみせた。


「あぁ…だから早く帰るぞ…//」

「ハイ//」


言葉の後、クハッと巻島さんは笑い声を上げてゆっくりめに歩いていた足を早めてみせたので
遅れないように僕も小走りに後を追いかけて隣に並んでまた帰り道を歩き始めた。

巻島さんが答えを教えてくれるまでの帰り道、僕はあれこれと自分なりに考えてみた。
ほんの少しの時間しかないけれど、それでも大好きな人の事を考えるのがこんなにも楽しい。
ドキドキとワクワクを共に連れて、また一つ巻島さんの事が好きになった
いつもより少し遠回りをしたとある休日の出来事。



【title:cake】
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